八月二十九日(火) 晴れ
やっと最上階(6階・屋上含む)のコンクリート打設となった。
昔流に言えば『棟上(むねあげ)』だ。
屋上には『ハト小屋』と称するものがある。
広告塔の基礎もあるし、衛星放送用のアンテナ台、大型分電盤・避雷針の基礎や冷暖房空調
機器の基礎等あり、結構複雑だ。
屋根には勾配もあるしパラペット(転落防止兼ねる低い外周腰壁)もあるので、今日の仕事
はかなりハードだ。
屋上への設備配管ダクトとか空気抜きダクトの出てくる部分を『ハト小屋』と名付けた先人
達はいい感覚の持ち主だ。
犬では屋上にはいないし、猫に小屋はマッチしないしね。
ハト小屋から鳩ならぬ配管が飛び出しているけれど、この小屋は常に《雨漏(あまも)れ》の
原因となる要素が強い。
雨が最初に当たる所でもあるし、太陽に常に照らされていて、自然の力の影響をモロに受けて
いる。
屋上床からの防水を甘く考えていると、とんでもない事になる可能性が大だ。
風向きも考えて、雨が吹き込んでも逃げ道を考えておかないと、クラック(ひび割れ)から
でも水が滲み入って来る。
配管を伝って雨水が最下階迄降りて来る場合もある。
コンクリートで作る小さなハト小屋だから『設備工事だ』と言う事になって、
「これは設備屋のものだから、ヤツらでコンクリート打たせろよ、わしらはチト休憩だ」
と平然と言い、打設中でも堂々と(煙草休憩)の職長さんもかつてはいた。
その時代から比べると随分設備屋さんも楽になったというか、恵まれて来たというか、チーム
ワークとしては一緒にコンクリート打設しようという気に「ここKビル」ではなっている。
しかし、後で聞けば設備の世話役のK君とH君は、この前の現場では、躯体職の親方にかな
りのビール券が出て行ったと言い、Kビルではその3分の2以下ですと言う。
半分と言わない所が面白いネ。
その4割ほどは缶ビールとなり現場事務所の冷蔵庫に戻って来ていて、誰れ彼なく持って出て
(私の目を盗んでも)いる。
「こんな現場ここだけで、他ではないぜ」
職人達のほくそ笑んでる声が聞こえてくるのも楽しいものだ。
何やらかんやらで、屋上コンクリート打設が終了したのが2時30分だった。
天気は昼から曇って来たけれど、今日は大丈夫だ。明日は雨かもしれない……。
左官工が思いの他手間どっている。
何時もは水平に均(なら)すのだけれど、屋根には雨水勾配が有るだけに、流れ方向が気に
掛かったものだ。
―――屋上の話――――
建物の屋上のコーナーにはよく水が溜まって、夏には草が生えている建物も
ある位だ。
コンクリートの屋根の上に防水層があって、保護コンクリート(押えコン)を
打ってその中に目地を入れる。
厚みの少ないコンクリートだから太陽熱によっての収縮が激しく、目地には
アスファルトを流し込んでいた昔の建物は、夏場になると目地アスファルト
がコンクリートの伸縮力で押し出されて、秋から春にかけてコンクリートは
縮みアスファルトは戻らないので隙間となって、そのほんの僅かの隙間から
も雑草が生えて来る。
雑草の如く逞(たくま)しくとはこの事を言うのだね。
普段屋上へは上らなくてもいい非歩行用防水屋根の点検時に、鳥の死骸、野
球のボール、ビニール袋類、枯れ葉等を掃除する。
これらのモノでドレーン(軒樋)が詰まり始めている時もある。
「手入れをしない部屋」と言ってもいい位に、屋上は荒れ放題な場所だ。
一般のビルの屋上はクーリング機器等があり空調水滴が落ちていて、床面
が濡れたままの所もあったり、出入り口のドアが閉まらなかったり、点検口
の蓋(ふた)が外れかかってたり―――なぜか屋上は悲惨な部類に入る所だ。
せめて半年に一度は点検する様オーナーにはお願いしてはあるのだけれどね。
打設済の表面にアスファルト防水をして保護コンクリートを打つまでまだまだ
手間のかかる作業が残っている。
いろいろな経験をして来たなあと振り返りながら、もう少し話を続けよう―――
躯体工事も塔屋(エレベーター機械室)を残して完了だ。
1階コンクリート打設が6月初めで、もう8月も終わり。
その間3ヵ月弱。ペースは早い方だろう。
屋上のコンクリート打設が終了という節目は建築屋さんにとって、躯体工事が完了した日と
して記念になる日だ。
(やはり《棟上げ》だから一杯飲みに行かねば示しが付かない…かナ)
これからは仕上げ工事に気分が変わって来る。
コンクリート打設日を目指しての直前目標が無くなって、当面の仕事の期限がズルズルとなる
のも悪い習慣だ。
工程表も工期迄あるかの如くただ書いてあるだけで、シマリのない表だ。
自分で書いて言うのだから、大したものだろう。(笑)
サッシュはいつ迄に終わるんだ?造作は、左官は、塗装はいつから出来て何時終わるのか?
ガラスは、タイル貼りはと次から次へと仕事は続くが、工程表に日時は書き込んでない。
途切れたり、詰まったりしては
『段取りの悪い現場』
と評判になる。
職種も多いのに、工程表としては各職種が重なったまま、仲良く竣工直前迄全員でいる
のでは『工程監理』とは言えないね。
―――夕方、M店舗に行った―――
もう9月が目前なのに、外壁吹き付け工事がやっと終わりそうで、一部足代解体に取り掛から
ねばならない。
向こう半月間はM店舗に付きっきりとしてでも、
「とにかく引き渡さねばならない」
という内容の工程表を見ながら、結局はKビルから職人を連れて来ない事には《絶対数》が
足りないという結論だ。
KビルとM店舗とで、職人感情が―――何て事はもう言ってはいられない。
お互いの親方を説得して(無理やり納得させてでも)やるしかないのだ。
これらの打ち合わせを確認していて気が付いたら21時だった。
今日も充実した(時間を追い越した動きの)一日だった。
帰りにKビルへ立ち寄って屋上の直押さえ(金コテ下地)を見た。
左官の仕上げは水銀灯の明りの下で見ても精度よく出来ていた。
山あり谷ありの雨水勾配付きのコンクリート押さえだったが、よくこなしてくれていて気持
ち良く家路につく事ができた。