ボリビアは大統領が軍に謀叛されて亡命してしまったので合法的な権力が存在しない状態となってしまった。
そこで、どうしてこのオバハンが臨時大統領でいいのか誰にもよくわからない(憲法秩序的でない)オバハンが臨時大統領を宣言。それに対してモラレス支持派の住民が大挙して通りに出たため軍側が催涙ガスなどで威嚇、混乱が続いている。
ここまでの流れとしては、ボリビアの大統領はしっかり貧困層を減らしていた、その意味で成功していた大統領だったので民衆の人気はあった。しかし、軍を掌握していなかった。
今回大統領に謀叛したおっちゃんは駐米武官だったというし全体的に西側の装備を持っている軍なので、そこから普通に言えることは軍は西側の利益に弱くなる、ってことなわけで、まぁ、ここがベネズエラと違うところ。
ベネズエラはやっぱりチャベスが軍人なので、最後の秩序を守る責任は軍にあるというのが自明だったんでしょうね。だから社会主義路線を鮮明にする時からロシア、中国と外交的に付き合うだけでなく、装備を西側からこの2国に変えて、軍の機構、軍人の交流もここらへんと密接にしていったものと見える。
米に反抗するというのはどうあれここまで来る可能性があるんだと腹をくくったチャベスは大したもん。
■ 中南米の右派人脈
で、中南米といえばクーデター騒ぎは数限りなく行われて来た。米が気に入らないところを変えてきたことはよく知られている。あられもなく知られている。
その実行の最終責任機構はCIAあたりが最大手で、軍と組んでの時もあれば、どっちかが先行することもあるんだろう、みたいな感じなのは間違っていないけど、でももう1つ見逃せないのが、平素から協力者をお世話しておく現実のグループだと思うわけですよ。いわゆる右派のネットワーク。
これの最大手が、おそらく、一昨日ウィロビーのところで指摘した世界反共連盟(World Anti-Communist League)なんだろうと思う。現在の名前は「世界自由民主連盟」。wikiの記述を借りればこんな感じ。
1954年6月15日に李承晩政権下の大韓民国で発足したアジア人民反共連盟(APACL)を国際組織に改組する形で、1966年に蒋介石政権下の中華民国(台湾)台北で結成された[1]。創設には笹川良一や児玉誉士夫ら日本の反共主義者も関わった。爾来世界各地で年次総会を開催し、文鮮明率いる世界基督教統一神霊協会(統一協会)など多数の組織が参加。
ここだけ見ると東アジアの組織みたいでしょ。しかし、現実には冷戦期には東南アジア、中南米、東欧まで広がった、マジものの世界的な反共組織。あるいは世界的な右派人脈ネットワーク。
1970年には京都で世界反共連盟の会議が行われ、佐藤栄作はそこでスピーチをしたそうですが、この人に限らず世界中のかなりの大物の人がこの会議でアジってるのが確認できる。
英語版wikiもまぁまぁ書いてある。たびたびネオナチを支援しているとしてアメリカで問題になっていた。ネオナチどころか、ウィロビーのところで見たようにそもそもナチ信奉者のグループが作ったと言っていい感じさえする。
ファシズムとの戦い変じてファシズム内左右となる
■ 右派人脈とリベラルに垣根がない
でね。右派人脈が脈々と生きているってのはそれはそれとしましょう。
問題は、差別や不安を社会の中で醸成して右派人脈の跋扈を許してクーデターを起こすなど「民主的でない」といわないとならないはずの、あるいは少なくとも一般大衆の多くは各国でそう信じてきた、右派でない側、左派かもしれないしリベラルかもしれないそこは何をしているの?という点。
ここらへんはベネズエラでも、ボリビアでも、考えてみればリビアでもシリアでもウクライナでも、近場では香港でも、暴力的に入っていく側をリベラルは全然非難してない。
それどころかそれらに対応しようとする国家組織をしかりつけて、非難してる。
なんなの、それ、なわけです。
事はヒラリ―を超えてる。ヒラリーは軍産側だから、といった理由でこのへんを解説してみんな納得してるけど、軍産問題だけではない。
で、言うに事欠いて今回の、あまりにもあからさまな軍主導のクーデターに対して、
ニューヨークタイムスは、クーと蜂起の境目は曖昧だとか言い出す。
Bolivia Crisis Shows the Blurry Line Between Coup and Uprising
https://www.nytimes.com › bolivia-evo-morales-coup
