建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

安全パトロールに出向

2023-03-27 08:21:39 | 建設現場 安全

六月二十六日(月) 晴れ     

他の現場へ『安全パトロール隊』として参加した。

いつも言われている事を今日は言う立場だ。
協力業者3名、わが社3名で2台とも《安全パトロール車》と書いてある車で巡察だ。
車の中でも我々の目は他社の現場の前を通る度に情報が飛びかって来る。

「あそこには△△の時に事故起こした所長がいる」とか、
「あの足代(あしば)は上手(うま)く組んであるなあ…」
「中はガタガタでどうしようもないのよ」とかでオーナーから情報を聞けて面白い。

「へーッ、そうなの・・・」
と私はもっぱら聞く事ばかり。
出入口の扉がヒラヒラしていてもガードマンがいなかったり、出入口で他の通行の邪魔をし
ているトラックが、その現場内へ入ると分かる業者の車だったりして、同業他社を見ながらも
我身を振り返って見ている気分だった。

現場に着く頃にはもう巡察点検の予行演習が終わっている程口の動きがいい。
パトロールを受け入れる時は
(また来たか・・・)と思っていたれけど
「来てやったぞ!」という意気込みだ。

パトロール現場の門をくぐり、気持ちを押さえて、現場の進捗(しんちょく)状況説明を聞いた。
現場を見て廻ると言いたい事が出て来るだろうけれど、安全についてはお互いに苦労している
のだから、目についたことで言いたい事は2項目に絞っておこうと決めた。
それ以上は担当の矢野君にその都度現場内で指摘しておこう。

流石(さすが)に井上労務安全部長は指摘事項が厳しかった。

これはこの現場だけに言っているのではなく、
「私の現場(Kビル)にも言っているのだ」
と受け取られた。

『安全監理書類』の内容の指摘だけでも減点対象項目が多い。
場内も当然安全対策に手抜かりがあっては困るけれど、日々のチェックした記録も残しておく
必要を改めて知らされた。

 事故が起きて「手すりは昨日迄あったのに」と言っても、何も証明出来るものがない。
『開口部に蓋をしておく様に毎日言っていた
と労基署の人に説明しようにも、立証する術(すべ)はない。
やはり毎日の工事打ち合わせ記録の中に安全を記入する欄の有効活用が必要だ。

 ついつい書き込むのを省略してしまう事が多いし、毎日安全を書くのがマンネリ化してしま
っているのは何故なのだ。例えば、

   『足元注意』         対策→   つまづかない事
   『開口部注意』          →   蓋(ふた)を復旧する
   『手すりをはずさない』      →   すぐ復旧する
   『火気注意』           →   消火器と灰皿の設置  
   『丸鋸(まるノコ)電動工具の注意』 →   始業点検を確実にする
   『くわえたばこの作業禁止』    →   指定喫煙所を使用
          ・  
          ・  
 もっともな事を最もらしく、しかも毎日書くとしたら1週間で書き尽してしまう。
―――注意事項は一定だからゴム印を作って、対策も一定だからこれもゴム印で押す―――。
こうなると安全点検記録も形式だけの書類となってしまい、現実に現場で手すりが外れている
のか復旧してあるのか、チェックが後廻しになっては本末転倒という事だ。

各現場の所長の考え、方針によって『安全率』というか危険率が違うのが、第三者的なパト
ロールの目で見ていると良く分かる。

私だって自分の現場からパトロール隊が帰って行った後に、
(好き勝手な事を言って、言うだけなら誰でも言えるサ、たまには『悪い所を直しに来たヨ』
とか『溺(おぼれ)る人の写真を撮るより、浮輪を与えるのが先だろう』と言えないのか―――)
とグチル事もあるものだ。

自分の方が間違っているのに、パトロールのせいにする根性もいつのまにか養われている。
反省、猛反省しよう。

 確かに事故は運も作用される。
角パイプが落ちたけれど何も壊れなかったから良かったという話も多々ある。

『良かった』のでなく、『落とす事が悪い』という認識をもっと持たねばならないのが安全
対策なのだ。
エラそうな事を言ってしまった。

安全対策は『言うは易く行うは難(がた)し』否、行うのは《ヤル気があれば出来るもの》だ。

安全対策を守るのでなくて
『安全にするのだ』
という攻める考えも必要だと常々口にしているが、仲間の現場を見て自分の現場と置き換えて、
視点を変えて見る事はいい事だ。
来月も大きな現場へパトロール参加しよう。私は本当に《出たがり屋》なのだ。

17時にはKビルに戻って来た。
「明日は配筋検査が朝から出来ます」とF君。
「頑張ったねえ、設計事務所の中島さんに連絡したの?」と私。  
「まだです……」
「ここまで頑張ったんだから、明日は私の代わりに配筋検査の立会いに出てごらんヨ」
「・・・・」
「何とかなるッて、一度経験すれば―――何も臆する様なモノじゃあないからサ」
「はい、やってみます」

(これで2階のコンクリートが打てる。3階の手配は付いているのかな?)
と思ったけれど、そこを要求する事は今のF君には無理(余裕がない)なのは見えているの
で、2階迄は合格点を与えておこう。
次(3階)も頑張れよF君!

