建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

型枠工事(2)

2009-06-26 08:14:06 | Weblog
…………………(型枠工事 その2)…………

「躯体工事は順調ですか?」
との問い合わせに、雨で遅れたとか型枠大工さんが不足で…といった言い訳を
していませんか?

 大工さんが百人いれば一日で出来るものでもありません。
 型枠工事をスピードアップさせるには、出来上がりの形がこのようになるの
だという図面、つまり施工図(躯体図)を職人さんにいかに詳細まで早く正確
に伝えるかにかかっています。
 施工図の段階で図示できないから現場で寸法実測により決定する……では、
型枠工事は材料準備の一つさえできません。
 
仮にその場所を組立て始めてから泥縄式に作るとしても、指揮は誰が執るの
か、承認は得られるのか、再施工にならない保証はどこにもないのです。

 型枠大工さんは1日に10㎡も組立てられないのに
「さてどうするか?」
と現場で腕を組んで考えるだけで、それが7㎡(3割減出来高)になれば、
工程も3割遅れることになるのです。
職人不足の時代、いくら職人の数をいくら増やしても思うほど工事が進まな
い第1の理由は、ここにある事に気がついて欲しいのです。
         ☆
型枠はコンクリートを打設すれば解体(脱型)するものです。
従って組立るときに解体手順まで考慮する必要があります。
更に解体した型枠は上の階へ転用してまた組立てるので、大切に取り扱わね
ばなりません。

 1階で間違った打放し型枠を最上階まで転用し続け、サッシが取りつかなく
なった話も聞こえて来ます。
型枠管理をする原点は、型枠を工場で精度よく加工し、現場で加工する個所
を少なくする事です。

 コンパネ(ベニア板)を現場で寸法に合わせて鋸で切っていては真っ直ぐに
切れないし、切断間違いもあり、ゴミも出ます。
 階段の段数を間違えたことも経験されていますよね(笑)
     
プラモデルのように、現場では釘と金槌だけの作業にするというのは無理で
しょうが、枠になる板が直角に加工されていなければ精度管理はできません。
工程に追われていて、目前のコンクリート打設日に心がとらわれていても型
枠精度と検査を見逃す事は出は来ないのです。

      …型枠検査時の実話を…。

 コンクリート打設前、泥や鋸クズとか、結束線や落ちた釘等を水で洗い流し
ていた時のこと。
「洗った水とゴミはどこで処分するの?」と監理者。
「えっ?」(絶句の私)
 水は隙間から流れ出るもののゴミはつまんで出さない事にはなくなりません。

「型枠壁と柱の中のゴミを出してください」
 その一言の為で5m間隔に25㌢角の穴を型枠壁に空けた事がありました。
(当然復旧しましたけど)
 鉄筋が組んであるのでゴミの取り出しは困難ですが、コンクリートにゴミを
混ぜる訳にはいかないのです。
 型枠管理とはそこ迄、気配りが必要なものであることを認識してください。
     
      (今号の一句) ゴミ一つ
                取り出すことも 計画のうち
                     気配りが命の 打放し


《続く》…コメント待ってるからね~
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型枠工事(1)

2009-06-22 09:11:17 | Weblog
             …………………(型枠工事 その1)…………

 躯体工事には躯体専門の大工・つまり『型枠大工』という職種がある。
 簡単に言えばコンクリートを入れる箱(枠)を作る為の大工さんである。

 躯体工事と言うのは各階毎に鉄筋を組み立てて、型枠を組み立てた中にコンクリートを
打設すれば、その上の階に全員が移動して、建物の最上階まで繰り返して行く工事です。

 普通の現場であれば1階を打設してから2階の打設までを2週間として工程を計画する。
 つまり1ヶ月に2度コンクリートを打設するのだから、10階建ての建物でしたら、5ヶ月間は躯体工事となります。

 この躯体工事期間中に躯体完了以後の仕上げ工事について、どれだけ多くの承諾を得るかによって、工事の進捗が左右されるのです。
 例えばサッシを取り付けるにしてもサッシ製作図の承認があり、工場で製作期間が必要
です。
 特別なタイルの場合は見本にタイルを焼いて、色・柄・艶等の検査も必要です。
 4階から最上階へと躯体がまだ空に向かってのび上がっている最中に、1階からサッシ
を取り付け始める場合も当然あります。

 現場を見渡せば、鉄筋工・型枠大工さんが入り乱れて働いている中で、降雨による工程
の遅れを取り戻す苦労をしつつ、仕上げの打ち合わせをしているので、監督さんの頭の中
は相当なパニックに陥っていても、逃げ出す訳にはいかないのだ。

 躯体工事の遅れが既に発生していれば、仕上工程の圧迫・突貫事態に突入まで監督さんは思い浮かべているものだから、焦りもストレスも増大して来るものです。

「まだまだ大丈夫、先は長い」
と悠長に構えているのが現場所長の貫禄と言えないまでもないが、竣工前に舞い上がる
事態は避けたいものです。
大船に乗ったつもりでも嵐は来ます。
 工事途中に
「腹も据わって動じない人」
 も裏から見れば
「先の読めない無責任な人」
と職人さん達は見下しています。
           
 では、型枠工事の話から……(日立建機PR誌ティエラ69号より)……

 大工さんなら想像がつくけども『型枠大工』とは一体どんなことをする人な
 のか、何の型を作るのかとよく質問されます。
 型枠工事とはコンクリートを流し込む為に枠(箱)を組み立てる大工さんの
 事です。

 「躯体工事は順調ですか?」
 との問い合わせに、雨で遅れたとか型枠大工さんが不足で…といった言い
 訳をしていませんか?

           
             《型枠工事その2へ 続く》
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山留 (3)

2009-06-17 09:13:45 | Weblog
……………………………(山  留 3)……………

最近の失敗話もある。

建物から敷地境界線まで20㍍の空き地がある現場で5㍍の掘削工事の時、
「なんとでもなるさ」
と思って山留工事を計画して、危機一髪だった事もある。

掘削底面から45度の範囲、つまり今回は建物から5㍍迄が掘削工事の影響ラインである。
 まだ境界まで15㍍残っているし、山留が多少傾いても影響は少ないと簡単に考えてしま
った。
 自立方式を採用して、水平切梁は架設しないのであるが、地上で3㌢は山留が内側に傾くとしても、地面にヒビの発生は10㍍附近までだろうと想定した。 
         
掘削開始した時点から山留の垂直度を計測するのが普通であるが、
「別に被害は出ないだろう」                 
と安気に監督をしていたら突如、垣田部長から、       
「山留は何㍉動いてるんだ?」                
「そんなに動いていると思いませんが…」           
「測っていないのか!測ってなくて何を監理してるンだ!」   
そう言われても最初に測っていないので、1ヶ月経過していても答えられない。
「今更計測記録を作製しても、面倒なだけである」
とは答えられるものでもない。

 渋々であるが、部長の指示に従って実測をしてみると、計算よりも山留がかなり傾いて
いる事が判明した。
 毎日毎日山留壁を見て廻っていても、徐々に傾いている事に肉眼では気がつかなかっただけであり、傾き数字をみて背中の冷や汗も凍るほどゾッとした。

(ここで大雨でも降って地盤が緩むと大変な事になるかも知れないし、小雨が3日間降り
続けばどうなるだろうか…)
と悪い予感が当たるかも知れない。

 掘削終了時から傾き実測値を毎日記録していれば、少しは手を打っていて、傾くのを少
しは遅らせただろうが、既に傾く想定限界値になっていて、もうこれ以上の傾きはさせた
くない。
 地下を創ってGL(地上路面)まで埋め戻すには、まだ40日は必要だ。
天候も計算に入れて山留自立の負荷を削減し、傾きを止める方法を至急講じる事になった。

「そんなにあったか……。ではこうして・・・」
垣田部長から色々と対策を電話で教えてもらいながら、叱られる事を覚悟していた私は、
自分自身の情けなさを痛感した。
(山留工事は失敗ばかりで成功だった事はあっただろうか……)

いまだに、私の現場に山留工事があれば、垣田部長は規模の大小に関係なく、
「今度はどうするンだ?」
と手を差し伸べて頂けるのは有り難く思っているし、甘えさせて頂いてもいる。

    《続く》…コメント待ってるからね~
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山 留 (2)

2009-06-11 23:48:52 | Weblog

            ……………………………(山  留 2)……………

   親方はもうやる気がない状態で、レンコン畑の水が膝上迄もあり、足元の悪いところで作業するのだから山留が垂直に立たないまま、無言で無理矢理シートパイルを打ち始めている。

  敷地境界から出ないように…と水面上を気をつけて見ながら、
「だんだん傾いているけど、いいのかなあ、注意するとスコップが飛んで来るかもなあ…」
 と親方にテレパシーを発信したが、返事もスコップも飛んで来なかった。

 やはり打設は行き詰まってしまったが、何とかシートパイルは繋がったように見えた。

 掘削工事が始まって、山留に切梁(水平支持)を架設する時になって、繋がっているように見えていたシートパイルが外れた状態でしかも斜めに打ち込まれているのが現れた。

 隣地の土がこちらに落ちないように、垂直な壁を創って、壁が垂直を保つように切梁を架設するのが山留であるのに、壁が完全に繋がっていないのは致命傷である。

 もうシートパイルの隙間から水が滲み始めていて、ヘドロもトロトロと流れ落ちており、掘削中の土の上で拡がり始めた。

 地下室の深さまで掘削した時には《小便小僧》並みにレンコン畑の水が降って来るようになったが、場内に水を溜める訳には行かないのでポンプで水を排出するしかなかった。

 山留シートパイルの隙間には鉄板を重ねて溶接して、ある程度は水の流入を防いだが、塗れた面に溶接するのだから完全には止水出来ないで、地下の工事が終わるころにはレンコン畑の水底のヘドロが太陽に晒されるまでになった。

