VW社の不正問題やら移民問題でにわかにドイツの話題が目立ってきた。
ドイツの振舞いには多々問題やら不可解があるわけだけど、とりあえず、英米というかディープ・ステートというかの思う通りに動いてないんだろうな、とは思う。
ここ2カ月を考えてみるに、
- シリアを巡る反ロシアキャンペーンに入っていない
(ドイツのメディア上は活発だが、国防大臣、外務大臣の談話、動きは逆)
- 北海にノードストリーム2を立ち上げた
「ノルド・ストリーム2」建設に関する合意書に調印
http://jp.sputniknews.com/business/20150904/850821.html#ixzz3nZkPQ64L
ガスプロム(露)が51%
Shell
OMV(オーストリア)
E.ON(ドイツ)
BASf/Wintershall 各10%
Engie(フランス) 9%
という感じ。
だから、この際いろんなところからドイツには圧力がかかるんだろうと思う。
それはドイツ国内でも考える人たちは十分意識しているでしょう。
■ コーエン教授、ドイツで語る
ドイツの新聞なのかサイトだけなのかよく知らないけど英語名でGerman Economic Newsと呼びならわされているところにあった記事がまさにそのへんに触れていた。
Kluger Ratschlag aus Princeton: Europa muss sich von den USA emanzipieren
http://deutsche-wirtschafts-nachrichten.de/2015/09/27/kluger-ratschlag-aus-princeton-europa-muss-sich-von-den-usa-emanzipieren/
この記事は、アメリカのロシア研究の本当の第一人者の一人であり、それが故にというべきか今日のアメリカのロシア研究グループおよび主要メディアから壮絶に排除されている、スティーブン・コーエン教授がドイツ人のインタビュアーと対話したもの。
私が読んだのは、Russian Insiderに投稿されていた(ここ)、英語翻訳版。
90年代に変質したアメリカの対ロ関係から、ウクライナ、ドイツと非常に重要なことがいっぱい語られていて、結構びっくりしたのだが、とりあえずドイツ関係でいえば、アメリカのシンクタンク Stratforのボスであるジョージ・フリードマンが、米国の外交方針の主要な目的の一つは、ドイツ・ロシアが同盟するあらゆる可能性を排除するものだと主張している件についての対話。
Stratforは、地政学的知見からいえば、みたいなアプローチだがかなりイデオロギーがかった集団(そもそも西側にある現行の地政学そのものがイデオロギーがかっているわけだが)。
それに対するコーエン教授の答え。
米国は公式にはウクライナ問題に関与していないことになっているが、実際には後ろですべてコントロールしているのは米。NATOとIMFが関与している。
ジョージ・フリードマンはCIAと強いコネクションがあり、西側の政治家たちに高度に頭脳的、戦略的な考え方を提供している。もし米国の議員に、米国の外交方針の一つはロシアと欧州の中核部を離反させることだというが本当かと尋ねたら、大部分の議員は何を聞かれているのかわからないのだろう。
しかし、もしこの問いをワシントンにいる教育程度の高い小集団の意思決定者たちに向けたなら、フリードマンの言っていることはおそらく正しいことになるんじゃないか。
その上で、
そもそもロシアにとって米国は核の安全保障と核関連の規制ぐらいしか関係がない。必要なものがあればドイツと中国がいるという形に今後ますますなる。
一方、欧州は米国とは独立の独自の外交方針を持つ必要がある。しかしそれは米に抗するようなものであってはならない。
結局、現在の危機は欧州の米国からある種の離脱を引き起こすトリガーになる可能性がある。
と見ているようだ。
その他、この一文も大事。
反プーチンカルトを作った人々は、プーチンの勃興をにらみながらロシア内における自分の利権の心配をしている。
さらに、
(ドイツ記者) 影にいる首謀者は誰なんですか?
(コーエン) プーチンに対する誹謗中傷は、ロシアとの冷戦を再度設置することに強い関心を抱く組織によって焚き付けられている。プーチンを信頼できないものとすることを目的に主要メディアを養うのは何億円もかかる話だ。
■ 夢よもう一度が逆効果を生む?
