………………………(大事な1月) (2)………
私の駆け出しの頃は―――
重役さん達は紋付袴の方もいらっしゃったし,会社の名前の入った揃いの法被(はっぴ)で
式に参列され、一人ずつ神棚に進み出て拍手を二つ打って一例し、
『今年もよろしく…安全につつがなく……』
の声が聞こえて来るような『初出式』が厳に執り行なわれるのを見て、背筋に力が入って
来たのを覚えている―――
法被姿と言えばトンネルの貫通式等で、TVに映っていて微笑ましく見える事が多い。
しかし、建築工事では上棟式等にて、作業服姿の職人さん達が見守り、汗が煌めく瞬間の
《めでたい式》の時にヘルメットをかぶった《背広族の白手袋姿》は、服を着たまま水泳
しているような場違いでは……《竣工式でどうぞ…》と思うのは、私の偏見でしょうかね?
今日の初出式では法被姿も紋付袴もいらっしゃらなかった。
一月という一ケ月間は現場にとっては精神的圧迫が強い月である。
「無事故の歳末・明るい正月」
のポスターも15日まで掲示板の中央に貼られているし、その間で事故が発生すれば
《今年第1号の事故現場》
と汚名が全支店に通達されて、事故報告書のトップ面を一年間受け持つ現場になってしま
うのだ。
今年初めての安全大会・安全協議会を開催する内容によって、この一年間更に竣工迄の安全
への気構えが職人さん末端まで伝わってもらうべく配慮も一月ならではの事である。
一月の中旬、熱田神宮での安全祈願祭に参列すべく玉砂利道を進みながら、
「新しい年になってもう10か所以上のゼネコンへ《安全祈願祭》に出ています」
と、どこからともなく聞こえて来ます。
協力業者の社長さんは各ゼネコンの「新年安全祈願祭」には必ず出席されて、安全も営業も
しっかりアピールされているのが一月でもある。
私と並んで歩いている社長さん達とは初出式の時に言葉を交わしていたけれど『年始廻り』
の一コマであったから、今年初めて《改まっての話》が出来た雰囲気でもあり、
『お互いに、また、この一年、イイ年でもあるように……』
と念じながら社殿に詣でるのだった。
一月―――。
この年初めに『3月末竣工現場』の詳細工程を何度作成したものか……
年度替わりから校舎は必要だ → 入学式典が4月1日。
店舗開店営業日が4月1日 → もうチラシ印刷が出来上がる頃・・・
会社創立記念日が・・・ → 新社屋記念パーティ招待状発送済・・・
このような事態は工事着工時から納得の上である。
十二月末までの工程管理が順調であろうとも、年度末竣工にむけて手戻り工事が発生しな
いのか、段取り手配の忘れや打合わせミス(思い違い)があれば残り三ケ月のなかでクリア
せねばならないのだ。
だから、私の書いた総合工程表の通りに『進まない』のか《進めてない》のかを見極めて、
若手現場マンの現場監理能力の《判定基準》の総決算としている。
私の月間工程表通りに進めようとしても、私でさえどうにもする事の出来ない苦しい工程表
だったのが唯一、お正月に作成した《E市の現場》の時であった。
それというのも―――
二月から三月にかけて降雪の連続であるという天気予報が出されて以来、工事完了日を竣工日
の二週間前に設定する私の従来からの方針に、見通しが立たなくなってしまった。
雨ならば対処の方法が分っているが、降雪となると除雪日も当然であるが、積雪が1㎝で
あっても足元の墨が見えないのだから、型枠も鉄筋も組み立てられないし、まして
コンクリート打設は完全に除雪後が条件である。
それよりもどうにもならないのは、名古屋から通常一時間半で走って来られる高速道路が、
雪で通行止めになり一般国道が大渋滞になって、職人さんの車が遅れて出勤したとしても、
一日に何時間ほど現場作業が出来るのか計算が成り立たないのである。
雪の積った朝は水道管が凍って、午前中はセメントが練れないとか、仮設水洗トイレも凍
結解除迄使えず等、貴重な時間が食われてしまうので、更に作業予定内容が少なくなって
しまう。
3月末日まで平日の稼働数が70日あるので、雪の影響を考えなければ何とかなる工程表が
書けるにしても、ここの現場は全く自分の思い通りにならない《もどかしさ》を痛感
させられたのも
《大事な一月》だった。―――
年の初めを祝う時、
『この一年間の現場監理をどうやって遣り繰りしようか……』
と神棚に頭を下げたらもう前を向いて『建設現場の一本道』を進むしかあるまい。
『今年もご安全に・・・』