実際それはそうなんですよ。民衆が蜂起して王が退陣に追い込まれるってのを近代社会は基本的に歓迎して出来てるわけですから。
しかし、王が外国勢力に頼み込んで武力でクーデターをすることをその国の国民が歓迎しなきゃならんいわれはないでしょう。
ましてある程度秩序が出来ている中にあっては。
要するに、誰にとって、というのが問題ですね。自分で火をつけまわって騒乱が起こって、自分に都合がいいなら「民衆蜂起」(例:ウクライナ危機)、都合が悪けりゃ政府が暴力をふるってる(例:ベネズエラの反抗)、
自分で侵略と人殺しを教唆している時には歴史的な問題、民族の問題云々(例:イスラエル)
反抗されたら宗教指導者が悪い(例:イランのシャーの追い出し)
といった具合。
ということで、民主主義のディフェンダーを標榜するアメリカとか、自由と人権なんちゃらかんちゃらを標榜するEUというのは全称で使うことはできず、右派のやくざ者を世界各地で養成している以上自由だの人権だのという主張はほぼまるっきりの嘘というところまではOKですね。
力の源泉は金融だとしても、それを実現化するためには右派ネットワークの力を借りっぱなしに借りているものと思われる。
それはちょうどアルカイダを使って来たのと似てる。
「ほぼ」と書いたのは英米人だってまるまるこのインチキを飲んでいたわけではないから。おかしいじゃないかと度々やり玉にあがる(例:イランコントラ)。だがそこから覆せなかった。
その時に便利だったのは、そんなことをしたらソ連にとって有利になる、お前は親ソ派、親中派、アカ、レフト、左翼 etc.を罵倒語として使い、現実に見せしめとしてなんらかの不利益を与える仕組みだったんでしょう。
でももうそういう便利なものは有効ではない。
それは論理的にそうなったのではない。誰がどう見てもおかしいのはアメリカ(またはNATO、EU)だと、誰がどう見ても習近平やプーチンはヒラリーよりトランプより、もちろん安倍晋三よりも、策謀による戦争を拒否し、和解や調和の方を選択しているんだな、と多くの人間が知ったからだ。和解や調和のないところに制度的保証のある民主主義など育つわけもないことは自明である。
■ この先
ということで、この先は、現在の秩序を望ましいと思うならその国民はそれを改造しつつ使っていく、ダメだと思うなら自分でレジームチェンジする、っていう、考えてみれば理の当然の話に落ち着く以外の道はないんじゃないですかね。
そして、その中で双方または片方が不必要なまでの暴力を使ったり、焚き付けたりして、著しく不正義ならば国際社会が調停に乗り出し、特に近場のしっかりした国が責任を持つ。
みたいな感じになるのが望ましいのでは? って、これが結局ハーグ会議、国際連盟、国際連合と流れてきた歴史の中で人々がどうあれ達成してきたことと言えるのではなかろうか。
その意味で、実のところ世界の大部分の人々は一致して秩序の安定を求めている。
それがイヤなのが、結局のところゴロツキを影で使っては馬鹿なことをし続けている人々、その最大手がナチをしつらえた人々であり、それを今まで引っ張ってきた世界反共連盟みたいな集団でしょう。あと道徳再武装運動というのも、ここに絡んでくるんだと思う。
最近ぼちぼちこのあたりの資料を読んでいるんだけど、壮絶に愚かしいとしか言いようがない。
日本に関していえば、どうして満洲での敗戦が加味されず、したがってソ連/ロシアとの正常な対話ができないのかという私が疑問に思って思ってさんざん書いてきた状態となったその最大の理由は、結局、南の朝鮮は北の朝鮮とソ連に襲われそうだ、今にも共産勢力に取られてしまいそうだ、から出発するのがこの右派のレゾンデートルだからだと思う。
冷戦中の記事では、米軍が韓国にもっと駐留していなかったから北の侵略を招いたのだとかもあった。いや関係ないでしょ、それ、とかも思う。そもそもあの時点ではソ連と協調して日本軍の敗戦を導いた側にいた北は準備ができていたが、南にはそんなものはなかった、という状態が理解されておらず、あたかも米が最初から頼りになる存在だったとかも読めたりして、何を言っているんだろうって感じ。
というわけで、結局こうやってデマを流して、勝手な「僕の朝鮮戦争」を創作してたんだなぁとか思えて興味深い。
興味深いんだが、どうして日本の歴史家集団がこんなへんな人たちの説に従っていなければならなかったのかはまったく謎。一体全体日本のアカデミアって何?
