建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

命綱の使命・役割

2024-04-30 07:58:00 | 建設現場 安全

 『命綱』を本音で・・・

安全について語ると語り尽くせない程、難しい問題があり過ぎる。
『安全第一』と分かっていても出来ない事も有り、無駄に思える様な事や
矛盾している事で
も形式(書類管理)だけの為?にも、安全にしなさいと
いう内容のものも有る。

安全にと設置したもの(手すり等)が仕事をする上で邪魔になる場合もある。
一度事故が起こるとすぐに原因を厳しく追い求められる。
要は起こった後でワイのワイのと言ったって、事故が起きた事はどうしよう
もない事なのだ。

何故手を打てなかったのか
とも言うし、
「本人(被災者)の不注意による
ものだ」
とも言える場合だって、労災扱いには紛(まぎれ)もない。

痛いのは本人もさることながら、現場は支店を通してさらに労基署からも、
厳しい警告をうける。
これはかなり現場としては痛手だ。時間的ロス、施主へ
の信用失墜、とにかく
事故は起こしたくないのは、皆の願いだ。

単純作業で日常の慣れから安心しきった所でも、本人の不注意によるという
事故がおきる場合が多い。

安全パトロール、安全活動を実施して危険なカ所の指摘は色々と言える。
言った本人が他の現場で自分の言動(行動)に責任を持って、指摘されない
様に仕事をしているかは、問題だ。

―――今日は『命綱(安全帯)』について話てみよう――――

高所作業には命綱を着用しましょう(着用させろ!)」
とパトロールでは指摘する。
現場の者全員それは良い事だと分かっている。
だから、協力業者の社長さんは必ず命綱を作業員全員に渡す。
現場も一応予備迄置いてある。
現場で作業中に
使っているか、いないのかでなくて、腰にブラ下げて
あれば万事OKなのだ。

重い命綱を腰に巻いていないと、
「現場では命綱を着用する事の遵守項目違反
として、親方が呼出しを食う事
にもなりかねない。

持っていればそれで安全と言うものでもなかろうに……と私は正直に言う。
『裸の王様』
じゃああるまいし、オカシイ、納得出来なければ自分の意見を言
うしかない。
意味のある命綱の装備に私はしたいのだ。

 「命綱を先ず着装しましょう」
という事で、その為には現場内へ入る時から全員着用しているかをチェックした所
で、墜落防止と何の関係があるのか分からない。
高所からの墜落事故防止の為に必要なのが命綱の役目である。

朝礼時、ラジオ体操を行いながらも命綱を義務付けている事に、疑問を感
じる
現場代理人は私だけだろうか。 
   
安全教育に於いて、
『高所とは?』
と聞くと「2m以上の所」と答える。

 「命綱を腰に巻きつけたものの、これを引っ掛ける所はどこにあるのだ?」
と言う質問が、必ず出る。
重たい命綱を腰に巻いて、屋上のはき掃除をするにも、地上2m以上の所な
ので必要なのだと言う。
建物が高くても、作業者が屋上に立てば,一階や室内を掃いているのと何も
変わらないと私は思う。

座敷ほうき片手にちり取りを持って掃き掃除をするのに、命綱は必要か?だ。
命綱をどこに引っ掛けて掃除をするのかについて問えば、
 「これは決まりだから………」 
との返答だ。
こう答える人は何の自覚もポリシーも無いのかと聞きたいけれど、安全責任者と
しては『不要です』とは発言出来ないのも、無理はない。

場内は『保護帽と安全帯着装の事』と大看板を掲示してあるものの、高所作業
でなくても墜落とは関係ない室内でも重装備での作業で安全なのですか?

