欧州というかヨーロッパはどうなってしまうんだろうと誰しも思っているだろうけど、どうしようもなさそうだ。少なくともなんとかできそうな感じはない。
問題は、欧州というのがみんなのものであり、そして誰のものでもなくなったから、じゃないかなと愚考してる。いささか抽象的だが、いやしかし、欧州そのものが抽象化してしまったような感じなのだ。
EU、移民問題で臨時閣僚会議開催へ 移民71人の遺体発見受け
http://jp.wsj.com/articles/SB12096842380967064583604581203873016220898
欧州の動きが遅すぎるとの懸念に対応し、独仏英は30日、10月に予定されている会議を待たずに、2週間以内にEU臨時閣僚会議を開催することを要求した。EU圏内には亡命や生活の向上を求めて日々数千人の移民が押し寄せており、こうした状況により効果的に対処するための措置を話し合うことが目的。これを受けEU議長国ルクセンブルクの当局者は、移民問題への対処法を話し合うためのEU加盟国内相会議を9月14日に開くことを発表した。
中東、アフリカからの難民が途切れなく入ってくる欧州において、不法移民が惨たらしい姿で発見されたことを受け、イギリス、フランス、イギリスといった大国が前倒しで協議を行うという話。
この記事の文章が非常に象徴的だなぁと思うのは、「欧州の動きが遅すぎるとの懸念に対して」という時、欧州って誰なのかが不問であること。
これは翻訳の間違いとかじゃないです。実は私はこの記事を最初英文で読んでエントリーを書こうとして、日本語版あるのかなと探したらあったからリンクしてる。
■ ヨーロッパって誰やねん
で、欧州の動きが遅すぎる、という時の欧州とはおそらくEU機構のことなんでしょう。ブリュッセルにいる官僚さんたちのこと。この人たちはそれぞれ素晴らしく優秀な人々が選ばれて仕事してるんでしょう。でもって、様々な指針をこの人たちが決めてる。
でも、各国には各様の事情が突発的に発生するし、発生が容易に予見できる時間帯ってのはあるわけだ。しかし、それがブリュッセルには通じないこともしばしばあるだろう。そして100件に99件はそれでもいいとしても、この1件はダメだという緊急事態が発生した場合、一体だれが特定の、例えばハンガリーとかドイツの対処の最終的な責任を持つんだろう?
そりゃ各国の大統領なんだろうけど、でも、その大統領さえ欧州の各種指令の下位に回るのが建前だと思う。
というわけで、実にまったくなんかなぁ、機能的に問題多すぎ。そして、最初の5年ぐらいは、主権国家の名残があるから、各国と「ヨーロッパ」の関係に緊張感があるだろうが、その次になったらだんだんと各国は「ヨーロッパ」の指令に流されるのが常態化する、みたいな感じになっていくだろうし、おそらく今はそういうフェーズなんだろうなとか思う。
「ヨーロッパ」に対して各主権国家にオブジェクション(異論)が持てない、少なくとも持ちづらいってのも大変そうだ。
そういうわけで、どこもかしこもずるずるの対応ばかりになってしまって、欧州各国民はいらついている風ではある。
その中で、ほとんど唯一どうも主権国家っぽいのはハンガリーかもしれない。ハンガリーは移民の流入口の一つでもあるから早くからカリカリしていて、ついにはセルビア国境に4メートルの柵を作り出したり、受け入れに積極的ではないとフランスに怒られたりしているが、結構断固としている。
■ 止める気はないのか?
で、なんでこんなに移民が流れてくるのかといえば、それはもう中東、北アフリカをカオスにしたからだし、まだしているから、以外にないでしょう。
つまり、アメリカ人のポール・クレーグ・ロバーツ的にいえば、ワシントンの政策に唯唯諾諾と従ってそれらの地域への攻撃に参加したんだから、彼らに同情する必要はない、という話。
イラク、リビア、シリアと各国を壊していって、中東を改変したいんだかなんだか知らないけど一般住民が安心して暮らせる環境を次から次から壊しているのが最近15年の西側の所業。
そのお返しに人々が欧州にあふれている。止めたいなら、それら住民の場所を元に戻してやるしかないでしょう。
しかし、そういう声は絶えて聞かれない。もちろん様々なオールタナティブのメディアでは言ってる人いっぱいいます。しかし、政策になるようなレベルではないわけだよね。
ということは今後も続く、と。でもって、イギリス、フランス、ドイツが固まって、きっと、どうやって効率的に移民を受け入れるのか、手順が人道的であるようにしなければならない、みたいなバカみたいなことをもっともらしく語るんだろうなぁとか思う。そもそも、他人様が住んでいるところを意味不明に空爆している時点で、人道もくそもない。
■ 第2のアメリカ
こうやっていって、1年に20万ぐらいなら、とか、いや80万だって大丈夫とか言いながら、それが1年で終わる保障はなく、その後何年も続くといったことをしていけば、ヨーロッパのヨーロッパ性は本当に薄くなるんだろうね。そりゃ既に100年前と比べれば、といってしまえばお終いだし、私たちだって150年前と比べたら嘆かわしいほどに日本的なるものを失ってる。
しかし、異民族が多数入ってきた上での変革というのはこれとは根本的に異なると私は確信している。
が、しかし、ヨーロッパはそれを直視していないし、どうもこの流れではしそうにもない。
つまり、こんなことしてたら私たちの国が変質してしまう、なんとかしなくてはならないと問題の本質に迫れる人々が必要なわけだけど、それはすなわちワシントンへのオブジェクションとなる。それができない。できるまで問題は解決しない。
そういうわけで、多分、このままいけば最終的に第2のアメリカになるんじゃないのかな。で、多様でしょ、みたいなことを言う、と。
考えてみれば、中欧の王家はオスマンの侵略に怯えていて、何度も戦争をした(その前後に欧州側がイスラム、正教グループに侵略したりもするんだが)。そのたびにセルビアがある種の防波堤みたいな感じだったのに、そのセルビアをぶち壊して弱体化させていったのがそもそも禍々しいフェーズの始まりだったような気もする。
ヨーロッパが現在の広がりを持ったのは実につい最近だってのも忘れすぎ。
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