建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

義理・人情・浪花節の世界

2024-06-24 07:51:19 | 建設現場 安全

 十一月 十五日(水) 曇り

6階は今日から軽量天井下地組に、軽天工が戻って来る打ち合わせだったにもかかわらず、
私との約束をスッ飛ばしてくれた。

「なんとか火曜日迄・・・水曜日からは必ずという社長の言葉を信じた私がバカだったのか、
甘ちゃんだったのか」
とイヤミを軽天工の今井君に直接言った。

「2週間前に私に『どうしてもあっちを片付けろ』
と△△工事部長(神の声)から言われて、1週間助けて下
さい所長、必ず借りは返すから・・・」
と頼んだのは誰だったのだ。

 多分、予定通りに進んでいない現場へ応援に行くのだから、Kビルへ戻って来るのも
少しは
遅れるだろうと予想していた私だが、1週間のつもりが、さらに1週間も遅れるとは
思いも
しなかった。
(その発端が当社からの神の声であったにしてもだが)

そう言えば今月初めからずーっといないンだ、軽量天井下地組屋さんは・・・。

11月も中旬になっている。
室内は軽天工次第で、仕上げの先頭工事(室内間仕切り)が止まったまま、こっちにも
ケツに火が点(つ)きそうな雲行きとなりそうだ。

私の胸は言っている。

  (職人達を手放したお前がバカだ                    うんバカだったョ
  (M店舗でつい先月、自分がピンチの時、誰か助けてくれたかい?    誰も・・・)
  (文句は言えども、手助けに人を廻してくれたかい?        誰一人も・・・  )
  (だのにお前は何故人の所へ、手助けに人を廻したんだ?    困っていたからネ)
  (ヤサシイからか、バカかアホかそれともオヒトヨシなのか?      オヒトヨシ・・・さ

自分の現場だという殻(から)に閉じこもっていると、職人達を手放なさなかっただろうけれど、
間内でどうしてもと言われれば―――この辺が私の甘い部分、性分、ヒトガイイのだろう。

情けは人の為ならず
何時かは必ず自分の為になると信じ、
GNN精神(義理、人情、浪花節)日本人の魂を
まだまだ持ち続けていたいのです、私は。

十一月 十七日(金) 晴れ   

まだ『吹き付けタイル工事』が階段室の天井に残っている。

外部足代(あしば)が無くても階段吹付けの作業は出来るけれど、この部分のみ足代解体は残
しておいた。足代=完全に整備された足場)
(吹き付け塗料がタイル貼りした所に飛び散ったら、またクリーニング用に再び足代がいる)
という予想の基で残しただけだ。

既に解体した足場材料の片付けが残っているし、今続いて足代解体しても、搬出が間に合
わない
から、この間隙をぬって吹き付けを行う事にした。

 当然今なら外部足代があるから作業性はいいし、安全でもある。
 昨日の雨で少し躯体が
湿っぽいけれども、養生が終わる頃には乾いていて、吹き付け
工事は出来そうだ。

冬場の下地乾燥不足気味の吹き付け工事から思えば、よっぽど条件はいい。
今日は下吹きとし、明日、最悪でも明後日迄には吹き付け工事の完了だ。

 吹き付けが始まるとシンナーの香り(匂いと言うより臭い)が漂い始めた。
 シンナー遊びのどこが楽しいのかよく分からないけれど、気分のいい匂いじゃあない。
頭がクラクラする前にゴメンだね。
今日は無風状態だから匂いもしつこい。 
「風に乗って(臭(におい)もろとも)飛んで行けえー」

昔、丁度隣が銀行で、暖房のリターンからシンナーの匂いが流れ込んで、営業閉店後呼出し
を頂
いた事もあった。
別にシンナーを振りまいたのではなくて、吹き付け工事を早朝から日没迄、
目一杯行なった
結果だった。

 こういう近隣迷惑工事は1日4~5時間迄の作業にしておく必要があるね、これからは。
この銀行内にシンナーが入り込むという事は毒ガスも吹き込められるのでは・・・とミステリアス
な事を考えたものだ。

 アガサクリスティの世界に私が入ったら、
 〔放送スタジオの様に完全密室ではないこのZ銀行を、空気を使っての犯罪は可能
だろうか……犯人は昔、軍部の毒殺計画秘密組織の一員で・・・〕―――冗談。

