建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

一発十万(1)

2017-03-21 11:09:12 | 建設現場

………………………『一発十万』

その現場は空気が重くて、殺伐(さつばつ)としていた。
職人さんは銭金(ぜにかね)言うよりも、現場から離れたかった。

突貫工事は最初から分かっていながら、職人さんが不足していておまけに、
作業
現場が愛知県外であるから、協力業者と交渉しても工事契約は捗(はかど)
らなかった
もようである。

お盆が過ぎた頃に、急遽現場の応援に3ヶ月の単身赴任を命ぜられた。

「もう突貫状況に突入しているの?」
「そうだ、6月に着工したがまだ基礎工事中で……」
(そんな現場に行くの嫌だね)

拒否出来る訳じゃないから……と渋々腰を上げて9月から赴任したのである。

私でさえ胸を張って現場の門をくぐったのではないから職人さんは足に鎖でも
引きずる思いで、毎日仕事に来ているのだろうと、すぐにピーンと空気が
読めた。

(こんなところに3ヶ月もいるのかよオ……いられないよオ)

応援と言う立場上の動きもあるが、今までの仕事の流れと竣工までにする仕事
を冷静に判断したら、私は今から4ヶ月間いたとしても足らない程の仕事量を
期待されてしまった。

この判断を見ただけで、現場の船の舵取りは五里霧中……最悪状態を覚悟した。

朝礼の体操も眠気覚ましの運動であるが、一番目を覚ますのは、
「今日中に、〇△の範囲を大工は終わらせる事!」
と気合を入れた所長の話に、
「出来っこないよ!そんな事……」
ブーイングが波打つ時であった。

毎日、無理な指令を発し、その日のノルマが達成出来ないまま、又、次の
ノルマを出していて「狼が来た」の狼少年になってしまっている。

途中現場参入の私が急に方向転換させる事も出来ないが、とにかく頑張るしか
ないのだ。

そんな中のある日、事件が起こった。(一発十万の勃発だ)

 昨日の定時打ち合わせの時に、
「明日じゅうに吹き抜け部分の足場をどうしても撤去せよ」
施主からの命令があった。

それも昨日急に決まった事ではなくて、2ヶ月以前から連絡してある話だ
と言う。

工事が遅れていたので全体の工程がズレていても、別途工事である施主の
発注荷物
がどうしても明後日にその場所を通るので、
大々的なスペースがいるのである。

7㍍四角の吹き抜けは高さ11㍍あり(枠組足場にして6段×4列)、一旦解体
して施主様のお通りの後にまた架設するのは、時間的にも余裕がない。

一旦解体して再度組む、つまり、二度も組み立てて二度も解体の予算は、当初
から無い。

施主の荷物は海外から船で来るので日程は確実ではなかったが日本に寄港次第、
現場に運搬されるのは、工事着工の時から当月頃になる…と伝えてあった
らしい。

施主の声には逆らえない

この足場を撤去する為には、天井に照明器具を取り付けておく必要がある。
「別途業者の電気設備屋さんの事は知らないよ」
と言う分けには行かないし、
「明日の昼までには取り付けて、午後から足場を解体します」
とこれ以上は譲歩出来ない時間で、一応皆を納得させた。

天井照明器具は朝一番に配達されて来たものの、設置する作業に時間を
取られて
しまった。

昼食抜きで電気屋さん達が頑張っていたが、午後一番から足場の解体は到底
無理だった。

「もう少し弋さん待って下さい」
「待ったら、今日も残業になってしまうぜ」
「2時半まではどうしても取り付けは終わりません!」
と所長に泣き付いたかどうかは知らないが、2時から少しずつ足場を解体するようだった。

    (一発十万 2) へ続く

 *******  *****  

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施工図屋(2)

2017-03-06 15:28:52 | 建設現場

…………………………(施工図屋 2)…………

「施工図屋ですが・・・」
私のこの一言で、お邪魔虫扱いの返事が戻って来る。

「最近の図面屋の図面は、悪かろう・安かろうで《施工図になってない》から
使い物にならん!」
と初対面の現場所長から耳にタコが出来るくらい聞いた。

安い施工図はA1版1枚2万円以下で発注されているが、どう考えても日本人
の作図と考えられない。

1枚作図するのに最短でも2日かかる。
この金額を解明すると、
日本人の施工図担当者が1日8千円×2日間で仕上げねば、施工図屋は採算が
執れない事となるし、施工図屋の給料は25日働いても20万円しかならないし、2日間(8時間×2)で1枚仕上がるような図面は、外注にはほとんど
廻って来ない。

