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積極的平和主義と日独防共協定

2015-01-07 22:29:50 | 欧州情勢複雑怪奇

アゴラを見たら、池田 信夫さんが、

「積極的平和主義」の誤り/池田 信夫
http://agora-web.jp/archives/1627113.html

というコメントを書いていた。誤り部分の話は私としては結構どうでもいいんだけど、そもそもこの語が何かものすごく意味不明なことが問題だという点は私も賛成。

積極的平和主義を proactive pacifismと訳してるそうなんだけど、これってどういう意味なんでしょう? 積極的に平定されましょう主義、と読めるし、主体的に無抵抗をする主義でもいいかも。安倍首相はガンジーにでもなるつもりなんだろうかと冗談にもならないことを言いたくなる。

こういう意味不明なことをそのままにして、自分たちだけでなんとなくイメージにイメージを重ねていくという手法は日本の政治風土では結構よくあることのような気もする。スローガンめいたことを漢字の羅列で表現してみるという根深い習性がある。

積極的に平和を希求する、なら、make every effort to seek peace(平和のためにあらゆる努力をする)と言えばいいだけで、それを proactiveという語をわざわざ使いたいなら、それはつまりもっと別のことを表現していることになるし、用語化しているんだからそこに特別な意味が求められるのは当然だがその説明は特にない(どこかにあるの?)

ここで、日本国内で字面だけ読むのと英語圏で見ることにズレが生じると思う。このズレをおそらくこの内閣は放棄する。そして何かあってから、日本側の意図が伝わらない、みたいな騒ぎになる・・・。これこそまさしくいつか来た道、みたいな気がして仕様がない今日この頃。

■ 防共協定とズレ

私が真っ先に思い出すのは、日独防共協定のあたり。有田八郎外相は日独で防共協定が画策されている状況に対して、防共協定をナチスとだけ結ぶのではなく、支那国民党政府、ポーランド、イギリスあたりにも声をかけたが断られ、最終的には日独だけで防共協定を結び、日本は世界というか列強というかのより一層厳しい視線にさらされていく。

このへんでNHKがよくまとめていたのでかなり有名な話かもしれない。外交官たちの肉声があるので本よりDVDは見応えあります。

日本人はなぜ戦争へと向かったのか DVD-BOX
ドキュメンタリー
NHKエンタープライズ



防共協定というのは、字面だけ見れば確かに共産主義に立ち向かいましょう、と見える。しかし、これを1936年あたりに締結しようとすれば、それは、ソ連を包囲する、ソ連を敵にする条約と読まれる可能性が大きい賭けに出ませんか、と言って歩いているに等しい。

最悪の場合ソ連と戦争する覚悟はありますか、になるわけで、そう簡単な話ではない。それを日本の外交官たちは各国に持ち歩いたわけですね。

イギリスの立場にたってみれば、ナチスのドイツがどうなるのかで神経をすり減らしている状況なんだから、ということは場合によってはロシア(ソ連)には自国に好意的に中立でいてもらいたいとなるかもしれないし、それ以上のことが起これば同盟しないとならない可能性もある。位置関係から考えればそれはソ連だろうがロシアだろうが同じこと。

ヒトラーと腹の探り合いをしている最中に、ロシアと敵対しませんかと言われても、なんでここで立場を決めないとならないの?という感じじゃなかろうか。断ったのはイーデンだったと思うけど、そんなに難しい判断でもなかろうと私は思う。

ポーランドの立場に立てば、独ソ間に挟まれた中で日本と結んでソ連を敵視する便益は何だろう、ということで、それは即ちドイツと友好関係にいられるか、という話になる。そんなに簡単な話じゃない。

ロシアからみれば、日本はソ連封じ込め策を練って各国に売り込んでいる、となる。当然、反発が高まる。これを崩すためにドイツと融和的になる動機が生まれる。(後にノモンハン事件の最中に独ソ不可侵条約が結ばれるが、思えば思考実験は既に済んでいたって感じ?)

また、支那国民党との関係を優先させる動機も生まれる。(ドイツは元々国防軍は一貫して親チャイナなんだから、思えばここで、ソ連・ドイツ・中国の利害はそもそも一致している上にさらに一致できるとも言える。)

さらにいえば、この防共協定は、Anti-Comintern Pactとして締結されている。だから本来は、反コミンテルン協定とでも呼ぶべき協定なのだが、日本ではず~っと防共協定と呼ばれている。ここにもズレがある。

スターリンは一般にトロツキーを追い出した1929年以来コミンテルンを信用していない、ってことらしくあったので、よくよく考えれば、反コミンテルンというのはソ連を直接には示唆していないとも言える。

そのいきさつをwikiでは次のように記している。

リッベントロップ事務所のヘルマン・フォン・ラウマーはソ連を刺激することを恐れ、協定内容を対ソ連ではなく「コミンテルンによる国際共産主義運動が自国に波及する事を防ぐ」という婉曲的な内容にしようと提案した。当時、ソ連政府はコミンテルンの活動はソ連政府と無関係であるという立場を取っており、これを逆用したものであった[10]。大島も反コミンテルン協定であるという「マント」を着せることに同意した[17]。

大島大使はそれを「マント」と思ったかもしれないけど、ドイツにしてみたらこれでこの協定はソ連に対して無力化できる道が開けた、ともいえるわけで、日本はマントを被せられて方向感を失いました、じゃなかったかとさえ思う。


■ 日本は何をしているのだろう?

