建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

風来坊登場

2025-02-17 08:22:39 | 建設現場 安全

 ―――――――― 《旅 行 帰 途》

「皆様、飛行機は間もなく名古屋空港に着陸します。お座席のシートベルトを今一度お確かめ
くださいませ・・・」

 この声をうつらうつらと耳にしているのはFビルの《竣工記念》として北海道旅行の帰途で
ある。
   ――――――
   思えば名古屋の市街地での8ヵ月の工事ではあったが、工程通り順調に完成し、
   無事故無災害での竣工に当たり、職長会の慰労会としての旅行である。 
     
   竣工打ち上げ兼解散式と云うと料亭か割烹で騒ぎ、二次会でつぶれてという何
    時ものパターンを打破しようと、工事途中に
   《無事故で竣工のアカツキには……》
       と計画を練っていた時には、実現出来るとは半信半疑であった。 

   職長さんと言えば二泊三日も仕事場を離れられないだろうし、各々の会社の社 
   長さんが参加を許可するだろうか――――との不安もあった。

   又、この様な旅行はかつて私自身行なった事はなく、予期せぬ所から邪魔が入
   り出発直前になって企画倒れになるかも知れない、との不安もあった。

   が、旅行は無事に終ろうとし、Fビルも終ったんだと感傷にふけっている。
   
  ―――――― (Fビルの工事は8ヵ月もあったンだと今思い起こせば苦労話にも
   ならない様な事も沢山あったなア、最高傑作の出来事は何だったかなア、色々な
   人々と新しく面識が出来たし、交際の輪が拡がっているンだ・・・・
       とボンヤリ思っている。 

     竣工して1ヵ月過ぎようとしているが、次の現場がまだ決まらない内に骨休め
   をしたつもりでいるが、そろそろ次の仕事の情報が入ってもいい頃だなァ・・・ 
   といつしか機内で仕事の事を考え始めていた―――――                

 飛行機は名古屋空港に無事到着し一応解散の音頭を行なった。
 これで一先ずFビルの工事仲間とのセレモニーは完了するが、また次の現場でもこのメン
バーが揃(そろ)うと楽しく仕事が出来るだろう。 

「所長、この度は有り難う………。じゃァ又―――。次は何処に行くの?」とI君。
「次の仕事は決まってないが、次の旅行は海外にしようヨ、パスポート持ってる?」
(大ブロシキ拡げおってエ………) 
 と自分でも笑ってる気楽なお別れの挨拶をし、迎えの車やタクシーに乗って帰宅の途に
つく人々を見送りながら、 
「楽しかった現場と楽しかった旅に乾杯!」  
と幹事役のM君とビールを飲んで空港を後にした。  



         ――――――――― 《次 の 現 場》

旅行から帰って2週間経っているが未だ私に《次の現場》は決まっていない。
年度替わりの季節はいつも仕事が途切れてしまう。
 特に官庁工事ではお決まりの3月末日迄の工期に対して突貫工事を余儀無くされていて、
がむしゃらに働いて年度末完成を見届けると、4月1日から仕事場さえないのが
《建築現場仕事》と云うものかも知れない。

 建物を創って施主に引き渡せば我々の仕事は終りで、又次の建物を創る事に翻弄(ほんろう)
される。
 船ならば進水式があって船が出て行って現場(造船所)はそのままだが、建物を完成さ
せると我々が去って行き、次の仕事場が何処になるのか不安である。

  通勤範囲なのか、単身赴任なのか、国内転勤、海外勤務か
『神のみぞ知る』
となっている。
  若手職員ならば1ヵ月位の応援とか、竣工目前の現場へ配属変更が引く手あまたであるが、
歳を食ったオッサンの現場所長となると、簡単に割り振りが出来ない面もあるだろう。
 受注目標として営業が頑張っていても《談合》だと勘ぐられる様だから、敢(あ)えて次の
入札物件情報に私が首を突っ込む迄もないと身を構えている。 
 
(何とかなるさ・・・転勤もないさ・・・) 
とボソボソ言っている今日この頃であったが、やっと電話一本で支店に呼び出されて
(釣り出されて)しまった。

一体次は何処なのだ・・・と云う不安を抱きながら、明日支店に出向く事となった。

                       (つづく)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プロローグ(後)

2025-02-03 09:00:14 | 建設現場 安全

ならば、この建築現場に『明るい未来があるのか』と訊(き)きかれれば・・・・。

正直言って返答に困るし、イメージアップ計画に何をしますかと問われても、いい知恵は
浮かばない。

   

今、この現実を踏まえてこの環境にドップリと漬かっている私にしてみればイメージアップ
という〈錦の旗〉を振って世間にアピールするのは、現場の実態を隠した虚像だから、やが
ては更に、若者から敬遠されてしまうと確信する。

