大きな魚竜と新種の首長竜、博物館で見つかる
収蔵品の中から未発見の種が2つ、ドイツ・ニーダーザクセン州立博物館
ドイツ、ビーレフェルト自然史博物館の古生物学者スヴェン・ザックス氏は、ある古代の海生爬虫類について調査をするためにハノーファーにあるニーダーザクセン州立博物館を訪れた。その際、展示中の化石の一つに目が留まった。
その標本は1990年代半ばに英サマセット州で発掘されたものだったが、その後、詳しい調査は行われていなかった。ザックス氏が一見したところ、それはイクチオサウルス属の魚竜に見えた。恐竜と混同されることも多いが、魚竜は水中にすむ爬虫類の仲間で、体をひねらせて泳いでいたと考えられている。(参考記事:「知っているようでホントは知らない?「恐竜」って何者?」)
「すごいものを見つけたと思いました。これまで見たどの標本よりも大きかったのです」。ザックス氏によると、展示された標本は、イクチオサウルス属の中でも比較的体の小さな種に分類されていたという。
ザックス氏はこのグループの専門家である英マンチェスター大学のディーン・ロマックス氏に連絡を取り、2017年の初頭、協力して標本の調査にあたった。その結果、標本の正体はイクチオサウルス・ソメルセテンシス(Ichthyosaurus somersetensis)であることが判明した。(参考記事:「1億7000万年前の「極上」魚竜化石を発掘」)
彼らが発見した記録上最大のイクチオサウルス属に関する論文は、8月28日に学術誌『Acta Palaeontologica Polonica』のウェブサイトに掲載された。調査を進めるなかで、この標本に付けられていた尾は、別種のものだったことが判明した。これは標本をより完全に近い形に見せかけるために、博物館が取った措置だったようだ。それでも上半身の標本から推定した全長は3~3.3メートルとなり、イクチオサウルス属の化石としては過去最大となる。また、今回の化石は、死んだ時点で腹の中に直径7センチの小さな子供がいたこともわかった。(参考記事:「首長竜は胎生だった? 化石から胎児」)
イクチオサウルス・ソメルセテンシスは、2016年にロマックス氏の研究チームによって正式な学名が付けられたばかりだった。
「こうした標本が、いまだに博物館で『再発見』されるというのは驚きです。新しい発見をするには、必ずしも外へ出かける必要はないのです」。ロマックス氏はプレスリリースでそう述べている。(参考記事:「新種の魚竜化石、ジュラ紀の進化史を変える」)
新種の首長竜も発見
ザックス氏は、学術誌『Journal of Vertebrate Paleontology』にも別の論文を投稿している。こちらは、史上最古の首長竜の化石に関するものだ。先ほどのイクチオサウルスと同じニーダーザクセン州立博物館が収蔵するその骨格は、首長竜の新種で、ラゲナネクテス・リクテラエ(Lagenanectes richterae)と名付けられた。この論文は8月25日に同誌のウェブサイトで公開された。(参考記事:「太古の海生爬虫類は恒温動物の可能性」)
絵に描かれた首長竜の姿は、かの有名なネス湖の怪物ネッシーの想像図によく似ている。ラゲナネクテス・リクテラエは首に75個の椎骨があり、先史時代の海生爬虫類の中では最も長い首を持っている。ザックス氏によると、この首長竜は口内の上部に複数の溝があり、これは現代のワニが口の上にあるこぶで水中の振動を感じ取っているのと同じく、獲物の存在を感知するために使われていた可能性があるという。
この首長竜が生きていたのは1億3200万年前であることが判明しており、2億年前に生息していたイクチオサウルスのほうが先に海を泳いでいたことになる。
ザックス氏は、博物館の収蔵品の中には、他にも未発見の種が残っている可能性があると考えている。こうした偶然の発見は古生物学の世界では珍しくないそうで、ザックス氏も「何度も経験がある」のだそうだ。(参考記事:「150年前のマネキンに本物の人骨、CTスキャンで発見」)