荒川豊蔵資料館。岐阜県可児市久々利柿下 久々利。
2024年3月29日(金)。
志野筍絵茶碗 銘 随縁 昭和36年 豊蔵作
豊蔵の代名詞ともいえる志野作品。豊蔵作品の中でも、格別に緋色の美しい作品。志野釉の白さと緋色のコントラストが絶妙である。志野の筍絵陶片を発見したことから、豊蔵の大切なモチーフとなった筍が描かれ、妻への贈物とした逸品。
瀬戸黒金彩木葉文茶碗 昭和40年 豊蔵作
志野と並ぶ豊蔵の代名詞のひとつである瀬戸黒作品。漆黒色を呈す、桃山期の瀬戸黒の技術を現代に甦らせ、なおかつ金泥で加飾して華やかさを醸した、豊蔵オリジナルの作品。妻への贈物とした小振りな茶碗。
デミタスカップ 大正7年 荒川豊蔵プロデュース
1917年(大正6年) 名古屋の教育者鈴木勲太郎と知り合い、彼の研究による特殊絵の具で手描きの上絵付き高級コーヒー茶碗をプロデュースする。生地は瀬戸の菱松から購入し、絵付けは名古屋出身の日本画家近藤紫雲に依頼した。
このコーヒー茶碗を京都の錦光山宗兵衛に持ち込んだところ高価で買い取ってくれ、更に「この品をもっと作ってみなさい。引き受けます。」と言われたため、独立して上絵磁器製作の事業を起こすことを決意。この時錦光山の顧問をしていた宮永東山に引き合わされる。
双狗図 俵屋宗達絵。桃山時代。
蒐集資料。桃山時代の画家・俵屋宗達画で、二匹の子犬がお互いにもたれ合いながら、くつろぐ様子を描いている。豊蔵は桃山文化に憧れ、宗達や本阿弥光悦を敬愛していたという。この一幅の入手は豊蔵の念願だったのかもしれない。
紀貫之 しら露も 時雨もいたく もる山は した葉のこらず 色づきにけり
(白露ばかりか時雨もたいへん繁く漏るという守山では、そのためか、下葉まですっかり色づいてしまった。)古今集 巻五 秋歌下 260
*もる山(現在の滋賀県守山)に露や雨の「漏る山」の意を掛けた。
伊勢 三輪の山 いかにまち見む 年ふとも たづぬる人も あらじと思へば
(三輪の山は、どれほどあなたのおいでをお待ちしていることでしょう。何年たっても、大和まで訪ねてくれる人はあるまいと思いますが、あなただけはどうか訪ねて下さい。)古今集 巻十五 恋歌五 780
山部赤人 あすからは 若菜つまんと しめし野に 昨日も今日も 雪はふりつゝ
(明日から若菜を摘もうと標(しるし)をつけた野に、昨日も今日も雪は降り続いている。)新古今集 巻一 春歌上 11
僧正遍昭 すゑの露 もとのしづくや 世の中の おくれ先だつ ためしなるらむ
(葉末に宿る露、根本にしたる雫は、遅速こそあれ、ともに地に落ちるもの。それは遅い速いの違いはあれ、いずれは誰もが死んでゆくこの世の中の例なのであろう。)
新古今集 巻八 哀傷歌 757
資料館の展示を見学後、階段を下って荒川豊蔵が山居して陶芸生活を営んだ敷地と建物群を見て回った。