建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

三月 掘削工事時に

2022-05-29 12:08:29 | 建設現場 安全

……(三月 掘削工事に)…………

   三月二十五日(土) 晴れ

 今日も朝から掘っては搬出の作業だけだ。 

8時からの朝礼後、もうユンボ(掘削重機)はフル稼働だ。
ミニブルドーザーも持って来て地盤をフラットにしながらオペ(運転手)は飛び回っている。

「福原君、昨日は何㎥土を出したんだ?」と私。
「えッ?」
「今日は何㎥搬出予定なンだ?」
「・・・・(数量はどうやって計算すればいいのかナ、昨日の掘った所はこの辺りだから
大体200~230㎥かな・・・)」

「福原君、昨日は5台のダンプが何回、残土置き場間を往復したの?」
とやさしく聞いてみた。 
「5~6回だと思います」
「バカモン!延台数ぐらい数えとけ!!」
と言いたいのをグッとこらえて、
「8時20分・11号車、35分・15号車という様に場外へ出て行った時間とダンプ車体番号を
メモしておきなさい。ダンプの往復時間によって明日のダンプの数、重機を増やす判断にも
なるし、一日に何㎥搬出したかもデータとして自分でつかむと以後楽だからネ」

「はい・・・(但し、俺今までそんな事したことないよ)」
とまあ親切と言うのか、おせっかいと言うのか一席ブッてしまった。

この事は私は今迄のどの現場でも、若手係員からケムたがられても、しつこく説いて来た。
中には(メモなどしなくても・・・今日のこと位覚えてるサ!)と強気なヤツもいた。

一週間後とか、掘削が終わってからとか、支払い精算時に
「あの時には確か・・・」
と状況をプレイバックしようとも、記憶が頼りならば何らデータがないので説得力すら出ない。

「あの時は10時~11時半迄はユンボのトラブルで搬出数が半減でした」
そう答えが出て来た職員は現場の第一戦に成長しているが、強気だったお方は………。

これからも福原君にはかなりキビシイ要求を出すが、頑張ってもらいたいと思う。

彼は積算課で3年勉強し、現場業務はここで三件目だがら次の行動を読むのがまだ弱い。

彼もそれを『弱み』と自覚しているので、この現場ではそこを重点補強ポイントとして
私も応援するし、最後まで頑張ってもらいたいと思う。

5時過ぎて日没近くになる迄仕事は終らず残業だ。
さぞかし残業手当てが多いと思える職業であるが、労働基準法の所在すら棚の上に祭ってし
まい無料奉仕、タダ働きと相い成るのだ。

残業時間は月に36時間迄と頭打ちに合い、早く帰れ、土休だ、日曜日全休だと業界筋
『美辞麗句』をそのまま現場内に掲示しているのは、何の為だろうか。

昔は(オイルショック前頃まで)建設業は残業代で生活が成り立っていたのに、今は仕事
量は増えて残業代金のカットだから、何の為に働いているのか、フト悩む時もある。

仕事量と給与のバランスを考えていたら頭がプッツンして来そうになったので、今日は終
わりだ。
チャイムが鳴って作業終了という雰囲気が味あえる職業ではない事は確かだネ。


  三月二十八日(火) 晴れ


今日も掘削で仕事内容は昨日と同じ。だが明日で終了出来そうな見通しは出てきた。
前日からの疑問〔仕事と給与のバランス〕について少し考えてみた。

―――建設業として工期迄に建物を完成させるのは絶対条件の一つである。
  例え途中で大雨が続き、台風が来襲し、大雪で日本中がマヒしようとも
  『工期厳守!』だ。 

  俗に言う『ケツは合わせる』のが当たり前の感覚だ。
  現実に昨今の状況では『職人の絶対数』が不足しているが、何とかやり
  くりし
て凌(しの)がねばならないと、所長は常におびえながらも工期に縛
  られている。

   当然、四六時中仕事に仕事・・・次の手配とその次の手配―――と
   竣工迄は所
長の思考はノンストップで爆発寸前だ。
   予期せぬ事態の発生によるロスタイムが
有っても、取り返せるだけの
   日程を追い込んでおきたい。

