トランプは3日前、興味深いことを言った。
CNNのビル・オライリーがトランプと対面してインタビューする中で、ロシアとの関係をよくしようとするトランプはプーチンをrespectするかと尋ねられて、I do respect him(彼をリスペクトしてます)といって多少理由づけを語った。するとオライリーは、プーチンを、he's a killer(彼は殺人者)、と2回繰り返した。
トランプは、こう答えた。
いっぱい殺人者がいますよ。私たちにもたくさんいます。あなたは私たちの国がとっても無実だと思っているんですか?
A lot of killers. Got a lot of killers. You think our country's so innocent?
Trump: 'You think our country's so innocent?'
これって、多くの人、ことにアメリカ人じゃない人にとっては、何を当然のことを言っているんだ、なわけです。お前ら殺人嗜好強すぎだろう、ぐらい思っているわけですから。あはは。
だけど、これはアメリカ国内の政治においては、「異端」を告白したようなものではありますまいか。
■ ケネディを思い出した
で、私はこれを見て、ケネディを思い出した。
ケネディは1963年、名高い「アメリカン大学卒業式での演説」で、ソ連について次のように語った。
第二に、ソ連に対するわれわれの態度を再検討しましょう。たしかに、ソ連の指導者たちが彼らのプロパガンダの内容を本当に信じているかもしれないと思うと、落胆を禁じ得ません。最近のソ連の軍事戦略に関する公式文書には、無根拠で信用できない主張がどのページにも並んでいます。たとえば、(中略)
聖書に「悪しき者は追う人もないのに逃げる」と書かれていますが、まさしくそのとおりです。それでも、そのようなソ連の文書を読んで、わが国とソ連との間にある溝の深さを知ると、暗澹たる気持ちになります。そしてこれは、アメリカの人々に対する警告でもあります。アメリカはソ連と同じ過ちを犯してはならない、歪曲され、望みを失った、一方的な見解に注目してはならない、紛争は不可避、協調は不可能、対話とは互いに威嚇しあうことだ、と考えてはならない、と警告しているのです。
どのような政府や社会制度であっても、そこで暮らす人々を徳のない人々だと見なさなければならないほど、有害ではありません。アメリカ国民であるわれわれは、個人の自由と尊厳を否定するものとして、共産主義を深く嫌悪しています。それでも、科学や宇宙の進歩、経済や工業の発展、文化、いくつかの勇敢な行動でソ連の人々が見せた多くの偉業を讃えることはできます。
この演説で特筆すべきところは、ケネディはソ連の人たちを、彼らも人間だと思ってることだと思う。
これもまた、上のトランプと同じで、これにわざわざ注目しなければならないことそれ自体が人類としては誠に嘆かわしいんだけど、でも、アメリカの覇権体制にあってはこれこそしばしばタブーだったと言っていいでしょう。
なぜなら、倒すべき相手は「邪悪」だから。上の翻訳文は大変格調が高い、穏やかな文なんだけど、「有害ではありません」と言っているところは、有害ではなくて「evil」。これはニュアンスとして宗教道徳っぽい。そして、アメリカの政治家たちは繰り返し繰り返し、敵を evil(邪悪)であると認定している。
言語のスクリプトはここ。ここに動画もついてる。
率直にいって、アメリカ国民がどう考えるかにかかわらず、アメリカあるいは西側は過去70年、ゲッペルスもしくはナチズムの思想的後継者になっていた部分が多分にある。昨日書いた総力戦演説のお話。
■ プロ・ケネディーのアイルランド系カトリック
それはそれとして、で、さらに、もう一つ思い出した。それは、トランプの参謀だと言われているスティーブ・バノン氏のこと。アメリカ合衆国首席戦略官として、情報アクセス権限がとても大きいポジションに就いた。
彼については現在、禍々しいトーンで不気味化されようとしているっぽい。で、実際かなり難しい人っぽくはあるので、私は彼について何か言えるほど知ってない。
が、一つ知ってる。とういか、去年結構盛大に主要メディアに出ていた。
ブルームバーグが行ったインタビューで彼は自分を、
私はブルーカラーの出身で、アイルランド系カトリック、親ケネディ、親ユニオンの民主党支持者の家庭で育ちました。
“I come from a blue-collar, Irish Catholic, pro-Kennedy, pro-union family of Democrats,” Mr Bannon told Bloomberg.
と言っている。その後軍歴についてジミー・カーターが無茶苦茶にするのを肌身で知って、腹をたて、レーガンシンパになった、と。
私はこれって単なるプロファイルじゃなくて、とっても重要なステートメントだと思う。
なんてか、アイルランド系カトリックで親ケネディというだけで、イングランド上層部は排除決定だろうなとか笑いたくなるものがある。笑いごとじゃないと思うけど。
で、このプロフィールを見ると、トランプが語ってる内容に思い当たる節はあるし、右からも左からも、それはそれなりに支持が集まる理由もあると思うのね。怪しいと思ってたところに切り込むんだな、というシグナルだったんでしょう、これ。
で、これを自分で発言し、ブルームバーグが伝えて、テレグラフ等々には載っていたが、それ以外では、バノンといえば白人至上主義者で云々が先に来ていたと思う、という私の観測も一応メモしておこう。
で、折しも今年2017年10月にケネディ暗殺に関するファイルの残りの部分が開示される。
この件は、まぁアメリカ人頑張って衝撃に耐えてください、としか思わないんだけど、私が注目しているのはそこじゃなくて、カーターがどうしたこうしたというのは要するにイラン革命問題ですよね。大使館人質事件の失敗に憤慨しているだけだったら、その程度の男だなだけど、そうでなかったら・・・と不安(期待?)がよぎる。
これをどう考えているのかが今後を占う上でとても重要でとても危険。
■ フリン
ここにさらに、マイケル・フリンがいる。こっちは政治にはアウトサイダーだが、情報機関の非常に上位のところを歴任した元陸軍大将。
フリンについては昨年11月に私はこんなことを書いていた。
で、多分主要メディアの記事にはもれなく、イスラムに対して強硬だと書いてあると思うんだけど、それが既にトリッキーだと私は思うなぁ。
フリンは、普通のムスリムの人を攻撃しているわけではない。イスラムというのは政治的イデオロギーで、わけても非常に問題なイデオロギーがある、これが過激派となっている。これは普通にイスラムとかムスリムとか言うんじゃなくて、ちゃんと定義して言うべきなんだ、これを放置することはホントに危険だ、という態度なの。
これは、よくよく考えると、実に実に実にthe West のある種の秘密を暴露しかねない態度なわけですよ。
トランプ、ホントにフリンを起用するらしい
と、こっちは場合によってはアフガニスタンに送り込んだいわゆるムジャヒディーン問題に射程が及ぶ可能性が高い。つか、まぁそうならざるを得ない。
バノンとフリンをあわせると、なんだかプリンとかヨーグルトの名前みたいだけど、いやそれはともかく、イラン革命、アフガニスタン侵攻あたりにフォーカスがいく。行かざるを得ない。楽しみ! とか簡単に言えそうにないのが大変ですが、まぁでも楽しみ。
このへんは現代史の盲点かも。いやアフガン側の話はロシア系がほじくるから結構詳しくわかっているんだけど、イラン側のそれはフォーカスがあてられて来なかったと思う。
というわけで、トランプの一つの発言の奥にざらざらっと繋がって見えるものを書いてみました。
で、改めて思うのは、そりゃトランプ政権を無効化したいと思う人は多いだろうなということでしょうか。どうなりますことやら。
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思わず笑わせてもらいました。いやほんと外務省の黒塗り要請が連発しそうですよね。大忙し?