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ネタニヤフ退陣か & アインザッツグルッペン

2021-06-06 00:19:54 | WW1&2
1週間ぐらい前になるけど、イスラエルで、右だか左だかなんだかわからない野党各党が連合して組閣することになったらしい。

つまり、なんとしてもネタニヤフを落としたいという意思が勝って成功したといった感じでしょうか。とはいえ、連合といっても、これって連合って言えるのかというほどの、お菓子でいえばおせんべいからプリンまで何でも詰めたアソートパッケージみたいな連合なので、この先どうなるのか、わかれという方が無理といった代物。全然わからない。

それはそれとして、いやしかし、ネタニヤフはいろいろ問題だらけのおじさんではあったけど、大きな問題を提起していたことは見逃せない。

私自身、タイムラインに落として真面目に考えてなかった、軽くみてた、大失敗だわ、だったわけですが、この話です。

1941年11月28日:ヒトラー・フサイニー会談


エルサレムの宗教的な権威であり地主一族のフサイニーという男が、ユダヤ人殺しに情熱を傾け、現在でいうパレスチナの地で騒動を起こし、欧州に乗り込んでいってヒトラー、ヒムラーに会ってさらに反ユダヤ、反イギリスを鼓舞するといった経緯が、WWIIの東部戦線の重要エピソードとして取り上げられていなかったことは、実にまったく、歴史家たちの怠慢だった。

あるいは、このブログの観点からいえば、西側首脳部の謹製ナラティブにやられていたな、って感じ。


で、2015年にこの人の存在をネタニヤフが言及した後、すぐにBBCが否定のニュース映像を作っていたのも発見したけど、むしろ、私としては、ますます興味深く思った。

Netanyahu Holocaust remarks condemned - BBC News


なぜなら、BBCは主に欧州西部、中部で起こったユダヤ人の話を基に、「ホロコースト」という語をうまく使ってネタニヤフの言を否定していたから。

つまり、「ホロコースト」はもっと早く始まっているんですから、あるいは、ヨーロッパのユダヤ人を絶滅させたいというヒトラーの考えはもっと前からあるんですから、アミン・アル・フサイニーの行動は関係は薄いです、といった立て付け。

だがしかし、そこじゃない。問題はアインザッツグルッペンのあたりだと考えれば、アミン・アル・フサイニーのユダヤ人を殺せという頑強な主張は、意味を持つ可能性大有りでしょう。

枢軸国と英仏のアラブの取り合い


アインザッツグルッペンという、ナチスドイツの移動殺人部隊は、1939年あたりから始動したが、本格的な作戦行動は1941年にナチスがソ連に侵攻するにあたってのこと。

この6分の映像はとてもよくまとまってる。米国ホロコースト・ミュージアムの制作。そうね、こういうところが作らないと誰も作ってくれない。

Einsatzgruppen  


前にも書いたけど、アインザッツグルッペンというのは、なんでこんなことをしたのか誰しも謎だと思うほど惨たらしい、明確に殺人だけを目的として編成された集団。

日本語のwikiも大まかに役に立つ記述だと言っていいと思う。ここ

軍事侵攻に伴ってはいるものの、軍事的には全然意味がわからない。というか、軍事的には意味がないと言うべきでしょう。モスクワを攻撃するならもっと集中してソ連領内に入ればいいだけ。

しかし、ポーランド、ベラルーシ、リトアニア、あるいは、ロシア内のウクライナからクラスノダールあたりにかけて、この3000人ほどと言われている特別な部隊がひたすら女子供を含めた民間人殺しをしていった。100万から130万人ぐらいがこのユニットの犠牲者ではないかと言われている模様(実数はわからないでしょう、あの殺し方では)。

