徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

最後の夢(第二話 超能力者募集します。)

2005-09-25 23:43:32 | 夢の中のお話 『失われた日々』
 昨年一足先に大学へ入学した悟がまた仲間に加わって五人組が復活したものの、それぞれ大学や学部が異なるために高校時代のようにはそれほど頻繁に集まらなくなっていた。
 それでも始めのうちは時々黒田のオフィスで情報交換などをしていたが、紫峰の三人もアルバイトを始めたり、それぞれにデートの相手や遊び友達が出来たりで、次第に三人の間でさえも時間の合わないことが多くなり、黒田もとうとうこのオフィスを元の執務室に戻すことにした。
 子どもたちが無事成長した証ではあるが、黒田はこの部屋を潤していた若々しく賑やかな声が聞かれなくなったことに一抹の寂しさを感じていた。
 
 

 その青年に出会ったのは透がたまたま雅人たちとの待ち合わせで大学構内のブロンズ像の前にいた時のことだった。

 髪を亜麻色に染めて短めにカットし、ところどころ栗イガみたいに尖らせたその青年は、透の前に来ると突然手のひらを上に向けて差し出し光を放出させて見せた。

周りに人気がなかったとはいえ、紫峰の者なら考えられない大胆な行動だった。

 「俺…城崎…城崎瀾。 きみ…俺らの仲間にならない? 」

城崎は透に親しげに話かけながら近づいてきた。

 「すごいね。 きみ手品師? 」

透はわざと驚いたように言った。

 「とぼけないでくれる。 分かってるくせに。 」

 城崎はさらに近づいてもう一度手を開いて見せた。
炎が渦巻いて透の方へ向かってきた。透は反射的に手をかざして眼を護った。

 「おお…すげえ! どうやんのそのマジック。 」

城崎の背後に雅人たち四人が姿を現した。

 「うそ…五人もいるじゃん。 きみたちもう組んでるわけ? 」

城崎は虚を衝かれたように一歩退いた。

 「組んでるわけじゃなくて僕らはみんな親族。 で…何だっけ? 」

透は城崎に訊いた。 

 「親族…?  そうなんだ…きみは何処かの一族の人なんだ。
じゃあ…無理だろうな…。 
いいよ。 邪魔して悪かった…。 忘れて…。 」

 城崎はあっさりと引き下がった。どうやらフリーの能力者を探していたらしい。
去っていく城崎の後姿を見つめながら透たちは何かしら不安なものを感じていた。

 透たちの話を聞いた修はすぐに西野を調査に行かせた。城崎瀾という青年の身辺調査は思ったより簡単だった。

 この青年の実家も結構名のある一族らしく、できるだけ表立った行動を避けているようだった。
 青年はこれを不服として大学入学と同時に一人暮らしを始め、一緒に活動できる仲間を探しているらしい。

 現在、青年を含めて三人で動いている。
目立った力を持つのは城崎だけで、あとのふたりはたいしたことはない。
 城崎の目的が何かは分からないが、出来るだけ多くの仲間を集めようとしていることだけは確かである。

 紫峰と藤宮の若者には即日、危険なので彼らの口車に乗って仲間に引き込まれないようにとの警告が出された。
 いつの時代もそうであるように警告を無視する若者が必ずひとりやふたりは出てくるわけで、長老衆も世話人も神経を尖らせていた。

 
 
 バス停でいつものバスを待っていた雅人は急に気分が悪くなった。
講義が終わって大学から少し離れた場所にあるバイト先に直行し、今日に限ってやたら忙しく働いたのは覚えているが、だからと言ってこんなに急にふらふらしてくるなど何の原因も思い浮かばなかった。

