建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

竣工施主検査

2024-10-01 08:01:48 | 建設現場 安全

一月 十二日(金) 晴れ

 最後の打ち合わせ会というよりも『竣工施主検査』として集合して頂いた。

支店からはT工事課長、営業のO主任、設計事務所のA所長も来られた。
皆で検査と言うよりも、新築建物見学会の雰囲気になってしまった。

「気に入らない所がございましたら、この赤札付箋を遠慮なしに貼って下さい」
とA設計事務所の方々とオーナーの御家族にもお渡しした。

後から手直しする場合に、一目で分かる様に目印代わりに赤札(コメントも記入)を使うのが、
私の検査のスタイルである。


 いつぞやの検査時、ここに「汚れ」でベタッ、ここは「傷」でベタッ、これは「曲がってい
るみたい」でベタッ・・・と何でも、そう文字通り遠慮なしに貼られたお方もいらっしゃった
ものだが、さてさて今日はどうなる事やら―――と思って黙ったままで眺めている。

とあるデパートの部長さんの話で、
「1階から順番に見て行く人は、買わないけども、じっくり見る。エレベーターで最上階迄行
って降りながら見る人の8割は、単に見るだけで終わり」
この言葉を検査の時、私は有効に使わさせて頂いている。

スタート場所が1階でじっくり見られると検査のペースは確かに遅い。
最初の部屋だから全てのモノに手を触れてみて、どこを検査しようかという不安もある様だ。

私の使う手としては、建物の最上階へ一気に集合させる。
エレベーターに乗って上がると、室内の検査よりも、外の景色にばかり気を取られるのが、人間
の感性というものだ。

 別に検査を簡単に済まそうと言うのではなくて、あくまでスピードアップの方法として、使
っているだけの事だ。

 私は仕事上チェックの時は当然下から上の階へ順番に見て、更に降りながら確認する性格だ
けれど、竣工検査時に於いて上る時も見て、降りる時も調べてたら、とても一日ではチェック
が終わらない。

 今日迄全く何も見てないオーナーならば仕方無いだろうけれど、今までにも変更打ち合わせ
を行った部分は、その都度確認して頂いているので、別段目新しい事も出て来なかった。

 流石(さすが)にA設計事務所所長は、
「ここは私が描(か)いた設計図と違うね、変更したの?」
というポイントはしっかり見て下された。

「はい、変更指示を頂いて、その様になったのです」
「この方が、機能的に良かったのだろうか?」
「テナントがレイアウトの関係で△△を置くから、変えて頂ければという事でした」
「そうか、中島君は承諾してるんだネ」
「はい」

こんな会話が三度あった。
私自信も遠い昔に変更していて、それが当たり前(設計図通り)だと思い込んで創(つく)って
いたので『違うネ』の一言には
(えっ?・・何が?・・どう?―――)
と一瞬背中が凍り付いたのを、感じた。

建物の外観チェックとなった。      
「やっぱり手すりはアレで正解ですネ」
「良くなったわね」
さあて、アレとはステンレスかアルミか、又は着色塗装の件か・・・。
「アレで良かったんですヨ」と答えたが―――。

立体駐車場の取り扱い操作方法も私の車で、出入りのテストを行った。
機械自体は良いのだが、点検用出入口の為にオープンになっている所から、子供が誤って入
り込む危険性がある。
 一般使用の部分には赤外線センサーで緊急停止装置があるので問題はないが、この部分は
点検者用なのだから除外されている。

「ネットフェンスで高さは1.5m位の仕切りを作ったらどうか?」
とT建築課長。
「付けましょう。もうこの際サービスでネ」と私。  

この際とは、何故なのか一つ言っておく。
追加工事を12月に決めて頂いて、今後は追加はない(と思う)との取決めを行っている。

私も2000万円近くの追加工事の後で、20万とか30万円の第2回、第3回目の追加工事
見積書を作りたくない。

1回目の決定金額査定の時、後から多分50万円はサービス工事が出てくる雰囲気だったから、
それなりに含みのある金額で決定しようと約束してたのに、予想金額が下値でギリギリだった
から、今後追加工事は出ないものと信じていた。

その直後に3~4件追加を頼まれて、見積もれば合計80~90万円になっている。
これは予算内消化工事にしようと努力していたし、追加工事と本工事での減額工事のバランスを
丸く納めれば、オーナーも理解して頂けると思う。

この場に来てネットフェンス代は『最後の一枚』を取られたかの如く、丸裸になってしまっ
た。
官能小説風に言うと、
「○○子は明りを消しベッドに横たわり下半身に手を伸ばし、最後の最後まで女として大事に
残しておきたかったこの、白くて薄い一枚の・・・・」
となるのだ。
うん、私は次はポルノが書ける。ヘヘヘッ。

ネットフェンスの追加工事の件は、頭の中でソロバンの珠が激しく揺れ動くけれども、最終精算
見通し報告に赤字が出て来たら出たで何とかするしかあるまい。

検査は手直しと言う項目は出て来なかった。
フェンスもサービスで取り付けるという約束なので、残工事としては一応何もなかった。

手直し項目なし、残工事なし。                         
立派なものだ。

A設計事務所の所長から、
「引渡し前にカーペットのクリーニングをもう一度お願いしますね」
と頼まれた。了解。

『検査としては一体どこを検査したのだろう』
という感覚で終わってしまい、打ち合わせ室でN子の入れたコーヒーはことのほか美味かった。

これで現場担当者として、所長としての責任を果たせた事にもなるだろう。
無事故無災害で竣工出来た幸せを含め、
『生き甲斐』
を今頃やっと―――感じ始めている。

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仕事始めなのに

2024-09-17 07:31:24 | 建設現場 安全

一月  八日(月) 晴れ  

長いお正月休みだった。
4日には2時間程『仕事初め』の挨拶に出席して、Kビルを一巡り
しただけで、また休みだった。
(ついでに日曜日(昨日)迄休もうと決めていた)

 やっと今日から門を開いて、職人達も来る筈だ。
クニへ帰ってるヤツも元気に戻って来ているかな?F君は海外旅行をしたかな?・・・スキー
場かな?とボンヤリ思って車を走らせながらの出勤であった。

Kビルの正月休みにデーンと場違いな如く残っていた工事車両用ゲートを今日撤去した。
休み期間中の警備の為にのみ残していたものもなくなって、とうとう建物の周辺は『まる裸』
になった。

 道路から眺めても、建物自体が目に入り、完成したのだ…という雰囲気だ。
建設省から借地していた部分を整地してゴミの搬出をし、外柵を作れば建物外部は完了だ。

 明日が受電、夕刻からは設備機器の試運転開始だ。
エレベーターは明後日から最終調整を残すのみだ。
立体駐車場も受電によっての微調整を残しているものの、いつでも竣工OKの状況になった。
建築工事としては各階テナントの室名札に「正式会社名」の書き込みが残っている位だ。

昼過ぎて支店建築I部長より電話があった。
「この前言っていた件、F君を明後日、10日で返してくれないかい?」
「一応オーナー検査迄はこちらに置いていただけませんか?次は何処へ配属になるのですか?」
「市内のテナントビルだけど、所長はK君だがその下で働いてくれる若手職員が、F君に決定
している。もうKビルは君一人でいいだろう?」

「今度の金曜日は定例打ち合わせで、設計事務所もオーナーも来られますから『竣工検査』
予定していますので、それ迄――」
「別にF君がいなくてもいいのでは?」
「それは困ります―――」と言いつつも、
(こりゃダメだわい……)
と観念してしまった。

