十二月 一日(金) 晴れ
師走。
ついに十二月だ。
建築業界は十二月末の竣工が一つのピークだ。
区切りとしての年末か年度末かに竣工日が集中する。
新しい年から新しい建物でという日本人の固執してしまっている考えに、古いこの業界が押し
切られている訳だ。
昨日現在出来高は94%だ。
もう終わったも同然だが『追加工事の金額』を決定させるのが(近日決定)私の責任仕事の
一つだ。
今月には追加工事の支払いが一部出て来るのだから、ここ1週間以内には決める見通しだ。
Kビルの竣工は1月だ。
今月の中頃には竣工検査を―――と気合を入れ始めた所へ、
「官庁検査関係は1月になってから行うので、年内に業者の自主検査を済ませる様にネ」
とA設計事務所より連絡が入った。
今、室内は4階迄床カーペット貼りが完了していて、上履きスリッパで作業している。
クロス貼りは6階施工中でもう少しで完了だ。
クロス貼りの完了した部屋には、設備工が電気のスイッチや空調のカバーを取り付けている。
設備担当のK君とH君もこれからが《本番》だ。
各室には鍵が掛かって……アレッ?掛かっていないヨ。(工事期間様の仮鍵のままだ)
これ明日、即、手配の確認だ。
塗装工事も終了していて、傷がついた所をもう一度チェックして仕上げると終わりだ。
(やり残しているものは―――)
と昨日からそればっかり頭の中が空回転している。
こういう時は契約書を見るに限る。
その中の見積書(請負契約書)だ。
一式という所(項目)はパスしても、各工種毎に内訳明細がある。
例えば雑工事の場合―――
避難ハシゴ2台、消火器B型8本、鍵ケース1ケ、各階案内板、室名札、黒板、
掲示板、郵便受け、タオル掛け、旗竿・・・。
取り付ける物も結構あるものだ。
他に外構工事では―――。
今日は安全大会の日だ。
昼食時に場内にいたのはEV工、設備工と片付け人夫で合計しても8名の淋しい大会だった。
今年もまた12月後半は労基署の『歳末特別パトロール』が実施(来場)される。
Kビルはまだ一度も立ち入り検査を受けていないので、今月は来場がありそうな気配が濃厚だ。
15日からは
「無事故の歳末、明るい正月」
の垂れ幕を掲げて一年を締めくくるのも例年通りだ。
今年の師走はアンダンテ(歩く速度)で現場を過ごし、新年を迎える事としよう。
十二月 八日(金) 晴れ
全く現場とは関係ないけれども、今日は太平洋戦争開戦の日だ。
この日があって8月6日、原爆の日があって、戦争が終わった・・・と未だに思っているのは、
私が広島人だからだろうか。
《平和である、自由である》
という事は何をしてもいい事だとは思えない。
自分勝手に行動して、それが自由だという考えを教えたのは誰だ?
日本国憲法を自分の本棚にも入っていない日本人に、自由、平等を語る資格はない。
「勉強して出直して来い!」
と今日はヤケに堅い話になった。
というのも、これは朝、通勤途中のFMラジオのDJが、アシスタントの女性に、
「今日、8日は何の日か知っていますか?」
「巨人軍〇〇選手の誕生日です」
と自信満々に答えた時からムカーッと来た。
DJの方は戦争の話をするつもりで問いかけたのに、何と言う無知な女性よ。
喋(しゃべ)る事がプロにしては暦からの空気が読めないのでは
「一発で失格」
だネ情けない。
この平和、自由は降って湧いたものではない。
これを何とも考えていないから、楽な方へ楽な方へと若者も、日本人も、人間も(ついでに
私も)流されている。
やはり、歴史というもを通して、過去の人達の人生を通して、今日がある事を気づいて欲しい
のだ。
寺院建築をみても平安時代にはその時代、鎌倉時代にもその時の息吹があり、戦争で無にな
ったものも有り、そして復興しての今日だ。
今、我々が創っている建物、これが何百年後に有るかどうかも分からないが、残っていれば
我々の訴えようとしたものを形として現せるだけに、
《平和を守らねばならない》と私は叫ぶ。
ピラミッドは誰が作ったんだ?名もない人が王様の為に作った物でさえ、私は見学に訪れた
い欲望でいっぱいだ。
我々だって何かをこの地球に残せれば幸せだと思いませんか。
さて、本日の本題。
定例打ち合わせで(追加工事金を決定して頂いた)というよりも、
「△△△万で決めて来たけどいいね」
「ハイ!」
としか答えられない、簡単な一発回答の即決だった。
頭の中で多少ソロバンの珠が動いたけれども、ここから50万~100万の増額願い話をして
もみみっちい。
これで儲けるつもりは当初からないのだし、予想金額最低ラインより少し上だったので
OKしてしまった。
(背広族は1円でも多く決めてもらえと当然のように言うて来るのだが・・・)
もう1ヵ月の内でさほどのチョンボでもしない限り、予定外の出費さえなければ、一応私の
工事原価監理能力を疑われずに済む筈だ。
原価監理(予算書益金+〇%アップの儲け)は企業秘密として、建築業界として儲かったと言う
時代はオイルショック前迄だったのかも知れない。
見積書の中でも直接工事費に材料費、これだけで請負金の何10%も出て行ってしまう。
そして残った部分から、諸経費として仮設工事費、現場経費、安全監理費、支店経費を差し
引いていくと、引く金額が無くなって(純益そのものが0に近づく)
『赤字だ、赤字だ』
と騒ぐ場合も多々ある。
見積書の最後の項目に諸経費一式△△△万と書くと、その金額だけを見て、
「安くせよ、何で諸経費がそんなに……これがお前さん所の儲けだね」
と、さも分かっているような事を言う監理者もいる。
経費を全額残しても仮に10%なら、使わなければ10%は儲かりそうな計算も成り立つが、
使わずに仕事(建物)が出来るモノではない。
実施予算書の純益目標値から0.5%は益率の良化をする様に努力はしているが『現場四監理』の
中で工程、品質、安全の後に原価監理が続いていては、まだまだ未熟者なのだ、この私は。
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