建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

現場リスタート

2024-01-22 09:16:07 | 建設現場 安全

   九月 十六日(土) 晴れ  

今日からは当分Kビルに専念する。
M店舗は昨日滞り無く引渡すことが出来て、テナントやオーナーから逆に感謝されてしまった。

オープン迄に別途業者の内装工が、天井とか壁に穴を明け間違った場合には緊急仕事になる
けれど、ここ二週間の忙しさから考えても、取り戻す二週間が必要だ。

気が付くと9月も半分済んでしまっている。
今月度の出来高は、お盆前に頑張ってた貯金をお盆明けから今までに使い切ったのではないか
と思う位、出来高は増えていない。

確かに6階のコンクリートは8月末だったし、今月はEV室の塔屋だけだ。

鉄筋工の姿を見なくなったと思うと、型枠工もいなくなっていた。
マイクロバスでKビルの前を通勤しているのはチョクチョク見るけれど、
「オーッス、元気?」で終わり。

 今、Kビルは内装工のトップを切って、サッシュ工が溶接火花を飛ばして頑張っているが、
場内を片付けてばかりいたので、サッシュ取り付け用の《不要残材鉄筋》が無い。
短い鉄筋屑を集めてサッシュ工に渡すのも一苦労になった。
ワザワザ買うのもバカらしい。

  鉄筋クズ置き場へ行ってもクズ鉄処理業者が回収済でアウトだった。
 近くの現場へ掃除片付け兼用に雑鉄筋を回収に出向くハメになってしまい、鉄筋加工台の下
へ潜(もぐ)って切れ端を拾う。
長さ40㌢前後の鉄筋を約50本袋に入れて持って帰って来た。

「所長、そこ迄しなくても他の現場で余ったのを、ここで使うからいいよ、何とかするから」
とサッシュ工の松村さんが助けてくれた。

 躯体の時は踏んづけて通った鉄筋も、無いとなった途端に手配する。運命とは皮肉だ。
今日でもう3階迄のサッシュは取り付いた。

 サッシュを取り付ける前の仕事として、コンクリートチェックがある。
苦労して打ったコンクリートが傾いていたり、湾曲(わんきょく)したりしているのだ。
ハラミとかソリとかタレとか言って垂直水平の原則からはみ出している所のチェックだ。
(通称開口チェックと言う)

窓を付ける開口部の上枠部分はコンクリートの自重でよくタレ下る。
サッシュが入らないのだ。
サッシュとコンクリートの隙間はコーキングを打つ巾10~15㍉しか余裕がない。

『その精度を保つ様に躯体工事中にチェックしろ!』
が会社や設計事務所の監理方針だ。

 腕のいい職人達ならそれでも納るが、工期に追われたり、応援が入って一気に作ったり、
が降っての室外作業だったりすると、とても精度迄かまってはいられない。

「後で斫(はつ)るか塗るかで何とかする」
のはいいけれど、
「その費用は誰の負担なんだ」といつも言う。

「急がされて雨の中、作らされたから、当然そうなった」
と型枠大工の親方は言い逃れるだろう。

 窓枠の位置を5㍉違えて付けるとタイル目地とズレてしまう。
サッシュ工は設計図の枚数よりも多い『サッシュ取付図』というものと首っ引きで取り付け
作業を行う。
 このサッシュ工の取り付け精度で室内はほぼ決まりだ。
 『斜め真っ直ぐ』が得意(?)な人もいるけれど、サッシュに合わせて物を付けたり測った
りする。
 サッシュから40㌢上が天井だとか90㌢下が床の仕上がりとなり、基準のモノサシになってい
るのも事実だ。

 1階と6階では壁の厚さが違うと、取り付け位置は一直線上にあっても、寸法書きは値が違
う。
柱面から1階では900㍉でも、6階の柱は小さい分だけズレがある。
 柱のすぐ横から隣の柱の間にピッタリ納るサッシュは上階へいくほど、柱が小さく開口部が
広く
なり、サッシュの間口が当然違うという事だ。
開口寸法が間違えているのはサッシ屋さんの責任ではなく施工図チェックミスなのだ。

だから、このサッシュ図のチェックが建築屋、特に責任ある副所長クラスの仕事になる。

 工場製作物(金属工事、手すり、石、家具・・・等)は特にチェックミス命取りになる。
現場で取り付けるその日になってみて、長いの短いの言っても始まらないのだ。

 これをメーカーの責任者に強く文句を言う人もいると聞く。
チェックミスを棚に上げて、
「作り直して来い、お前のところが間違えてンだ。承認印は押したけど、納る図面を書いて来
たと言ったから印を押したんだ………」