ベンチも無いので仕方なくその場で座り込んでいた。
少し休めば何とかなるかも…そんなふうに考えた。
 
 「大丈夫かい? 雅人くん。 」

 聞き慣れた声が背後から聞こえてきた。
振り向くと史朗が買い物袋を片手に立っていた。
史朗のマンションが近くにあったのを思い出した。

 「僕んちにおいでよ。 すぐそこだから。 ちょっと休んでいきな。
後で送ってってあげるよ。 」

 史朗は雅人の大きな身体を支えてくれて、自分のマンションへと連れて行ってくれた。
 カーペットの上で伸びてしまった雅人に肌掛けを掛けてくれた。

 「ごめんね。 史朗さん。 」

雅人がそう言うと史朗は笑って体温計を渡してくれた。

 「ちょっと測ってご覧よ。 」

雅人は言われるとおりに熱を測ったが微熱程度で、ふらふらするようなものではなかった。

 「ああ…多分脱水だね。 今日はわりと蒸し暑かったしね。
きっと長時間何にも飲まずにバイトしてたりしたんだろ?
前にさ…僕もそれで倒れたことがあるんだ。 」

 言われてみれば今日は朝から妙にガタガタしていたので、昼にパンを食べながら缶コーヒーを飲んだだけで、他に水分らしい水分を取っていなかった。

 史朗が500mlペットのスポーツドリンクを持ってきてくれた。
雅人は一気にそれを飲み干したあと、また寝転がっていた。

 史朗は枕元に別のペットボトルを用意しておいてくれた。
部屋の向こうで史朗が着替えているのが見えた。

 「ねえ。 史朗さん。 聞いていいかな? 」

少し気分の良くなってきた雅人は史朗に離しかけた。

 「いいけど…なに?  怖い話? 」

笑いながら史朗は言った。
 
 「史朗さん…修さんとは…もう…? 」

少し間があってから史朗はまた笑った。

 「気になるの…? だろうね…。 少し前にね…そんなようなことがあった。 
ゲームみたいなものだね…あの人にとっては。
きみは…?」

 「僕は…入学してから…。 僕から迫った…というか…襲った。 」

史朗は声を上げて笑った。

 「きみに襲われたんじゃ逃げられないね。 」

雅人はまたペットボトルを開けた。治癒能力のある雅人はさすがに回復が早い。

 「でも…修さんが本当に触れたいのは笙子さんだけだもの。
僕の場合は気持ちを受け入れてもらったってだけの話。 それで十分だけどね。
僕にも彼女がいるしさ…。 」

史朗はふ~んと頷いた。そして妙に真剣な顔で雅人に訊いた。

 「雅人くん…彼女いるんだ…? まあ僕も笙子さんの愛人ではあるけれど…。
あのさ…僕は修さん以外に同性を好きになったことはないけどきみは…? 」

 「ないよ…でも修さんで目覚めちゃったとしたらこれからはわかんないよなあ。
もともとバイセクだったのかもね。 」

雅人は二本目をからにした。

 「何か食べられそう? うどんくらいなら作ってあげるよ。 」

 史朗がそう言うと雅人は素直にこっくりと頷いた。
くすくす笑いながら史朗はキッチンへ向かった。

 手際の良い包丁の音が聞こえて、やがて葱やかつお節のいい匂いがした。
意外とまめな人なんだ…と雅人は思った。

 史朗がうどんを煮あげる頃には雅人も起き上がれるようになった。
すると急に腹の虫が騒ぎ出したので史朗はまた声を上げて笑った。

 ふたりでうどんを啜りながら修のことをあれこれ話した。
突然同性ふたりに迫られた時の修のものすごく戸惑った顔を思い出して笑った。
それでも逃げること無くはぐらかす事も無く真面目に考え、長い時間をかけてふたりの想いを受け入れてくれた。
 