 人がいいと言うか同じ会社で困っている若手所長の下へ、助け船を出すのも《男気》があっ
ていいではないか、部長も困っている様子だし、願わくば昵懇(じっこん)の仲の所長の所へ
送り出したかったけれども、こちらの都合通りにはいくまい―――と思った。

一応、部長の言葉をF君に伝えた。
12月の初めの頃は、
「次は自宅から通える(今は寮生活)現場にするから…」
と言われていて、親元へ報告していただけに、ショックはあった。
親御さんの方がショックが大きいだろう………。

「大型現場へ配属されるという事は『技術屋』として認められている事だよ」
と気休めでは決してなくて、本心から教えておいた。
何時か………分かってくれる・・・と思う。

こうなるとF君の送別会を急いで行う必要がある。
早速いつもの昼食会メンバーに連絡した。
今度が本当に最後の集まりの予感がした。
誰からともなく
「N子さんも連れて行こうよ」
となって即、決まった。

こうして現場から配属人が別れて行く時には所長としては『感無量』だ。

Kビルはこのメンバーでよくまとまっていたので、
「次もやろうよ、やれたらイイね」
と打ち溶けていただけに、名ごり惜しい。

これも建築屋としての『宿命』なのだ。
また違う所長に出会う。
私もまた違う若手職員に出会う。

半年から一年半位のサイクルで人の流れが行き来する。
一般会社のサラリーマンとは、ここが違うのだ。

この出会い、人とのふれあい、そして別れ―――
それはオーナーとも設計事務所に対しても同じ事ではあるが、人間関係がどんどん増えて
行く渦の中にいるだけでも、この
仕事の充実感、仕事の上(建物竣工)での楽しみ》
は口では言えないものだ。

そうか・・・そうか終わるのか・・・これで―――。

(砂漠の中で沈み行く夕日を、ただ立ち尽くして見ている………)
そんな『絵』が今の私の心境だ。

  一月 十一日(木) 晴れ

昨夜はF君の送別会だった。

今日から次の現場へ行き、Kビルは全て私が行う事になった。
鍵の開け閉めから、安全日誌、工事打ち合わせ、職人達の呼出し………何だかF君に頼って
いて、頼り過ぎていたんだなア―――と反省してしまった。

彼としては、
「(所長、もう少しは動け(働け)よなあ・・・)」
と余程言いたかったのだろうネ。

もう2週間で引渡しだけれど、仕事の量、残工事としては、微々たるものだ。
設備は本設の電源が入って、空調(冷暖房)を試運転の真っ最中だ。

とうとう『インテリジェントビル』としての機能が現れて来た。
鍵不要のシステムも面白い。
夜カードを通して退出すると、夜間警備開始に切り替わる。
空調、照明を消し忘れて帰っても30分後には全自動オフになり、ドアは開かなくなる。
その建物全体の空調、照明、EVも止まってしまう。

朝は各テナント社毎に出勤時刻30分前に自動空調オンだ。
これらの操作が電話回線で遠隔操作出来る、というコンピューターシステムつまりインテリ
ジェントなのだ。

ドアに鍵が付いているけれど「これ何のため?」と私は疑問に思う。
カードを使用しないとドアが開かないし、変な所から侵入すれば警報システムが発信される。
銀行の出入り口とほぼ同じ様なシステムだ。

(このシステムが一度狂うとか停電とかになると―――)
という仮定の条件がすぐに頭に発生するのは、ゲスの勘繰りとでも言うのだろう。

緊急の場合のシステムも用意されている。
そこがインテリのインテリジェントたる所以(ゆえん)でもあるのだ。

最後に一言だけ宣伝をしておこう。よく頑張ってくれたお礼として。
このKビルは《日立EVサービス》がインテリジェントビルとしてオーナーと企画、交渉し
て建築計画を進めた努力の上の建物だ。
 設備関係を主体にテナントビル設計を始めたと言える位、よく面倒を見て頂いたし、これ
からもメンテナンス上からも一切を任しておける『いいスタッフ』で仕上がった建物だ。
御苦労様でした《日立EVのmino》さん。

Kビルはフラットケーブルをカーペットの下に通して、部屋のどこからでも電話とコンセン
トが引き出せるという設計だ。
名古屋地区初工事(らしい)シロモノで同業の設備業者も施工中に多数見学に来られていた。

このフラットケーブルはカーペットの下に敷き込んでも、厚さ2㍉もないので(画用紙より
も薄い)歩いていても床に不自然さはない。

テナントの要望する所へ、床上を配線の必要があるのが普通だが、フラットケーブル対応型
のカーペットだから、太い配線が薄いケーブルになっただけだし(ケーブル変換機を置く問題
もあるが)机を配置した後でも床をめくっての作業は困難ではない。

この配線自体を止めて(コードレス)になって初めて私はインテリジェントだと思うのだけ
れど、そうすればテナント賃貸料に跳ね返り採算が合わないのかも知れない。

もう10年もしない内に、インテリジェント方式は大会社の本社、支社には当然の事になるだ
ろう。
今でもそうなっているのに「私が知らないだけの事」かも知れないが・・・。

建物自体もコンピューター管理化の波はどんどん進んでいるのだナ。

 

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年末余裕のひと時に

2024-09-02 07:44:52 | 建設現場 安全

十二月二十六日(火) 晴れ   

もう全く仕事をする気力が、なくなってしまった。

現場はもうする事が殆どない。
手直し工事も終わったし植樹は今、行っている。

F君は昨日から年末休暇に入った。
今頃は私の代わりに海外旅行・・・?
私は
(今年の仕事は終わってしまった)
という空気抜けの虚脱状態だ。

それに比べて、きっと年末に
『絶対にコンクリート打設だ』
と頑張っている現場が相当あるだろう。
応援に行こうか、ヒヤカシに行こうかと思っても、電話をかけるのもオックウだ。

もうここ迄ノンビリしたら動けない、ナマケモノになったのだ。
今までの忙しさの(さして忙しいとは思っていない)穴埋めだと、有り難く受け止めてお
く事にしよう。

お昼前に型枠工事(名倉組)の社長名倉さんが『仕事納め』の挨拶に来た。

年末にはコンクリート打設が重なっていて、今でないと『挨拶廻り』が出来ないそうだ。
「大変だねえ・・・」
としか言い様がない。

「ここKビルは丁度、時期的にも良かったよ」
と話が始まって、昼食まで御馳走になった。

名倉さんとN子と私の三人。
贅沢(ぜいたく)にもしゃぶしゃぶのKに又行ってしまった。
今日位は昼食で飲んでもいいだろうと一杯飲んだ。
私も気分的には『仕事納め』になっている。

門を朝から半分閉じてアポの無い車は入れない様にしてある。
だが、どこからとなく来客はあった。

ところで、型枠工の社長名倉さんに、
「Kビルは儲かっただろう?」とズバリ聞く。

「まあネ」
「私が所長になってから初めての付き合いで、どんな感じだったの?」
「しっかりせんと、持っていかれると用心した」
「えッ?何を私が持っていくの?」
「も・う・け」

「なるほど、で儲けただろう・・・予想以上に」
「まあ予想より約2割り
「(・・・なぬッ?―――)」

 余程私に警戒をしていたのか《予想より2割りならば・・・》
と、人の財布を気にしてしまう。

これはコンクリート打ちに一度も
「間に合わない、応援だ」
と騒ぐ事なく、常時5~6人の大工さんのペースが守られて、自分達のグループ内で仕事を
こなす事が出来たからだと思う。