 と聞くに耐えない話を電話機の向こうで、怒鳴り合ってるのを聞いた事も何度かある。
何故現場には各種の施工図が氾濫しているのか――(施工図が何だってんだを再読してみよう)


 九月 十七日(日) 曇り    

 8月に新車に替えて《初めての家族ドライブ》に出て、稲沢市のO美術館へ寄ってみた。
『美術館』という建物そのものに目が行ってしまう。
館内に展示するにふさわしい雰囲囲気のアプローチ、エクステリア(外観)を現すいい建物だ。

 ―――余談として―――――
         建築屋として『館』の付くモノを創る時は充実していると私は思うし、私は
        創りたい。
      『館』の付くモノ、公民館、図書館、美術館、総合体育館、映画館、科学館、
  博物館、○○記念館、△△会館・・・とにかくデザインもかなり凝っている
  のが特徴だ。
        不特定多数、かなりの人が出入りするし、目に映る部分には厳しい精度もい
       るし、入念な工事施工計画もいる。

  鉄骨スレート葺(ふき)の倉庫、工場を創る気分とでは、とても《真剣味》が違
       うし、現場の考え方も建物には現れて来るものだ。 
       デザイン先行した設計から
     (どうやって創るんだ?―――)
      と悩んで勉強出来る事とか滅多に使わない製品を特別注文で作るとか、色々と
  経験させて頂けるだけでも『館』の付くモノを創る人には嫉妬?を感じるみた
      いだ。

   私が今迄に創った『館』の付くモノとしては図書館、記念館、文化会館等の
     『館』だったが、その間は苦労だと思いつつ《気力は満タン》だった。

   施工図を書くにしても、表現方法にフリーハンドでこういう風になるんだと
       スケッチ迄入れたりして、建築屋としては内容のある悩みと忙しさを覚えたも
      のだった。
       やはり、いくらデザインがよくても、博覧会場の建物の様に
  「人目を引きつけるけれども壊してしまうもの」
  よりかは、確実に後世に残し伝えていける建物の方が満足感は違う。

  建物を築く事、これが建築

       自分の財産で自分の好きな様に建てれる事が出来ない建築屋さんは、施主と
      いうお客の要望に
  「いかに添わせて創って行くか」の腕を見せるのも、生き甲斐の一つだ。

       設計の方とデザイン専門の方、インテリアコーディネイターとか、表面しか
      見えない方、図面通りの監理の事しか考えない方、色々な人とのプロジェクト
        で、好き勝手な注文を処理していく現場は『男らしい絵になる仕事場』だ。

  美術館などはその最たるものだろう。

  『館』自体がインパクトのある建物になっているし、似たようなモノさえなく、
  まさに世界に一つしかない建物だ。

   建築雑誌にも載るし、TVのニュースにも出る。衆目の気にする中での仕事
   には、人に言えない気苦労もあるけれど、これを竣工させた時の気分を若者に
   も味あわせて上げたいものだ。
   (一皮ムケた技術屋にも成長している筈だ)

   やり甲斐というか、やったのだ。
        (それが仕事だと割り切らない)という男のロマンなのだナ。

    山に登る、太平洋をヨットで渡る・・・
  そう、『男の何かが』そこにはあるのだよネ。

 ―――日曜日。たまの休日なのに、建築が抜けきらない建築馬鹿がここにいた―――という話。

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建設現場の言葉遊び

2024-01-09 08:21:33 | 建設現場 安全

建築現場の「言葉の遊び」―――の巻  

 『建築用語』の中には一般に使用する言葉でも全く違った意味を持った面白い言葉がある。
昔の人は上手く名前を付けたものだと感心する。
 専門的に正しい解説だとは言えないにしても、
(そんなものを言うのか・・・)
程度で読み流して頂きたい。

