銀河系の中心方向から謎の電波源が検出される
豪シドニー大学らの研究チームは、銀河系の中心方向からやってくる奇妙な電波信号をとらえた。
その電波は既知のどの電波源のパターンとも異なっていることから、未知の種類の恒星状天体が存在する可能性もあるという。一連の研究成果は2021年10月12日、学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」で発表されている。
研究チームは、西オーストラリア州マーチソン電波天文台の電波望遠鏡「アスカップ(ASKAP)」による天体観測において、2019年4月28日から2020年8月29日までに13回、銀河中心近くに位置する電波源を検出した。
この天体はその座標にちなんで「ASKAP J173608.2-321635」と名付けられている。 その最も奇妙な特性は、非常に偏向性が高いという点だ。その光は一方向にのみ振動するが、時間の経過とともに方向が入れ替わる。輝度も100倍で著しく変化し、ランダムにオンとオフが切り替わる。 ■ 「新しい種類の天体かもしれない」 研究論文の共同著者でシドニー大学のタラ・マーフィー教授は「最初は目で感知できなかったが、次第に明るくなり、やがて消え、再び現れた。
この挙動は非常に珍しい」と振り返る。 研究チームでは当初、この電波源はパルサー(高速で回転する超高密度の中性子星)もしくは巨大な太陽フレアを放出するタイプの星ではないかと考えていた。
しかし、この電波源からの信号は、これらのタイプの天体からみられるものとは一致しなかった。研究チームは「『ASKAP J173608.2-321635』は新しい種類の天体かもしれない」と考察する。 研究チームは、豪ニューサウスウェールズ州パークス天文台の電波望遠鏡と南アフリカ共和国北ケープ州に設置された電波望遠鏡「ミーアキャット(MeerKAT)」でこの電波源を追跡観測した。
パークス天文台の電波望遠鏡による2020年4月20日と同年7月29日の観測ではこの電波源が検出されなかったが、「ミーアキャット」で2020年11月19日から2021年2月まで2週間ごとに12分間の観測を行ったところ、2月7日に電波源を検出した。しかし、その挙動は明らかに異なる。「アスカップ」での観測では数週間続いていたにもかかわらず、電波源はわずか一日で消えた。
■ 銀河中心電波過渡現象と共通する特性 研究チームは、「ASKAP J173608.2-321635」が銀河中心電波過渡現象(GCRT)のひとつである可能性についても言及している。「ASKAP J173608.2-321635」には銀河中心電波過渡現象と共通する特性がいくつかみられた。ただし、銀河中心電波過渡現象については現時点で十分に解明されておらず、いずれにしろ「ASKAP J173608.2-321635」の正体はまだ多くの謎に包まれている。