外部足代(一般的ビティ足場)上で巾が90㌢~120㌢ある所で、外壁タ
イルを
貼る・塗装工事等の仕事でも
「命綱を使用しなさい」
と指導する。

足代の外面はスジカイが入り、ほこり飛散防止用のシートもあり、更に内側
(建物の仕事をする側)には手すりがあってもだ。

時には手すりがあると作業が出来にくい場合もあり、一旦外して作業を行う時
もある(現場黙認)が弋工は足場
組立図通りに組んでいる。

型枠工、左官工、タイル工等の外部作業者が外したままの手すりを、弋工が
再々取り付けては《また外された》の繰り返しで現場は何時も悩んでいる。
取り付け責任者の弋工の人数に対して、外す人の何と多い事か……。

外したらなぜ復旧しないかというと、
「明日もそこで俺達は仕事をするのだから―――」
と明確な答えだ。

「それなら、手すりの代わりにロープを張って命綱を引っ掛けろ
とムキになると、
 「命綱をしてたら作業半径1mだし、動きにくい。足代と外壁の間隔は30㌢
未満あって、そこにもビティ一段置きに墜落防止棚があり、落っこちそうに
ないし、
 『今までに落ちた事』なんか一度もない!」
 と経験論で正当性(着装不要論)を述べる。

(全く同感だ)
と私が感心していたのでは、
 『安全監理が甘い、何とかさせろ、他の現場では皆やっているのに・・・』
とお叱りをこうむる。さあ困ったネ。

(かわら)屋根の様に先の尖(とが)った建物の場合、親綱(命綱取り付け用の
ロープ)を張
ると、屋根瓦は葺(ふ)けない。
瓦を葺くのに、親綱ロープを張った住宅屋根の現場も見た事も無い。
親綱を固定する柱の代わりの物も無い。
下手すればロープを屋根端に飾ったままで作業している場合もある。

親綱を張ったものの、命綱はどこに掛けるんだ?
ニワトリが先か卵が先かの論争
に似ているね。 
                                                             ~~ 続く  ~~

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建物からも息吹を・・・

2024-04-15 08:12:46 | 建設現場 安全

十一月  一日(水) 曇り  

 月初めは気分的にもスッキリと仕事を行いたいものだ。
今日は東面の足代解体を行う。
昨日の雨でタイル貼り面が少し泥ハネを受けているので、弋も土工も私も皆で雑巾を持って
出て、タイルに着いた汚れと雑巾跡を拭き取った後、足代解体の指令を出した。

場内放送でも、
「足代解体を行います。南、西面の出入口を使って下さい。東、北面は封鎖します」
とかなり連呼した。
朝礼の時も言ったのだけれど、やっぱり見物したがる職人もいる。

人の仕事を眺めるだけの余裕?もないのに、トイレに行ったり、車へ荷物や道具を取りに出
入りする度になんとなく見上げて、なんとなくウナづいているものだ。

 今日は通行人、特に第三者には関係ない所なので、ガードマンも場内の職人達を見ていれば
いいのだから、随分と気楽そうに立入禁止のロープ前を、行ったり来たりして旗を振っている。

時折カラカラカラといって小石かモルタルのガラかが落ちて来る音が聞こえる。
昨日掃除していた分、大きなゴミは落ちて来ないので、弋工も気分良く足代解体を進めている。

足代解体も二日目となると、私もつきっきりで見ている必要もなくなった。
今日で足代解体は丁度半分が片付いた恰好になった。

今月の中頃に本設のエレベーターが動く様になれば、足代解体を全て行える。
荷上げもその
6人乗りエレベーターでクロス、カーペット類を運ぶ事としよう。

仕上げ材料の決定が遅れているものは、早急に結論を出して手配確認だ。
折角決めた物がM店舗の様に《製造中止》では洒落にもならないので、明後日迄には手配を
確認しメーカーへ直接話をしてみよう。

とにかく今月の主要工事としてはタイル貼り、ピアット解体、ガラス、軽量天井下地組、天
井ボード貼り、左官工事それに足代の最終解体だ。
以上は全て確実に完了させるつもりだ。

11月末で出来高目標は95%だ。
10月度より1ヵ月当たりの仕事量はダウンだが、足代解体が完了しない事にはかかれない
仕事も全工事の一割はある。

室内工事は100%完了のつもりで頑張るけれど、床工事は十二月中旬の竣工検査直前を完了
としよう。
簡単に工程表と安全大会の資料を作ってみた。

昼休み時間に月例の安全大会を開催した。
朝礼の時に集まりが悪くなっている現在、職人一同が顔を揃(そろえ)るのも、こういう催物の時
位だろう。
昼食の休憩中には各自の車に入ったり、喫茶店へ行ったり、各階で日なたぼっこをしてウトウト
とするる人もいて、仕上げ工事の人々の休憩時間は《孤独を好むスタイル》が多く感じられるネ。