 「あの人のことは修さんも絶対受け入れないだろうけど…。 」

雅人がぼそっと呟くように言った。

 「あの人って…鈴さんのことかい? 」

 史朗もそのことは聞いていた。修でなくても頭にくる話だった。
笙子のことを馬鹿にしているとしか思えない。

 「鈴さん自身は本当にいい人なんだよ。 修さんに惚れてんのは確かだし…。
でも長老衆がついてちゃ絶対手をださない。
 
 最近修さん…滅茶苦茶機嫌が悪いんだ。 
厄介な問題が起きている時に長老衆がそんな時代錯誤なことをするもんだから。」

 さもあらん…と史朗は思った。ジェネレーションの問題はいつの時代、何処の場所にも存在するとはいえ、紫峰や藤宮の世代間の意識の相違は大き過ぎる。
今でなくともいつかは何かの形で噴出するだろう。

 両世代を背負っている宗主修の気苦労を思うと察して余りあるが、同族でない自分は何の手助けもしてあげられない。

史朗にはそれがもどかしくて仕方が無かった。




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最後の夢(第一話 長老衆の謀)

2005-09-25 00:20:02 | 夢の中のお話 『失われた日々』
 修が最初の子を失ったのは透たち四人組が目的の大学に合格した頃だった。
笙子が身籠ったと分かった時の修の喜びようを知っているだけに、その落胆の大きさが思いやられて透たちの胸もきりきりと痛んだ。

 冬樹が亡くなった時もそうだったが修はそういう感情を努めて表に出さないようにする性格なのでかえって周りが気を使ってしまう。
心配をかけまいとするその心根が修を知る人たちにとっては切なかった。
 
 史朗のことがあるから笙子の御腹の子が自分の子であるという確証は何処にもなかったが、修はそんなことにはお構いなしのようだった。

 すでに史朗との間でどちらの子であっても協力して育てる相談ができていたし、
笙子の生む子ならたとえ全然知らない相手の子でも受け入れるつもりでいた。
そうでなければ笙子の際限ない遊びを黙認する意味が無い。

それなのに修はその手に子を抱くことすら出来なかった。

 それでも笙子の悲しみに比べれば自分などはまだましな方だと思った。
厳しい長の修練の中で自分の身体が自分のものとは思えなくなっていた笙子も、身籠って初めてそれを確信できたのだ。
 そのことも修は心から嬉しかったのに、子を失ったことで笙子はまた自己不信に陥ってしまった。

 史朗にとってもそれはつらい出来事だった。家族と呼べる者のいない史朗にとってその子はやっと手に入るはずの本物の家族だったのに…。

 そんなこんなで合格の喜びに湧くはずだった今年の春も何となく寂しく始まってしまった。
 勿論、修は可愛い子どもたちの合格を喜び盛大に祝ってくれたけれども、透たちも何となく手放しでは喜べなかった。



 紫峰の奥座敷では長老一左と宗主修を前に西野がなにやら深刻な話をしていた。
穏やかな修にしてはいつになく声を荒げて西野を叱っているようにも見えた。
西野が平身低頭詫びているところを見ると何か失敗をやらかしたらしい。

 「これはいまや紫峰だけの問題ではない。 藤宮でも頭を痛めていることだ。
些細なことだからといって報告を怠ってもらっては困る。 」

修は西野にそう注意した。

 「申しわけございませんでした。 以後心致します。 」

西野は心底詫びていた。

 「宗主よ。 事態はそんなに深刻なのかね。 」

考えられんとでも言いたげな不快な表情を浮かべて一左が訊いた。

 「ええ…。 このところ特に若い連中の間でおおっぴらに力を誇示するものがでてきているのです。
まあそんなに力のある連中ではないので例のスプーン曲げ程度のことですが…。」

 修は溜息混じりにそう答えた。

 特殊能力が手品やサーカスのように扱われ、娯楽番組などにそうした能力を持つといわれる者たちが登場するようになってから久しいが、紫峰や藤宮では力の存在を知られることの無いように力を使った外部との接触を厳しく取り締まってきたはずだった。
 
