かなり前だが、家人に『謎解き洛中洛外図』という岩波新書を紹介された。ここのところよくブログでも登場する『洛中洛外図』の中での国宝上杉本である。私が、上杉謙信を好きなのを知ってのことだった。
①いつ ②作者は ②注文主は ③誰がいつ謙信に送ったか ということを、黒田日出男さんが、1996年にまとめた、ご自身、「美しい」解決と自讃される名著であった。
①1548年~1564年(義輝が殺される前) ②狩野永徳 ③足利義輝が謙信に贈るために ④織田信長が天正2年(1574年)謙信に信頼されるために贈った ということだった。
今年の3月初版の出た本書は、東博で「洛中洛外図」展が予定されていることもあって、新聞広告が出た後早速図書館に予約した(文京区は所蔵本でなくてもネットで注文できるのがうれしい)。
やっと入手できてパラパラと見てみたら、黒田さんのあの本を基にしたのではないか? と思える感じなので、両方とも随分丁寧に読んだ。私の印象では予感通りだった。
義輝の作り上げようとした安寧の世を描ききった永徳。2人の、友情にも似た一体感を描く。一方、息子の天才に怯える父松栄との確執、心の通い合いなどないながらも互いに相手の力が解ってしまう信長と永徳の対決、と巧みに描かれている。
安倍龍太郎の大作『等伯』では、等伯の活躍を阻む悪役的な永徳であるが(本書は、勿論等伯の登場前の話で、その絡みは無いものの)、自分の才能を極めていこうとする真摯な青年の姿が描かれ、『等伯』の永徳につながるイメージは薄い。それが小説の由縁なのだろう。