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グレートゲーム v.2.2: プーチンのインド訪問

2014-12-12 21:57:17 | アジア情勢複雑怪奇

アジアシフトとかpivot to Asiaとかオバマも言ってたけど、本当にアジアシフトを大きく行ったのは実はロシアだったという年になりました。それもこれもみんなオバマさんのおかげですね、はい。

で、前々から予定されていたインド訪問を行ったプーチン。

インドのモディ、ロシアのプーチン、トルコのエルドアンはそれぞれ利害がかちあいながらも気心が知れているように見えるだけでなく、各国とも浮き沈みはいろいろあるにせよ一貫して自国の独立に大きなバリューを置いているところは共通していると思う。もちろんこの中でいえばトルコが抱える問題が一番大きい。

ロシアとインド エネルギーなどで関係強化
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141212/k10013910751000.html

ロシアのプーチン大統領は、11日、インドの首都ニューデリーでモディ首相と会談しました。
この中で両首脳は、ロシアからインドへのガスパイプラインの整備に向けた共同調査を行うことや、ロシアの技術でインドに原子炉を10基以上新設する計画を進めることなどで合意しました。

パイプラインはそれはそれとして、ここでもまた原子炉が来た。ロスアトム(ロシアの原発屋さん)はそんなに作れるんだろうかというほど発注を受けている気がする。RTによれば2035年までに12基の契約らしい。

Going Nuclear: Russia and India agree to build 12 power reactors by 2035
http://rt.com/business/213411-going-nuclear-russia-india/

トルコ、イラン、インド、フィンランドで受注してるし、つい昨日だったかハンガリーも新設決定だそうだ。一回作ったら関係は長いわけだし、トルコなんか殆ど新設の産業なわけで、ロシアの原子力チームは当分仕事に困らないって感じじゃなかろうか。

あと、石油探索にインド資本を呼び込んでいるようだ。欧米が制裁をかけて自分でロシアから出ている状況なので、チャイナとインド資本が入っていくのは自然な流れでしょう。しかし、これってどんな政策なの、欧米さんチーム?という疑念は募るばかり。

面白いところでは、ダイアモンド取引を活性化するというあたり。ロシアはダイアモンドも多量に持っている国。でもってダイアモンドといえばアントワープ、ニューヨーク、そしてユダヤ人のビジネスと言われている。このへんの絶対に不透明、絶対に怖い世界(笑)の駆け引きに乗れるのがインド人。思えばインド人とロシア人の組み合わせというのは強い組み合わせなんだよなとも思う。

■ インドとロシアはベストフレンド

それはそれとして、我が方の報道。上のNHK。

プーチン大統領としては、インドはウクライナ情勢を巡る欧米諸国の対ロシア制裁に加わらず、一線を画しているだけに、エネルギーなどでの協力を深めることでインドを引き寄せたいという思惑があるものとみられます。
一方、就任以来、アメリカや日本との関係を強化してきたモディ首相は、エネルギーの確保や中国などを念頭に置いた軍備の近代化に向け、ロシアとも関係を強化して全方位外交を進めていくものとみられます。(太字、私)

前から言ってるけど、日本におけるインドとロシアの関係に関する報道は一貫しておかしいです。

この記事の表現だけみると、日本やアメリカと仲の良いインドが、ロシアにも手を伸ばした、ロシアはインドに接近した、と読める。

しかし、この会合はソ連(→ロシア)とインドの第15回目の年次会談で、特別に設定したものではない。

また、妙な言い方だけどそもそもインドはロシアのハニーなわけ。ロシアはもう食われそうな強烈なハニーなんだけど(笑)。ではインドに取ってロシアは何?

