六月二十六日(月) 晴れ
他の現場へ『安全パトロール隊』として参加した。
いつも言われている事を今日は言う立場だ。
協力業者3名、わが社3名で2台とも《安全パトロール車》と書いてある車で巡察だ。
車の中でも我々の目は他社の現場の前を通る度に情報が飛びかって来る。
「あそこには△△の時に事故起こした所長がいる」とか、
「あの足代(あしば)は上手(うま)く組んであるなあ…」
「中はガタガタでどうしようもないのよ」とかでオーナーから情報を聞けて面白い。
「へーッ、そうなの・・・」
と私はもっぱら聞く事ばかり。
出入口の扉がヒラヒラしていてもガードマンがいなかったり、出入口で他の通行の邪魔をし
ているトラックが、その現場内へ入ると分かる業者の車だったりして、同業他社を見ながらも
我身を振り返って見ている気分だった。
現場に着く頃にはもう巡察点検の予行演習が終わっている程口の動きがいい。
パトロールを受け入れる時は
(また来たか・・・)と思っていたれけど
「来てやったぞ!」という意気込みだ。
パトロール現場の門をくぐり、気持ちを押さえて、現場の進捗(しんちょく)状況説明を聞いた。
現場を見て廻ると言いたい事が出て来るだろうけれど、安全についてはお互いに苦労している
のだから、目についたことで言いたい事は2項目に絞っておこうと決めた。
それ以上は担当の矢野君にその都度現場内で指摘しておこう。
流石(さすが)に井上労務安全部長は指摘事項が厳しかった。
これはこの現場だけに言っているのではなく、
「私の現場(Kビル)にも言っているのだ」
と受け取られた。
『安全監理書類』の内容の指摘だけでも減点対象項目が多い。
場内も当然安全対策に手抜かりがあっては困るけれど、日々のチェックした記録も残しておく
必要を改めて知らされた。
事故が起きて「手すりは昨日迄あったのに」と言っても、何も証明出来るものがない。
『開口部に蓋をしておく様に毎日言っていた』
と労基署の人に説明しようにも、立証する術(すべ)はない。
やはり毎日の工事打ち合わせ記録の中に安全を記入する欄の有効活用が必要だ。
ついつい書き込むのを省略してしまう事が多いし、毎日安全を書くのがマンネリ化してしま
っているのは何故なのだ。例えば、
『足元注意』 対策→ つまづかない事
『開口部注意』 → 蓋(ふた)を復旧する
『手すりをはずさない』 → すぐ復旧する
『火気注意』 → 消火器と灰皿の設置
『丸鋸(まるノコ)電動工具の注意』 → 始業点検を確実にする
『くわえたばこの作業禁止』 → 指定喫煙所を使用
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もっともな事を最もらしく、しかも毎日書くとしたら1週間で書き尽してしまう。
―――注意事項は一定だからゴム印を作って、対策も一定だからこれもゴム印で押す―――。
こうなると安全点検記録も形式だけの書類となってしまい、現実に現場で手すりが外れている
のか復旧してあるのか、チェックが後廻しになっては本末転倒という事だ。
各現場の所長の考え、方針によって『安全率』というか危険率が違うのが、第三者的なパト
ロールの目で見ていると良く分かる。
私だって自分の現場からパトロール隊が帰って行った後に、
(好き勝手な事を言って、言うだけなら誰でも言えるサ、たまには『悪い所を直しに来たヨ』
とか『溺(おぼれ)る人の写真を撮るより、浮輪を与えるのが先だろう』と言えないのか―――)
とグチル事もあるものだ。
自分の方が間違っているのに、パトロールのせいにする根性もいつのまにか養われている。
反省、猛反省しよう。
確かに事故は運も作用される。
角パイプが落ちたけれど何も壊れなかったから良かったという話も多々ある。
『良かった』のでなく、『落とす事が悪い』という認識をもっと持たねばならないのが安全
対策なのだ。
エラそうな事を言ってしまった。
安全対策は『言うは易く行うは難(がた)し』否、行うのは《ヤル気があれば出来るもの》だ。
安全対策を守るのでなくて
『安全にするのだ』
という攻める考えも必要だと常々口にしているが、仲間の現場を見て自分の現場と置き換えて、
視点を変えて見る事はいい事だ。
来月も大きな現場へパトロール参加しよう。私は本当に《出たがり屋》なのだ。
17時にはKビルに戻って来た。
「明日は配筋検査が朝から出来ます」とF君。
「頑張ったねえ、設計事務所の中島さんに連絡したの?」と私。
「まだです……」
「ここまで頑張ったんだから、明日は私の代わりに配筋検査の立会いに出てごらんヨ」
「・・・・」
「何とかなるッて、一度経験すれば―――何も臆する様なモノじゃあないからサ」
「はい、やってみます」
(これで2階のコンクリートが打てる。3階の手配は付いているのかな?)
と思ったけれど、そこを要求する事は今のF君には無理(余裕がない)なのは見えているの
で、2階迄は合格点を与えておこう。
次(3階)も頑張れよF君!