 現実に戻れば「吹き付けの塗料が車に付いた」とクレームの付けられる事がかなりある。
この手のクレームには土建屋としては実に弱い。
新車、中古車、廃車寸前の車であろうとユーザーの怒りは凄(すさ)まじい。
常日頃ワックスを掛けている車ならば簡単に取れるのだが、そういう人の車は工事現場へ
は近づけて駐車しない。

移動をお願いしても、
「どうせもうすぐ下取りに出すから……」
と言った人に限って、
「塗料が付いた、何とかしろ、下取り価格が下がったら責任を・・・」と騒ぐ。

「だから最初に言ったでしょ、建築屋を甘く見たらいかんぜよ!」
とタンカを切ってみたいなあ。

とにかく
「済みません、済みませんでした」
と頭を下げてガソリンスタンドへ持って行く。

手洗いしてワックス掛けをして、時にはコンパウンドを使って吹き付けを取り除く。
1台や2台ならいいけれども、100mも離れた所からでも、5台目、6台目と数珠つなぎの如
く出て来た時もあった。

もっと悲惨だったのは、隣が新車のディーラーだった時だ。
新車に付いたので………これを口実に
3台分世話(購入者紹介)してくれませんか》
と頼まれて以来、M社の車を私は毛嫌いしている。

先のAマンションでも1台が
「車に付いていたので……」
と吹付完了数日後にクレームが出て、ワックスを掛けてきれいに落とした経験をした。

「車を洗いに持って行きますから・・・」
「これから乗って出て3日後に帰って来ます」
それは大学生の車で、何とスキー場から帰ったままの状態(泥汚れのまま)で、
「付いた塗料を落としてくれよ、ボディに傷つけない様にね」
と言われて、この位の神経しかこのS大学は、この大学生はと思うと情けなくなった。

それでも私は「済みません」と頭を下げてクリーニングだ。

「バカヤロウ!土建屋を―――なめたらアカンぜよ!!」 

こんど会ったら言ってやろう(夏目雅子風にネ)。
松本ナンバーのJT君。

しかし、よそ様の持ち物に汚れを付けたのは全面的に私共の過ちですので、申し訳ございま
せん。
以後、注意致しますので・・・皆さん許して下さいね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

天の声と神の声が舞い降りて

2024-06-10 08:39:14 | 建設現場 安全

  十一月  十日(金) 晴れ

オーナー夫妻それにA設計事務所のA所長も来られて、定例打ち合わせ会が始まった。
 ところが、所が、大問題『天の声』を聴く事態が発生してしまった。

「手すりがアルミ手すりだ。丈夫な物にするので、ステンレスで作る話をしていたが……」
とA所長から《突然》の発言だ。

(設計図通りだぜ、施工図承認欄には承諾の社印が押されてあるのに、何でまた―――)
と理性を失い欠けてしまった。

 何故・ナゼそんな大事な事を設計図に書き違えて、今日まで過ごしていたのだ。
設計図を書く以前の打ち合わせ(決まり事)」
なんて話を、私は知る由(よし)もないヨ……だった。

手すりは意匠(デザイン)的に取り付けてあり、緊急事態の避難時のみ、ここを通るがステ
ンレス製品でなければならないという絶対理由は、別にこの際関係ないと思う。

 取り替えろったってもう外部に変更製品を取り付ける作業用の足代はないし、今から
即作っても1ヶ月は軽くかかるし、困ったも
のだ。
こういうクレーム(天の声)が監督屋泣かせなのだ。
施工図も承認図も、かつて打ち合わせして取
り付けた事そのものが、何とかの一声で
コロッと替えざるを得ない事態が発生する。

M店舗でも致命傷寸前の塗替えを言われた様に、今回も対策に悩む問題となった。
A設計事務所のA所長の脳裏にくっついているオーナーと1年以上も昔の話し合い
の線に対して、どこま
でこだわるかがポイントだ。
設計図には当初(工事計画時)には書いてあったらしい。
それが工事契約時、予算オーバー
で色々とムダらしき所を『削る打合わせ』の時に、
アルミに変更したのが事の真相だった。

 私の手元にはA設計事務所から頂いた今の最終設計図と請負金見積書が有る
だけで、ステンレスなんて
文字も《抹消の二重線》さえ見当たらないものだ。

「取り替える事はしないけど何とかならないかね? 
絵に書いたモチを食おうと言う相談だが、幸いにもアルミで作ってあるのだから、着色
は可
能だ。

 ステンカラーで窓枠・カーテンウォールをオーダーしているのだから、この平凡な
手すりにス
テンカラーを塗装して、外観上は同一部材に見立てようと提案した。

―――この塗装が風雨に晒(さら)されて何年持つかの自信はないけれども、人がふん
だんに触る場所の手す
りではなくて、外観上の飾り用の手すりだけに、4~5年はもつ
だろう。
塗装が剥(は)げたら下地のアルミ
部分が見えるだけの事で、その頃には別に手すりに
対してのみ《目が行く事》もなくなってい
るだろう、最悪再塗装も可能だし―――
と勝手な解釈で、設計事務所及びオーナーに納得させるべく説明をした。