ウォールストリートの記事はそこらへんを「基本的に」正直に書いている。

 インドがロシアのパートナーであることは自然の成り行きだ。冷戦時代に両国は友好関係にあった上、その後も盛んな武器の取引でそうした関係は続いている。

 今年7月にブラジルで開催された新興5カ国(BRICS)首脳会議で、インドのモディ首相はプーチン大統領に、インドでは子どもを含め誰でも、ロシアがインドの「素晴らしい友人」であることを知っていると伝えた。(太字、私)
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10063842500352674697504580328102273253296


「基本的に」というわけは、太字の部分、モディが言ったのは「素晴らしい友人」というニュートラルな表現よりも一歩突っ込んだ、best friendだという点がちょっと違うということ。

7月頃にモディさんが言ったのは、

「インドのベストフレンドは誰かと尋ねられたら、インドでは子どもだってそれはロシアだと答えるでしょう」
"Even a child in India, if asked to say who is India's best friend, will reply it is Russia"

だったらしいんです。7月にロシアの孤立を嘲笑いたい頃のCNNの記事にも書いてある。

An isolated Russia's best friend
http://edition.cnn.com/2014/07/21/opinion/agrawal-india-russia-friendship-mh17/

つまり、インドにとってロシアは最も親しい友人だということですね。もちろんそのうち、one of the best friendsとか言って、アメリカも日本も最も親しい友人の一人です、となるかもしれないけど、今のところclosestとかbestはロシアみたいだ。多分、インド側が、best はちょっと強くね?という懸念から、そのうちgreatとかold friendという表現を一般化させていくんじゃないかという気はするけど。

とはいえ、インドが国際的に困難な状況にあった時インドのために立ち上がってくれたのはロシアだ、困難な時の友が本当の友だ、ってなことを言うインド人は今でも少なくない。

これはみんな冷戦期のインドとソ連の関係の遠いけど遠くもない記憶が反映されているため。一言でいえば、欧米はインドが強くなることなんかまったく望んでなかったし、その態度も顕著だったってことで、インドはソ連に向かったって感じだと思う。アラブと似てる。で、例えば特定産業を国営でやったり農業を近代化しようとするたびに、経済的になかなか難しい時欧米さんたちはそれを本当に支援しようというよりは、まぁそのあれだ、先進国が後進国を借金漬けにしてIMFに送り込んで自由化、民営化させて経済のコントロールを奪おうという作戦を取る頭でいた。インドはそれに反攻し、その時頼りになったのがソ連だった、というのが基本。

その他にも、アメリカが中国を味方につけようとしてパキスタンに目をつけてそこから中国に接近するルートを作る、するとインドは敵に囲まれるような形になるわけで緊張が走る。ソ連はやっぱり大事だな、という枠組みもあったし、ソ連のアフガン侵攻に対してアメリカはムジャヒディーンを使う際その基地としてパキスタンを使うためパキスタンに援助を出し、パキスタンのやりたい放題を招いたためインドにとってそれは直接の危機になったし、その上ムジャヒディーンがカシミールに入って大迷惑も被る。

つまり、戦後においてインドは英米勢力と仲良くする契機はあるわけねーじゃん、だったんだよね、よく考えれみれば(笑)。

これに対して、ソ連はソ連で勢力拡大を目指していた、と書いていいんだと思うけど、経済政策なんかをみれば損得以外で考え方や方向性として合うものがあったのも事実でしょう。

■ 日本は日本としてインドと友人であってほしい

で、私がなんでこのへんをぐじゅぐじゅ書くかといえば、日本には日本としてインドと友人になってほしいと思っているから。アメリカ、イギリス、イスラエル、オーストラリアと海洋勢が内陸国を攻めますので一緒にインドに接近してロシアから引き離してます、みたいな動きの中にずっぽり遣ってほしくない。そのためには長い目で見てよく知り合うべきだと思うわけです。NHKみたいな嘘くさい記事を読ませるばかりじゃなくてさ、と。

日本の保守派という名の右派の人たちは、インドといえば大東亜共栄圏が、とかパール判事がとかいうあたりから語りだそうとする。それはそれで嘘ではないですね。でもその次の70有余年もあるわけで、そこを無視して話しても、会合の御挨拶にはなっても様々な知見を披歴しあえる友人関係までは行けないでしょ?

思うに、冷戦期にあって日本はいつものように西側が~とかいうタイトルに拘って、インドとの関係において大した関係がなかったのではなかろうか? 