 賠償問題に発展するところであったが、レンコン畑は枯れたままで半年が過ぎたある日、突然ダンプで土が運ばれて来て1週間で造成地に変わったのである。

 山留工事をする度に、思い出される事件であるが、一歩間違えていればとんでもない結末を迎えた事になったのは事実である。

 山留計算式のチェックも出来ない当時の私に、山留工事の監督を命じたのも問題であるが、建物が完成しても残らない分野の仕事であり、職人任せでも作業は出来るとしたからであろう。

 最近になって山留工事の計算チェックをしたり、おおよその計算はしているが、地面のヒビの発生をどこで食い止めるかによって、山留工事の計算限界値としている。

 山留壁が自立する計算であっても、雨が降ったり、掘削底の地盤耐力が想定値より少ないとか隣家の地質が軟弱とか、地下水位が想定外のような不安定要素が多分にあるので、

山留構造計算式が安全値を示していても、現場監理は慎重に行うべきだ。

最近の失敗話もある。

                                        《山留3へ 続く》

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山 留 (1)

2009-06-05 08:13:49 | Weblog
……………………………(山  留 1)……………

「地下ピットで約4㍍の掘削があるが『山留』は何を使うンだ?」
「H鋼と横矢板のつもりですが・・・」
垣田工事部長と現場検討打ち合わせ会議を行うと、理由は後から出て来るが、必ずチェックが入る箇所である。

《風来坊》では山留が悪くて掘削期間中に隣のレンコン畑の水を枯らした話をしたが、山留工事をして道路や隣家に影響が無かったことは、自慢じゃないが一度もない。
 私が山留工事に対して、どうも横着なのはきっと最初の現場が尾を引いているのだろう。
 
初めて山留工事を経験した現場、それはレンコン畑の事件から始まる話である。
「山留」なんて言葉を知っていても、完成している山留を眺めた経験しかなくて、大掛かりな山留の工事でありながら、どうやって施工監理するのかについては全くの無知であった。

 工事計画書というものは見たこともなく、書類の少ないよき時代であり、職人の親方の機嫌をそこなわないように、酒を飲みながら段取りを「見ている」のが私の仕事であった。

 山留の一般的な資料や重機類のカタログが使い廻しされていて、
「これでも読ンどけや」
「へーい」
そんなに参考になるモノでもないカタログだ……、油で汚れた頁は飛ばして見ていた。
現場に入って来た材料や重機は想像を絶する大きさで、新鮮な驚きがあった。

駆け出しの私は仕事の指示が出来る訳がないが、主任から聞いた事を理解していないまま
作業を見ているだけで、どこからスタートさせるのかさえ指示が出来なかった。

確か、
「ここから始めさせろ」
と耳に残っているが、
(どこからだったっけ?図面にもスタート地点は書いてないし……、まあいいや) 
と見ているだけの監督だから、大きなミスとなってやがて返って来る事になるのである。
 
 どこからスタートしても敷地境界の内側全体を一廻りするのだから、結果は同じである筈なのだが、話はそうは終わらない。
 レンコン畑のある敷地境界線側は、境界線のポイント杭は多分水底にあって、現場の敷地が盛り上がっている附近まで畑の水は広がって来ている。

 敷地境界線上で水が一直線になっているとでも、私は思ったのであろう。
 水の無いギリギリの所を勝手に山留の位置にしてしまった。

「水があったらシートパイル(山留板)が打てねえよ!」
「それもそうだよねエ…」
で簡単に山留施工図から変更してしまった。
 慌てたのは主任である。

 ほぼ敷地境界線上に山留を打設しても、余分なスペースが取れないところに、なんと1㍍も内部側にシートパイルを打ち込み、地下室の壁も柱も分断してしまう位置に打ち込んだのだ。

 当然、やり直しである。
 レンコン畑の水面に向かって突き出るように、さらに境界線のすぐ内側に、制度よく打ち込まねばならない事を厳しく命ぜられた。

「あんた(私)が、そこでいいと言うたから!」
と眉を吊り上げ大声で、親方は所長と言い争っているが、
(直さなければならないのは、仕方ないよ)
では済まされそうもない雰囲気に、私の居る場所はなかった。

 親方はもうやる気がない状態で…

               《山留2へ 続く》
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