名目利子率や賃金上昇率などは厚生労働省のデータに基づき、平均年収750万円のサラリーマンが40年間、厚生年金に加入し、専業主婦の妻とともに平均寿命まで生きた場合を前提として専門家が試算したところ、2010年末時点で、70歳の方は3090万円の得、つまり支払う額より3000万円以上多く,生涯に年金を受け取れる計算になりました。
以下、65歳の方は1770万円のもらい得、60歳の方は750万円の得と、だんだん、得する幅が減ってはきますが、それでも受け取る額が、支払った額を大きく上回っています。
そして55歳の方が170万円の得となり、このあたりから下の世代は、支払う額が受け取る額より多くなる、払い損の世代になります。
50歳の方は340万円の払い損、40歳は1220万円、30歳は1890万円、20歳の方は、なんと2280万円の払い損になるという分析結果でした。こんな試算をみせられたら、若い世代は絶望的な気分になるでしょう。
1961年4月以降に生まれた方は、年金の受給開始が現在の60歳から65歳へと、先送りされることが決まっていますが、今後、この支給開始年齢がさらに68歳、70歳などと、もっと先延ばしになる可能性もあります。その場合の受給額は一段と減ってしまいます。
年金の払い手である現役のサラリーマンなど働く人(生産年齢人口、15歳~64歳)の数は、95年の8726万人をピークに減少に転じ、2010年までの15年間で、552万人も減ってしまいました。
一方、平均寿命は伸び続けています。1985年に、平均寿命は男性が74.78歳、女性が80.48歳でした。それが2010年末時点で、男性は79.64歳、女性は86.39歳まで伸びています。人口に占める65歳以上の高齢者の比率は10.3%から23%まで増えました。その結果、生産年齢人口と65歳以上の高齢者の人口の比率は、85年の68.2対10.3に対し、2010年には63.8対23.0になりました。
わかりやすく言うと、かつて約7人で1人の高齢者を支えれば良かったのが、今は3人で1人を支えないといけない時代になったわけです。
このまま行けば、働く人2人で1人の高齢者を支える時代になるかもしれません。払う人の数は減り、もらう人の受給期間が長くなっているのです。これでは年金制度が立ちゆかなくなるのは、仕方がないところです。
今のシニア層までは良かったが、これから先は、ごく普通の人でも、資産運用とは無縁でいられないことは、なんとなくわかっていただけたかと思います。
では、安心して老後を迎えるために、いったいどのくらいの資産を持っていればいいのでしょうか。
多くの専門家の意見を聞き、分析した結果、普通の個人が、夫婦ふたりで安心して老後を過ごすために必要な資金は、9000万円から1億円というのが、専門家たちの共通した結論でした。
1億円、と聞いたとたん、そんなの無理無理、途方もない数字だよ、と思う方が多いでしょう。
ここでまず申し上げたのは、1億円をすべて現金でそろえる必要はないということです。モデルケースのざっくりとした試算では、夫婦2人の年金と退職金を合わせると、6000~7000万円程度は確保できるため、実際に運用で作らなければいけない金融資産は、3000万円程度ということになります。
細かくみていきましょう。まず、必要な資金1億円の内訳です。
生命保険文化センターの調査によると、リタイア後、夫婦2人で、切り詰めた、つつましい生活をする場合、必要な資金は月に22万円になります。
もし、年に数回は旅行に行きたい、趣味にある程度お金をかけたい、孫の教育費などを支援したいなど、多少、ゆとりのある生活を望むのなら、月あたりプラス14万円かかるといいます。その場合、合わせて毎月36万円程度が必要になります。年間432万円です。夫婦とも平均寿命(男79歳、女86歳)まで生きるとして、夫の死後、妻一人の生活コストが3割下がると仮定した場合、必要な資金の合計は約8200万円になります。
加えて、車いす生活になった場合や水回りの老朽化などの自宅の改装費、病気やけがなどの入院・治療費などに備えた予備費を加えると、9000万円から1億円あれば、安心という計算になります。
もちろん、趣味や旅行などにお金はかけず、切り詰めた生活で満足できるなら、必要な資金は予備費も込みで、6000万円程度まで下げることは可能です。計算の上では、年金と退職金だけで、なんとかまかなえるのですが、今後、年金や退職金が減額される可能性やインフレによる物価の上昇リスクなどに備えることを考えると、やはり資産運用によって、多少の経済的な余裕を確保するべきでしょう。
一方、厚生労働省の試算によると、平均年収のサラリーマンで妻が専業主婦、厚生年金を40年間、払い続けたモデルケースでみると、年金は月に21~22万円が支給されます。65歳から受給が始まり、夫婦とも平均寿命まで生きた場合、受け取れる年金額の合計は約5000万円になります。
同じく厚労省のデータによると、大学卒男子サラリーマンの平均退職金は、確定拠出年金などの企業年金分も含めて、約2000万円です。夫婦で受け取る年金の合計額と合わせると、7000万円程度はなんとかなりそうです。
ただ、これは現在の年金制度が維持され、企業の退職金の水準も変わらないことが前提です。もし、年金の受給開始年齢が68歳まで繰り延べになれば、受け取る合計額は約4000万円と1000万円少なくなりますし、退職金も東京都の中小企業の平均値では1200万円というデータもあります。
目減りする1000万円分を、さらに運用でカバーするのは,簡単ではありません。最も有効かつ現実的な答えは、妻が働くことでカバーすることです。妻が正社員として働くことが出来れば、将来の年金の受給額も増えますし、現役時代の貯金など資産形成でも有利になります。