(自分を the West だと規定しながら、インド人を前にするとアジア人として我々は共同して、と語るそこに齟齬を感じないといけないんだが、感じた上でこれに対する深い見識を持つという態度を取る人が殆どいないのが日本、というのも嘆かわしい。中国に対しても同じ。)

おそらく、冷戦期から90年代初頭ぐらいまでは、インドといえば文化人が行くところで政治経済の人たちはあまり関心を持っていなかったと思う。

政治経済がらみの人たちは、奴らは社会主義者だからダメなんだみたいなことを言ってなかった? でもって日本の右派には共産主義者、社会主義者はそれ自体罪深くそれ自体劣等であるみたいななにか著しくヒューマンなセンスを欠いた人々が多数いるので、多分、いい関係が出てきてたとは思えないんだよね。古くていい関係があったのなら、もっとエピソードがあってもいいはずだけど、あんまり聞かないし。


■ 長期的にみれば

長期的にみるにはモンゴル帝国とは、とかから始めるのもいいんだろうけど、そこまでいかなくてもせめてグレート・ゲームから理解することが肝要ではないかと私は思う。というか日本の近代とはこのゲームの駒として始まったと言ってもいい。自虐とか言ってる場合じゃなくて。

 

で、そのグレート・ゲームを戦ったイギリスとロシアが何度か手打ちをしている時期があるんだけど、現状は何回目かの手打ち時代、みたいな感じではなかろうか? 上で書いた通りインドの外交政策はロシアに寄ることによって支えをもらって中立を取る、みたいな感じで来てる。しかし内政はといえば英連邦の国として形を作っているので、近代社会に対する基本的な素養はかなりイギリスに浸食されていると言っていいと思う。浸食というか、そもそもまとまりのなかったインドをこれで統合した、みたいなのも本当だと思うけど。

で、このたび目出度くアメリカ製兵器の納入がロシアを超えたとかでアメリカさんはインドとの関係強化に鼻息が荒い。そして、日本、オーストラリア、インドが共同でインド洋から インドシナ半島まわりに対処してね、というのがアメさんのオフショアバランシング政策なんだろうな、と思う。日本はこのあたりに集中的に投資するように、と言われたので安倍ちゃんは東南アジアを回ったりインドに行ったりしていた、ってことかと。

しかし、インドは海洋にも面しているけど、本質的に内陸部に重要拠点を持っているのも本当なので、ここは両方なんだよね。だから余程のことがない限りロシアと離れることはないんだろうなと私は思うし、ロシアという安定塊を壊す試みにもインドは基本的に大反対だと思う。チャイナ怖いし。

そういうわけで、実のところ海と陸を考えるとインドにあっては米露は併存可能な関係、対立構造ではないのではないのか、と見えないこともない。いや、だからこそまた壊しに来る人たちが出て来る可能性もなくはないけど。

対立構造になるのは、アメリカが不必要なまでにパキスタンに肩入れして放蕩の限りを許したり、ムジャヒディーンを作りまくってあたり一体を不安定化させたような場合(外来者の侵入)と、チャイナが押し出す、ってのも可能性はあるし、そことドイツあたりが妙なことをしかねないとも思う。これも外来者がらみか。ロシアはウズベキスタン、タジキスタン等々で何かあってそれがカザフ、ロシアに移入されることの阻止が第一目標でしょう。スタン諸国が安定していて国防が自前でできるならいいけど、そうじゃないなら俺は出張るぜ、みたいな態度。ロシア皇帝とコサックの関係に似てる。

しかし、現在米露が上海協力機構を通じてこのへんの安定化を狙っているようなので、おそらく、ロシア・インド&中国・パキスタンがお話合いをして、さらにイランを目算に入れて来るんだろうな、とか思う。

ということは、来年1月にオバマ大統領がインドのリパブリック・ディに主賓として招待される、という案件は、起こるべき何かに対するバランスの動きではないのか?

日本の右派の人は、これをインドが中国、ロシアを差し置いてアメリカの方に寄ったのだ、と見てるようだけど、私は別の見解かな。バランス策として、オバマに花を持たせる、ということは、それでバランスするべき出来事がある、ってことじゃないかと私は読むなぁ。

インド外交、オバマ大統領を「リパブリック・ディ」の主賓に    
宮崎正弘
http://blog.kajika.net/?eid=1008808

 


河童が覗いたインド (新潮文庫)
妹尾 河童
新潮社

 

 


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