春先から出ていた話だと思うが、それに対して自民党の有志がオンタリオ州議会に意見書を送付したというのでニュースになったのかな。
南京大虐殺巡りカナダ州議会に意見書 自民有志14人
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS20H15_Q7A820C1000000/
衛藤征士郎元衆院副議長ら自民党の有志議員14人が、カナダ東部オンタリオ州で「南京大虐殺記念日」を制定する動きがあるとして、州議会に「関係国間で好ましくない論争を引き起こす可能性がある」と懸念を伝える意見書を送付した。党関係者が20日、明らかにした。
今年は1937年に南京戦があってから80周年と区切りがいい年なので提案されていたんでしょう。
China welcomes Canadian province's Nanjing Massacre Commemorative Day bill
http://news.xinhuanet.com/english/2017-08/21/c_136543288.htm
9月になったら議会が開かれるのでそこが焦点らしい。
旧日本軍が南京を占領した12月13日を「南京大虐殺記念日」と定める法案が州議会に提出された。中国系の議員が提案した。外交筋によると、9月からの州議会で法案を審議する可能性があるという。有志議員側は「放置しておくと、歴史問題を巡る新たな火種になる」(党中堅)として、外務省にも対応を求めている。
しかし、有志の議員の筆頭格に親台派で有名な衛藤征士郎氏とか、衛藤晟一氏とかかなりコアな日本会議っぽい人たちが出てくるって、何か、自ら問題を複雑にしてる気がする。
さらにいえば、そもそも、南京虐殺は「なかった」とかいう極端なことを政治主張みたいにする過去20年ぐらいの動きがなかったら、こんな記念日制定などという話にもなっていないようにも思う。
この問題は、そこはかとなく皇族を庇っているようなところがあるから、昔の人たちが責任をかぶって曖昧にしつつそれでよしにしたことを、後のバカ者がひっかきまわした事件とも言えると思う。だからこの点からも問題を複雑にしたといえるでしょうし、それが最終的には日本へのダメージになりそうな気配もなくはないなぁとかも思う。
■ カナダ総督、リベラル、保守
それはそれとして、カナダ。なんでカナダなんだと怒っている人たちがネット上に多数見える。多くの場合、チャイニーズ、コリアンの移民が多いからこうなるとも言っている。
実際それはそう。でも、インド系も相当多いし、カナダの特にオンタリオ州は国連が開けるんじゃないかというぐらい世界中からの移民が集まってる州。だから、チャイニーズだけに政治力があると考えるのはちょっと違うし、そこに論点を持っていくと、ま~た日本人がチャイナに対抗意識持ってるんだわなぁみたいにみなされると思う。
とはいえ、実際カナダはチャイナと非常に縁が深いと言っていいでしょう。それは移民が多いから、というより、実際チャイニーズは今後勃興するとかなり早くから想定していたように思うし、イギリスの香港返還を穏便にしたがっていたのは明白だった。で、だからこそつい10数年前までのカナダの総督は民族的にはまったくのチャイニーズだったんでしょう。
エイドリアン・クラークソン総督は、両親ともにチャイニーズの香港出身の女性。
そういえば、レイプ・オブ・南京が流行りに流行っていた頃の総督はクラークソン氏だった。でもって、その頃はリベラル政権で、現在もリベラル政権。で、その間、保守党のハーパー政権になって、チャイナ・コリア系による慰安婦問題の非難決議で多少なりともこれを遮っていた記憶がある(それはチャイニーズの人の問題でカナダの問題ではない、と言っていた記憶がある)。
というわけで、状況的には日本にとってアゲインストっぽい。とはいえ、私は別に衛藤征士郎と同じ歴史観を持っていないので、危機的にアゲインストだとは思わないが、日本とカナダの間で感情的なこじれが生まれるのもなぁと思うのでそう表現している。
■ 連合軍の一角の行為
ということで、カナダの現状から考えると、カナダにはチャイニーズの移民が多いからというより、カナダはそもそもチャイナとの友好的な関係を望んでそうしているからこうなってるんでしょ、と考える方がより適切だと思う。日本人が好むと好まざるとにかかわらず。