だから海外(中国)で作図させて、図面内容が不十分のままゼネコンに納品
しているから、「使い物にならん図面だ!」と一般論になるのも、致し方ない
ものでしょう。

「私は5~10億円の現場所長をしていたから、この現場の規模でしたら現場
監理しながら、施工図も書いていましたよ
と半分見栄を張って言うと、途端にお邪魔虫言葉が消滅する。

(俺ならこんな現場なら二つ三つの掛け持ちでも楽勝さ、アンタとは違うよ

と所長の顔色を覗き込み、若手現場マンの反応を見るのが楽しみでもあった。

私はリストラされたのだし、60に手が届いたのだから図面屋として必死に
稼ぐ必要もなく、儲けに走るよりも、現場員がノーチェックでも設計事務所や
監理者から承認印が頂けるような施工図を書くように心掛けている。

お陰で複雑な建物や、対応に不慣れな官庁物件に限って
「手伝ってください」
とコメント付きの設計図が送られて来る。

(でも私の施工図面は安くて・早くて・正確なんだよ……ね)

もう少し施工図作図の話をしよう(日立建機ティエラ64号寄稿から)……

現場には設計図があり、施工図の通りに作っても「図面と現場は違うから…」
との一言で図面が悪者にされる事もある。
 「この図面通りに出来ますよ」
と言うのが施工図の役割なのですから、施工図の管理をしっかりしていれば
現場業務は大幅に短縮出来るのです。

しかしながら、施工図を作成するには、どの現場でも「時間がない!」と言
っています。今日は施工図作成のポイントについて話をしましょう。

「施工図を書かなければ現場を覚えられない(一人前になれない)」
と昔から言われているが昨今はコンピュータから技術力を学ぶ方法もあります。

日没まで職人さんに作業指示をし、安全に神経をすり減らしていて、残業で
図面を書くのが当たり前の感覚では、品質の良い図面は期待出来ません。

施工図は残業して書くものではなくて、現場巡回と平行しつつ日常8時間業
の中に食い込ませる段取りをする事です。

現場と製図を仮に30分毎に業務交代すれば4時間は製図台に向かっていられ
る計算になります。

施工図とは「納まり」を考えながら書くものですが、設計図面を眺めて拡大・
複写しただけのもので満足していませんか?

         

施工図面らしく作図するポイントは沢山ありますが、フォークボールを投げ
る握り方を知っていても投げられないのと同じで、製図板の上で線を引いて
いても使える施工図になりません。

よい施工図を書く為には経験も必要ですが、それよりもまず大きな用紙に大
きな図面(原寸1分の1)で断面図をはっきり書く事から始まりです。

平面図・詳細図へと検討が行われ訂正が発生し、消しゴムが製図台の上を転
がり出すと図面が汚れてしまうので、薄い鉛筆で図面を書く人が多いのです
が、私は2Bの鉛筆を最初から使うように指導しています。

指先に加える力で鉛筆の濃淡の加減が調節出来るし、ハッキリした黒い線と
数字は現場の意気込みの現れにもなるのです。
(自信がない図面ほど薄い線が多いし、間違いも多いものだ)
薄い線はコピー機で現れず数字も8か3かと目を凝らすようではどこかで必
ず見落としが出るものです。

書き図よりもCADで作図の時代になりました。
キレイな線になっても、正確さが曖昧で自信のない施工図ほど肝心な立体感
が抜けているのです。

例えば、円形柱は立面図では長い四角形として書いてあるのが設計図で、
かに円柱であるかを現すのが『施工図』です

文字で「これは円形柱です」と記入する訳にもいかないものですしね。(笑)

施工図は正確に書く事は当然ですが、早く作図する事も大事です。
施工図で表現困難なものは施工も難しいものです。

1枚の図面から工事着手前にグループで色々検討する為にも、
「早く・正確・はっきりと」
が図面作図の最優先です。

そして図面の内容について施工手順を加味して、承認を受けて、初めて施工
図として現場で活用が始まるのです。

1枚の図面の中には多くの職種が含まれていて作業が進んで行くのですから、
施工図にもっと理解を深める事です。

「あんたン所、まともな図面が書けるの?」
と現場管理者さんから言われないようにして、
「これで承認して下さい」
とアピール出来る図面を書きましょう。 

(今号の一句) 承 認 印
         やっともらえた 施工図は
            竣工までの 道しるべ 

                     (以上)

次回は手を出したが為に《一発十万円》の話をしよう。

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