この成り行きを思い起こすたび思うんだけど、外から見たら日本はなんでそこまでしてソ連と戦争をしたいのか、でしょう。訝しく思った人々は結構いたのではなかろうか? 欧州人にとってロシアに勝つというのは難事業中の難事業だ。そう簡単にやれないし、そこまでやるメリットも一般にない。あるのは、一部のドイツ人たちだけだ・・・と思ったのじゃないのかな、と思うわけですね。

で、その一部ドイツ人とはこの時点においてはヒトラーを中心とするナチのグループである可能性が見え隠れ。そして、外交関係者の少なからぬ人々、いや英仏なんかはほぼ全員が第一次世界大戦後半にロシアで起った成り行きを思い出しただろう。ブレスト・リトフスク条約を取り上げなかったのもこの人たちなんだから。

とにもかくにも、1917年においてドイツ軍とドイツ系ユダヤ人たちのユニットは確実にロシアを滅ぼそうと試みて、その結果がソビエト誕生だったわけですね。さらにその前には、ドイツは「中欧構想」なるものを開発してその通りに進んでいたとも言えるわけです。

 ウクライナもクリミアもちゃっかりドイツの支配下構想

世界強国への道/フリッツ・フィッシャー

だから、1936年当時というのは、幾重にも野望が見えるドイツを前に、国際社会は結構緊張している。ひょっとしてドイツはまたやる気なのかという疑念と、今度はどうもそうはならないのか、いや結局なるだろう・・・と欧州の外交関係者+少なからぬ一般人、特にポーランドあたりの人なんかは、結構な疑心暗鬼状態だったのではありますまいか?

そこに、日本が「反コミンテルンで行きましょう!」みたいに声をかけてくる・・・。その日本は、遡ること5年前に満洲で謀略からクーデーターを起こして軍事力で支配を試み最終的に傀儡国家を作ってしまった日本だ。その上で支那の華北でも工作しているらしい。モンゴルからロシアへの道がらみですかね~、みたいな。

ということは、ここで日本がヒトラーと手を組むってことはまたまた「中欧構想」復活か? 今度は西と東からの挟撃構想なのか?

しかしでは日本軍にそんな戦力はあるのか? どうもそこまでの工業生産力があるとは聞かない。じゃあなぜ? わかりません・・・。あ、趣旨は反共らしいよ。反共? 謀略やって傀儡政権作って近代国家を建設するってボルシェビキっぽいのに? わかりません・・・。

■ 観念論 vs 個別具体的対処

上のNHK放映の番組(第1回)の中で、

大島浩大使はこの件についてこう語っている。

イギリスがああドイツに反対するとは思っていなかった。
赤化ということをどこの国も警戒しているだろうと
イギリスあたりも協定に対してですね
非常な反感は持つまいと・・・

これだけ聞くと、読むと、さも、そうだ赤化、つまり共産主義化に目覚めていた日本は正しいのだ、など思う人々は当時もいたし今もいるだろう。しかし、赤化ってなんでしょう? 共産主義化だって同様不明といえば不明。マルクスを読むな、とか、資本主義への懐疑を持つなと言ってみたところでそれによって何が達成されるんでしょう? (しかも、結んだ協定は実際いは反コミンテルンという特定の運動に反対する内容なんだから赤化とは微妙に異なる。)

つまり、上で考えて来た通り、その言葉を具体的状況に即して考えたら何を、どんな状況を帰結することになるのか。それは対ソ連の武力衝突を含意する、含意し得る。そこまで考えるのが普通の知識ある、責任ある立場の人というものでしょう。

大島大使は戦後になっても、自分が何をしていたのか、その行動の意味を理解せず言葉上の正しさだけに拘っていられたようではある。

自分が行動を起こしたら相手は反応するという、日常生活においてはむしろ当然のことがどうも日本の上の方の人にはそれがわからんのですよ~、だったし、今も結構怪しいのかもしれないと「積極的平和主義」という同じ日本人でもまちまちの解釈しか生まないような(その上英語にすると意味不明でしかないような)語を見るたびそう思う。


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