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ロシアのやろうとしていることはシリア危機より大きかった

2015-09-24 14:16:45 | 欧州情勢複雑怪奇

ロシアはシリアで何をしようとしているのかについてのThe Sakerさんの記事を「マスコミに載らない海外記事」さんが訳してくださっていた話の続きを書こうとしていたら、事態がアップデートされていった。前回はこれ

アメリカ言論異端の系譜-ロシアの話に行く前に

で、まずは、基本的にSakerさんが読んだ通りだと思う。

つまりこれ。引用させていただくと、

言い換えれば、タルトゥースだけに限定したり、非常に無防備なダマスカスに入り込んだりするのではなく、ロシアは、シリア北部の戦闘地域に機器や軍隊さえ送り込むのに使える新たな橋頭堡を、シリア北部に作り出したように見える。

<中略>

起きていると思われることはこうだ。ロシアは、どうやら、ある種限定されているが、シリア軍を緊急支援するための重要な機器を送っているのだ。そう することで、彼らは選択の自由を確保しておくための条件も生み出している。だから、本格的なロシア介入は起きていないが、シリア紛争において、何かが大きく変化したのだ

一言でいえば、ここのところ起こっているのは、ロシア軍の本格介入といった目立つけど何の意味があるのか不明な話ではなくて、ロジスティックスを整えて、シリアを守る形をより確かにしています、という話でしょう。

そこで、ISは断じて許さないとアメリカが言っているその言葉が真実であるのなら、彼らこそこうやって話と行動を整えていく必要があるわけですが、それができずに、あいかわらず、反アサドの野党穏健派という名のアルカイダの一部を支援するべきだ~とかいう声がわいちゃうのがアメリカ。

だから、ロシアの行動は、アメリカの曖昧さ(というか騙し)を表面化させているという効果も大きい。プーチンの行動にもっともよく反応しているのはおそらくアメリカ国民なのではなかろうかと思う。

このへんでパット・ブキャナンの記事について書いた通り:シリア情勢:アメリカ、ロシアとお話しようと思うんだ


■ プーチン、トルコ、イスラエル首脳と会談

そんな中、関係諸国がモスクワを訪問し、プーチンと会談している。

イスラエルのネタニヤフ首相。

イスラエル ロシアのアサド政権支援に懸念
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150922/k10010244141000.html

この中でネタニヤフ首相は、シリアと隣接する国境付近の情勢について、「ここ数か月、一層複雑化している」と指摘し、ロシアがアサド政権に対する軍事支援を続ければ、イスラエルと敵対する勢力にも最新の武器が流れ、大きな脅威になるとして、懸念を伝えました。
これに対しプーチン大統領は、ロシアの武器は流出していないとの認識を示したうえで、「シリアはイスラエルに対して新たな戦線を構える余裕などない」と述べ、イスラエルにとって心配には当たらないという考えを示しました。

どうでもいいような気もするけど、NHKは、なぜここが「ロシアの武器は流出していない」となったのだろうとちょっと気になったので書いておく。

欧米の報道を見る限り、ネタニヤフは、イランやシリアはヒズボラを支援してる、ヒズボラはモダンな兵器を使ってる、と懸念を示し、プーチンは、知ってるけどそれはホームメード(自分ち)で作ったんだと思うよ、と答えたという話に見えた。つまり、シリア、イランの関与をぼやかしたというかやんわり否定、みたいな感じ。

ロシア大統領府のスクリプトも、

ネタニヤフ:

As you know, Iran and Syria are arming the radical Islamic terrorist group Hezbollah with modern weapons aimed against our citizens,

プーチン:

As for the firing into Israeli territory, we are aware of these attacks and we condemn them. As I understand the situation, these attacks are being carried out using back-yard production weapons systems.

http://en.kremlin.ru/events/president/news/50335

まぁ別のソースなのかもしれない。しかし基本構造的に、イスラエルが懸念しているのは、イラン-ヒズボラ-シリアが繋がってしまってしまう構造がまず第一じゃないっすかね。

