日々のできごと。生物準備室より

理科教育、生物教育に関して考えたことをぼちぼち更新。たまに授業実践報告をします。

土壌に焦点化して生態系を考える

2022-11-06 16:19:05 | 最近読んだ本

生物基礎 第4編 生物の多様性と生態系 で学ぶ、環境形成作用の例として読み始めました。
2章の生態系の保全でもトピックとして活用できそうな1冊です。
木を見て森を見ず、ではなく、
森をみて土を見ず、ですね。

そのまま関連付けが可能なところだけピックアップしました。

土壌とは、生物の遺骸や排泄物と砂や粘土から構成されるもの。地球上には成分によって様々な土壌(ポドゾル、泥炭土、オキシソル、黒ぼく土等)があり、見た目から異なる。

土壌の誕生は、植物(の祖先)が陸上進出した5億年前であり、相互作用により、それぞれの場所で変化してきた。例えば、リグニン(ポリフェノールが複雑に結合した物質であり、幹の強度を高める)を得た裸子植物の誕生後、枯死した植物体を当時の微生物(分解者)が処理できず泥炭となってどんどん蓄積、地球史上最大の石炭蓄積時代となった。その後、リグニンを分解可能な菌類の誕生により、石炭紀は終焉を迎える。現在、海を挟んで同じような土壌が存在するのは、プレートテクトニクス理論によって説明することができる。

 土壌の酸性化の要因として、酸性雨だけでなく植物の影響が考えらえる。植物はカリウムイオンやカルシウムイオンなど、陽イオンを多く吸収するために、代わりに水素イオンを根から放出する。遷移では先駆種となるコケや地衣類は、岩との接触面でジワリと有機酸を放出し、岩石を溶かすことにより生存に必須な栄養分であるリンやカルシウム、カリウムなどを獲得する。

 人間の歴史は、土壌の状態に左右されていると言っても過言ではない。現在の農業の問題として、土壌の酸性化と窒素源循環の問題が考えられる。ハーバー・ボッシュ法の発見による窒素肥料の導入には、人口増加を可能にした面と、環境問題を引き起こした面がある。土壌の劣化(農地における窒素の過剰負荷、引き起こされる酸性化)の解決には、ここ100年の間に人類が生み出した急激な変化の中で、十分な試行錯誤を積み重ねることができるのか、文明の命運がかかっている。


系統樹思考の世界

2022-03-21 14:42:33 | 最近読んだ本

久しぶりの更新となってしまいました。

公民科の同僚とのちょっとした雑談の中で、紹介された一冊です。

系統樹とは、時間的な変化をたどった経路図を示す図のこと。

目指すは”最良”の説明
系統樹とは要するに何なのか?ーーーと問われたとき、それはある現象に対する説明であると私は即答することにしています(p.181)

”正しい”ではなく”最良”と強調されているのは、
アブダクション(abduction)という推論スタイルをとっているから。

分類思考と系統樹思考に関して、
ヒトには”ヒト性”、サルには”サル性”がという「本質」があると仮定する心理的本質主義に触れながら次のようにまとめています。

心理的な本質主義が人間の認知性向であるとみなされるかぎり、進化的思考ならびに系統樹的思考は必然的に認知的基盤はもたないと言わざるをえません。つまり、私たちは生まれながらの分類思考者だから、系統樹思考は「ものの見方」として意識的に採用する必要があるのです(p.125)

中学理科でも高校生物でも、「比較・分類」は繰り返し出てくるワードです。
「系統」なのか「分類」なのか区別できていると(自分では)思っていますが、
提示する教材が意識して表記されているのか、自分自身が何となくで発信していただけなのか、ハッとさせられました。
また、推論スタイルとして、演繹や帰納に続く重要なスタイルであり、
多分、物理や化学の授業では育む機会が少ないスタイル、というかスキルであると改めて感じました。


作品の中での系統樹は、書体であったり歴史であったり、生物の進化をだけを扱ったものではありません。
以前、授業見学先で「パスタ系統樹」らしきものを拝見したことがありますが、
あれは視点が「系統」だったのか「分類」だったのか・・・
認識のメガネを持っているようで持っていなかったようです。



 

 


ファクターX

2021-02-07 23:41:13 | 最近読んだ本

生物基礎は免疫の単元に入っています。
NHKスペシャル特別班によるこの一冊、
とにかく読みやすくて、一気に巻末まで。

何故、日本を含むアジアの一部の国で、感染者や重傷者が少ないのか、
その要因「ファクターX」として、
・BCGが自然免疫を「訓練」
・交差免疫を持っている
・生活習慣
が挙げられています。

別の予防接種で自然免疫が訓練される、、、
説明を読めば、そうなのか、、、と分かったつもりになりますが、
そんなに都合よく働くのかという疑問と、
訓練される自然免疫って、何だか説明しにくい、、、

運動することで、
筋肉から放出されるインターロイキン6が免疫細胞を刺激します。
免疫力を上げるために適度な運動を、という話はよく耳にしますが、
具体的にサイトカインの名称が出てくると、そうなのかぁと簡単に納得してしまいます。

