建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

プロローグ(後)

2025-02-03 09:00:14 | 建設現場 安全

ならば、この建築現場に『明るい未来があるのか』と訊(き)きかれれば・・・・。

正直言って返答に困るし、イメージアップ計画に何をしますかと問われても、いい知恵は
浮かばない。

   

今、この現実を踏まえてこの環境にドップリと漬かっている私にしてみればイメージアップ
という〈錦の旗〉を振って世間にアピールするのは、現場の実態を隠した虚像だから、やが
ては更に、若者から敬遠されてしまうと確信する。

週休2日、大型連休、海外旅行とトレンディな一般サラリーマンに比べて
『日曜日位は休ませろ』『土休完全推進モデル事業場』
等と看板掲げているのが、現実なのだ。

しかも朝の8時には朝礼が始まり、現場の作業開始である。
7時半には門扉を開き、事務所の掃除が始まる頃には電話の4~5本も入って来る。

仕事の始まりはきっちりしているのに、一日の作業終了時刻の5時で退場出来る建設現場
なんぞ有りはしない。   
                     

 請負で仕事をこなしている業者の職人さん達は、日没まで平然と仕事に励んでいるし、照
明を灯(つ)けて頑張る人がめずらしくもない程よく働くものだ。

そんな中で現場を監督の我々が、
お先に失礼・・・。気を付けて残業しろよナ
と帰る訳にはいかないし、今日の作業内容の確認と明日の仕事の打合せを指示・連絡して
いれば、現場作業の終了後に2時間のデスクワークも重要な仕事になる。

工程が順調なら打合せ時間もスムーズだが、ひとたび歯車が狂えばどこ迄も現場で働かざ
るを得ないものだ(20時に業務終了なら早い方であろう)

働く事は良い事だ。
しかし、
「身を粉にして〈すりこぎの芯〉になるまで働きましょう、それが建設現場の生き甲斐です」
とCMでも流す勇気があれば、この業界の未来は開けて来そうだが、若者は見向きもしない
だろう。

 時代の流れに乗り遅れまいと遅ればせながらイメージアップを提唱するのは、なんら不満
は 無いが、若者を楽な方へと導くかの如く、軽率なる行動・軽薄なる情報が巷(ちまた)
氾濫(はんらん)している中で、建築現場もそれに倣(なら)う必要など全くのナンセンス
である。

現場の実態はキツイ仕事である。

しかしスポーツでもソフトなものがいくらでもあるのに、あえてハードな競技を好む人が

やはり長続きするし、ポリシーを持っている限りハードを苦労とは考えてはいない。

 イメージアップして軟弱なる若者を仮にこの世界に呼び込んでみても、本人を含めて発展
の道は無い。
 やはり汗水流して働き、建物竣工の時《男のロマン》を感じる職場が、建設現場の最大の
(よろこ)びである。
 そして一つの建物毎にドラマが見られ、対人関係が増えて行く渦の真っ直中にいて、次の
シナリオをまた自分で創っていく夢がある。

この事を理解出来る迄に若者が耐えられなくて、現場を去って行く。
又、建築・土木と云う学部を敬遠するのも、分からないではない。

 今、建設現場にドップリと漬かっている我々でさえ、現場が一番素晴らしいとは認識して
いない。

確かに5K(恰好悪い、汚い、休暇が無い、給料安い、危険)と云う問題もある。

何の為に働いているのか
と自問自答する余裕さえなく、朝も早くから現場に出向くのである。

「お早う、朝礼始めるからね」
集合用の音楽が流れ始めると、もう今日の仕事の『段取り話』がひそひそと聞こえて来て、
「今日は休んだ人がいて、予定通りに行かないから・・・」 
「昨日言っていたあの所は、もう少し待ってよ・・・」 
とラジオ体操の最中でも、打合せらしく小声で囁(ささや)いている。

職人さん達は、こちらの意見・指示を待っていて、それから仕事に取りかかるのだから、
現場員はかなりアテにされている。

「やはり俺様がいなければ、この場は収まらないのか・・・・」
と口八丁手八丁になり手を打ち始めると、もう現場では渦の真ん中にいる様なものである。

何の為とか〈誰の為〉とかそんな恩着せがましい問題には構っていられない。
現場の段取りを付ける事が監督員の重要な仕事であるが、職人さんの絶対数が不足して
おれば今日の作業のみならず、工程表も予定表も全くのゴミの紙屑になってしまう。

建設現場は一つの業者が次の業者にタスキを渡して行く『駅伝マラソン』と同じである。

 何があっても、途中でケツを割る(ヤメル)事は許されないし、更にゴールするタイム
リミット(竣工日)も厳守せねばならない。

 スピードに乗らない業者の為に、後続の業者がかなり無理をする事になるが、後の業者は
タスキを受けた時は既に残り時間が少なくなっているにも拘(かか)わらず、当初の予定通りに
次の業者にタスキを渡そうと云う義務感は持っている。

が、義務感はあるがそのノルマを達成させるには、日数が限られている以上、人間の頭数
を増やすしかないのである。

 仕事は多人数で行なえば早く済むのは誰でも分かる。
分からないのは早く済むと儲けはどうなるのか、精度・品質は確保出来たのかと云う事であ
る。

 工程・安全・品質・原価管理に振り回されつつも建設現場が、何故面白いのかがようやく
分かり始めてきて、色々な話を書き綴(つづ)っていたらこの《風来坊》物語になっていました。

《建設現場の子守唄》の続編として楽しい所を書けば良かったのかも知れませんが、敢(あ)えて
厳しい面を本音で語ったので少し専門的な話にもなってしまいました。

 建設現場にとらわれず、あくまで《人間ドラマ》としてブログをUPしていきます。

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