先ずは《食べる物から》 
らっきょ    鉄筋の梁筋を加工した時の一種の形。
ドーナツ    鉄筋と型枠の間隔を保つための円形の物。
ようかん    レンガをたて長方向に切断したもの。
まんじゅう   鉄骨建て方の時、柱の高さ調整用のモルタルのお団子(だんご)
キャラメル   鉄筋と床の間隔を保つための2㌢角程度のもの。
コーク      クロス貼りの隙間を埋めるもの。ボンドコークの略称。
チーズ     配管類でT字になる部分の部品。
ミルク    セメントを溶かしてドロドロにしたもの。
のり     掘削した部分の斜面をいう。
くり      防水層を直角に曲げないためのコーナー
あさり    鋸(のこぎり)のギザギザの刃の角度
せり     鉄骨柱の下に打ち込んで垂直を修正する冶具。
まめ     コンクリート打設不良で表面に砂利が表れている状況。
れんこん  墨壺の中で回っている糸巻き

《動 物 か ら》
とら   1.鉄骨が倒れない様に控えのロープの事。
     2.トランシット(角度を主に測る測量器具の略)。
     3.黄色と黒の縞模様の標識。
ねこ     1.鉄骨胴縁等を取り付け用の受け鉄板。
      2.一輪車、ネコ車、手押し車、カート車ともいう。
とんぼ  1.コンクリートを均(なら)す道具。
      2.アスファルト防水に金網を取付け用の接続金物。
ノミ    部材(木・石・コンクリート等)に穴をあける刃のある道具。
とび    鉄骨を立てる職人。足代を組立てる人の総称。
からす  1.からす口。墨を入れて書く時の鉛筆代わりのもの。
      2.とび職の技量に一歩手前の職人さんを見下した(差別語)
うま    脚が4本で組み立て作業台(通路・足場)にもなる便利な脚立
アンコウ  竪樋と横樋の飾り桝の総称。
しゃこ   ワイヤーロープの先端で簡単に締める為の冶具。
きりん   土留め工事の切梁に使う強力なジャッキ
モンキー  1.足代に取り付けて軽量な荷揚げのクレーン。   
        2.ナットを締める冶具。
つる     スコップとツルはし。先の尖った土工事用の道具。
犬(走り)  建物際から飛び出たコンクリートの土間。
猫(走り)    キャットウォーク。劇場などの天井ウラの細い通路。

《上品でない物から》
ケツワレ    契約工事の途中で止めてしまう事。
ハナたれ   タイル面からの白い汚れ(白華現象)を言う。
はなかくし  屋根の母屋材を隠す幅の広い化粧板。
きんかくし  和風トイレの便器。男性用はアサガオ。
キンタマ   下げ振りのおもり
ふんどし   ワイヤーを締め付けずに吊り上げる状態。
ブ ラ     下げ振りの別名。
バ カ     ばか棒。所定の寸法に予め作った定規。
なわばり   建物の位置と大きさ(面積)をロープ類で示す事。
たたき      床や石工事の仕上の方法。
盗 み     前もって欠き込みを入れて設計寸法より小さくする事。
殺 し     永久に取り付けたままの状態にする事。
バラシ屋    組み立てた型枠をコンクリート打設後に解体する専門職人。
にんぷ    本職は土工。特に力仕事を行う便利屋さん。人夫。
じょうふ   情婦でなく、色々と雑用を行う準職員。常夫。
ヒモつき   『神の声』を背に威張って割り込んで入ってくる業者
エンギレ   くっついていた部分が隙間を生じて離れてしまう事。
大 恥      くっつく所、隠れるべき所が下地まで丸見えの状態。

《この物語に出ているものから》
躯体工事   型枠・鉄筋・コンクリート工事の総称。
5 K      休暇がない・給料安い・汚い・危険・カッコ悪いの5K。
ゼネコン   建築会社つまり、元請け会社。ゼネラルコンストラクション。
協力業者  実際に現場に出向する会社(下請け・孫請け)。サブコン。
世話役   協力業者が現場に振り当てた責任者、職長。
オーナー  施主、工事発注人。ある時は神様。
足代(あしば) 場当たり的な足場に代わり、足元迄安全(完全)に組み立てるもの。
出面(でずら)  出勤しただけの賃金。当日の出勤者の頭数。 

《本音で言えば・・・から》
設計図   建物を創ってみようと言う基準のもの。
施工図   創ってみるには現場で書かないと決まらないもの。
見積書   請負金に合わせて、すぐに変動する不思議なもの。
予算書   直接工事金よりも現場交際費が気になるもの。
安 全   誰が見ても危なくない施設のもの。
精 度   創った後をチェックして、悩むもの
工 期   終わりの目標のしるしで、相当苦しめられるもの。
検 査   適当に終わりたい所を厳しく追及するもの。
所 長   口先だけで一向に現場で働かないもの(私の事)。

 

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