部隊の活動場所。


ヨーロッパ内では、ユダヤ人は主に住民として住んでいた場所から追いてられて、収容所に集められて、多数の人間が死んだという経緯ですが、ポーランド以東、特にソ連領内だったところでは収容所送りというパターンではなく、殺人部隊が来て、村ごと、町ごと破壊する、というやり方。これによって、多数のユダヤ人やロシア人etc.がその場所ごと破壊され、死体はさっさと地面に掘った穴に埋められた。

アインザッツグルッペンの英語版他を開けると、その穴が見える写真があるけど、これが東部でのナチの蛮行の象徴的な光景でしょう。

で、その場所はどういう場所なのかといえば、ユダヤ人が含まれている比率が非常に高かった場所としか言いようがないだろうと思う。通称、Pale of Settlement。下の図は、1905年の人口統計を基にしたもので、濃い茶色が人口の17%以上がユダヤ人であることを示す。もちろん平均なので、村や地区によってはもっと多い、もっと少ないがあるわけですね。




思えば、2020年1月にプーチンが

私たちは、すべてのナチの犠牲者を悼みます。ここには、ゲットーで、死のキャンプで苦痛を与えられ襲撃で残忍に殺された600万のユダヤ人が含まれます。そうした人々の40%はソビエト市民でした。ですから、「ホロコースト」は常に私たちにとって深い傷であり続け、私たちが忘れることのない悲劇なのです。

と語ったまさにその場所ですね。

改めて読めば、「死のキャンプで苦痛を与えられ」と「襲撃で残忍に殺され」と並列して語り、そのすべてを、と言ってたわけです。前にも書きましたが、これは意味あってのことでしょう。そう、西側ではこの後者が殆ど語られてこなかった。


■ これまで知られていなかった写真登場

2015年にネタニヤフがアミン・アル・フサイニーに言及した後、上述のように主流のメディアや歴史学者はネタニヤフは馬鹿、人でなしetc.といなしたわけですが、その後、2017年に、オークションにこれまで知られていなかった写真が6枚出品されるという事件があった(と、今回私は知った)。

Auction house unveils previously unseen pictures of Mufti al-Husseini visiting German camp
https://www.jpost.com/israel-news/auction-house-unveils-previously-unseen-pictures-of-mufti-al-husseini-visiting-german-camp-497974

1942年、ドイツ東部トレッビンにあった収容キャンプだそうだ。



オークションに出した人が誰なのか知らないけど、もしそれが偶然でないとしたら(ないと思うけど)、2015年の主流メディアの結論、フサイニーは収容所云々のユダヤ人の行く末には関係ない、というものに抗したということではなかろうか。収容所に行っておるだろうが、と。

その他の写真もなかなか。名前を入れた人がいたので、便利だからそれを借りてきた。
チャンドラ・ボースもいる。


いずれこの左のGrobbaについて何か書きたいと思ってる。この人あたりがアラブ対応のシナリオを練った人ではなかろうか、って感じだから。


■ マダガスカル計画失敗

で、通して考えてみると、ナチはユダヤ人を集めてどこかに移送しようとしていたが、パレスチナもダメ、マダガスカル計画もダメとなった。そこで、もう殺そうと思って殺し始めたという話じゃないんでしょうか。

だったらそんなことをしなければいいわけですが、ヒトラーはソ連を半年で倒せると思ってたおっさんですから、倒した後にそこはドイツ領となり、バクーまで行ったらその南はイラン。アラブ世界は目の前ですし、ソ連侵攻と同時期の1941年春にイラクをクーデターでひっくり返して親ドイツ派にしている。

その侵攻の混乱の中で、ロシア人はともかくユダヤ人が外に出たら困ると思ったので特別な部隊を仕立てて殺人に励んだ、ということではないのだろうか? 仮説として検討する価値は大有りじゃないの?