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受水槽のクレーム発生

2023-03-14 07:56:32 | 建設現場 安全

六月 十六日(金) 雨 

 昨夜、1月末日に竣工したAマンションのオーナーから電話が入った。

受水槽の中からドンドンドンと時々音が出ているので・・・」
夜の10時を廻っていた。

「多分水圧の関係でしょうから入水印のバルブを閉めてて下さい、朝6時迄には私が行って点検
します。入水を止めた状態からタンクが空になる前に間に合わせますから……」 

電話を切って少し不安になった。 
何だろう受水槽の中で音だとは?―――。
   (ザーザーならまだしもドンドンドンと太鼓を叩く様な音だと言われたのは………
            ボールタップ(満水になると止まる装置)が故障でストップが効かなくなって
           暴れている のだろう・・・多分)―――と推定してみた。

 現在はタンクが満水状態でストップしようとしている筈の音だ、逆にタンクが空に近くなっ
ているとしたら減水警報ブザーが鳴る筈だ、と第一段階を納得した。

 第二段階は減水警報ブザーが鳴る迄、今からマンションの人が水を使い切るかどうかの問題
だ。
 今23時。9割は夕食が終っているだろうし、半分の家庭は風呂が済んでいると仮定すれば、
朝までタンク内の水量でまかなえる。
朝6時には私が現地へ着いて直接バルブを開ければ、朝食の準備支度に『断水中』という不便
をかける事はないだろう。 

でも―――何となくどこかで私のこの計算が違っていたらどうなるのだ?とも思える。
ガスではないので危険性がないから少しは落ち着けるけれど、何となく不安を覚えた。

 そして今朝は久し振りのAマンションへ行った。
と言っても竣工後は月に一度はアフターケアーに伺ってはいたけれど、別に何もなかったの
で、昔話しに花を咲かせていたのだが、今朝の様に目的を持って来たのは初めての事だ。

早速受水槽のタンクを覗(のぞ)いてみた。
水は3分の2残っていて、夜間に不便をかけた形跡はなく入水バルブを開いてしばらく待った。
(どんな音なンだ!、何故なンだ・・・?)
と期待と不安でボールタップを見つめていた。

6時45分を廻った頃に音が出始めた。
やっぱり張本人はボールタップだった。
水が入ってくる流量力によりボールタップが浮いてタンクの壁を叩いているのだ。
これを手で引っ張る(動きを止める)と当然音はしなかった。
フロート(浮きの調整)が甘くて中に微々たる何かが邪魔してピタッとストップしない様だ。

1月末に竣工して今6月だから壊れるには早過ぎる。
とにかく設備業者へ電話をいれた。

「早いねえ所長、一体何ですか?」
「目を覚まして上げるよ、野村君。Aマンション・・・そう一月に出来たAマンションに今いる
んだヨ、受水槽が壊れたので水浸しだ」
「またまた冗談を・・・」
「冗談で朝っぱらから雨の中こんな恰好(かっこう)してないよ!」

と言っても相手には見えないけれども、カッパもなしの『濡れ鼠(ねずみ)でタンクの上へ登っ
たり降りたりして、携帯電話片手に持ちながら話ているのだった。

「ボールタップを取替えれば済むと思うけれど、とにかく調子が悪いンだ。ストップが効かなく
て、満水近くでタンク天井を叩きドンドンドンと太鼓の様な音が出るんだ」
「すぐに行きます・・・所長何時に会います?」
「職人が来て直して帰るまではここにいるよ、風邪ひきそうだから早く来てヨ」
「OK、とにかく私が今から行きます。40分位で着きます」

一応手直し工事の段取りは出来た。
ポンプ室で作業服を着替えて、なじみの喫茶店へ飛び込んだ。
Aマンション工事中は人呼んで隠れた『第二打ち合わせ室』だった所だ。

「久し振りネ、どうしたの?Aマンション何かあったの?」
「別にィ、近くに立ち寄ったので、時間調整だよ、ママの顔を(娘さんの顔かな)見たかった
しネ、ほんと」
「またまた冗談を」
「本当に冗談だな」
と準備中の喫茶店で、掃除中の椅子を右へ左へ移動させながら、気兼ねなしに待った。

やがて、設備工事の担当だった野村君が喫茶店にやって来た。
「どんな状態だったんですか?」
「まあコーヒー飲んで行こう、今の所は音も水も大丈夫だから―――まあ色々とね」

一部始終を話して、手直し方法は《とにかく取り替えて》様子を見て見ようという事になった。
同一のボールタップがないので、今持って来た物を取り敢えず付けておく事にした。

『メーカーにも手配して2~3日の内には取り替えておきます』と言うことで一件落着だ。

昼過ぎにはKビルに戻った。
何だか空気が違う。勝手に現場を留守にしてたからか?

「何?何かあったの?」
と心配顔のN子に訊(きい)て見れば、
「支店から『Aマンションの件を報告しなさい!』と叱られた……」との事だった。

(昨夜の事は支店にも電話が入っていたのか)
私が第一声を聞いたのかと思っていたけれど―――それで夜も遅くに電話が・・・。

支店の工事課と設備課へは内容及び結果報告をしておいた。
『大騒ぎするに足らず・・・』だ。

夕方雷と共に大雨が降った。
現場仮設事務所の周辺は、床上浸水寸前迄水が溜まった。
(わず)か1時間にも満たない間にだ。
排水先のU字溝が一様に逆流していたのでポンプは使えず、雨水は溜まる一方だった。

本当に今日は水と雨に一日を振り廻されてしまった。

『水を治める者は天下をも治める』 
       ―――といった先達の言葉が思い出された一日だった。

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