週休2日、大型連休、海外旅行とトレンディな一般サラリーマンに比べて
『日曜日位は休ませろ』『土休完全推進モデル事業場』
等と看板掲げているのが、現実なのだ。

しかも朝の8時には朝礼が始まり、現場の作業開始である。
7時半には門扉を開き、事務所の掃除が始まる頃には電話の4~5本も入って来る。

仕事の始まりはきっちりしているのに、一日の作業終了時刻の5時で退場出来る建設現場
なんぞ有りはしない。   
                     

 請負で仕事をこなしている業者の職人さん達は、日没まで平然と仕事に励んでいるし、照
明を灯(つ)けて頑張る人がめずらしくもない程よく働くものだ。

そんな中で現場を監督の我々が、
お先に失礼・・・。気を付けて残業しろよナ
と帰る訳にはいかないし、今日の作業内容の確認と明日の仕事の打合せを指示・連絡して
いれば、現場作業の終了後に2時間のデスクワークも重要な仕事になる。

工程が順調なら打合せ時間もスムーズだが、ひとたび歯車が狂えばどこ迄も現場で働かざ
るを得ないものだ(20時に業務終了なら早い方であろう)

働く事は良い事だ。
しかし、
「身を粉にして〈すりこぎの芯〉になるまで働きましょう、それが建設現場の生き甲斐です」
とCMでも流す勇気があれば、この業界の未来は開けて来そうだが、若者は見向きもしない
だろう。

 時代の流れに乗り遅れまいと遅ればせながらイメージアップを提唱するのは、なんら不満
は 無いが、若者を楽な方へと導くかの如く、軽率なる行動・軽薄なる情報が巷(ちまた)
氾濫(はんらん)している中で、建築現場もそれに倣(なら)う必要など全くのナンセンス
である。

現場の実態はキツイ仕事である。

しかしスポーツでもソフトなものがいくらでもあるのに、あえてハードな競技を好む人が

やはり長続きするし、ポリシーを持っている限りハードを苦労とは考えてはいない。

 イメージアップして軟弱なる若者を仮にこの世界に呼び込んでみても、本人を含めて発展
の道は無い。
 やはり汗水流して働き、建物竣工の時《男のロマン》を感じる職場が、建設現場の最大の
(よろこ)びである。
 そして一つの建物毎にドラマが見られ、対人関係が増えて行く渦の真っ直中にいて、次の
シナリオをまた自分で創っていく夢がある。

この事を理解出来る迄に若者が耐えられなくて、現場を去って行く。
又、建築・土木と云う学部を敬遠するのも、分からないではない。

 今、建設現場にドップリと漬かっている我々でさえ、現場が一番素晴らしいとは認識して
いない。

確かに5K(恰好悪い、汚い、休暇が無い、給料安い、危険)と云う問題もある。

何の為に働いているのか
と自問自答する余裕さえなく、朝も早くから現場に出向くのである。

「お早う、朝礼始めるからね」
集合用の音楽が流れ始めると、もう今日の仕事の『段取り話』がひそひそと聞こえて来て、
「今日は休んだ人がいて、予定通りに行かないから・・・」 
「昨日言っていたあの所は、もう少し待ってよ・・・」 
とラジオ体操の最中でも、打合せらしく小声で囁(ささや)いている。

職人さん達は、こちらの意見・指示を待っていて、それから仕事に取りかかるのだから、
現場員はかなりアテにされている。

「やはり俺様がいなければ、この場は収まらないのか・・・・」
と口八丁手八丁になり手を打ち始めると、もう現場では渦の真ん中にいる様なものである。

何の為とか〈誰の為〉とかそんな恩着せがましい問題には構っていられない。
現場の段取りを付ける事が監督員の重要な仕事であるが、職人さんの絶対数が不足して
おれば今日の作業のみならず、工程表も予定表も全くのゴミの紙屑になってしまう。

建設現場は一つの業者が次の業者にタスキを渡して行く『駅伝マラソン』と同じである。

 何があっても、途中でケツを割る(ヤメル)事は許されないし、更にゴールするタイム
リミット(竣工日)も厳守せねばならない。

 スピードに乗らない業者の為に、後続の業者がかなり無理をする事になるが、後の業者は
タスキを受けた時は既に残り時間が少なくなっているにも拘(かか)わらず、当初の予定通りに
次の業者にタスキを渡そうと云う義務感は持っている。

が、義務感はあるがそのノルマを達成させるには、日数が限られている以上、人間の頭数
を増やすしかないのである。

 仕事は多人数で行なえば早く済むのは誰でも分かる。
分からないのは早く済むと儲けはどうなるのか、精度・品質は確保出来たのかと云う事であ
る。

 工程・安全・品質・原価管理に振り回されつつも建設現場が、何故面白いのかがようやく
分かり始めてきて、色々な話を書き綴(つづ)っていたらこの《風来坊》物語になっていました。

《建設現場の子守唄》の続編として楽しい所を書けば良かったのかも知れませんが、敢(あ)えて
厳しい面を本音で語ったので少し専門的な話にもなってしまいました。

 建設現場にとらわれず、あくまで《人間ドラマ》としてブログをUPしていきます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする