建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

雨降りには見学会を

2022-11-19 12:09:18 | 建設現場 安全

五月二十六日(金) 雨/曇り

土間コンクリート打設も雨の中、そして昨日も今日も雨が降っては止んだりの繰り返しだ。

「カッパ着てもKビルは仕事が出来るだけいいよ」
と職人さん達も何日も続く雨模様に、とうとうシビレを切らして出向いて来る。

お蔭で予定通りKビルの工程は進むので有り難い事だ。
濡れた服を乾かす為の石油ストーブが重宝がられてきた。

「所長、冬迄まだ間があるのに、夏に向かってるのに、ストーブ入れて気の早い……」
と1ヵ月前に机と一緒に持って来た時にアザ笑っていたシロモノが、休憩所の中央に鎮座(ちんざ)
ましましている。
 私自身もこれほど使うとは思ってもいなかった。

雨で作業能率は多少落ちるけれど、昼飯時はニギヤカだ。
服が乾く以上に一肌脱いで花札で頭までカッカの人もいるし、小遣いカセいだというルンルン
気分の人もいる。

大工さんグループ対鉄筋工で将棋を指している時には、横でワーワー傍目八目(おかめはちもく)衆が
楽しんでいる。
ヘボ将棋、王より飛車を可愛がり・・・
「あっちだ、ここに銀打て!」
と言われた通りに駒を動かすハメになっても楽しい一時である。

午後から定例打ち合わせ会がある。

そろそろ外装のタイルの色を決めて(二~三色試験焼き)製作しておかないと、色違い、色
ムラ等のチェックが出来ない。

『この色でOKです』
の確約を取ってから工場製作にかからないと、とんでもない失敗談に発展した話も、よく耳
にしている。

A設計事務所のA所長の意見とオーナーの好みの色との調整もあるが、設計を行った段階で
建物の色のイメージもA所長は掴まれているので、オーナーに説得されるにも迫力があった。

「お任せ致しますわ……よろしく」
とオーナー奥様の一言で決まり。
簡単に決まった物ほど簡単にくつがえる事が多い。

「一応これとこれ、その中間の三色で見本を作ります。二週間先の打ち合わせ時に間に合わせ
ますので、その時に決定して下されば結構です・・・」
と要望を出す私はかなりズーズーしい奴だ。

「今日は現場はヒマだからA所長の設計された建物の見学会に行きましょうヨ」
と話がまとまった。
  幸いにこの付近にもあるし、
「今までの打ち合わせ時に出て来た《建物》も見ておきましょう」
ドライブで打ち合わせ会の事となった。

―――車内での会話、
「このマンション△△建設が創ったけれど、このタイルの色より少し明るくしようヨ・・・」
「あれはバルコニーの感覚で南面にアクセントを付けた・・・」
「テナントの要望は建物のインパクトが大きい事と車が置ける事ですぐ入居者が一杯になる。
平凡な事務所では入居状況が悪い・・・」
「このくらいの色がKビルには似合ってるヨ」
と自信満々で話をされた。

(なるほど―――それが理屈と言うものか・・・)
と私の口は言いたそうだったけれど、ここは黙って相づちを打ってしまった―――

 雨がまた降り出している。
 雨で思い出したけれど《デザインに凝った設計》ほど雨が漏る。
 屋根が有ると樋が必要なのに「不細工だから中止」と言った先生にも出会ったものだ。

ここのKビルも外観こそA所長の言われたインパクトの強い建物であると私も思う。が、
『防水工事にはキビシイ!』
と職人さんからの前評判通り、防水には大変気を配ってある設計だ。

『雨、露を凌(しの)いでこそ建物だ!』
と私は常々言っている。

私の経験からでも《雨漏れ》を直すのは最も困難な仕事だ。
雨が降っている時は補修が出来ない(水分があると材料がくっ付かない)し、晴れると
どこから漏れ伝うか分からなくなってしまう。
この辺りだったとおおよその位置をマークした付近をダイナミックに補修しても、その隣か
ら漏れ出す事も多い。

A所長も私も後から雨漏れで手直しに出向くというのは恰好悪いのは百も承知だから、過剰
防水工事となる位迄、気を配って施工しようと意見の一致をみた。

 約2時間のドライブ見学会であったけれど、風景を眺めながらの打ち合わせ会も『本音』が
聞こえて、面白い趣向だった。―――

 一般に設計事務所の所長さんの発言に対してゼネコン側は《絶対服従》に近いという観念が
強い。
 私は誰とでも同じ様にしているつもりだったが、今日の車内打ち合わせ会でA所長とは今日
やっと『仲良し』になったという気持ちになった。

 私は自分の欠点を「人見知りする、最初は取っつきにくい人だ」と分析している。
初対面から1ヶ月も経った頃に私の第一印象の話が出て来ると、
「怖い人だ、どうしよう、帰ろうかなと思ったよ・・・」
とよく聞かされたけれど、今となっては私と冗談論争で、
「所長は心臓に『毛』どころか『鉄筋』が入っている」
なンてズバッと言ってくれる。

