八月 十九日(土) 晴れ
念願というかやってみようとした、私の『オリジナルの看板』が製作完了した。
5月頃に藤本工事部長から《何か特徴のある現場》をアピールしたらというテーマを与えられ
て以来、『オリジナル看板』を正面の外壁足場に掲げようと模索していた。
先月中旬頃から、そのタイトルを何にしようかと迷っていたけど、結局は会社で掲げている
『チャレンヂ21』に決めた。
社内的には数年前からチャレンヂ、チャレンヂ21世紀と目標を掲げ、会議の中でもよく
使うキィワードになっている。
しかし、対外的には「?(チャレンヂ?・・・21?・・・何なのソレッ?)」だ。
これを通行客が多く又、朝夕の通勤電車の中から、まっ正面の所へ掲げ様とするのだが、
これだけでは色気もアピール度も全くないので少し遊んでみた。
―――さて、いかに創るぞや・・・と―――
1.8m×5.4mの白地のシートに書くのだけれど、デザイン文字もオリジナルにしたいので
型紙に図案を書いて切り抜いてシートに並べてみる。
一文字の大きさを割り出したり、このコンテ(草案)を考えてる間は遊びの気分だった。
最初は「トライ・チャレンヂ21」にしていたら、二つも重なった意味だと言われた。
それもそうだ。
トライの変わりに何かを捜せ、考え出せだ。
全てを英文字にしたいし、頭の文字は赤色、21も赤、会社のマークも赤で残りは黒文字
としよう。
レッツ・トライも駄目、ビギンもノーだ。
ステップ・バイステップ―――セフティ・ファースト・・・ありきたり過ぎる。
だが英文字数にして11から12個にしないと『チャレンヂ21』の見栄えが悪い。
セフティ・ファースト(安全第一)だと決まり文句過ぎる。大衆へのアピール度が弱い。
ウーン何かいい言葉、最善の看板製作―――と思ったら『ベスト』が浮かんだ。
「そうだベストだ!もうこれしかない」
トライ・ユアーベスト チャレンヂ21を2段表示にするコンテは決定だ。
20分の1の看板図面を早速書いて、文字の大きさをきめた。
『TRY YOUR BEST!
CHALLENG・21』
が、英字は文字によっては横の長さが一定ではないのに気がつくのが遅かった。
Lの底辺は縦の巾分しか右に出さない、HとAの文字間隔は少し詰める、Gは少し太めに
する・・・レタリングの本を見ながらの素人看板文字を作った。
文字を切り抜き、シートへ写す頃からN子の健闘が始まった。
良く頑張ってくれた。
事務の仕事は一時中止して、看板製作に打ち込んだものだった。(こっちの方が面白い)
休憩所の隣部屋で、床面に大きく拡げたシートの上に切り抜き文字を並べている。
アンダーラインは入れておいたが、
「文字間隔はこの位だわね」
とバランス良く配置してくれた。
ペンキを塗る頃からはツナギの作業服に着替えて(決めて)いるN子の出番だった。
周りにはヤジ馬(職人さん達)が、
「所長達、何遊んでるの?、お盆で頭おかしくなったのかね?」と冷やかす。
「今日から看板屋のオッサンだ、助手のN子は看板娘だからね」と軽いノリだった。
この時、私自身ペンキが上手に、せめて遠目で看板らしく出来るかどうかは半信半疑どころ
ではなく、2割の自信しかなかった。
でももう止められない、止まらない。
チャレンヂと目の前にあって、何で逃げれようか。
文字になる(ペンキを塗る)線の外側にはガムテープで全て塞(ふさ)いでおいた。
こうすれば私とN子で塗りつけたペンキが少々はみ出ても、ガムテープを取ったら文字が
くっきりと浮き出て来る―――筈だ。
刑務所でも工事建物案内看板3.6m×5.4m角を自作した経験があるではないか。
この根性を唯一の望みに託して、塗装もN子と手分けしてシツコク塗った。
本職の看板屋さんだってこうやって作る筈だから、まあ、
「失敗すれば次へのチャレンヂだよネ」
と気軽にN子に言ってはみたものの、返事はないが今更後には引き下がれない。
それが今、塗装が乾いたので、ガムテープを取った。
グッドだ。
とても素人の製作とは思えない、見えないシロモノだ。
しかも、地上10mの所に掲げるので、細かい所は見えないだろう。
色ムラが多少あるけれど大成功だ。
―――何とか仕上がっている?ようなものだが―――
これを一気に正面足場へ掲げた。
足代全周にはグリーンのメッシュシートが貼りめぐらされている。
ここへ白地に横文字(全て英語は現場初)の看板を目立つ所に取り付けてみた。
かなり遠くからでも見えるKビルは、ビル工事中でも目につく程だから何と言う反応が
出て来るだろうか。
すぐに頭からケチを付けるのが名古屋人の特徴だから、
「不細工だ降ろせ」
と言う意見が多いかも知れないが、果たしてどうなるか、いつ反応が現れるかを心待ちにし
て、周辺から眺めながらこの一週間の《お遊び仕事》を振り返っている。
今日は土休の人が多いだろうから、月曜日の朝、通勤途中に誰かの目に留まったら・・・。
「一週間かかって作ったのだから、せめて一週間は絶対に掲げておくからネ」
とN子と約束をした。
例え誰が何と言おうともだ。折角苦労して作ったんだものネ。
(後日談話―――看板屋さん曰く「あれは17万円は掛かってるね、何処で作ったの?」と)