「他の現場が手詰まりの時は、Kビルで仕事が出来る体制が4ヶ月もあったからだ・・・」
との内訳け話だった。

「次も俺とやる?」
「やらせてよ、頼むよ・・・ネ」
「これ食べながら『ダメ』とも言えないじゃあないの」 
と言って大笑いだ。
N子は黙って『肉取り』に専念していて、それも大笑いだった。

こういう腹の中を正直に言える社長は好きだなあ。
しかし、この社長が
「所長によっては仕事がいらない」
という所長もいるのだから、不思議としか思えない。

名倉社長とはこれからは長い付き合いになりそうな予感がした。
俗に言う『ウマが合うヤツ』だろう。

今年3月にF工事部長を囲んで飲みに出た時は、お互いに敬遠していた様だったのにネ。

 私はやっぱり人見知りするんだ。
最初からイニシアチブを取れる能力がないので、名倉社長も
「持っていかれる」
と感じたのだろうか。

まあ、話もお肉も美味しい昼食タイムであった。
ゴチソウサマ―――。

 十二月二十九日(金) 曇り

お正月を向かえるべく、シメ飾り鏡餅等を飾る事で今年の仕事は終了だ。
仕事としては別にないのだが、竣工関係の提出書類を落ち着いた時に作っておこうと、ワー
プロでガチャガチャやって時間を過ごしている。

このワープロももう3台目だ(新機種の度に乗り換え)。
結構こういう機械ものが好きな私は、家にもFAXとかコードレス電話を置いてある。
ファミコンが出始めた頃も、子供達より先に欲しがって女房に笑われたものだ。

「これからはコンピューターと遊ぶ時代だ」
と偉そうな事を言っていたのが、いつの間にか『スーパーマリオ』に私の座を奪われてしま
っていた。

ファミコンのベーシック迄揃えて、データインプットしてゲームを動かしていたのに、今で
は見向きもしない。
今、私はキャド(CAD)コンピューターでの製図に憧(あこが)れている。

コンピューターグラフィック迄行かなくても、製図を書く事位も操作出来なくて
『今時の建築マン』と言えるか!と言いたい人間なのだ。

CADで製図を書くと訂正もスピードアップだし、正確できれいなのは良く分かっている。
これを現場でマスターすれば図面での残業もなくなるだろうし、長い目で見れば得だろう。
CADを教えてくれる人も少ないし、何よりもコンピューターソフト自体が高額だし、その
あたりで安売りしている訳ではないのが残念だ。

ワープロのお蔭でAマンションもM店舗もKビルも、支店へ(タイプ願い)を出す手間がな
くなった。
それよりも支店で竣工関係タイプの時期が重なった時は「あなたのワープロで作ってョ」と
至急タイプ原稿作成応援の電話が入って来る場合もある。

「現場名称と住所と施主名と……を入れ替えればいいので・・・」
と支店担当者は言うものの、8割は書き換えだ。
ただ、フロッピーには殆どの協力業者のデータを書式に設定しているので、タイプのように
最初の文字からすべて打込むのでなくスピードアップだけの事だった。

「そう、いいですよ」
と一文の得にもならないままに製作しているが、自分の時は全て自分でやるのは当然だけれど
も、『誰か手伝ってヨー』だ。 

こういう時のN子は、
「コーヒー入れて来るわね、所長サマ
と席を離れてしまった。ニックイ奴メ!。

ゆっくりと、たおやかにKビルでは新年を迎えようとしている。
後はガードマンに鍵と植え木への撒水(さんすい)をお願いして、完了だ。

 1989年(平成元年)現場作業終了なり。

 

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自主社内検査を迎えて

2024-08-19 07:43:05 | 建設現場 安全

 十二月 十八日(月) 晴れ

 ここ2~3日声が出ない。
風邪だと本人は自覚しているのだが、
「カラオケの歌い過ぎよ」
と専(もっぱ)らのウワサだ。

確かに忘年会は数回行いましたし、蟹も海老もフグも喰ったけれど、カラオケは……。
別に嫌いな方ではない。
音楽の道に進みたかった(フルバンドのピアノマンだった)だけに、アイドル歌手よりは
自分が歌っている方が上手い、とウヌボレている。

NHKの《のど自慢》に出ても鐘一つてな事はないだろうというオダテに昨日も乗って、あの
スナックでは「マイク離さーず」(離さない二人組)になっていた―――かな?

「喉(のど)の痛みよりも、声が出ない、喋(しゃべ)れない方が苦痛を感じる」
とN子に言ったら10分間も笑い転げられてしまった。

 こうして黙っているとやはりこの現場で必要及び不必要な事の何にでも(首・口?を出して
いたのか)と反省する機会となった。
でも私が黙ってると、周囲が暗くなって、
「所長さん、今日はどうして機嫌悪いの?」
なんてN子に職人達が小声で訊(きい)ている。

「そうなの、スタミナ切れでネ、しゃぶしゃぶのKに行くと直るそうなの」
とN子も誰に似て来たのか
『オットリ構えて核心を突く話』が出来る様になって来た。

冗談だわよ」から、
「冗談から駒」と私。

「冗談からゴマ」とN子。
「ゴマからゴマだれ」と私。

「ゴマだれは…しゃぶしゃぶのK」(二人同時だった)
と連発の誘導作戦だ。

今は忘年会シーズンに突入しているので夜毎の出張は各自自制してはいる。
それでもエサを蒔(ま)けば食いつくものもあるだろうけれど、エサも今の所、種切れだ。
だけど明日は営業関係者引き連れて、ここの現場関係の忘年会だ。

カラオケの為に喉(のど)を大事にしましょう。
熱はない。
鼻水が少しでて、喉よりも声がかすれる現象だ。

風邪だよ、やっぱり・・・。喋(しゃべ)れないのは苦痛だが・・・。


 十二月 二十日(水) 晴れ

昨日の忘年会で体に少々ヒズミが出てるみたいだ。

ここ数日は体調が悪いけれど、仕事への影響はほとんどない。
今日は午後から『社内検査』だ。
M店舗の時は満足に検査を受けられなかったので、Kビルはしっかりと見て頂きたいものだ。

もう残工事としては、植樹と一階の外部クリーニング、それから受電後の機器の本調整だ。
植樹は年末に行う予定だ。
正月休暇の間《植え木の管理》が問題なので、正月過ぎて植えた方が木が枯れなくて良いと
いう植木屋さんの声を聞いたものの、
「正月明けてイライラするのも嫌だから、年内最終便で植えよう」
となった。
お正月休み期間はガードマンに水をやってもらうように話をしよう。

建物への受電(メーター器設置・電力料金発生)は1月9日に予約を取ってある。
オーナーへ引渡しは1月20日、建物使用開始の入居第1号は2月1日以降と決定した。

社内検査で不備を指摘されても、手直し期間はあるし、この際隅々まで検査して頂いた。
精度的なもののみならず、監理書類の整備もチェックした。

この社内検査の内容を設計事務所に『自主検査報告書』として提出して、その後に設計事務
所とオーナーで『竣工検査』を行う手順になっている。

毎週の定例会議でオーナーと設計事務所とも打ち合わせをしているので、
「直せ!」「直らない・・・」
等の問題は出て来ないと思う。
スムーズに引渡しが行われるのが、創った者としては『最良の願い』だ。

―――昔、―――
       「こんなモノじゃあ受け取れない、××を直せ」
       「△△を直したら精算金を支払う」
        とか言って、最後の工事支払い金を延ばすオーナーさんもいた……と聞く。
       「売れるのを見越してマンションを建てたが(売行きが悪くてその分こちらへ
         工事代金が廻って来ない)という、我々には資金調達には関係はない話であっ
        ても、精算して頂けないという事もあった………」とも聞く。