もう、一方的にこちらの考え
『これしかない』
という口調で、相手を飲み込んでしまった私
の独演場だったが、この説得力エネルギー
は一体何だったのだ・・・?

会議室で聞いていた人達も、(それしかないネ)という気になって、オーナーに、
「所長の案で大丈夫ですヨ」と口添えがあった。
私はA所長の立場が……と気が気ではなく、とにかく時を動かさねば―――。

固まっている訳には行かず、何とかピンチを切り抜けたものの、改めて手すりを遠く
から眺めていて、
いい事をしたのか、その場凌(しのぎ)の悪い事をしたのか―――
分からなくなって来たのが正直な心だ。

オーナーが帰られる時に手渡そうとしていた「取下げ金請求書」を危うく忘れる所
だった。
頭の中が目まぐるしく動き、口もとどまる所を知らず(我をも忘れ欠けている)と察した
子が、さり気なくオーナーの奥さんに渡していたのを、車のドア越しに見た。

「N子サンキュウ、明日、昼飯オゴってやっからね」
「土曜日だから給食もないし、子供連れてくるわよ、………パパは土休かなア・・・」
「なヌッ?N子はパパと土休をすると思ってたから言ったのに」
「聞いたからね、明日のしゃぶしゃぶを予約するわ―――ルンルン」

十一月 十一日(土) 曇り

(今日迄、軽量工事は空けさせる)
神の声が聞こえていた。
この2週間、丁度大型スーパーの開店直前と重なってしまい、竣工直前でケツに火が
(つ)いて
いる現場へ軽量工事(木の代わりに軽量鉄骨で間仕切りをする→不燃下地の為)
会社の命令によって引き抜かれ
て、Kビルは6階が《手つかず》の状況になっている。

この軽量工が不在の為に、Kビルで助かったのは設備工のH君だ。
 一気に6階迄、軽量天井下地と壁下地組を施工する私の工程表に対し、設備ダクトの
工場製作
が間に合わない。
 軽量工事の前に天井裏に空調用のダクトを吊り込むには、徹夜作業を強いられる所
だった。


それにしても総合工程表からは、かなり急ピッチで工事が進んでいて5階迄は何とか
(しの)いでいた配管工も

『6階では応援部隊を要請しなくては……』
とあせっていた時に、軽量工がプッツンとなったのだから、正直言って助かっただろう。
顔に書いてなくても、足取りを見ていたら分かるものだ。
余裕からか、こちらの腹を読んだ上での質問が来た。

「所長、軽天工さんはいつから(戻って)来ますか?」

あの現場はまだ《ケツに火がついている》という情報をいち早くキャッチしていて、当分、
(水曜日迄)は来ないだろうとH君は読んでいる。

「私達一応6階迄配管工事が終わったので、軽量天井下地が終わりそうな頃、又来ます。
明日か
らチョット空けます(休みます)」
「仕方ないね、ここでボーッとしててもネ……他で稼(かせ)いでおいでよ」
「いえ、連休して―――家族旅行します。今までずっと休んでなかったから・・・」
「いいねえ、私も連れてってよ………冗談、冗談」

 しかしモノは言ってみるものだ。
「大分助かっただろう、この2週間は・・・」
「お蔭さんで……ネ」
「余分なお金(突貫経費)が出て行く筈だったんだろう、その分御馳走しろよ」
「じゃあこれから行きますか?」
となって、本来なら私が出すべきマネーを設備のH君に肩代わりさせてしまった。

ついでにいつものメンバーのK君、F君、N子で近くの『中国料理店C』へ行き、
ファミリ
ー・フルコースをご馳走になった。
(食った、食ったが今は正しい表現)

「ゴメンね―――仕事が延びたので先に食べててネ」
とN子が土休のパパに電話している。
(なんて奴だ、今日に限って・・・)
とパパに恨(うら)まれているだろう、私は。

私、そんなに人の奥様を働かせてはいませんよ。
悪いのは誰だ?やっぱり私?………かナ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする