2025年度版 渡辺松男研究49(2017年5月実施)
『寒気氾濫』(1997年)【睫はうごく】P164~
参加者:泉真帆、T・S、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取未放
410 みずからのひかりのなかにわく涙きみのそとへそとへあふれだす
(レポート)
「きみのそとへそとへ」が作者らしい表現だとおもう。前の歌(赤崩(く)えにまひるのひびく光さし山の顫(ふる)えはひそかになさる)を受け、山肌がすこしずつ崩れるように、君の内側から君の涙は外へあふれる。愛しい君の涙は「ひかりのなかにわく涙」と輝いてみえ、作者をもその光と一体になっているようだ。(真帆)
(当日発言)
★上の句がいいと思いました。光りも涙も切り離せないものなのですね。(慧子)
★このきみはいとしい人なんでしょうかね。(A・Y)
★そうですね、「そとへそとへ」あたりを考えるともう少し抽象的な読みもできるように思うのですが。また、この歌、涙以外すべてひらかなですね。そのひらかなが涙の一粒ひとつぶのようで面白く読みました。(鹿取)
★冷静に考えると主語はひかりなのかなという気がしてきました。ひかりみずからがひかりがひかりを生むように。(真帆)
★みずからは誰ですか? (T・S)
★ひかりです。(慧子)
★408番歌に「地球から遠ざかりゆく月の面君のおでこのようにかがやく」とあって相聞とも読めますから、恋人みずからが内面にたたえているひかりが持ちこたえられないようにいっぱいになる、思いの純真さが涙となってあふれ出すというように読んでもいいのではないでしょうか。また、この一連光りがテーマですから抽象的に読んでもいいと思います。そういう二重性を持たせているのかもしれませんね。(鹿取)