        支払期日いを延ばす(?)為か、微々たる事を大きく取り上げて、手直し検査を
        依頼しても、担当者が出張だとかで引き延ばし作戦に遇ったり―――とも聞く。

   「オーナーと仲良くして、工事代金を頂いて、初めて任務が終わる」
          と諸先輩から教えられたものだった。
   (工事期間中に施主と金銭を含むトラブルがあっては所長失格)
   は言わずもがなで、無災害で竣工し多少の利益を生まねばならないものだ。

          今はある程度の信用がないと、工事そのものを受注しなくなってはいるが、
        竣工時現金払いだった話なのに、手形が何割か入ったというのもママある。
       
   外壁吹付後「建物イメージが違う」と言ったオーナーもいたネ。
           設計変更通達書類が届き、修正・再施工にも係わらず、精算時には
   「知らないよ」
    といった設計事務所もあったものだ。―――

建物検査を終えて検査に立ち会っていた協力業者の方々も事務所に戻り、N子の淹(い)
たてのコーヒーに皆ホッと一息ついている。  

昔、「何だコレは!?・・・○○社長を呼べ!」
と不満の個所が出てくると《頭からガーン》と押さえ付けたがる検査官もいるみたいだった
けれど、今日は「平凡に」というか『無事に』終了したのは、職人さん達をふくめて皆の
努力の結果と言う事だ。

後は引渡し迄スムーズに仲良くやりましょう。
残り丁度1ヵ月となった所だ。

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原価管理の本音は

2024-08-05 07:41:05 | 建設現場 安全

十二月  一日(金) 晴れ   

師走。
ついに十二月だ。
建築業界は十二月末の竣工が一つのピークだ。

区切りとしての年末か年度末かに竣工日が集中する。
新しい年から新しい建物でという日本人の固執してしまっている考えに、古いこの業界が押し
切られている訳だ。

昨日現在出来高は94%だ。
もう終わったも同然だが『追加工事の金額』を決定させるのが(近日決定)私の責任仕事の
一つだ。
今月には追加工事の支払いが一部出て来るのだから、ここ1週間以内には決める見通しだ。

Kビルの竣工は1月だ。
今月の中頃には竣工検査を―――と気合を入れ始めた所へ、
官庁検査関係は1月になってから行うので、年内に業者の自主検査を済ませる様にネ」
とA設計事務所より連絡が入った。

今、室内は4階迄床カーペット貼りが完了していて、上履きスリッパで作業している。
クロス貼りは6階施工中でもう少しで完了だ。
クロス貼りの完了した部屋には、設備工が電気のスイッチや空調のカバーを取り付けている。
設備担当のK君とH君もこれからが《本番》だ。

各室には鍵が掛かって……アレッ?掛かっていないヨ。(工事期間様の仮鍵のままだ)
これ明日、即、手配の確認だ。

塗装工事も終了していて、傷がついた所をもう一度チェックして仕上げると終わりだ。
(やり残しているものは―――)
と昨日からそればっかり頭の中が空回転している。

こういう時は契約書を見るに限る。
その中の見積書(請負契約書)だ。
一式という所(項目)はパスしても、各工種毎に内訳明細がある。
 例えば雑工事の場合―――
         避難ハシゴ2台、消火器B型8本、鍵ケース1ケ、各階案内板、室名札、黒板、
         掲示板、郵便受け、タオル掛け、旗竿・・・。
取り付ける物も結構あるものだ。
他に外構工事では―――。

今日は安全大会の日だ。
昼食時に場内にいたのはEV工、設備工と片付け人夫で合計しても8名の淋しい大会だった。

今年もまた12月後半は労基署の『歳末特別パトロール』が実施(来場)される。
Kビルはまだ一度も立ち入り検査を受けていないので、今月は来場がありそうな気配が濃厚だ。
15日からは
「無事故の歳末、明るい正月」
の垂れ幕を掲げて一年を締めくくるのも例年通りだ。

今年の師走はアンダンテ(歩く速度)で現場を過ごし、新年を迎える事としよう。

十二月  八日(金) 晴れ

全く現場とは関係ないけれども、今日は太平洋戦争開戦の日だ。
この日があって8月6日、原爆の日があって、戦争が終わった・・・と未だに思っているのは、
私が広島人だからだろうか。

《平和である、自由である》
という事は何をしてもいい事だとは思えない。

自分勝手に行動して、それが自由だという考えを教えたのは誰だ?
日本国憲法を自分の本棚にも入っていない日本人に、自由、平等を語る資格はない。
「勉強して出直して来い!」
と今日はヤケに堅い話になった。

というのも、これは朝、通勤途中のFMラジオのDJが、アシスタントの女性に、
「今日、8日は何の日か知っていますか?」
「巨人軍〇〇選手の誕生日です」
と自信満々に答えた時からムカーッと来た。

DJの方は戦争の話をするつもりで問いかけたのに、何と言う無知な女性よ。
(しゃべ)る事がプロにしては暦からの空気が読めないのでは
「一発で失格」
だネ情けない。

この平和、自由は降って湧いたものではない。
これを何とも考えていないから、楽な方へ楽な方へと若者も、日本人も、人間も(ついでに
私も)流されている。
やはり、歴史というもを通して、過去の人達の人生を通して、今日がある事を気づいて欲しい
のだ。

 寺院建築をみても平安時代にはその時代、鎌倉時代にもその時の息吹があり、戦争で無にな
ったものも有り、そして復興しての今日だ。

 今、我々が創っている建物、これが何百年後に有るかどうかも分からないが、残っていれば
我々の訴えようとしたものを形として現せるだけに、
《平和を守らねばならない》と私は叫ぶ。

ピラミッドは誰が作ったんだ?名もない人が王様の為に作った物でさえ、私は見学に訪れた
い欲望でいっぱいだ。
我々だって何かをこの地球に残せれば幸せだと思いませんか。

さて、本日の本題。
定例打ち合わせで(追加工事金を決定して頂いた)というよりも、
「△△△万で決めて来たけどいいね」
「ハイ!」
としか答えられない、簡単な一発回答の即決だった。


 頭の中で多少ソロバンの珠が動いたけれども、ここから50万~100万の増額願い話をして
もみみっちい。
これで儲けるつもりは当初からないのだし、予想金額最低ラインより少し上だったので
OKしてしまった。
(背広族は1円でも多く決めてもらえと当然のように言うて来るのだが・・・)

 もう1ヵ月の内でさほどのチョンボでもしない限り、予定外の出費さえなければ、一応私の
工事原価監理能力を疑われずに済む筈だ。

原価監理(予算書益金+〇%アップの儲け)は企業秘密として、建築業界として儲かったと言う
時代はオイルショック前迄だったのかも知れない。

見積書の中でも直接工事費に材料費、これだけで請負金の何10%も出て行ってしまう。
そして残った部分から、諸経費として仮設工事費、現場経費、安全監理費、支店経費を差し
引いていくと、引く金額が無くなって(純益そのものが0に近づく)
『赤字だ、赤字だ』
と騒ぐ場合も多々ある。

見積書の最後の項目に諸経費一式△△△万と書くと、その金額だけを見て、
「安くせよ、何で諸経費がそんなに……これがお前さん所の儲けだね」
と、さも分かっているような事を言う監理者もいる。

経費を全額残しても仮に10%なら、使わなければ10%は儲かりそうな計算も成り立つが、
使わずに仕事(建物)が出来るモノではない。

実施予算書の純益目標値から0.5%は益率の良化をする様に努力はしているが『現場四監理』
中で工程、品質、安全の後に原価監理が続いていては、まだまだ未熟者なのだ、この私は。

