Asian Timesにしばしばコラムを書いている元インドの外交官M.K. Bhadrakumarさんが、日露関係について興味深い記事を書いていた。
Japan and Russia subject each other to shock therapy
http://www.atimes.com/japan-russia-subject-shock-therapy/
まず、プーチンが12月15日に日本を訪れることになっており、その約1カ月前にはロシア上院議長のマトヴィエンコが日本を訪れた。
大物二人が1カ月ちょっとの間に訪問するというのはそうあることではない。
表面的には、なんとなく盛り上がった感じになっている部分がある。
では実際どうだろうといえば、安倍首相は、
G7のメンバーとして日本は、ロシアに対する経済制裁を維持すると断言している。しかしそれにも拘らず、ロシアとの経済的な結びつきはロシアにとってのみならず日本のためにもなるのだ、と言う。
安倍の発言は日本のジレンマをよく表している。日本は米国との同盟を破棄するようなことはできないし、クリル諸島の支配圏を再び取り戻すという夢を捨てることもできない。
しかし、日本は地域で孤立感を感じており、さらに、中国が積極的、断定的になって、そこがロシアとの関係正常化を非常に上手く使っていくだろうことを気にしてる。ロシアは、アジア太平洋地区の「バランサー」になることを志向する眠れるプレーヤーだ。
モスクワはしかし、別の見方をしている。ロシア国防相の副大臣Anatoly Antonovは最近、駐ロシアの日本の大使に、アジア太平洋地域に米国がミサイルシールドを配備し、日本がこのプロセスに参加していることをロシアは懸念していると伝えている。
とこのへんが現状分析で、で、今回のマトヴィエンコさんの訪日は、つまり曖昧に期待を膨らませたりしないよう、リアリティチェックをしたのだろうというのが氏の分析。
マトヴィエンコは、火曜日日本の記者たちを前に、クリル諸島に対するロシアの主権は単純にnon-negotiable(交渉の余地はない)と言った。
そして、翌日、ロシアは日本がロシアに対する経済制裁を解除することを希望している、これは日本との貿易、経済関係の足かせになっているんだから、と言った、と。
それに対して日本は、直ちに、国際協力銀行が、制裁対象になっているロシア企業への独自の融資について制限を延長し、EUとUSが制裁しているプロジェクトに対する融資の引き上げも提案した。
ということで、マトヴィエンコの役目はリアリティ・チェックで、プーチンの来日を前に戦略的な意味での曖昧さを残さないようにしたのだろう、というのがこの元外交官の分析。
■ 現実に戻ってその先に何があるのか
簡単にいえば、日本は自分からプーチンに経済協力を持ちかけて行ったわけだが、ロシアが提案することに対して、実際にはことごとくG7の言う通りという選択をしてきているってことですね。
別の言い方をするなら、言葉だけで盛り上げてる日本に、具体的な行動を求めることで、真意を確認しているということもできますね。
で、ロシアはこうやって日本の真意を公式に確認していって、次に何をしようという気なのか、という書き方はM.K. Bhadrakumarさんはしてないですが、その代わりに、非常に興味深い記事の一文を載せていた。
ロシア連邦極東大学(というのか?)のArtyom Lukinさんという人が書いた論文の一部。オリジナルはここ。
ロシアと中国が戦略的パートナーシップを促進し続けるのであれば、次の大きなステップが、ロシアが中国に、中国がロシアに軍事的プレゼンスを持つことになってもおかしくない。数年のうちには、私たちは、海南のロシアの海軍施設とか、クリル諸島の中国の基地について話し合っていることになるかもしれない。
If Russia and China continue to foster their strategic relationship, the next major step could well be a Russian military presence in China, reciprocated by Chinese deployments on Russian soil. In a few years we may be talking… about the prospect of a Russian naval facility on Hainan or a Chinese base on the Kuril Islands.
