ラニーニャなのに…南米の冷たい海で「台風モドキ」発生 その正体は?
熱帯の暖かい海上でしか発達することがないサイクロンが今月はじめ、南極に近い南米沖で観測された。南米沖では、海面水温が平年を下回るラニーニャ現象が継続中だというのにナゼなんだ?と各国の気象学者の頭を悩ませている。
日本では台風、太平洋ではハリケーン、インド洋や太平洋南部ではサイクロンと呼び名は異なるが、その正体はいずれも同じ「熱帯低気圧」。
水蒸気が集まって雲の粒になるときに、熱を放出してエネルギーとすることで発達する熱帯低気圧は、海面や陸地との摩擦や、寒気と接触することでエネルギーを失って消滅するメカニズムで、通常は海面水温が約27℃以上の熱帯海域で発生するものだ。
米海洋大気庁(NOAA)の気象観測衛星GOES-Eastは今月9日、チリの海岸線から約160キロ沖合で、珍しい熱帯サイクロンの発生をとらえた。付近の海面水温は20℃にも届いでおらず、しかも昨秋からのラニーニャ現象で、平年値を0.5℃下回る期間が半年近く続いている。
この不思議な現象について、NOAAの観測チームは「熱帯低気圧と温帯低気圧の両方の性質を持つハイブリッドタイプの“亜熱帯低気圧”」だと結論づけた。亜熱帯低気圧とは、あまり聞き慣れないが、それもそのはず、気象庁では予報用語として公式には採用していない。
太平洋海域では比較的馴染みがあるので米国立ハリケーンセンター(NHC)の説明にならって説明を試みると、亜熱帯低気圧の下層部分は、熱帯低気圧と同じように中心付近に暖気があるが、上層にいくと温帯低気圧と同じ寒気を伴うようになる。熱帯低気圧の場合、中心付近は暖気が上昇しているため、この点が大きな違いだという。
日本では過去に亜熱帯低気圧が観測されたことはないのだろうか?気象衛星センターの技術報告(1995年3月第30号)によると、1988年の夏には日本の南の亜熱帯域で、弱い台風がいくつも発生した。衛星画像の解析で、雲の形が通常の台風と異なっていることから、亜熱帯低気圧ではないかと疑問視された。
その後も、アヤシイ台風候補はいくつか見つかっているのだが、いかんせん日本周辺では研究対象になりえる「それらしい熱帯低気圧」の発生が少なく、統一された定義はない。
あとひと月もすれば本格的な梅雨を迎え、台風シーズンも始まる。私たちの関心事はもっぱら台風の進路や上陸するかどうかだが、気象学者ですら首を傾げる事象がまだまだたくさんあるのだ。
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