あと、無節操に民間人というか潜在的テロリストグループに武器を流し続けているのはアメリカ。これはもうリビアを崩した後のぐだぐだあたりから公知といっていいぐらい。

でもって、イスラエルはそんな武器の流出なんて話じゃなくてもっと構造的な話だと思うな。もっと政治的というか。だからこそ、

今回、ネタニヤフ首相には、軍の制服組のトップなどが随行し、イスラエル側は、ロシア軍機が軍事支援のためシリア領内に入っているとみられることを念頭に、イスラエル軍機との間で偶発的な衝突を起こすことがないよう協議したものとみられます。

軍の制服組を引き連れて出かけて行ったのはイスラエルの方だ、という点が最も重要でしょう。

次、トルコ。

ロシア・トルコ首脳が会談=「イスラム国」、シリア軍事支援で
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150923-00000119-jij-int

プーチン大統領は28日に控える国連総会演説で、アサド政権を中心とした対「イスラム国」共同戦線を国際社会に正式に提案する予定だ。

23日のエルドアン大統領との会談で、トルコの協力を直接呼び掛けた可能性がある。

■ モスクワに大きなモスクを開く

しかし、エルドアンのモスクワ訪問の主たる目的はもっとあった。それはモスクワに欧州屈指の大きなモスクを作ったのでそのオープンセレモニーに出席すること。

Putin, Abbas, Erdogan attend Moscow Grand Mosque opening ceremony

オープニングセレモニーでプーチンは、ロシアのムスリムはこれからもあらゆる面でロシアに参加していくし、それによって民族間、宗教間の対話の発展に寄与していくことになるでしょうということを語っていた。

ロシアとムスリムって、要するにモンゴルとロシアの話でもあるので、俺たちはバラバラに排他的になるってことはないんだよ、ということを表現し、表明しているんでしょう。

そしてそれら全部を含めてここにロシアがあって、そのロシアの伝統を傷つけることは許さない、逆にいえば、ロシアにマイノリティーは存在しない、ロシアを愛するものはみんなロシア人だ、っていう昔からの理屈があるので、単なる無軌道な多文化主義とは大きくことなる。

それはまた、ロシアの周辺の諸民族と自身の戦いを顧みる話でもあり、それ以上にその諸民族を焚き付けてはロシアを揺るがしてきた the West さんたちへの、ロシアからの別のアプローチだよ~ん、ってことだとも思う。

俺たちは調和的に生きられるという確信なんでしょうね。ロマノフ朝がそうであったように、と言える部分も実際あるしね。

■ ISテロリストのイデオロギーは嘘とイスラムの曲解に基づく

さらにその前日には、大統領は、イスラム国のテロリストらのイデオロギーは、イスラムそのものじゃなくて、嘘と詭弁に基づくものだと断罪してた。

Putin: Islamic State terrorists’ ideology based on lie, perversion of Islam
http://tass.ru/en/politics/823072

その上で、ムスリムの文化と科学的アプローチの教育の中心が必要で、だけどそれは最終的にはこの宗教の信徒さんらを結びつけるようなものだよ、と語ったそうだ。

これも、the West による、急激な、自由と民主主義を唱えればあなたも今日から西側教徒みたいな、インチキってかお手軽ってか、暴力的なアプローチに対する大きな抵抗というべきでしょう。

だから一貫して、ワンワールド主義みたいな妄想はやめろキャンペーンをやってるんだよね、これは。世の中いろんな人がいてだな、いろんな文明があって、いろんな言語をしゃべるやつがいる。いろんな法があるとすればそれはみんないろんな文化、文明の所産なんだよ、変えたから変わった、変わらない奴は敵だ、みたいなアプローチは成功しないんだよ(俺らはソ連で失敗したというエビデンスもある、という言い方もしたことがある)、みたいなことを一貫して伝道して歩いてる。そのうちプーチン師とか呼ばれるんじゃないか。あはは。