とにかく、そうなのかぁ、、、、とすんなり入ってしまう一冊。
良いのか悪いのか分からないけれど、次、何か追加で読みたくなるような構成です。

 


高等学校におけるパフォーマンス評価

2020-12-11 11:52:03 | 最近読んだ本

 

パフォーマンス課題に興味を持ち始めた6年前、
実践報告は小・中学校メインで物足りなく感じることが多々ありました。
その点、高等学校の実践で1冊にまとまっているお得感と、
手法としては一通りやりつくした感が読んでいてじわじわ湧いてきました。


パフォーマンス課題を設計して実践する時に、
どのくらいのスパンで行うのか?
文脈が適切なのか?
ルーブリックをどのように作るのか?
考えなければいけないこと、面倒な作業に追われる覚悟が必要です。

そもそも、作られた仮想の文脈が厭われることもあります。
設定された世界でレールに乗せておいて、
ルーブリックで機械的に優劣を当てはめていくようなイメージでしょうか。
学びの幅を狭めてはならない、という思いも分からなくもありません。

でも、パフォーマンス課題に限らず授業設計は、
自分の前提との対話の時間なんだと思うんですよね。
学習者が自由に発想するために設定した時間に、
授業者のバックグラウンドが色濃く反映される場を何度も見てきました。
そのこと自体は問題ないのですが、
結局、言語化なしで、授業者の文脈を学習者の文脈として渡しているのに等しいのではないかと思います。

パフォーマンス課題には欠かせないルーブリックの活用について、
「生徒の姿に即してルーブリックを見直す視点や、自由記述等で目標にとらわれずに評価する視点、行動の奥にある生徒の力を徴候に依らずに判断できる生徒を見る目(教師の教育的鑑識眼)を養うことが評価者には求められる。(略)ルーブリックに飼いならされるのではく、飼いならすだけの教師の力量が求められているといえよう。」
からも、授業者としてのトレーニングになることは間違いないと思います。
そう、思うものの、、、
最後の一文は、どんな思いと考えを基に掲載したのか、気になります。

 

 


植物の形には意味がある

2020-04-13 20:58:23 | 最近読んだ本

まずは何か読んでみよう、

そう思って手に取った1冊目。

生態学が専門の同僚にお借りした読み物です。

タイトル通り、形から意味を探っていきます。

構造から機能を推測するために、
よく観察して比較・分類。

植物が存在するために必要な形、
植物が子孫を残すために必要な形、等、
ゆったりリラックスした気持ちで予想しながら読み進めました。

教材のタネをストックした感じです。


そして、じっくり読まないまま何年か過ぎてしまった
生物教育の先生に薦められて購入した一冊も、手にとってみました。
こちらは子孫をいかに残すが、に絞られたストーリー展開。
掲載されている写真やレイアウトが、
何だかほのぼのするタッチ。
どちらかというと、
何かを調べたいと思った生徒に読んでもらいたい感じ、でしょうか。

どんな形が光合成に適しているのか?
どんな形が体を保持できるのか?
どんな形が子孫を残しやすいのか?

コアになる問い、お題はこの辺りにしてみます。

 

 

 

 

 

 


一丸となって持続的に生きることを可能にするために(No.8)

2019-05-04 15:41:58 | 最近読んだ本
人種は存在しない -人種問題と遺伝学
山本 敏充,林 昌宏
中央公論新社

 

帯は大事だなぁと思った一冊。


帯に大きく示される
「集団内の多様性 > 集団間の多様性」
に内容が集約されています。

そのうえで、
人間の尊厳が等しいことは、
生物学的な秩序に基づくからではなく、
われわれの社会が生きのびるために必要不可欠な政治的選択であることを結論としています。
遺伝子研究の成果をただ並べるだけでなく、
優生学の歴史や、
人種差別に反対する人々の観点についての記述等、視点を変えながら、
現代を生きるわれわれが、遺伝についてきちんと認識する必要性を訴えています。

この本のテーマは、サブタイトルにもあるように、
人種差別と遺伝学のため、
遺伝的差異に焦点を当てています。

差異に対してどう捉えるか。
無意識のレベルにしまい込まれている前提認識はなかなか自覚できないように、
差別は無自覚に行われています。
ホモサピが生き残ろうと思うのであれば、
既にしまい込まれた、またはしまい込まれそうになっている差別意識、
つまり、すべての人間においてその尊厳は等しいと思わないという価値観を、
意図的に修正する場を設定する必要があるのです。

遺伝分野の授業を展開する時には、
差異に関する問題に配慮する姿勢はが最低限必要だと
改めて感じました。




 


集団と個の関係(No.7)

2019-04-21 10:16:20 | 最近読んだ本
インクルーシブ教育を通常学級で実践するってどういうこと? (インクルーシブ発想の教育シリーズ)
青山 新吾,岩瀬 直樹
学事出版

 

生命科学史を読み進めていて、
ここにたどり着くよなぁ、と思って購入した一冊。

内容はタイトル通りです。

冒頭で、
インクルーシブな教室を目指したくなった時の視点、
・個としてみたときの個
・集団の中の個
で見つめ直し、学校内では「集団の中の個」として捉える必要について述べられ、
さらに言えば、子どもを「関係としてみる」とも書かれています。