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高架水槽設置と方丈記

2024-07-22 08:30:16 | 建設現場 安全

十一月 三十日(木) 晴れ

今月で一気に完成した気分になったのは、外部足代(あしば)が無くなったせいだろうか。

 建物周辺もさっぱりした感じになっているけれど、花壇の立ち上がり壁コンクリート打設
とか立体駐車場の排水管等の埋設工事もあり、まだまだ地面が落ち着く迄には日数がいる。

 今月を振り返ってみるまでもなく、来月のカレンダー「最後の一枚」12月を開いてみた。
 年末に祝日が一つ増えているし、ボーナス、忘年会、クリスマス会、二日酔い予定の日等
遊ぶ事や楽しい事が沢山ありそうだ。
―――年末休暇、お正月休みも目の前だなあ……。来月のこの頃は正月気分だろう―――
但しKビルが予定通りに出来上がっていればの話だがネ。

足代の材料も予備分を残して返送終了した。
引き続いて今度は仮囲いを解体する。

今までは道路使用許可を受けて車道へ1mほど飛び出していたのが、スッキリとして来た。
しかし、竣工迄は不用心なので、簡単なネットフェンスで仕切りを作った。
背を伸ばせば敷地の中が見える位だが、道路の境界線より内側に一応設置した。

まだ敷地内はアプローチ(道路~正面玄関)に床石貼り工事を残しているし、交通災害に
お互い関わり合いたくない。
この簡単なフェンスで現場内作業時には安心して仕事が出来るが、強風で倒れはしないかと
一抹の不安はあるので、建物から控えを十分に取り付けておいた。

朝の6時からM店舗でも世話になったT組の45㌧大型のレッカーが、入口に座っている。
交通量の少ない時に、屋上へ《分電盤》《高架水槽タンク》を荷揚げの為だ。

レッカー車自体は敷地内に入っていて問題はないのだが、搬入トラックが半分歩道に飛び
出してしまう。
警察で一応許可は受けているものの、第三者への交通の流れを悪くすると事故の誘発原因に
もなりそうで、早朝に荷上げを行う計画としたのだ。

(わずか)40分のレッカー作業時間だけれどガードマンさんにも半日作業補償、つまり半日
分の賃金を支払っての作業だが、もったいないがやむを得ないと言う気持ちにさせられる。
このレッカーは8時には他の現場へ「お早うさん」と何気なく出勤するのだろうね。

屋上へひとまず置いてある荷物は『重量物運搬工』という専門業者で設置する。
コロに載せたり滑車で吊ったりして《物理の原則》がここにあると思える位に、理屈抜きの
方法で作業を行うのは、人間の知恵と言うものだろう。

しかし、いつもの事ではあるが、高架水槽の荷揚げや設置の度に、
(これは何とかならないものだろうか)と思う。

昔から高い所にありデッカイ『高架水槽』だけれども、最近は小型化にある程度なって来て
はいるものの、建物の外観上から奥の方へ追いやられていて、おまけにスペースも狭い。

デザイン的に丸い物やステンレスの物、塗装を施したものもあるけれど、風格のある建物に
見せる場合は塔屋を囲って「外観に現さない」場合が多いが、
しかし、このテッペンを誰が気にして見ているのだ?――と私はいつも思う。

タンク自体もいいデザインだと私には思えるが……。 
設備工もたった一個の物体の為に荷上げ方法で悩むのだ。
レッカーが設置出来ないと、本気で(ヘリコプターで持って来ようか?)と考えてしまう。

私はまだヘリコプターで搬入した経験はないけれど、現実には時間の問題となろう。

そうまでして、高所で辺ぴな所に設置する必要はどこに原因があるのだ?
設計図面通りの位置の為か、それとも建築基準法の斜線制限をのがれるためか―――。

建築とは『建て築く』という精神を忘れて、デザイン、法律に走り過ぎていませんか?
これらは創る側の勝手な言い分だと思えるでしょうが、このタンク一個の為にどれだけ日本
国内で建築業者がムダな事を行っているか迄考えるのは、私位のものだろうか。

官庁の『○○館』の建物ならいざ知らず、一般建物でも屋上にデザインを要求しますかね。
『税金のムダ、土建屋の儲け』のバランスを保っているのなら、私も黙っていよう。

民間の建物の場合、タンクを隠す壁の高さ(建物の最高部)さえ同業他社のビル建物より10㌢
でも高い、高くしろ(この市内では最高だ)と競っている企業もあるくらいだしね・・・。

―――方丈記、曰く―――  
       「たましきの都のうちに棟を並べ甍(いらか)を争へる、
                 高き卑(いや)しき人のすまひは、世々を経て尽きせぬものなれど、
          これをまことかと尋(たず)ぬれば、昔ありし家はまれなり・・・」

 

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足代解体完了・資材搬出

2024-07-08 08:02:14 | 建設現場 安全

十一月二十一日(火) 晴れ

とうとう足代解体が完了した。

6月に組み始めて5ヵ月間も使用していた訳だ。
安全パトロールの前には手をかけて自主点検をおこなっても色々と指摘事項を受けて、是正
しながらの足代も全て無くなった。

足代解体を始めたのが10月30日だったから、20日間も『解体中』を引きづっていたのだ。

 途中で防水工事(2階の屋根、3階の屋根)が終わる迄足代組立を残したり、荷上げ用の
ピアットを残したり、階段室吹き付け用にも一部残していたが、吹き付け工事が終わって
クリーニングも済んで、やっと今日で解体完了となった。

足代を解体して同一部材毎に無造作に置いてあるものの、どこを通るのだと言うくらいに、
場内は整理整頓の文言が失われている。

(11月末日迄に足代の解体完了が出来れば……)
という当初の工程表からは大幅アップになっている。

これでもし軽天工事が今月2週間現場を空けていなかったら、もっと早く決着が付いていた
けれど、これは今更言えない。

足代解体の材料も3分の2は返送済だ。
大切に使ったつもりなのに不良品として修繕費を取られたり、送った数量と受け取った数量が
食い違ったり、帳簿の記載より多く返した事となる物もあったり、無くなったモノとして処理
された物もある。

この『資材台帳』はどの現場でも最後迄書き込むと、収拾が付かなくなる事が多い。
資材を受領している期間は予定数と納入数の比較が出来るけれど、返送し始めると一向に責任
が持てないのだ。

現場ではトラックに積み込む時、運転手や人夫、F君等で返送資材を数えながら積むけれども、
果たして数が正しいのかどうか確約(責任が持てない)出来ない弱みがある。

(最終的には機材センターが数量チェックするのだから任せるしかない・・・)
と、トラックを送り出す。

 こういう現場からのトラックが、機材センターへ門限時刻の16時到着を目指して発進し、
滑り込む。
受け入れ側はどの車がどの現場の品物だったのか迷って当たり前になると思う。

そこまで読んでいるのだから、私は責任を持って数をチェックして届けているつもりだが――。

『同じ会社の資材だから、ドンブリは一緒だから』
とも思えるが、各々現場では足代のコストプラン(予算)を守っているのだから、大幅に
悪化するとマズイ。

機材センターが他の現場へ間違って受領書を送って
「片方は無くなって片方の現場は増えた」
では、本来有り得ない話だが、それが不思議とあるし、多いものだ。

 返す時に50本毎束にして送った筈なのに一束分がない(他の現場伝票へ混ざった)となると、
こちらは50本損失(消耗紛失)換算になってしまう。
それなら運賃かけて運んでも紛失となるのならばスクラップ屋から鉄くず処分代と入金した方が
「お互いに得だ」
となってしまう。
極端に言えばだけどね。