私も屋上へ行って一人『フルート』を吹いている事もあるこの頃だし―――躯体時期のあの
汗臭さの中での喧騒(けんそう)が、懐かしいものと感じられてきた。

安全大会の中で、
「今までの無事故無災害記録を継続しよう」
と皆で確認しシュプレヒコールを上げた。

足代上の仕事がなくなるので、重大災害の発生率は下がるのだし、ここまで来て横着作業
火災事故を起こす事は絶対にしてはならない様に、皆で確認を行った。

 十一月  四日(土) 晴れ  

「今日は天気がいいのでお爺ちゃんとお婆ちゃんを連れて、現場を見させてもらいに伺いたい
のですが、如何でしょうか?」
とオーナーから連絡が入った。

オーナーのご両親はかなりの御高齢だが、お元気だ。
現場の中をゆっくりと見て頂いた。
昔建てられた時のマンションと比べられては、
「良くなったものだ、良くなったものだ」
と感心される事しきり。そして外の景色を眺めては、
「いい所だ、いい所だ」
と自画自賛されていた。

「昔わしらが子供の時分、ここら辺はなーんにもなくて、イモ畑のなかを駆けずり廻っていたも
のよ。もう80年も前の話だがね。変わったなあ―――。ここに鉄筋コンクリートのKビルを建
てるなんて、考えられもしなかったもんだ・・・」
Kビルの最上階から窓越しに、景色を眺めてそう言われた。

テナント入居者さんが仕事に間が出来たり、お客さんと話が途切れたら、眺めの良いビルから
道路を走る車を見て
いても結構楽しめる。
(ここの交差点は事故も多いので、目撃者にもなれるよ。)

足代解体して建物が見えている部分では、じっくり眺められて、
「いい色だね、綺麗にタイルは貼ってあるし気に入った。これで入居者が決まればめでたし、
めでたしだネ」と言われた。

「1階と2階はどうしてまだ仕上げてないのかネ?」
これはオーナーがその説明をして下さった。そして、
「ええか、シロウトが口を出してはイカン、余分に銭を出してでもいいもの創ってもらえよ、
ええナ○○!」
と、お爺ちゃんがオーナーに言われているのを聞いて、
(全くだ、その通り!)
 私はそう叫びたい心境だった。

 お歳の分だけ苦労も多かっただろうし、言われる事もマトを射ていられて私の緊張もほぐれ
始めている。

何だか好きになれて話が合いそうな雰囲気になって来た。

「建物の『定礎』の文字をお父さんの直筆で
とお願いした。

「その通りに石に文字を彫り込みますから、この位の用紙に書いて下さい。後日頂きに参りま
すから」
と私も久々にスマイル気分だった。

 黒御影(くろみかげ)石に文字を彫り込むのだが、一応の既製品はあるものの、やはり建物に
関係のある方の直筆が記念になって良いものだ。

「もう人に見せられる字が書けないし、残しておくものは建物だけで結構ですから、看板はそ
ちらで作って下さい」
と申し出られた。大変残念だったけれど、
「それでは・・・」
と承った。
確か90歳は軽く越えているとお聞きしていたが『元気だなあ』と感じ、恐れ入ったものでした。

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建物外観 披露開始

2024-04-02 08:44:36 | 建設現場 安全

  十月 三十日(月) 晴れ 

今日から足代(あしば)解体第一歩に入った。
 弋(とび)工、ガラス工、サッシュ工、クリーニング工が揃(そろ)って初めてカーテンウォール部分
の足代
が解体出来るという厄介(やっかい)なものだ。

建物の南面は全面ガラスだけれど、部分的に足代倒壊防止用にガラスを入れてない。
室内から足代を引っ
張っている壁繋(かべつなぎ)パイプを除去してサッシュをその部分に嵌(は)めた。
 ガラスを続けて入れて、シ
ールコーキングを打ってクリーニングしながら、足代を最上段からまず
一段分解体して下りて行く。

今までハヌケになっていて窓からの雨の吹き込みの心配も、これでもうなくなった。
もう二度と足代を組む事の出来ないガラス面が6階から現れて来る。
このガラスは熱線反射
だから、光線によっては鏡になるという今流行のものだ。