こうなると、
(俺はここでは一番偉いンだぞ)って威張ってられなくなってしまう。
でも協力業者の世話役さん達と好き勝手放題に話が出来る、アットホームな雰囲気が私は大
好きなのだからこれでイイと感じている。

怒鳴って仕事するよりも、笑って冗談言って仕事をしたって、創(つく)るものはキッチリ創って見
せますからネ。
楽しく創って行けば、仕事も苦しいとは感じない―――そう思っている。

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仮囲いに遊びの絵でも

2022-11-05 12:29:00 | 建設現場

  五月二十二日(月) 曇り

 道路に沿ってのバンノー板仮囲い(高さ3m、鉄板製)の塗装をしている。

 鉄板に各々の現場で何度も塗りたくっているものだから、塗料にも厚みが出ている。
ハンマーで叩くとパリパリとペンキが剥(はげ)落ちる部分もある。
弋工が組立中にも塗料の破片が剥がれて、側溝に落ちたので泥の片付け兼用に掃除をした。

仮囲いの色は各ゼネコン(建築会社)も各社独自のカラーを守っている。
私の所も、
色はいつもの通りだよ、面積は210㎡だよ、よろしくね」
とだけで、清水塗装店の原田さんは一切を仕切ってくれた。

『名古屋デザイン博』があるのに、この仮囲いに所長のセンスで色を塗ると街もキレイに
(にぎやか)になれば、少なくとも現場お決まりの殺風景さは少なくなると思いませんか?

サイケディリックな絵も良いし、デザインだと言う絵も面白いのだが、塀(へい)があると落書き
したくなる《イタズラ心》はどこに行ったのでしょうか。

―――昔―――――
    K小学校の増築工事の時。
               長々と運動場を区切る仮囲いを設置して、塗装は剥げたままをグランドに
    向けて、子供達には うっとおしくなる境界を作った。
     子供達のサッカーボールが飛び越えて来たら・・・との配慮もあるが、
    仮囲い付近からはよくボールが当たっている音が聞こえていた。

     私はチャメッケを出した。
    約5mの区間をワザと
    『落書きコーナー』
              と看板に書いてみたら、目ざとい子供はその日の内に塀にくっ付き始めた。

     最初は絵を書いていたのが、何時の間にか「バカヤロウー」「××死ね」等、
             私の昔の時代と同じ下手な落書き文になってしまった。

     落書きの楽しさは変わっていないのだネ。
              人が書いた所へ『遠慮なし』に書き加えるものだから、迫力はある。

             下塗り用の塗料と小さな刷毛で遊んで、服にペンキを付けて帰宅した子供を
          親様達はどの様に見たのでしょうか?

    約一週間そのままにしておいたけれど、現場内に何故かボールの飛び込みは
          殆どなくなった。
           一騒ぎが終わった頃に塗装工が仕上げ塗り(指定色で上塗り)を行った。
         だんだん消えていく『下塗りの絵、文字』を見ていると子供たちの声が耳に
       に残った。

       「塗らなくて(消さなくて)もいいじゃん、このままで・・・」
         私もそう思うが、やっぱり大人にも現場にも常識というモノが―――だ。

        もし、今度学校の増改築のチャンスがあれば
      『仮囲いデザイン展』
         と称して自 由に描いてもらう案を校長先生に提案しよう。
   塗装職人に代わって先生が刷毛を使うのも面白いだろう。

   塗料を支給して学年別とかクラス別に図案を考えて図工、美術の時間に
       仕上げていく。
   この夢はいつか実現させてみたいものだ。
       父兄会時には親が高い所を手伝ったり、文化祭には他校にも見せるとか
                                                       面白いだろうなア・・・ ――――――

 何の変哲もない仮囲いに昔どおりの《決まった通りの塗装》をする事を当然だと考えて、ただ塗
る事を指示しているのは、全くセンスが無いと私は思っている。
 思いつつも今日は仕方無いが、いつかチャンスを狙っておこう。

昼から土間の配筋検査が行われた。

縦、横共@200㍉シングル筋なので問題はなかった。
地中梁の天端に多少土が残っていたのを『よく水洗いしておく様に』という事で、手直し事項
は一応「無し」と打ち合わせ簿には書いておいた。

 しかし、空模様がどうもいただけない。雨は決定的だ。
土間の仕上げはコンクリート一発押さえ(直接コンクリートを金ゴテでならして同時に仕上げ)
なので雨は喜ばしくない。
後日手を入れて雨に打たれてザラついた所を直さないといけない。
一応はカーペットを貼る為の下地程度に仕上げておけばいいのだから、雨が降ってたらダメ
だとは限らないが、降らないのに越した事はない。

  明日天気になあれ・・・。私は雨男ではない―――筈だ。

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