足代を解体する順番にそのままトラックに直接積み込む方法もある。
解体した材料を借り置きするスペースの無い時には、車道にトラックを停めてよく行うけれど、
これもトラック積込から発送時間までの作業時間代がかかり、コストアップになる。

しかし、解体がせっぱ詰まった工程の時では、出て来る順に荷台に載せて搬出して
有効に積もうという考え』
さえ無くなって「とにかく片付けろ」になってしまう。

突貫工事ではこういう所で一気に運搬費の赤字が生じてしまう結果になるものだ。
(4トントラックに3トン半で荷台が山盛り姿になって搬出すれば・・・)

今まで足代そのものに注意を傾けていたのに、解体して一つの部材になると散乱し、踏んで
通っても平然としたヤツもいる。
これには私は文句を言う。

手こそ合わさないにしても《毎日無事であれ》と祈っていた足代及び足代上の作業の部材なのに、
『終わってしまえば知らん顔』
では私の腹の虫はおさまらない。

整然と束になって借りた物を、束にするでもなくゴチャ混ぜで返して
「数をチェックしてヨ」
と言う神経も私には理解しかねるものだ。
(返送する時は、束にする(数量の荷札を付けて)位の心配りは必要だ)

 私だって中にはどうしようもなくて、混載車を作る場合もあるけれど、それが当然だとは決
して思っていない。
ゴメンナサイの一言を必ず添えて連絡する様にしているつもりだ。
まあ、人それぞれが材料に対しての考えもあるので、以上は『私の一人言だ』と解釈してい
いけれども、現場員としては忘れてはならない事だと肝に銘じていて欲しい。

Kビルの足代が無くなって、1階周辺もスッキリした。

場違いの感じのする《非常灯》が吊るしてある1階は、物置兼用の休憩室になっているので
外からは見えない様に、取り敢えずは窓に目の高さまでのシートを掛けておいた。

これから『外構工事』いわゆる建物周辺の仕事がある。

 たて樋の接続、花壇、電柱、電気の引込み等は足代がある時には作業出来なかった部分で、
どうしても足代解体後に行うダメ部分の仕事だ。
それに立体駐車場がある。
これを組み立てるにもスペースが必要だし、本管接続設備用の埋設管の仕事もある。

足代材料を完全に搬出してから場内整地・花壇・植樹・舗装を行う仕事もある。
足代解体して一ヶ月で外構工事完了、引渡しが普通だ。
12月20日の自分勝手な竣工目標も妥当な線と思っている。

 

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義理・人情・浪花節の世界

2024-06-24 07:51:19 | 建設現場 安全

 十一月 十五日(水) 曇り

6階は今日から軽量天井下地組に、軽天工が戻って来る打ち合わせだったにもかかわらず、
私との約束をスッ飛ばしてくれた。

「なんとか火曜日迄・・・水曜日からは必ずという社長の言葉を信じた私がバカだったのか、
甘ちゃんだったのか」
とイヤミを軽天工の今井君に直接言った。

「2週間前に私に『どうしてもあっちを片付けろ』
と△△工事部長(神の声)から言われて、1週間助けて下
さい所長、必ず借りは返すから・・・」
と頼んだのは誰だったのだ。

 多分、予定通りに進んでいない現場へ応援に行くのだから、Kビルへ戻って来るのも
少しは
遅れるだろうと予想していた私だが、1週間のつもりが、さらに1週間も遅れるとは
思いも
しなかった。
(その発端が当社からの神の声であったにしてもだが)

そう言えば今月初めからずーっといないンだ、軽量天井下地組屋さんは・・・。

11月も中旬になっている。
室内は軽天工次第で、仕上げの先頭工事(室内間仕切り)が止まったまま、こっちにも
ケツに火が点(つ)きそうな雲行きとなりそうだ。

私の胸は言っている。

  (職人達を手放したお前がバカだ                    うんバカだったョ
  (M店舗でつい先月、自分がピンチの時、誰か助けてくれたかい?    誰も・・・)
  (文句は言えども、手助けに人を廻してくれたかい?        誰一人も・・・  )
  (だのにお前は何故人の所へ、手助けに人を廻したんだ?    困っていたからネ)
  (ヤサシイからか、バカかアホかそれともオヒトヨシなのか?      オヒトヨシ・・・さ

自分の現場だという殻(から)に閉じこもっていると、職人達を手放なさなかっただろうけれど、
間内でどうしてもと言われれば―――この辺が私の甘い部分、性分、ヒトガイイのだろう。

情けは人の為ならず
何時かは必ず自分の為になると信じ、
GNN精神(義理、人情、浪花節)日本人の魂を
まだまだ持ち続けていたいのです、私は。

十一月 十七日(金) 晴れ   

まだ『吹き付けタイル工事』が階段室の天井に残っている。

外部足代(あしば)が無くても階段吹付けの作業は出来るけれど、この部分のみ足代解体は残
しておいた。足代=完全に整備された足場)
(吹き付け塗料がタイル貼りした所に飛び散ったら、またクリーニング用に再び足代がいる)
という予想の基で残しただけだ。

既に解体した足場材料の片付けが残っているし、今続いて足代解体しても、搬出が間に合
わない
から、この間隙をぬって吹き付けを行う事にした。

 当然今なら外部足代があるから作業性はいいし、安全でもある。
 昨日の雨で少し躯体が
湿っぽいけれども、養生が終わる頃には乾いていて、吹き付け
工事は出来そうだ。

冬場の下地乾燥不足気味の吹き付け工事から思えば、よっぽど条件はいい。
今日は下吹きとし、明日、最悪でも明後日迄には吹き付け工事の完了だ。

 吹き付けが始まるとシンナーの香り(匂いと言うより臭い)が漂い始めた。
 シンナー遊びのどこが楽しいのかよく分からないけれど、気分のいい匂いじゃあない。
頭がクラクラする前にゴメンだね。
今日は無風状態だから匂いもしつこい。 
「風に乗って(臭(におい)もろとも)飛んで行けえー」

昔、丁度隣が銀行で、暖房のリターンからシンナーの匂いが流れ込んで、営業閉店後呼出し
を頂
いた事もあった。
別にシンナーを振りまいたのではなくて、吹き付け工事を早朝から日没迄、
目一杯行なった
結果だった。

 こういう近隣迷惑工事は1日4~5時間迄の作業にしておく必要があるね、これからは。
この銀行内にシンナーが入り込むという事は毒ガスも吹き込められるのでは・・・とミステリアス
な事を考えたものだ。

 アガサクリスティの世界に私が入ったら、
 〔放送スタジオの様に完全密室ではないこのZ銀行を、空気を使っての犯罪は可能
だろうか……犯人は昔、軍部の毒殺計画秘密組織の一員で・・・〕―――冗談。

 現実に戻れば「吹き付けの塗料が車に付いた」とクレームの付けられる事がかなりある。
この手のクレームには土建屋としては実に弱い。
新車、中古車、廃車寸前の車であろうとユーザーの怒りは凄(すさ)まじい。
常日頃ワックスを掛けている車ならば簡単に取れるのだが、そういう人の車は工事現場へ
は近づけて駐車しない。

移動をお願いしても、
「どうせもうすぐ下取りに出すから……」
と言った人に限って、
「塗料が付いた、何とかしろ、下取り価格が下がったら責任を・・・」と騒ぐ。

「だから最初に言ったでしょ、建築屋を甘く見たらいかんぜよ!」
とタンカを切ってみたいなあ。

とにかく
「済みません、済みませんでした」
と頭を下げてガソリンスタンドへ持って行く。

手洗いしてワックス掛けをして、時にはコンパウンドを使って吹き付けを取り除く。
1台や2台ならいいけれども、100mも離れた所からでも、5台目、6台目と数珠つなぎの如
く出て来た時もあった。