■ 思えば不思議なことだった

思えば、アインザッツグルッペンという存在は、本当に知られていないと思う。前にこのブログのコメント欄で、軍オタにとっては知られているけど、そうでない人は知らないだろうという指摘を受けたことがありましたが、いやほんと、思えばそうだったわけです。

ナチが惨いというのなら、これこそハイライトされるべき行動ではないのだろうかと思うわけですが、そうはなってなかった。

これはやっぱり、いろいろ考えてみるに偶然ではなかったのでしょうと思うしかないです。

1つには、前から書いている通り、ソ連抜きで話を完結させたいという冷戦期終盤の西側の願望があったんだろうと思う。

しかし、もう1つあった。アミン・フサイニーの存在であり、アラブ世界、イスラム世界との関係の重要性を重視して、すべてを見て見ぬふりをしていた人々がいた、って感じなんでしょう。

フサイニーはユーゴスラビアが戦犯として裁くべきと言ったにもかかわらず、ニュルンベルク裁判にはかからず、エジプトに逃れ、戦後も74年まで存命で、アラブ世界ではこの人をヒーロー扱いしていた側面があるそうで、そして、本人も死ぬまで、自分のやったことは正統だと言い張っていたそうだ。

そう思うのなら、表に出てきて言ったらよかったのにね、と言ってみたい。


■ ここまでの雑感

(1) ナチとは何だったのだろうかと改めて再度、再再度考えさせられる。

(2) チャンドラ・ボースあたりは日本にも関係があるし、日本とナチは、イランを焦点にすり合わせていた節がある。当時の日本の首脳部は何を考えていたんだろうか。ここは課題。多分、陸海で異なり、東京の支配層も違う、みたいなバラバラの進行が先だったんだろうと思う。

フサイニーから親ナチネットワークまで


(3) 思うに、西側の世界支配というのは、イスラム世界を非常に便利に使ってきた。特に、アラブ世界+イランは重要な駒。近代で一番古いのはエジプトのムスリム同胞団とイギリスの組みあわせだろうけど、そもそも、その前、オスマンと英仏独あたりとの関係が重要ではあるんでしょう。

こっちからも見ていかないと多極化していく世界がもたらすであろう混乱も見えないと思う。



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4 コメント

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ネタ首相とハマスのプロレスは飽きられる! (ローレライ)
2021-06-06 07:59:47
安倍首相と北朝鮮のミサイルプロレスがネタバレされ飽きられた様にネタ首相とハマスのプロレスも飽きられる時が来た!
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ディモントさんが教えてくれました (名無しの在日)
2021-06-06 13:09:57
私がアインザッツグルッペンを知ったのは、ユダヤ系アメリカ人の歴史家が書いたユダヤ民族の通史の本を、若い頃たまたま手に取ったおかげでした。

ユダヤ人 神と歴史のはざまで(マックス・I・ディモント/朝日選書)

著者は別に親ソ的スタンスの持ち主ではないのですが、「ナチはユダヤ人を殺したけど、それ以上にスラブ人=キリスト教徒を殺しまくってるんだよね」という、いうならば複眼的な視点を持っていました(ナチは反セムであると同時に反キリストでもあった、との指摘もあります)。それゆえに、絶滅収容所より多くの記述がアインザッツグルッペンに割かれたように思えます。

付け加えれば、この人はフィンランド生まれだそうですが、さらにルーツをたどるとロシア帝国時代のリトアニアに行き着くようで、このブログ的には「あるある」パターンなのが興味深いところです。
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炎628 (ローレライ)
2021-06-06 17:08:11
アイザッツグリペンと言えば映画炎628ですね。楽しそうに三光作戦をベラルーシの田舎で行って最後ソ連軍パルチザンに全滅する部隊がでて来ます。
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戦争なのか不明ですが (ブログ主)
2021-06-07 14:59:54
アインザッツは「戦争」問題なのだろうか、という気もしますが、結構知られてきていたのだなとこのレビューを見て知りました。

炎628 [DVD]
https://www.amazon.co.jp/%E7%82%8E628-DVD-%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%95%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%82%B3/dp/B00FLD4DBS
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