また、日本人が好むと好まざるとにかかわらず、カナダも連合軍の一角を占めているという視点も重要。
日本人は、どういうわけか、というより過去70年間のある種のプロパガンダ作戦の一つとして、日本の敵は連合した国々だったということを忘れていることが多いように思う。
それは多分、アメリカに負けるのは了承できるがソ連や中国など許せん、という自己都合の歴史観の故でしょう。
また、連合国というとアメリカ、ソ連、中華民国、イギリスがビッグ4で、残りはたいしたことねー、植民地のくせに、ぐらいに思っているようでもある。が、カナダ、オーストラリアは1939年から連合国の側にいる重要な戦力だし、イギリスは工作や政治は盛大にやっているものの現実には既に単独では力がないから、これらの自治領は非常に重要な味方だった。
日本との間ではあまり活躍が見られないが(イギリスとやっている戦闘でカナダ兵がいるケースはあったかもしれない)、欧州は特に西欧州に広く展開していてそれなりに良い働きをしていたことが知られている。第一次、第二次共にいわゆるlow countries(オランダとかそのへん)に展開することが多かった。また、カナダ東部にはドイツ軍がUボートを侵入させているので、反ドイツ、反枢軸感情は強かった。多分アメリカ本体より強い。なぜならそもそもイギリス系、フランス系の人たちばっかりの国だったから。
ということなので、本人たちは立派に連合国の一員だと認識しているし、現在はNATOの一角なので、より以上に自分たちは西側の重要な一員であるという意識がゲロ高い。
そこで、いかにもニュートラルなことを言いながらなんらかの工作を仕掛けてくる際にカナダは重宝されているんだろうと私は思っている。イギリスが言えないことを言い出すとか、いかにもそれがリベラルな大義とあっているかのような錯覚を人々に呼び起こさせるようなことを言い出すとか、そういう時。そう、カナダはリベラル帝国主義の先駆的行動に非常に適しているって感じがする。
(カナダファンの人たちにはすまないが、だって結局NATOの不法行為について口をつぐむ人たちに、本当の意味でのリベラル要素なんかあるわけないじゃん、と私は考えますよ。ナチの子分を庇ったのもカナダ、アメリカなんだし)。
というところで、そのカナダが「南京大虐殺記念日」を制定するというのは、またぞろ何か北米のリベラル勢が動くんだろうかと思ってみたりはする。
そしてそれを受ける日本が「自民党の有志」なるどうしようもなく悪手の人材(笑)。危機的な状況が生まれそうな予感しかしない。ここらへん、日本の国内問題が一番問題なんですよね、実は。そう思って、外から目いっぱいつついてもらって話を整理するのもいいのかもしれない。酷い話になりそうだが。ああ、嫌だわ、ほんと。
■ オマケ
そうそう、オンタリオ州を「カナダ東部のオンタリオ州」と書くと、なんだかカナダ東部の小さい州みたいに思う人がいそうな気がするけど、オンタリオ州って、金融の中心トロント、政治の中心オタワを抱えた、カナダの歴史が詰まったまったくの中心の州です。だから、ここの動きを1つの州の動きにすぎない、みたいな考えるのは間違ってると思う。
あえてこんなことを書くのは、日本って、カナダといえばバンクーバーと思ってる人が多数いるとかねがね思ってるから。これは観光ガイドブックから政治記事までみんなそう。
このへん、カリフォルニアをもってアメリカと思ってしまう日本人が多数いるのと同じかも。しかし、東部と西部は様々な点で常に違う。私にとってのアメリカ、僕にとってのカナダ像とは別に、全体で見ようとする場合、依然として歴史的、文化的、政治的には東部こそ中心なんだと思った方が手堅いと思う。そしてそれは何を意味するのかというと、北米2国は所詮は西欧州の拡張だということじゃないかなぁとしばしば思う。
これ、本当にそう。
在米年数が重なるにつれ、この国には言論上のタブーがあると実感するようになった。そして、そのタブーは欧州発ではないかと思う。ブログ主さんのおっしゃるリベラル帝国主義とは、実はこのタブー抜きでは実態が説明できない、というか、タブー本体の世界観そのものではないかと、思うようになった。
ネット上の言論も厳重に監視されている昨今、ストレートに言えないのがもどかしい。