■ まんざらない話でもなさそうな
で、私はこれを読んだ瞬間、おお、私と同じことを考えてる人がいた~とか一瞬喜びました。すんません。
いつ思ったかというと、2カ月ぐらい前だったか、中国軍がカリーニングラードでロシア軍と演習しているのを報道で見た時。そうそう、ロシア人が動くと箸の上げ下ろしまでうるさいことを言いだすポーランドやらスウェーデンなので、この際中国海軍にしょっちゅうカリーニングラード周辺に立ち寄ってもらえばいいんじゃないか、と思った。
で、その頃、ロシアが南シナ海問題について発言したり、演習したりしていたので、こうやって互いに支援する恰好なのだろうと思った。
ということは、ロシアのクリル諸島、カムチャッカに中国海軍がしばしば停泊します、本格的な基地でないですが仮のお泊り用の施設ぐらいならありますよ、とかになったらどうなるんだろう、と考えたわけ。
さらに、ロシアがパキスタンと接近して、パキスタンがロシアから武器を輸入し、カラチからラホールにパイプラインを設置することになったので、これはロシアの地政学的なポジション強化にもなるし、中国への支援にもなるわけだなとか考えた。
(この話は、本質的には、イラン-パキスタンのパイプラインの話だと思う。米とサウジはこれを嫌ってこのプロジェクトを潰したんだが、ロシアが、ガス屋?いやいや俺はパイプ屋ですからと入って行って、パイプライン設置契約が成立した。カラチのLNGから出すので、将来的に足らないガスはイランから、になるのかな、と想像。)
つまり、ロシア、イラン、中国、パキススタンがお互いに支援しだすという恰好だな、と。
■ 東アジア版NATO計画
私が思うに、南シナ海問題はつくづく余計だった。この海域をわいわい言わせて、きゃー、チャイナが来る~、と騒ぐこのオリジナルは、欧州側の Russian Coming(ロシア人が来る)という恐怖心理による冷戦構造維持政策でしょう。
だから、二番煎じを狙ったんだと思うわけですよ。
さらに、なぜ日本の右派が奇妙なまでにロシアとの関係強化に熱心だったのかというと、これも、欧州側のNATO東方拡大構想の二番煎じじゃないか、と疑ってみてる。
つまり、ソ連は、NATO側が、統一ドイツができようともNATOは1インチたりとも東に動いたりはしないからね、というのを信じてワルシャワ条約機構を解体しちゃって、さらにはソ連というよりロシアの基幹部分だったウクライナ他の独立も全部OKだったわけですね。
ところが、クリントン政権に入ったらNATO東方拡大計画が持ち上がり、実際にあっという間にロシア本体の国境までNATO軍がやってきて、最近では71年ぶりにドイツ戦車がロシアの国境付近に配備される始末なわけね。
これを極東に置き換えるのなら、北方領土を共同管理でどうしたこうしたと言いながら、最終的には米軍基地の範囲に入れる形に持っていこうとしていたのではなかろうか。
つまり、ドイツと同じように日本にロシアを裏切らせるってこと。
10月31日のこの記事を見て、やっぱり軍事なんだよと改めて思った。
安倍晋三首相は31日、北方領土をめぐる日ロ平和条約締結交渉に関連し、「返還後の北方領土を日米安全保障条約の適用対象外とする案を検討」と一部で報じられたことについて、「そのような事実は一切ない」と否定した。衆院TPP特別委員会で、近藤洋介氏(民進)の質問に答えた。
http://www.asahi.com/articles/ASJB05F8HJB0UTFK00G.html
これは、報道を先行させて、安倍ちゃんに正式に否定させた、ということだろうと思う。いずれにしてもロシアがつられるとは思えない。
■ 東アジア版NATO計画とか立てたの誰だよ
しかしながら、このNATO二番煎じ計画がズボラだったのは、反作用をまったく考えてなかったことじゃないっすかね。中国、ロシア、イラン、パキスタンがかなり上手に手を結んでしまったらどうなるのかをまったく考えてなかった。
日本は、中国包囲網だ~とか言ってたら、西と北に中国が出没する形になりそう、って感じで、まったく踏んだり蹴ったり。アメリカは西太平洋が~とか言ってたら、ハワイまで最短距離にいるんだな、チャイニーズ(笑)、みたいなことだってあるかもしれない。
もう一つ、あれれれ、になってるのがインド。インドは過去ずっとロシアと良好な関係を築いていたわけですが、ここ数年で、アメリカと非常に密接になった。日本ももちろんこれには一役買ってますね。中国怖いでしょ、中国をやっつけないと、とかなんとか言ってインド、ロシアを離した(といって別に極端に離れたわけではないですよ。このへんがインドの全方位全力八方美人外交の凄いところ)。
使われたレトリックは、ロシアよりインドはGDPが大きい、インドは大国なのだ、だからロシアこそインドを失うのが怖いのだ、みたいな感じ。こういうメディア報道がじゃんじゃん降ってた。
すると、ロシアが冷戦時代には敵だったパキスタンと良好な関係になって、パキスタン軍はモスクワ訪問を繰り返し、ちゃんとした軍備を整えようとしているっぽい。ロシアはやるとなったらしっかりした仕事をすることはインドが一番よく知ってるでしょう。
そして、ロシアを失うということは、外交的に支援してくれる声を失うことだと気がついたりもしてるっぽくもあり、インド国内でちょっと、これってどうなのと若干の波風が見える。
というわけで、東アジア版NATO計画は、できる前から壊れてるような気がする今日この頃。誰なのこれ考えた人?