
電車2つ乗り継いで恵比寿まで。
薄曇りの土曜日、人波を泳いで
大通りから二つ折れた小さな通りに
人型の看板を見つけた。
急な狭い階段を上り
照明をぎりぎりまで落とした
店のなかに入る。
テーブルは満席、カウンターの女の手元から
煙草の煙が立ち上っている。
カウンターのなか、珈琲をネルでドリップしてる店主は
南青山にあった、大坊珈琲店で働いていた人。
豆を蒸らしつつ点滴のようにお湯を落とす様子は
まさに大坊氏そのまま。
そんなにたくさん訪れたわけではないけれど
あの印象的な姿は鮮明に覚えている。
この店も大坊珈琲店と同じく
手廻しのロースターを使い
自家焙煎している。
「時代遅れの」と書いてはいるが
そこには拘りと自信があらわれているよう。
大坊氏はもちろん
国分寺のねじまき雲 長沼氏
下馬のtocoro cafe 上村氏
六角橋の珈琲文明 赤澤氏
美味しい珈琲を紡ぎ出す店主の所作を
見ているのが好きだ。
一連の流れるような動きには無駄がなく
とても美しい景色。
ところが大坊氏に関しては
「見られてるのは苦痛だった」そう。
でも店を持つとき、
お客様に見えないところで何かするのは無しにしよう
と、決めたので
仕方なく視線に耐えていたのだとか。
そう言われるとやけに肩や腕に力を込めて
口元をぎゅっと結んで
淹れていたっけ、と思い出す。
ジノリのモノトーンの器で
ブレンドが運ばれてくる。
甘く濃いとろりとした味。
引き継がれるべくしてここにあるもの。