その島が瀬戸内海だっていえるのかどうか
地図の隅のほうにあって
こじんまりと歩いて一周できるほどの島だった。
みんなで一緒に行こうと言い出したのは
友達の結婚式で知り合った者同士のたわいのない冗談からだった。
夏だから、海?
これと言って名物もないからとバーベキュー?
お決まりのように大きな荷物を分け合って
さて乗り込んだ小さな連絡船は
日に何度かの運航のみ
帰りの船に間に合わなければ運悪く野宿かもしれないと思うほど
野性味溢れた島とその周辺
海に入ってはワイワイガヤガヤと
若者特有のご近所迷惑も省みず
大きな声で騒いでいたかもしれないが、
きっと、それほど皆が日頃の鬱積を持ち寄ってきていたことは間違いない事実だっただろう。
バーベキューも終わり、話したい人とも話し、どこかのお見合い番組のような成り行きに、嫉妬したり、ほくそ笑んでみたり。
お目当ての人を目で追うことしかできない私は遠くで眺めているだけだった。
みんなには内緒で付き合っているということになっている彼と私
事実は数回の食事と電話で話しただけで
果たして相手の気持ちはどうなんだろうと
こうして遠くで眺めてはクエスチョンマークの形が頭の中を駆け巡る。
ガッリチとした体格に
似合わず気を回せるあたりを考えてみたら
沢山の人が彼を見ているのかとさえ思ったり。
もとより、勝算のない相手には
最初から近づくことは辞めておきたいタイプの私。
眺めているだけでいいんだと言い聞かせては、心の何処かで少しの期待をしては打ち消して、心の中は火の見やぐらのようだった。
付き合い始めても、彼のシャイな性格は、
こんな私にはこの上なく難しい。
そんな私のため息が暗い積乱雲を呼び込んだのか
今にも大粒の雨が降り出しそうに
空の色がどんよりしてきた。
早く連絡船にのらなくちゃ。
満杯になってしまってはこの先どうなるかわかったもんじゃない。
案の定、連絡船の船着場には大勢の乗船客が押し寄せていた。
乗れるか乗れないか!!
歩くスピードは徐々に小走りから疾走へと変わっていく。
みんなの顔つきが段々と険しくなってきた。
どうやら、海も荒れ出したようで
白波もチラホラ見え始めた。ヤバくない?
この島をよく知る人は早々と支度をしたのか、悠々と船に乗り込んで行く。
私たちはやっとギリギリの所で間に合ったことを喜んだが
外のむき出しのデッキ以外、居場所はなかった。
船が出発したそのあと10分程のところで
とうとう大粒の雨が降り出した。
船の下段に続く入り口あたりに
少し軒の出っ張ったところが数箇所
そこを見つけて雨宿りする格好になった
身を細くして雨にあたらないようにするのが精一杯。
それでも雨は勢い増し、もう濡れてもいいやと思った時だった。
『ゴメン〜、ちょっとここ、いいかな?』と、私のいる正面にくるりと身をかわし
軒を両手でつかんだ彼。
顔を私の方にむけて微笑んだ
大粒の雨を自分の背中に受けている
ん?
何をする?
私を雨から守っている?
だって〜、あなたが濡れてしまうじゃない!!
言いたい言葉を飲み込んでしまった。
こちらを向いている彼を見れないまま
下を向くことしかできないでいた。
やっぱり私のこと〜!!
体の中からジンワリと温かな湧き水が湧き出すようだった。
雨は一向に降り止まず
彼の背中から滴る雫が私の足元だけを濡らす。
私はこんな時、どんな顔をして
何を言ったらいいのですか?
これがあなたの答えですか〜?
ポーカーフェイス決め込んで
何食わぬ顔で背中で雨に打たれている彼。
これから先、私をこうしていろんな事から守ってくれるということですか?
船は強い風にあおられ揺れ始めたが
私の気持ちは高鳴って
グルングルンととてつもなく高く登って行きそうだった。
それと真逆に下しか向けない私の顔は
どんな顔をしていたのだろう。
やがて連絡船は出発したもとの港へと辿り着いた。
これから、下船だという時
彼から見下ろされた状態の私は
顔を上げるしかなくて
やっとの思いで『ありがとう〜』
ニコッとした彼の口元の歯の白さが
とても素敵だと
あらためて思い知らされた。
もう、あれから何年たつのでしょう
未だに連絡船しかない島がテレビに映った。
薄れていた記憶がこうして蘇ってきて
キュンと心が鳴いた。
地図の隅のほうにあって
こじんまりと歩いて一周できるほどの島だった。
みんなで一緒に行こうと言い出したのは
友達の結婚式で知り合った者同士のたわいのない冗談からだった。
夏だから、海?