ほんの僅かな面積の足代解体ではあるが、とにかく屋上の方から姿を表し始めたのだ、Kビ
ルが……今、やっと・・・。
昼からはオーナー夫妻も設計事務所の中島さんも来られた。
遠くから、近くから眺めては、
「出来ましたねエ・・・」
と感無量だ。

 メッシュシートで覆(おおわ)れていた顔が現れて、喫茶店のママさんも、マスターとも話題豊富
なって来た。
単なるビルだと思い込んでいた人ほど「あっと驚いたよ」と言ってくれた。

「所長、いつも見てたけど、出来ましたねエ……」
Kビルでは契約が出来なかったT金属の竹内社長からの電話には、声が詰まってしまった。
(皆、見ていてくれてるんだ、気にしていてくれたのだ・・・)
 この建物の評価もこれから出て来るから、気を抜かないで頑張らねばならないと思う。

高圧線のすぐ横で曲面壁に足代を組立てて「感電事故」倒壊防止」に夢に迄うなされていた
のも、これで無事終了だ。
この気持ちの良さは何だろう。
今日はほんの一部分の解体だったけれど、明日も引き続いて東面から北面コーナー迄解体す
る。
明日からは弋工とタイル工で解体は出来る。

タイル工は足代解体時には大忙しだ。
足代と外壁面を繋いでいる『足代繋ぎ金物』を除去したら、その部分にすぐタイルを貼って目地
を詰めてクリーニング迄してしまわねばならない。
その間弋工は解体を止めている。

壁繋ぎの処理の為にタイル工は解体時には必ず待機せねばならない。
足代が倒れない様に引っ張っている金物跡を処理して、一段ずつ下りて来るので足元は大丈夫
だが、この壁繋ぎをはずすと足代が一瞬動く(足場が倒れる)感じがする。

弋工に「早くしろ」とせかされながら、タイル貼りとその処理に追われるタイル工は、モタモタしてる
と弋に足代解体を先行されてしまうから、必死だ。

弋工とタイル工の連繋、コミュニケーションが悪いと、どうしてもタイル工の負けになってしまう。
弋工は威勢がいい(大声で合図)し、タイル工は(黙って壁に向かって)の仕事であり、おとなしい。
職種によって、こうも性格が違うものかと呆れてしまう。

足代解体中その周辺にはトラロープを貼って、立入り禁止の看板を建てるけれど、室内から
ヒョッコリ出て来るヤツがいる。
足代上から物こそ投げないにしても、不安定な所で作業している弋工から見れば、下で
チョロチョロ人間が動いていたら、気になって仕方がない。

「馬鹿やろう!下に来るな!!」
弋の大声が響く。

私はガードマンを設置して、通行人には車と上からの落下物に対して注意を促(うなが)しているが、
わざわざ近づいて内を見たがる人もいる。
人間は《探究心旺盛な動物》なのだろう。
(悪く言えば野次馬根性丸出しなのだ)

立入禁止の看板があるだけで、入りたくなる衝動を覚える人もいる。
とにかく、足代解体中は石ころ一ケ落としても、当たる事があるのだから、お引取りを願う
のだが、次から次へと覗き(見学)に来る人が絶えなかった。

「そんなに珍しいモノですか?」と私。
「今まで隠れていたものが、見えると気になりますヨ」
(なーる程、超ミニスカートの女性が現れれば、男性は顔迄《脚迄かな》しっかり見るのと同
じで、気になる部分が間近に見えると更に全てを見たくなる好奇心か、欲望なのか―――)

 Kビルの足代組立で一番悩んだ部分が解体された。
だが一気に解体作業が出来ない(他の職
種とのからみ等があり)全ての足代が解体完了に
なるのは早くて11月20日頃だろう。

早速防水工に足代解体状況を連絡し、
「明後日から三階屋根の工事だよ」
と打ち合わせをした。

足代がなくなり、事務所からの展望が良くなった。
逆に国道からも室内の様子が丸見えだ。
ブラインドを取り付けなければ、事務所でコーヒーを飲んでいるのも丸見えだ。
《オフィスで仕事をしている》という気分を味わう事にしよう。
この場所は贅沢な現場事務所になってしまった。

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