私の仕事場は認知症専門のグループホームなんだけど、最近、介護度が重い人の受け入れが多くなった気がする。
すぐに椅子を投げつける暴力系のトメ男さん、何でも捨てるサキエさん。入所始めからだよ。
特にサキエさんは困った人。3階の窓の隙間からハーバリウムの瓶を次から次へと道路めがけて投下したときは大変だったわ。
あれは紛れもなく凶器だもん。道路にガラスの破片とオイルが散乱してて、これが人に当たってたらと思うとぞっとする。サキエさんは頭いいから、職員が見ていない隙を狙って悪さするから、今もって職員の頭痛の種なんだ。
トメ男さんは、暴力、暴言、セクハラが止まらないもんだでついに退所になったな。
うまく薬調整ができなくて、家族さんには申し訳ないと思う。
そして今度はキクさん。
脳みそが壊れていて、いつも支離滅裂なんだ。
一貫する訴えは、毒を盛られる、泥棒がいてトイレに行けない、警察に通報する、兄弟にやっつけてもらうが口癖。
実際、警察に通報しすぎで近所との亀裂が生じてうちの施設に来たんだけどさ。
あまりにも支離滅裂なんで往診のドクターに統合失調症じゃないかと言ったら、違うって。
キクさんは自分の人生経験の範囲内での支離滅裂な話だから、まあ認知症だってさ。
キクさんは、サキエさんやトメ男さんのようにならないよう、職員みなで全力を尽くした。
向精神薬はできるだけ使わない。
傾聴はかえって激高されるから、傾聴より何か仕事をやらせる。
好き、大切、いつも一緒、ここは安全、という温かみのある言葉を何度も繰り返し伝える。
支離滅裂は相変わらずだし、排泄も、食事も、衣服も全部がグッチャグチャだけど、精神が安定してきた。
職員には、すっかり懐いたよう。
今では「愛してる」「助けてね」って職員の手にスリスリしながら言うようになった。
私は今、こんな感じで仕事している。
キクさんも変わったし、私も変わった。
性格がちょっと円くなったなって思う。