総合してコーエンさんの言から考えるに、ソ連崩壊時にロシアに突っ込んだグループが首謀者だが、軍産複合体っぽいところも冷戦復活を望んで入り込んでる、ってことになるんですかね。
このへんは、去年いろいろ考えた通りでもあるかな。
そして、ロシアに敵になってもらうと何かとやりやすいと考える人がう説がある、というのはあちこちで聞く。
前にもこのへんで書いたことと事情は一緒。
アメリカが戦争に勝たない12の理由
で、しかし、よく考えると、冷戦構造をもう一度、夢よもう一度という体制はもう作れないでしょう。
最大の理由は、皮肉なことだけど、ロシアがソ連との比較で小さくなりすぎたからじゃないですかね。
冷戦構造は、赤軍という非常に大きな陸軍があったことが、欧州に対しての非常なプレッシャーとしてじんわり効いてたんじゃないかと思うんだよね。もちろんこれは1945年に終わったソ連軍の反攻作戦の非常なというか異常な成功が欧州民を恐怖させた、というのが構造の基礎(実際には初期段階は、ナチスからの解放者として扱われた経緯があったのも全然嘘でもないんだが)で、繰り返し繰り返しそれを幻燈のように投影させて効果をあげた。
これがない今、欧州民はロシアの恐怖とかいってもノリではOKしても個別具体的問題になると乗れない。そこでウクライナ危機がもっけの幸い的にあり、これを機会として盛大にロシアの恐怖をあおったわけだけど、なんか成功してない。そもそもクリミアはロシアだし、ウクライナ人もロシアだし、みたいな欧州で何百年も常識だったことはなかなか覆せない。
それどころかNATOに対する不信感さえ呼び起こした。
だから、「結局、現在の危機は欧州の米国からのある種の離脱を引き起こすトリガーになる可能性がある。」というコーエン教授の示唆はロジカルに考えてあり得る。
しかし、影の首謀者さんたちがそれを指をくわえて眺めるわけもない。
そこで何が起きるか。
■ 地政学的に妄想してみるに
常套手段としては、ドイツとロシアの間にある現在コロニーにしちゃった中小国群を焚き付ける、なのだが、ここらへんは移民問題への対応で、もはやすっかりカラに閉じこもってガードを固めてしまった。ポーランドさえ動かせてない。
遠い日本の日経新聞は、旧社会主義圏は国民意識のグローバル化が遅れているなどと恐ろしい妄想を振りまいていたが、そんなことは誰も気にしていない。(メルケルの難民政策がヨーロッパを分断する) 日経新聞はもう「トロキスト新聞」とかに名を変えるべき。昔インターナショナル、今グローバリズムですがな。
次は何か。ドイツ本体を脅かして、欧州の中核を壊そうとする、ってことじゃないのかな。
これって、冷静な頭があれば、米の外交方針が独・ロシアの離反を望むということは、欧州-米州-欧州になりたい日本 この3つで世界を仕切ろうっていう構想なんだろうから、欧州を弱体化させることは自分の首を絞めることにもなると気付くと思うんだが・・・・。
これに対してではドイツにはどういう選択肢があるか。西ヨーロッパを無視していく、じゃなかろうか・・・。
ドイツ・ロシア間の関係を維持してそこから、一緒に南を向く、という戦略。イラン、中東、インドへの道を模索する方が、西ヨーロッパという米覇権の欧州大陸への橋頭保に煩わされるよりもずっと将来性がある。
おそらくこれは昔からある考えではあるんだろう。でも、第二次世界大戦時には、ソ連がイギリスと組んだためにイランの存在があまり目につかず、従ってドイツの射程は見えなかったし、ソ連はドイツに攻撃された側だしソ連エリートはナチスを西側の工作とみていただろうから、全体としてドイツ不信にならざるを得なかった。
しかし、もし今回、ドイツがアングロ要素が薄いとなれば、そして、イスラエルの制御が昔よりずっと楽になっていたとしたら、話は変わるのではなかろうか。
いやいや、そもそも1878年のベルリン会議あたりまで射程に入れて考えるべきなのかもしれない。トルコの問題もあるし。
次はトルコの問題を考えてみたい(次っていつかわからんけど)。
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イランはちょっと別だけど、
どこかで、何年か前の話だけど、ドイツ、ロシア、中国のうちの誰かかが我々はみんなベルサイユ条約に招かれてはいない、と言ったことがあって、ああ、そういうニュアンスがあるのか、とか思った覚えてがあります。