    そうなると必然的に毎日、そう毎日休みなく創り出しておかねば
   ならない。
    一歩でも前に進めようとアセる。だから朝の五時だろうと夜の夜中
   だろうと現
場に出ている。

   あくまでも自主的にと解釈しておかないと、誰のタメにとか、残業
   手当ても……とか言い出すと仕事への『ハリ』は出て来ない。

    彼女は土休、週休二日、大型連休なンてトレンディな生活を送って
   いるのに、現場の若手職員は次の日曜日さえ休めるかどうか分からな
   い生活を送っている。

    威勢のいい男たちの集団である建築現場に於いて、
   「明日デートが有るので休ませて下さい」

   とは恰好つかなくて言い出せない。
   だから彼女にフラれてしまうのだ。

   「遊ぶ女なんか相手にする事ないサ、現場がわかる女でないと
    将来苦労するゼ

   なンて事を親方から哲学というか人生観を吹き込まれている独身者
   もいる。

   人生観に『仕事一本』とか『会社の為に』という考えは全くない。

   楽しく生活出来て人並みに休みが有り、お金が何とかついて廻れば
   満足なの
だと思っている。 

   それが良い悪いとは言われないが、建設業界は体質が古い。
   この古さを少しでも前進させようという気構えが欲しい。

   なのに《仕方ないヤ》とか《まアいいサ》なンて言い、少し苦しいと、
   「辞めようかと思っています、いつ迄も続けられる仕事と思って
    ませんし………」
    なンてよく耳にする。

    「バッカヤロウ!なんて根性のない男だ―――」

   と怒る私はもうオジングループにドップリと漬かっているという事
   だろう。
   あーア。イヤだ、イヤだ。

    『建築現場は面白く、楽しい所だ』
  という事を言いたかった私のテーマが、どんどん反対方向へ走ってしまう。
  これではこの物語が続かないではないか・・・。

  休日もない、給料も安い、危険だ、汚い、恰好悪い(以上全て頭にKが付く)
5Kの業界な
のに何処が《面白い》のかを自問自答してみると・・・。

 

 

   

 

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三月 工事着手の前 1

2022-05-08 10:36:16 | 建設現場 安全

(三月 工事着手の前 1

      三月 二十日(月) 晴れ

起工式から二十日経ったけれど現場は静まったままだ。確認申請の許可が下りてこない。
年度替わりの時期でもあり官庁としても相当忙しい時期だと推察されるものの、許可を受けな
い事には建物の着工は出来ない。

 仮囲いに労災保険成立表、建設業許可表、道路使用許可表、それに確認申請許可表を
並べて
表示する。
 そもそも
『確認申請』とは今から建てようとするKビルが、設計事務所から提出された設計図面
の中で《建築基準法》に不適な所がないかのチェックを受けるだけの事なの
に、提出手続き後
四十日はかかるのが現状だ。

  ――「自分の土地に自分の家を自分の金で何を建てようとイイじゃないの、近隣の同意
     書
があれば『建蔽率』だの『高さ制限』だとか私の知った事じゃない、お上が決めた
     法律(建築基準法、消防法、開発行為、宅地造成法、・・・)等を、お上がチェック 
     するのに何を手間取ってるンだ全く―――

 これはオーナーのみならず、創る側から見ても、特に私などはあえて頑固(かたくな)に意地を

かけ一言文句を言いたくもなる問題だ。

自分の(先祖からの)土地だった所を国に道路計画だと言われ協力させられて、今、自分
ビルを建てるのに更に制限を受ける。

昔は建設の予定等が無かったので国に協力する事を『誉れ』だと思っていたのに、今となっ
ては
《騙(だま)された》という感じがする………
というオーナーの声を幾度ともなく聞いたものだ。

 行政上については遵守しなければ民主生活は成り立たないけれど、とにかく申請許可を
早く下ろして頂きたいものだ。

 起工式を行ってそろそろ自分の建物が出来始めてるだろうと思ってるオーナーから、
「あれから大分たちますが、現場はいつから仕事を行いますか?まだ何もやっていないのは
何か問題が有るのですか・・・?」と電話を受けた。