もっと悲惨だったのは、隣が新車のディーラーだった時だ。
新車に付いたので………これを口実に
3台分世話(購入者紹介)してくれませんか》
と頼まれて以来、M社の車を私は毛嫌いしている。

先のAマンションでも1台が
「車に付いていたので……」
と吹付完了数日後にクレームが出て、ワックスを掛けてきれいに落とした経験をした。

「車を洗いに持って行きますから・・・」
「これから乗って出て3日後に帰って来ます」
それは大学生の車で、何とスキー場から帰ったままの状態(泥汚れのまま)で、
「付いた塗料を落としてくれよ、ボディに傷つけない様にね」
と言われて、この位の神経しかこのS大学は、この大学生はと思うと情けなくなった。

それでも私は「済みません」と頭を下げてクリーニングだ。

「バカヤロウ!土建屋を―――なめたらアカンぜよ!!」 

こんど会ったら言ってやろう(夏目雅子風にネ)。
松本ナンバーのJT君。

しかし、よそ様の持ち物に汚れを付けたのは全面的に私共の過ちですので、申し訳ございま
せん。
以後、注意致しますので・・・皆さん許して下さいね。

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天の声と神の声が舞い降りて

2024-06-10 08:39:14 | 建設現場 安全

  十一月  十日(金) 晴れ

オーナー夫妻それにA設計事務所のA所長も来られて、定例打ち合わせ会が始まった。
 ところが、所が、大問題『天の声』を聴く事態が発生してしまった。

「手すりがアルミ手すりだ。丈夫な物にするので、ステンレスで作る話をしていたが……」
とA所長から《突然》の発言だ。

(設計図通りだぜ、施工図承認欄には承諾の社印が押されてあるのに、何でまた―――)
と理性を失い欠けてしまった。

 何故・ナゼそんな大事な事を設計図に書き違えて、今日まで過ごしていたのだ。
設計図を書く以前の打ち合わせ(決まり事)」
なんて話を、私は知る由(よし)もないヨ……だった。

手すりは意匠(デザイン)的に取り付けてあり、緊急事態の避難時のみ、ここを通るがステ
ンレス製品でなければならないという絶対理由は、別にこの際関係ないと思う。

 取り替えろったってもう外部に変更製品を取り付ける作業用の足代はないし、今から
即作っても1ヶ月は軽くかかるし、困ったも
のだ。
こういうクレーム(天の声)が監督屋泣かせなのだ。
施工図も承認図も、かつて打ち合わせして取
り付けた事そのものが、何とかの一声で
コロッと替えざるを得ない事態が発生する。

M店舗でも致命傷寸前の塗替えを言われた様に、今回も対策に悩む問題となった。
A設計事務所のA所長の脳裏にくっついているオーナーと1年以上も昔の話し合い
の線に対して、どこま
でこだわるかがポイントだ。
設計図には当初(工事計画時)には書いてあったらしい。
それが工事契約時、予算オーバー
で色々とムダらしき所を『削る打合わせ』の時に、
アルミに変更したのが事の真相だった。

 私の手元にはA設計事務所から頂いた今の最終設計図と請負金見積書が有る
だけで、ステンレスなんて
文字も《抹消の二重線》さえ見当たらないものだ。

「取り替える事はしないけど何とかならないかね? 
絵に書いたモチを食おうと言う相談だが、幸いにもアルミで作ってあるのだから、着色
は可
能だ。

 ステンカラーで窓枠・カーテンウォールをオーダーしているのだから、この平凡な
手すりにス
テンカラーを塗装して、外観上は同一部材に見立てようと提案した。

―――この塗装が風雨に晒(さら)されて何年持つかの自信はないけれども、人がふん
だんに触る場所の手す
りではなくて、外観上の飾り用の手すりだけに、4~5年はもつ
だろう。
塗装が剥(は)げたら下地のアルミ
部分が見えるだけの事で、その頃には別に手すりに
対してのみ《目が行く事》もなくなってい
るだろう、最悪再塗装も可能だし―――
と勝手な解釈で、設計事務所及びオーナーに納得させるべく説明をした。

もう、一方的にこちらの考え
『これしかない』
という口調で、相手を飲み込んでしまった私
の独演場だったが、この説得力エネルギー
は一体何だったのだ・・・?

会議室で聞いていた人達も、(それしかないネ)という気になって、オーナーに、
「所長の案で大丈夫ですヨ」と口添えがあった。
私はA所長の立場が……と気が気ではなく、とにかく時を動かさねば―――。

固まっている訳には行かず、何とかピンチを切り抜けたものの、改めて手すりを遠く
から眺めていて、
いい事をしたのか、その場凌(しのぎ)の悪い事をしたのか―――
分からなくなって来たのが正直な心だ。

オーナーが帰られる時に手渡そうとしていた「取下げ金請求書」を危うく忘れる所
だった。
頭の中が目まぐるしく動き、口もとどまる所を知らず(我をも忘れ欠けている)と察した
子が、さり気なくオーナーの奥さんに渡していたのを、車のドア越しに見た。

「N子サンキュウ、明日、昼飯オゴってやっからね」
「土曜日だから給食もないし、子供連れてくるわよ、………パパは土休かなア・・・」
「なヌッ?N子はパパと土休をすると思ってたから言ったのに」
「聞いたからね、明日のしゃぶしゃぶを予約するわ―――ルンルン」

十一月 十一日(土) 曇り

(今日迄、軽量工事は空けさせる)
神の声が聞こえていた。
この2週間、丁度大型スーパーの開店直前と重なってしまい、竣工直前でケツに火が
(つ)いて
いる現場へ軽量工事(木の代わりに軽量鉄骨で間仕切りをする→不燃下地の為)
会社の命令によって引き抜かれ
て、Kビルは6階が《手つかず》の状況になっている。

この軽量工が不在の為に、Kビルで助かったのは設備工のH君だ。
 一気に6階迄、軽量天井下地と壁下地組を施工する私の工程表に対し、設備ダクトの
工場製作
が間に合わない。
 軽量工事の前に天井裏に空調用のダクトを吊り込むには、徹夜作業を強いられる所
だった。


それにしても総合工程表からは、かなり急ピッチで工事が進んでいて5階迄は何とか
(しの)いでいた配管工も

『6階では応援部隊を要請しなくては……』
とあせっていた時に、軽量工がプッツンとなったのだから、正直言って助かっただろう。
顔に書いてなくても、足取りを見ていたら分かるものだ。
余裕からか、こちらの腹を読んだ上での質問が来た。

「所長、軽天工さんはいつから(戻って)来ますか?」

あの現場はまだ《ケツに火がついている》という情報をいち早くキャッチしていて、当分、
(水曜日迄)は来ないだろうとH君は読んでいる。

「私達一応6階迄配管工事が終わったので、軽量天井下地が終わりそうな頃、又来ます。
明日か
らチョット空けます(休みます)」
「仕方ないね、ここでボーッとしててもネ……他で稼(かせ)いでおいでよ」
「いえ、連休して―――家族旅行します。今までずっと休んでなかったから・・・」
「いいねえ、私も連れてってよ………冗談、冗談」