これと言って名物もないからとバーベキュー?
お決まりのように大きな荷物を分け合って
さて乗り込んだ小さな連絡船は
日に何度かの運航のみ
帰りの船に間に合わなければ運悪く野宿かもしれないと思うほど
野性味溢れた島とその周辺
海に入ってはワイワイガヤガヤと
若者特有のご近所迷惑も省みず
大きな声で騒いでいたかもしれないが、
きっと、それほど皆が日頃の鬱積を持ち寄ってきていたことは間違いない事実だっただろう。
バーベキューも終わり、話したい人とも話し、どこかのお見合い番組のような成り行きに、嫉妬したり、ほくそ笑んでみたり。
お目当ての人を目で追うことしかできない私は遠くで眺めているだけだった。
みんなには内緒で付き合っているということになっている彼と私
事実は数回の食事と電話で話しただけで
果たして相手の気持ちはどうなんだろうと
こうして遠くで眺めてはクエスチョンマークの形が頭の中を駆け巡る。
ガッリチとした体格に
似合わず気を回せるあたりを考えてみたら
沢山の人が彼を見ているのかとさえ思ったり。
もとより、勝算のない相手には
最初から近づくことは辞めておきたいタイプの私。
眺めているだけでいいんだと言い聞かせては、心の何処かで少しの期待をしては打ち消して、心の中は火の見やぐらのようだった。
付き合い始めても、彼のシャイな性格は、
こんな私にはこの上なく難しい。
そんな私のため息が暗い積乱雲を呼び込んだのか
今にも大粒の雨が降り出しそうに
空の色がどんよりしてきた。
早く連絡船にのらなくちゃ。
満杯になってしまってはこの先どうなるかわかったもんじゃない。
案の定、連絡船の船着場には大勢の乗船客が押し寄せていた。
乗れるか乗れないか!!
歩くスピードは徐々に小走りから疾走へと変わっていく。
みんなの顔つきが段々と険しくなってきた。
どうやら、海も荒れ出したようで
白波もチラホラ見え始めた。ヤバくない?
この島をよく知る人は早々と支度をしたのか、悠々と船に乗り込んで行く。
私たちはやっとギリギリの所で間に合ったことを喜んだが
外のむき出しのデッキ以外、居場所はなかった。
船が出発したそのあと10分程のところで
とうとう大粒の雨が降り出した。
船の下段に続く入り口あたりに
少し軒の出っ張ったところが数箇所
そこを見つけて雨宿りする格好になった
身を細くして雨にあたらないようにするのが精一杯。
それでも雨は勢い増し、もう濡れてもいいやと思った時だった。
『ゴメン〜、ちょっとここ、いいかな?』と、私のいる正面にくるりと身をかわし
軒を両手でつかんだ彼。
顔を私の方にむけて微笑んだ
大粒の雨を自分の背中に受けている
ん?
何をする?
私を雨から守っている?
だって〜、あなたが濡れてしまうじゃない!!
言いたい言葉を飲み込んでしまった。
こちらを向いている彼を見れないまま
下を向くことしかできないでいた。
やっぱり私のこと〜!!
体の中からジンワリと温かな湧き水が湧き出すようだった。
雨は一向に降り止まず
彼の背中から滴る雫が私の足元だけを濡らす。
私はこんな時、どんな顔をして
何を言ったらいいのですか?
これがあなたの答えですか〜?
ポーカーフェイス決め込んで
何食わぬ顔で背中で雨に打たれている彼。
これから先、私をこうしていろんな事から守ってくれるということですか?
船は強い風にあおられ揺れ始めたが
私の気持ちは高鳴って
グルングルンととてつもなく高く登って行きそうだった。
それと真逆に下しか向けない私の顔は
どんな顔をしていたのだろう。
やがて連絡船は出発したもとの港へと辿り着いた。
これから、下船だという時
彼から見下ろされた状態の私は
顔を上げるしかなくて
やっとの思いで『ありがとう〜』
ニコッとした彼の口元の歯の白さが
とても素敵だと
あらためて思い知らされた。
もう、あれから何年たつのでしょう
未だに連絡船しかない島がテレビに映った。
薄れていた記憶がこうして蘇ってきて
キュンと心が鳴いた。