かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞  276

2021-08-07 17:26:17 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究34(16年1月実施)
    【バランスシート】『寒気氾濫』(1997年)115頁~
     参加者:石井彩子、M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部 慧子  司会と記録:鹿取 未放
   

276 釜山の火口を覗ききたる目はバランスシートを読み取れぬなり

      (レポート)
 暗から明へ移るとすぐにはものを正視できないことがある。人体のすばらしい機能を享受して生活しているが、微調整を必要とすることもある。掲出歌、大きな火口を覗いたのち、細かいものを読み取ることに体がとまどっているのだろう。(慧子)


      (当日意見)
★前の歌からすると難しいお仕事を韓国との間でされているのではないですか。(M・S)
★韓国と貿易をされていて出張に行かれた。仕事の前に観光に行かれて火口を覗いて来られ
 た後なので経済取引のバランスシートが読みとれないという場面なのでしょうね。(石井)
★いや、私は火口を見てきたのと、バランスシートが読み取れないの間にはタイムラグが
 あると思います。つまりバランスシートが読み取れないのは帰国後で、作者がそういう
 父の様子を端から観察している。もっともどこにも主語は出てこないですが、前の歌か
 らすると父でしょうね。火口を見て、世界の深淵に触れたのですね。そういう昂揚した
 精神状態で、急にはシビアーなビジネス社会の現実、ありていにいえば損得勘定に対応
 できない状態をバランスシートが読み取れないと言っている野でしょう。まあ、タイム
 ラグはあっても無くても内容的には同じです。(鹿取)
★では、火口は比喩でもいいと。(慧子)
★いや、ダイナミックな宇宙の活動の一端を覗いたという意味では現実の火口の方がよ
 い。しかも釜山だから、異文化というのも大事かなあ。(鹿取)
★この頃は韓国の方が経済的にまだ貧しくて、それを見てきた。そのことを火口という比
 喩で言っている。だからバランスシートが読み取れない。(鈴木)
★いや、慧子さんとも鈴木さんとも違う意見です。むしろバランスシートの方がビジネス
 社会の 比喩でしょうね。火口を見た目が慣れないから細かい字のバランスシートがみ
 にくい訳ではな いのです。だからこれは、レシートとか値札とか他のものには替えら
 れない意味があります。それから、火口とバランスシートの対比は韓国の貧しさとか
 では無くて、(たぶんお父さん の)個人の精神の深淵と現実世界とのバランスなのだ
 ろうと思います。(鹿取)

コメント
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