■ ロシアのやろうとしていることはシリア危機より大きかった

そういうわけで、現在ロシアが行っていることは、多分シリア危機そのものよりも大きな話だと思う。でもって過去数年間もずっとだいたい同じテーマでやってる気がする。

少なくとも、イラク、リビア、シリアを崩して、中東を大混乱に陥れて、そこを効果的に支配できるといいなぁ~とかいう頭の腐った話よりも、多分、ずっと裾野が広い。

前にも書いた通り、ソ連の復活でも、ロシア帝国の復活でもなく、モンゴル帝国の復活みたいな話になってる。

このへんで書いた通り。

みんなモンゴルだよ

でも、それを覇権国家がどうしたとか一極支配がどうしたとかじゃなくて、文明的に共存できるんじゃないの、ちまちま争うこともいっぱいあるだろうがいいとこ出しあえばいいんだし、みたいな感じでやってる風が新しいのかもしれない。

多分、divide and rule(分断と支配)やらハルマゲドン妄想に振りまわされ殺しまくられた諸国民、とりわけイスラム教をベースにした社会の人々にとっては、これはgood news(福音)になっちゃうんじゃなかろうか。

どうする the West!

■ まとめ

適当にまとめてみるに、まずグランドデザインは、イスラムを原理主義に作り変えてテロリストにしてそれらを撃つと称してユーラシア中央部を攻撃するという、アメリカ(というか西側)が1970年代から取ってきた方針、要するにムジャヒディーン投入作戦の崩壊機会を誘導し、それを止めさせる、ってことじゃないでしょうか。

で、シリア危機はこの長い動きの中の結節点みたいなものなので、ここを解くことで上記目標を達成する機会と捉えている、という感じではなかろうかと思う。

そうなると、実は問題となっているのはこのムジャヒディーン投入作戦において中心的役割を担ってきた(その意味においてムスリムの裏切り者でもある)トルコの身の振り方が非常に重要になるのだろう。しかし、エルドアンはそれ以前の大統領たちと違ってムスリムの大義を復興させた方なので、既にこの方針を半分内諾しているようなものだった、というところもあるのかもしれない。

イスラエルは、パレスチナとの共存以外に存続の道はない。


 

文明の衝突
Samuel P. Huntington,鈴木 主税
集英社

 

モンゴル帝国と長いその後 (興亡の世界史)
杉山 正明
講談社

 


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5 コメント

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Unknown (NEET)
2015-09-28 17:05:13
>ブログ主様

返信ありがとうございます
信じていたのに裏切ったな!というのは割とヤンデレ風味(ネットスラングだけども)

雪女みたいな古典とかが普通にありそう
そう言えば自殺はロシア名物だけれども関係あるかもしれませんね
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危険度は高い多分 (ブログ主)
2015-09-28 12:29:42
NEETさんはじめまして。
実際危険度が高い考え方だと思います。非国民、裏切り問題は常に彼らのテーマみたいなものですから。

ただ、妙な寛容性が常にあるってのも本当なんですよね(だから裏切者が入りやすいんでしょうが)。特に周辺集団が過剰に民族主義的な時、ロシアはより小さな集団にとっての保護者みたいになったりするのも面白い。
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Unknown (NEET)
2015-09-27 17:21:31
>そしてそれら全部を含めてここにロシアがあって、そのロシアの伝統を傷つけることは許さない、逆にいえば、ロシアにマイノリティーは存在しない、ロシアを愛するものはみんなロシア人だ、っていう昔からの理屈があるので、単なる無軌道な多文化主義とは大きくことなる。

これは、非国民を生み出す危険性がむちゃくちゃ高い思想でもある気がしてならない
某パラノイアじゃないけれども

エマニュエル・トッドの4つの分類の大家族様式と関係あるでしょうねえ

あと私はわからないけれども、ロシアの文学と絡めれば、この背景を詳しく説明できると思います
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聖戦の戦士 (ブログ主)
2015-09-25 14:44:29
いやいや、もうムジャヒディーンからずっと冒涜してきてると思うんですよね、イスラムを。

でもはたと、戦前の日本も要するにムジャヒディーンのようなものだったかもしれないです。維新以来。
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『イスラム国は連合赤軍』 (ローレライ)
2015-09-25 08:34:41
『連合赤軍』が左翼を閉塞させたように『偽カリフイスラム国』もイスラム勢力の『トラウマ』にする為の陰謀とも言われてますね。
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