ついに来ましたね。ざっくり言って独仏中心のEU軍創設といったところ。
常設の軍事枠組みで署名、独仏など欧州23カ国
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2341127013112017FF2000/
【ブリュッセル=森本学】欧州連合(EU)加盟28カ国のうち、ドイツやフランスなど23カ国が13日、常設の軍事協力の枠組みの設立に関する共同文書に署名した。今後、EUの閣僚理事会で設立を正式に決め、12月に発足する見通し。軍事関連技術の共同開発などを進め、英離脱で揺らぐEUの結束力を高める。
常設枠組みは、防衛連携に意欲的な有志国による協力拡大を進めやすくするため、2009年発効の「リスボン条約」に明記。しかし「EU軍」の創設につながると警戒する英国の反対でこれまで実現してこなかった。英国のEU離脱決定を受け、独仏主導で議論が加速。6月のEU首脳会議で創設を目指す姿勢で一致していた。
入らないのは、イギリス、デンマーク、アイルランド、ポルトガル、マルタ。オーストリアはこれまで中立だったが加盟するようだ。
この記事には一言も書いてないし、他の記事でもあまり積極的に触れられていないけど、これは事実上NATO体制を崩すという意味と考えるべきでしょう。
EU signs defense pact in decades-long quest
ずっと50年代からあった欧州軍創設問題が可能になったのは、これまではNATOが反対していたが、今回は賛成に回ったこと、そして反対し続けていたイギリスがEUから抜けるから。NATOが賛成した理由は、これで軍事力が強化できる、と言っているようなのでこの組織がどうなるのかはまだ流動的ではあるけど。
Unlike past attempts, the U.S.-led NATO alliance backs the project, aiming to benefit from stronger militaries.
欧州軍の創設に弾みがついたのは、ロシアがクリミアを「併合」するような動きがあったからだと多くの国のリーダーたちは語った、みたいなことがロイターの記事に書かれていたけど、これってものは言いようでしょう(笑)。
NATOを放置すると、とんでもない取り組みに入れられるかもしれないから、これはもう別組織を考えないとならないといよいよ決断したという話でしょう。
欧州軍創設までのタイムラインはこれ。
Chronology: Europe's long road in search of a common defense
こうなってくると、どうしてトルコがロシアに傾いたかもはっきりとした理由が見えますね。NATOは今後もぬけの殻になる見込みだから、ってことだし、そもそもトルコは欧州軍には入れそうもない。
また、フランスでルペンが出て来たのはこれを嫌がった層がいるからだと思う。ドイツに呑まれるという意識でもあり、別の見方をすれば、イギリスが仕掛ける地政学イベントで常に欧州側でそれを受けて来た、大陸側への橋頭保としてのフランスが終わりになるということを阻止したい人たちがいたということでしょう。結果、マクロンが出て来たわけだから、つまりあの人の後ろの人たちはこれでいいと考えたんでしょうね。
ただ、仏独に、英米ほど諸国をまとめらる能力も経験もあるとは思えないので、今後大変だと思う。肝は東欧のどこかが跳ね上がって喧嘩したいと言ってもロシアと喧嘩しないことでしょう。やったら結果的に東欧が離れる。(現在、ポーランドが政治的に混乱してるのは、立ち位置が不明になっているからということですね)
ずーっとドイツが手を変え品を変えといういった感じでモスクワ訪問を繰り返していたのは、欧州軍の意図、欧州とロシアの関係の今後を確認するためじゃないっすかね。ドイツが再びヒトラー率いるドイツになる可能性は皆無ではないわけだし、ロシア大統領としては、ウクライナをあんなにしたドイツに再びエールを送る、みたいなことは国民向けにできないっしょ。だから、ウクライナをどうするのか問題を解決しないと多分、ロシアは欧州軍に対して冷ややかな視線を浴びせ続けるといった格好となる、でしょう。ロジカルには。
ドイツ大統領訪問時にTASSがこの写真を載せたのは現在を表したなという感じがする。ドイツがもじもじし、ロシアが、大丈夫なのかよ、冗談じゃないだろーウクライナどうするんだよ、ウクライナもロシアも同じロシア人だ、なんで喧嘩させるんだ、あんたら75年前に理解してなかったのか、そんなら東ドイツ人と西ドイツ人は違うドイツ人なのか、何か言ってみろよ、みたいな(笑)
全体として、重心がユーラシア側に移ったとも言える。ユーラシアでの発展が見込めるなら、大西洋同盟擁護派(いわゆる Atlantist)が弱まるのも無理はない。
あと、こういうのを指して田中宇さんなら、「対米自立」を促しているのだと書くんだろうけど、そういうことじゃないと思いますね。米も自立を指向するんですから。
要するに、直近70年を含めてざっと200年ぐらい、いわゆるdeep state支配が強力すぎたところを、解いているんだと思います。
この支配は、各国の買弁政治家を金融、軍事イベントで追い詰め、メディア支配で話しを作って整合性を持たせて各国民をひっぱるというメカニズム。それは嘘を含む、あるいは嘘に立脚しているため、必然的に洗脳と恐怖支配に向かうしかない。まぁステルス性ファシズムみたいなものかしら。で、それはもう限界なの、ってところでしょう。中露が乗らないといっている以上、その物語は崩壊する道以外ないとも言えますね。このへんは後でもう一回書こうと思う。
アメリカは、欧州側からロシアに立ち向かうという、ナチスの後裔みたいな恰好になった冷戦体制が終われば、将来ロシアと一対一で是々非々の、そう悪くない関係になる可能性が考えられると思うな。場合によっては史上最強の同盟も夢じゃない(笑)。しかしロシア人の方は、余裕を見て付き合うのが吉でしょう。騙されてはいけない、騙されてはいけないと各人紙に書いて神棚に貼っておく、と。
また、欧州軍にイギリスがいなければ、ロシアを攻める、ロシアを取る、食う、壊すというシオニスト系の人たちの影響力も下がりそう。英仏が割れたのも好ましい。
イスラエルの立ち位置の修正(が来るだろうと思ってますが)を含め、これで、19世紀のクリミア戦争あたりから以降の秩序(というより「正史」)が崩壊する、みたいな感じがする。
2015年に成立したこの印象的な状況は、地中海東岸はモスクワ幕府一時お預かり、といった趣がありあり。
こうなるとイギリスはどうするんでしょうね。カナダ、オーストリア、NZ、そして日本、多少インド、といった拡大英連邦みたいになるんでしょうか。
というわけで、今後まだまだ山あり谷ありでしょうが、ともあれ、基地外NATOの消滅の目途が立ったことは誠に喜ばしい。
これは、戦後体制≒冷戦体制をようやく崩壊させられる目途がつきましたといったところ。
そして、ウクライナでクーデターが起きたその日から、悪いのはthe Westだと言い続けたミアシャイマー氏らのアメリカのリアリスト系の人たちは、このまま行けばNATOを含めたアメリカの戦後体制が、無秩序に崩壊する可能性を見たんじゃないですかね。無茶をしたら割れるような組織なんだ、そもそも、ということ。
NATO東方拡大の20年後
ウクライナ危機は西側の過失 by ジョン・ミアシャイマー
ということで、いろいろ陰謀論を考えたくもなりますが、それはそれとして、今後が楽しみ。混乱こそ欧州だわぁって感じ。
Tokyo Defenceさんwww.tokyo-dar.com/news/2740/