最近、日本地図帖を手に取ると兵庫県に目が行くことが多い。5月に旅行した余部や”天空の城”は兵庫県にあった。NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」の主舞台播磨も現在の兵庫県。
このドラマに触発されて官兵衛づいている。戦国の世に活躍した、好きな人物は“参謀”型の直江兼続・竹中半兵衛と官兵衛ということもあり、彼を主人公とする『播磨灘物語』(著 司馬遼太郎)を再読し、『黒田官兵衛』(著 小和田哲男)を読んだり、江戸東京博物館で「軍師 官兵衛展」も見てきた。大河ドラマは三木城が落城し、一つの山を越えた。
その三木城落城に関して、敗者の側から眺めた物語と知って是非読みたくなり、紐解いたのが『虹、つどうべし 別所一族ご無念御留』である。
著著は「あとがき」で次のように語っている。
『この作品の核となる物語は、わずか一ヵ月という、我ながら驚異的な早さで書き終わった。こんなことは初めてだ。自分史上、最速。だがそう言い切れるかというと、答えは否だ。もしかしたら、一番時間がかかった物語ということになるかも知れない』と、気になる語り出しだ。
彼女は播州三木の、城跡のふもとの町で生まれた。幼い頃よく遊びに行ったのが三木城跡。そこで石碑に刻まれた、ある歌と運命の出会いをする。
◇◇はたゝうらみもあらし◇◇の◇◇ちにかはる◇◇と◇へハ (原文のまま)
と刻まれた文字。◇部分の漢字が読めなかった彼女は帰宅後姉に尋ねると「あれは、別所長治が死ぬときの“辞世の句”なんや」と教えてくれ、すらすらとその和歌を諳んじたそうだ。
今はただ恨みもあらじ諸人の 命にかはるわが身とおもえば
「三木の干し殺し」と伝わる悲惨な籠城戦。その果てに、城兵の命と引き換えに、自らの命を差出し、開城した三木の城主別所長治。彼女の中で、歴史の知識が降り積り、想像が育ち、別所一族滅亡のドラマは熟成されたが、筆にはしてこなかった。
著名な作家となった彼女の愛読者で、別所一族の末裔と名乗るNさんから、「私は、もう先が長くないから、生きているうちに読みたいです。是非長治を書いてほしい」と、資料を渡されながら頼まれても、書き始めなかった彼女。しかし、次の講演会の時にNさんの姿はなかった。「長くはない命」は本当だった。涙が止まらなくなった著者玉岡は早速筆を取った。「待っていてくれる人のために、ふるさとのために、恨みを封じて歴史に消えた先人のために、そしてもうひとつ、今を生きる自分のために」。長い熟成の時を経て、ドラマは一ヶ月で姿を現したのだ。(このブログ次回に続く)