いずれにしても、ボリビアの犠牲者が少ないことを祈るばかり。
■ オマケ:反共集団のレゾンデートル
アップし終わってから思った。
朝鮮戦争というローカルな戦争をなぜ終わらせられないのか(終わって相互に国家承認したって今と同じような体制にはできるはず。隣国同士「チーム」が違っててもいい)。
それは、
朝鮮の独立にとってもっとも重要だったのはソ連が日本軍を掻き出したことです。北にいた一部の人たちはソ連軍と行動を共にして建国に備えていました。ちょうど東欧諸国と似た状況です。
といったことが明白になると、一切の背景事情を無視して「今にも共産勢力に襲われそうな我々」から組んで来た言論のヤマが、その「今にも」感を基に世界各国を動かして来たそのドライビングフォースが全部無意味なガラクタになるからだろうか。あるいは、漏斗の先っぽが抜けちゃって、だーっと水が流れちゃう、みたいな。
そんなことどうでもいいじゃないの、と私は思うが、物語管理で仕切ってきた西側にとってはそりゃやっぱ痛手でしょう。
「リベラル」が歴史修正主義者だったというお話
■ 関連記事
まったくこれの話。
朝鮮の解放と朝鮮戦争レジーム
ついこないだ報じられた、デモ隊の男子高校生が中国警察から至近距離で発砲された映像など、なるほどかなりショッキングなものでした。
しかし「中国の民主化運動」って、天安門事件の頃からどうにも胡散臭いものが感じられてしょうがないわけです、民衆が鎮圧する官憲からけっこうひどい目にあわされてる部分が現実にあっても。
それは結局のところ、運動の核心たる学生人権活動家たちが(こちらのブログでも以前触れていたように)やたら「アメリカと仲良し」だということに尽きます。
天安門事件で中核的な学生たちが当局の拘束を逃れるために真っ先に頼ったのはアメリカでしたし、香港でもやっぱりアメリカ総領事館の職員とコソコソ会ったりしている。
韓国で民主化闘争が激化していた1980年代、学生たちの主敵は軍事独裁政権であるとともにそれを裏支えするアメリカでした(民主化闘争において反米闘争が重要側面だと彼らがはっきり自覚したきっかけは、もちろん光州事件です)。
そういう様をさんざん見てきた者の一人としては、中国・香港の学生たちの運動にどうしようもなく違和感を感じますし、その訴えがどれだけ正統性を担えるのか、どうしても疑問符をつけざるを得ません。
そう考えると冒頭で触れた、ショッキングかつ鮮明な発砲映像を日本のテレビがまったく修正など加えることもなく、繰り返しゴールデンタイムのニュースに乗せている(日本の放送事情からするとかなり異例だと思います)のは
「まあ『そういうこと』なんだろう」
という結論にしかならないわけです。