「確認申請許可が出るまで待機してますが、施工計画や近隣対策には充分に打ち合わせをし
ています―――現地に乗り込むのは二十五日頃だと思います。今のところ役所より三箇所の訂
正を受けてますので、図面を差し替える段取り中です」と返事をした。

 私の勝手から言わせて頂けば、もう一週間は施工図を徹底的に書いておきたいので、許可
もそれまで下りなくても・・・と言うのが本音だ。


      三月二十四日(金) 曇り/雨

 今日から実質着工の現地鋤取(すきとり)(場内整地)を始める。

 ユンボ(掘削機械)は昨夜のうちに回送して来た。
 幸いにも大型回送車が場内に直接入れ
たので道路上の交通を止めることなく、また第三者
(一般の人達)にも迷惑がかからなくて
安心した。
 但し、回送車の荷台からキャタピラの動きによって落ちた土はガードマンを含め
ての大掃掃
ではあった。
舗装面にはタイヤからの土の跡が残り、水バケツで掃除するのに約一時間を費やした。

今日からは掘削土を搬出する為に10㌧ダンプ車が数台入っている。
ダンプがタイヤの土
を舗装面に点々と落としながら出ていく度に『道路掃除』を行うという
作業は全くの無駄金
だと思うし、道路掃除中にも大型トラック、乗用車、ライトバン、バイク、
自転車も通り危
険だ。

こんな中をダンプが一台出ていく度に、人夫が後を追って掃除するのは昨夜で懲りている。

 私はダンプに栗石(ぐりいし)(握り拳大)を積んで来る手配をした。
まず仮設通路に栗石を敷きそこにダンプを通す。
だがこの栗石も除去せねばならない。
ムダに見えるがタイヤ跡を掃除にかけまわる人夫達の賃金から換算すればコストダウンは
明らかだ。

この鋤取(すきとり)とその後からの杭打工事や重量機械が入る為にも、通路は最初にビシッと
作っておくつもりだ。
さらに敷鉄板を通路に敷こう。これは軟弱な地盤には効果大である。

  昔―――

   軟弱な地盤で仕事をした時、敷鉄板さえも通路に埋まってしまいさらに砕石を放り
   込んで・・・敷鉄板はどこへ隠れたのと大騒動した事も二度や三度ではない。

 現場に来る重量車両として杭打工事機、杭搬入車両、レッカー車、生コンクリート車、鋼
材搬入トレーラー等で特に生コン車は5㎥車で28㌧はあり、それが生コン打設日には一日
30台近く出入りすると敷地内の通路は相当なくぼみを発する可能性が大だ。

その度に仮設通路を直してたのでは仕事に成らない。
だから仮設通路計画は慎重に行い、
後からは絶対に手を掛けない事が一番だし、悪くても
中間整備は全工期間で二回迄の計画と
している。

 仮設通路をあれこれ考えていると、栗石を積んだダンプが到着して来た。

掘る前に栗石を入れてどうするの?」
とけげんな顔つきで運転手が訊(きい)て来る。

今日から約1.8mの盛土を撤去しようとするのにわざわざ栗石を入れて・・・と思うのも
無理はない。

「タイヤにはさまった土を道路へ一個たりとも落とすなという気持ちなんだ」と説く。

 今この時点でハイウオッシャー高速洗浄器)でタイヤを洗う事なく公道へ出てもいい様
にするにはこの手が一番だ。
 但し、天候が崩れると仮設通路保護の為、作業は中止とする。

 当然残土搬出先も雨が降れば受け入れ態勢がストップなので、現場としては気をもむ事も
なくて済む事だ。
 ダンプ5台分、取り敢えず栗石を敷き並べて場内通路の整備が出来た。

 ダンプの運転手、ユンボのオペ(運転手)、現場担当のF君、私で朝礼を始めた。
足元には栗石がゴロゴロしているが、ラジオ体操を済ませて、
「今日も一日頑張ろう」
と声を出す。

 通行人が仮囲いのフェンス越しにチラリチラリと覗(のぞ)き込んでは通り過ぎて行った。
どうも一挙一動を見られていると言うのは、肩が凝るので明日はフェンスにメッシュシート
を取り付け様と思った。
遂にKビル新築工事がスタートとなった。

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