…………(プロローグ・1)…………
一端の現場所長にようやく成りかけて来た私がこんな事を書こうと思ったのは、あまりに
も現在のこの建設業界(以下業界)の未来の不安からである。
一般の人から見ると建設業大手ゼネコンの所長とは、数億円もの建物を任されて創り上げ
ていくトップとして尊敬して見られることが意外と多い。
「一級建築士です」
と言うと確かに優越感を抱くし、信用度合いもぐっとアップして来るのが分かる。
花形産業職業である(あった)筈のこの業界にはウィークポイントが有りすぎる。
これを克服すれば・・・・と言う事は言葉では簡単だが、難問山積みだ。
何十年いや何千年も前から「創り出す」と言う過程、工程に於いて先人達が悩み続けていた
事は、現在でも答えが出ないまま将来へと引き継いで行くのは疑う余地もない。
私は何とかして微力ではあるが、且つ自分勝手ではあるが自分の現場で働いている部下や
協力業者の方(簡単に言うと下請けのオヤジさん)から職人、掃除のオバチャンや宅急便の
配達のおニイチャン達にまでも、
「この現場は楽しいんだよ。建築とは面白いモノだよ」
と言葉や態度で表しているつもりだ。
現場が思惑どうりに進まずに顔が引きつっていようとも、頭に血が上って思慮分別みさか
いなくプッツンしそうに成っていてもスマイルスマイル・・・・。
『腹の大きい所をみせたるワイ』
と肩肘張って(肩、意地を張って、が正解の気がするけれど)ヤセガマンして、グッとこら
えて、夜に酒を飲む。
夜まで待てないときも時にはあるが、部下や職人さんの手前、所長の私がKO食らったンで
は現場は前へ進まない。やけくそのスマイル演技は一流のスター並みだ。
こういう時の解決策は面白いことを考えればいいのだ。
思考逆行、発想の転換というより過去に経験した失敗をここでとり戻そう、その為に
この手を事前に打っておこう、仲間からも、
「アイツはなかなかやりおるワイ」
と言わせるアイデアをひらめかせようと、虎視眈々(こしたんたん)なのだ。
例えば―――
殺風景な現場に自作の看板を掲げる。
安全漫画の標識も自分で描く、仮囲いに絵を描く、
休憩所にもクーラーを付ける。
自動販売機はジュースとたばこ(ビールはダメだろう) を置く。
全員での現場内大焼き肉パーティを月に1回とする。
協力業者チームとソフトボールの試合を組む、リーグ戦にしても面白い。
ゴルフのコンペ、麻雀大会、船釣り、スキー―――等々。
とまあ遊びに関してはオールマイティのフィーリングを発揮して、
『仲良し現場で無事故無災害で竣工迄頑張ろう』
と言う芽を育てようと考えている。
しかし、所長としては欲求不満を抑えに抑えてスタッフと交渉する努力が必要なのは、
言うまでもない事だ。現場所長の一声で、
「バカヤローッ!テメー等何やってんだバカ、こんな事が分かンないのかボケーッ!」
と雷を落とすのは非常に簡単である。簡単な故に何気なくまた、幾度となく使っているか
も知れません。
『知れません』と言う事は本人は全く気がついていないだけの事であって、職人達から見ると、
「ここの所長、チィセエー事にガタガタ言う好かんヤツ・・・」
として蔭では通ってるのかも知れない―――――(反省しますこの場で)
職人達としては職人としてのプライド、
『ウデでは負けたくないという闘争心』
を持っているが、若手職員が仕事の指図をすると一応
「ハイッ、分かりました」
と答えてくれる。
これは気持ちのいい会話であって、建物を(外観上、機能上)良くしようと言う意思の
伝達を確認し『今日も一日頑張ろう』と一声を上げて仕事に取り組んでいける。
だが、だがそのままスーッと事が運ばないのが何故か《建築現場の常》なのだ。
『朝令暮改』この言葉はこの業界には常識として君臨まします『切り札』なのだから恐れ
入る。
ある時は『天の声』ある時は《神のお言葉》として人の気持ち、現場の状況、タイミング
等・・・俗に言うTPOをも踏みにじって飛び出して来られます。
今朝、朝礼の時皆の前でかっこよく、
「今日は○○をしますので―――」
と作業内容を説明したにもかかわらず、十時の休憩時に親方の側に行って小声で、
「Aさん、A社長(困った時にはこう言う敬称を使う)」
「何だ?」
「朝言った○○の件だけど、今日B社の所の者(人)が来れなくなったもンで」
迄言うと途端に顔色が・・・。
「ナニーッ!そんな事俺らの組(会社)に関係ネエ!」
「そんな事言わンと今やっている第一工区をそのままにして、第二工区の△△から手を付け
ようよ―――な?」
「・・・・・・・・・・」(返事もしたくネエ)
「(昨日ドラゴンズが負けたので・・・・・今日は機嫌が悪い日か―――言ってもダメだった
かなあ)・・・・・?」
しばし沈黙―――
つづく・・・