子どもに限らず、関係性から物事に意味付けがされていきます。

今回、一番確認したい、納得したいと思ったことは、
何故、今、インクルーシブ教育なのか?だったので、
この本を購入する前に、前作

 

インクルーシブ教育ってどんな教育? (インクルーシブ発想の教育シリーズ)
青山 新吾,赤坂 真二,上條 晴夫,川合 紀宗,佐藤 晋治,西川 純,野口 晃菜,涌井 恵
学事出版

を読むべきでした。
以前、誰かにお借りして読んだことは読んだのですが、
記憶って怖いですね。
知りたいことは思い出せません。


 


お米について考える(No.6)

2019-04-20 18:38:13 | 最近読んだ本
イネという不思議な植物 (ちくまプリマー新書)
稲垣 栄洋
筑摩書房

 

「若い読者に」と冒頭にあるように、
軽いタッチで読みやすい一冊でした。

日本で生まれ育った自分にとって、
イネがどれだけ自分の生活の中に溶け込んでいるかに気づかされます。

例えば、
文部科学省の「早寝早起き朝ごはん」国民運動
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/asagohan/

ごはん、は本来、お米を炊いたものを指すので、
食事、と同じ意味で使われているよね、といった例や、

水田が広がる地域にて、
「何もない風景」と表現しても違和感なく受け入れられる例、等。

単に植物としてのイネという視点だけでなく、
社会的歴史的な役割から話が進み、
そうだよなぁ、ふむふむの連続でした。

ただ、メンデルの遺伝の説明で、エンドウのF1の形質についての内容と、
稲作に必要な共同作業によって培われた日本人の気質の記述で締めくくるところに、
違和感を持ちました。


それでも、
イネとの関わり深さは色々と想起されました。

ピアノのレッスンに行く途中に水田があって、
水田から出てくるカエルが車にひかれているのを避けながら歩いたこと。

就学前、庭に水田を作りたくて、
芝生を掘り起こしたら思いのほか芝の根が深くて抜けなかったこと。

藁でしめ縄を作ったこと。

登呂遺跡の水田跡地で田植えをしたこと。

バケツ稲を授業で育てたこと。

そして最近では、
玄米でも発芽すること。


結構、イネ、気になります。






今更ですが、アリストテレスから(No.5)

2019-04-15 18:05:29 | 最近読んだ本
生命科学史
遠山 益
裳華房

 

生物教育の在り方を考えるために、
科学史をおさらいしてみました。

冒頭から、
「無生物から生物は発生しない」
アリストテレスの自然発生説を、
当たり前のように否定していた自分の矛盾。
始原生物の誕生、
様々な説があるけれど、どう考えるのよ。
無生物と生物の間には明確な断絶があるわけではないのです。

研究成果の羅列ではなく、
その研究者の背景がさらっと描かれ、
読みやすい1冊でした。

ただ、2006年発行なので、
その先の記述はありません。

最終章の締めくくり
「生命倫理は混乱させられている」とした上で、
「人類はここで冷静な判断と行動によって、
新しい人間観と生命観を構築する方向に向かわなければならない。」

そのための生物教育、でありたい、

かも。

 


「リフレクション=反省」は、そろそろ、やめようよ(vol.4)

2019-03-29 11:25:27 | 最近読んだ本
授業づくりネットワークNo.31―リフレクション大全 (授業づくりネットワーク No. 31)
ネットワーク編集委員会
学事出版

 

リフレクションに関するトークイベントにて、「ごった煮」と紹介されていた一冊。
幸運なことに、
教職大学院に派遣されていた2016年前後で、
著者の多くの方から直接お話を伺う機会を得ていました。
そして、整理できずにいました。
(どちらかと言うと混乱)

講演の中でもお話がありましたが、
1つ1つの実践をイメージするためには、
それぞれ1冊の本が最低でも必要です。


でも、
「リフレクション」と言ってもさまざまな意味合いがあることや、
発信者の立場や発信する理由が、1冊で読み比べることができるお得感?があります。


例えば、カウンセリングがベースなのか、
評価がベースなのかを意識すると、自分の中ではスッキリしました。

感じることとどう向き合うか。
いかに1人称、2人称の語りが可能な場を作るのか。
ゴールがないことをどう捉えるか。

生徒のリフレクションと教員のリフレクションの乖離とどう向かうか。


結局、問いの方が増えるんだよな・・・
本屋のトークイベント、成功しているよな・・・。


トークイベント終了後に参加者数名で向かったおでん屋さんでも、ひと興奮してきました。
Oさんが実施している対話型授業検討会では、
上智大学カウンセリング研究所で行われていたマイクロ・ラボラトリー・ティーチングが取り入れられているとのこと。

長男が生まれる前に、3泊4日の集中講義に参加した経験しかありませんが、
お話を聞いた時、そうか、授業改善につなげるのか!!と、離れていたものがつながる喜びと、Oさんの思いが、温かく体の隙間に染み入る感じだったと思います。(おでん屋だったからそのイメージ?)

 

なんかね、
もう、少しだけ、
頑張ろうって思いました。