 しかしモノは言ってみるものだ。
「大分助かっただろう、この2週間は・・・」
「お蔭さんで……ネ」
「余分なお金(突貫経費)が出て行く筈だったんだろう、その分御馳走しろよ」
「じゃあこれから行きますか?」
となって、本来なら私が出すべきマネーを設備のH君に肩代わりさせてしまった。

ついでにいつものメンバーのK君、F君、N子で近くの『中国料理店C』へ行き、
ファミリ
ー・フルコースをご馳走になった。
(食った、食ったが今は正しい表現)

「ゴメンね―――仕事が延びたので先に食べててネ」
とN子が土休のパパに電話している。
(なんて奴だ、今日に限って・・・)
とパパに恨(うら)まれているだろう、私は。

私、そんなに人の奥様を働かせてはいませんよ。
悪いのは誰だ?やっぱり私?………かナ。

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左官工事を応援しよう

2024-05-27 08:28:02 | 建設現場 安全

 十一月  七日(火) 雨        

 昨夜の雨がまだ降り続いている。通勤途中から、
(また開店休業かなあ)
 と、根性が薄れていく頼り無い出勤だったが、8時半頃に左官工が8名も集合して来た。

「何事だ皆んなで?ヒヤカシか?」
「雨で予定していた所がダメ(作業中止)になったので、Kビルへ来たヨ」
と言う。
と言うのは3人位でコンスタントに毎日仕事をしてくれれば、全体の工程の流れもよくなるの
に、
思い出したかの如くに(気まぐれ的に)現れては手際良く(?)職人を集中し、2~3日仕事をし
てはまた
御無沙汰(他の現場が主要な手持ち工事)のメンバーだからだ。

今日も全く電話一つもなく、予定のない打ち合わせ場所に突如と『殴り込み仕事』だ。
今日は全
員で階段室を徹底的に完成させる事を約束した。
 雨には関係なくて、たまたま今日はKビルに職人の数
が少ないので、この際階段室の左官
工事と吹付タイル下地を一気に終わらせる事にした。

 今までのKビルでの左官工事としては、階段防水モルタル塗りとバルコニーの床防水モル
タル
塗りが主工事で、後は「直押さえ」と「打ち放しの補修」だ。
 コンクリート直押さえという仕事は作業時間から考えると、単価の安い部類に入るだろう。
やはりモルタルを練って鏝(こて)で仕上げるのが左官屋さんの工事としては、仕事らしい仕事
だろうと私は思う。

 ―――余談―――(左官工事について)―――――

   建築工事の中で器用さを一番持っているのは、左官ではないかと私は思う。
       左官工事とはモルタル(セメントに砂と水)を練って壁を塗る、床を塗る位
       しか思えないが、躯体(コンクリート)の補修迄面倒見ているのも左官工だ。

    左官工といえども、鋸(のこ)も持っているし、トンカチも、コンクリート釘も
       水糸も、下げ振り・差しガネ・墨壺までもが必需品だ。

    ここで一枚の壁、柱にモルタルを塗るとしよう。
   コンクリートをチェックすると7㍉中央が膨らんでいたり、上下で5㍉ズレ
      ていたりもする。
       通り(一直線の部分)が『斜めにまっすぐ』の場合もある。

      これらの表面を垂直・水平にするには―――と計算すると頭がハゲる。
     左官の世話役が下げ振りを降ろして「ここは20㍉塗ろう」と決める。
     モルタルの厚さで調整するしか方法はない。

    コンクリート面にジャンカ(す、豆板)があって、そこを斫り取って、補修
     ンクリートを注入する為の型枠を作ってくれるのも左官工だ。

   躯体コンクリートは仕上げラインより幾分控えて作り、後からモルタル
   で詰めて仕上げ面を調整してくれるのも左官工だ。

   タイルを貼り付ける下地調整(コンクリート面からタイル仕上げ寸法を
   引いた(除いた)所迄塗りつける)、直押さえ後の傷穴の補修、大工が 
   型枠材搬出用に開けた 穴の処理………等、実際にどうしてこれが
   左官仕事なのか、左官工に補修させ るのかが、全く分からないまま
   に左官工に頼んでいる。
   
   当然こんなモノは左官工事契約内には含まれていない。
   見積りのやり様がないし、どれだけ手間がかかるものか想像も予想も
       出来ない。

     『常傭』といって一日一人当たりの賃金を決めて、かかった出面分を
      支払う。

      だが常傭仕事は遠慮させてくれと言う。
   他にいくらでも本業の仕事が有るのだ。

    クロスを貼る、あるいは直接ペンキを塗ったり、タイルを貼ったりす
     ると言 っても、その仕上の精度が指摘されると、下地調整の不備の
     せいにされる。
        ペンキの場合は左官のコテの波が横からの光線で見える場合も
     ある。
   モルタルが収縮してクラックが入り、モルタルが浮いた状況になって、
    叩くと ポコンポコンと軽やかな音(実際は聞きたくない音)
がする場合には、
  薬液を注入してくっつける。

   これが全て左官工の責任だと言う人もいるけれど、決めつける訳にも
   いかない。
 
   コンクリートからシャレた(?)出っ張りを作っていても、最終的に大き
  さ
と通りを揃えるのは左官工だ。
      水平器とか下げ振りを使い、時には部分的に斫(はつ)
り取ってでも
  仕上げよう と努力するのだ。
       
    また左官工の一番の腕の見せ所は、階段室のボーダーだろう。
    階段は角度
があり各段は同じ高さを保ち、角にはRが付いている。
    手すりがそこから
立っているし、ステンレスの手すり柱とか階段溝
      などがあると、もう最悪パニック突入だ。

   ボーダーのみならず、左官工事そのものを肉体的に換算すると安い。
      モルタルをネコ車一杯分作ってみると体力消耗の度合いが良くわかる。
   そして
運搬して、ネコ車一杯でどれだけの仕事が出来るかという事
   を考えても、この
肉体労働+器用さを要求されている左官工は、
   大変な作業といえる ものだ。
     

   おまけに、おまけにこの左官工事は造作材とかサッシュを汚す。
      ネコ車で運
搬中に仕上がった所を傷つけるとか、車輪の跡とかモル
   タルが付着(つい)たとか、壁
を塗る時に落ちたモルタルが床材に
   シミをもたらす事は昔の「泥土壁塗り時代」の常識そのままである。
       だからキラワレ者
の一番手にあげられているのも事実だ。

         だから、左官工事を無くそう、減らそうと『乾式工法』を取り入れる
   設計事
 務所も多くなって来た。
         しかしこれは表面しか見ていない人の発想で、現場は左官工に
   よって躯体か
 ら仕上げへの《橋渡し》がなされているのを、忘れない
   で欲しいものだ。

    私だって、豪華住宅の設計または監督を任されたら、汚れる作業
    としての品
物は極力避けると断言出来る。
     私、別に左官工の息子でも親類縁者に左官工がいる訳では決して
    ない。

        「左官に頼むと金がかかるので、お前が直しとけ」
     と先輩所長さんの《いいつけ》を守っていた頃から、左官工に色々
    と助けて
もらっている(今もって)私の完全な『偏見』なのかも知れない。――――――

とにかくKビルは今日の左官工の集中工事で、階段室の吹付工事の予定が、来週には今日
塗っている下地の乾燥次第で可能
というメドがたった。
早速吹き付け工(S塗工店)の水野君に打ち合わせの電話を入れた。

「昨日見た時は何もされていなかったので、まだ段取りしていませんが・・・」
「なにボヤッと見てるの、もう明日で吹付下地補修終わりだよ」最後には、
「来週の終わりには、吹付タイルは完了だからね……いいね」

今日は「雨降り日」の作業としては成果のあった一日でもあった。

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