 極力外部の者の前での力の使用を避け、やむを得ず使う場合には必ず相手からその記憶を消去するように指導されていた。
 その紫峰や藤宮にあって遊び半分に能力を見せびらかすものが出てきたということは両一族の存続上極めて由々しき問題であり早急に対処すべき課題でもあった。

 今のところそういう連中はかなり遠い縁戚に過ぎないため、直接、紫峰や藤宮の名前が出ることはまず無いが、近い親族にその影響が波及しないとも限らない。

 「取り敢えずは長老衆と世話人衆に通達を出す。 
直系傍系を問わず末端までの監督指導と取締りを早急に強化するように。 」

 西野は一礼すると早速に宗主通達の手配に向かった。
西野と入れ違いに襖の向こうから鈴(れい)の声がした。
  
 「御大…お団子買って参りましたけど召し上がりますか? 」

 「おお。 悪かったね。 頂くよ。 」

襖が開いて盆を持った鈴が現れた。

 「遅うなりまして。 用事に手間取ったものですから。 」

 鈴は一左の前に座ると団子の皿をそっと一左の前に置いた後で、急須を傾けて二つの湯飲みにお茶を注いだ。

黒田の姪にあたるこの女性は笙子より少し年下で、二十歳の時に結婚したが不幸にしてすぐに未亡人となってしまった。

 去年の秋に遊びに出た一左が転んで足を痛めたときに、介護を頼んだのがきっかけでそれ以来一左の用人みたいなことをしてもらっている。

 明るくて面倒見がよく、おっとりした女性でどこか雅人の母せつを思わせるようなところがあった。

 「宗主。 新しいお召し物の生地見本が届いております。
後でご覧になってくださいな。 」

鈴は一左の前に湯飲みを置いた後、修にも湯飲みを渡した。  
  
 「生地見本? 頼んだ覚えはないが…? 」

修は訝しげに言った。鈴はにこっと笑って答えた。

 「お召し物にしみがありましたので洗濯させたんですけどおちませんでしたの。はるさんに訊いたら新調した方がいいと言うので取り寄せました。 」

修は少しむっとした態度で答えた。

 「しみのついた服って…きみが僕の部屋に入ってみつけたのかい?
僕のことは衣服にせよ何にせよ笙子かはるに任せてあるのだけどね。 」

機嫌を損ねた修の様子に鈴はおろおろしながら謝った。

 「ごめんなさい。洗濯物を置きに行きました時に見つけたもので…つい。」

 修は答えず無言のままその場を後にした。
背後で詫びる鈴の姿には眼もくれなかった。

 不愉快だった。
鈴がこの家に来たのは一左の介護のためだったが、実はもうひとつ訳があった。

 笙子の行状が一向に修まらないことを叔父貴彦を始め、一左や次郎左、笙子の両親さえもが苦にしていた。
 そこでもともと藤宮一族の中でも最高位にある笙子の正妻としての地位は不動のものとして、修には内妻をという計画が長老たちの間で秘かに進められていた。

 一左の介護に託けて選ばれたのが家柄と人柄の良い黒田の姪だったのだ。
修が気に入ればよし、気に入らなければまた別の女性を選ぶということで…。
黒田が内々にそのことを伝えてくれたお蔭で修もその計画を知ることが出来た。

 江戸時代じゃあるまいし…修はひどく憤慨していた。
紫峰一族としてはどうしても修の血を引く後継者が必要だった。
透や雅人の子でも悪くは無いが血統としては、やはり修が最も正当な嫡流である。
修はすでに次期宗主を透に後見を雅人に決めている。
だから本家当主には是非とも修自身の子をというのが長老衆の言い分だった。

 鈴はよほど長老衆にきつく言い含められてきたらしく、ことあるごとにあれこれと修の世話を焼こうとする。

 長老衆が背後にいるという裏を知らなければ、鈴という子は本当に心根のいい娘だから修としても何を任せてもいいのだが、手放しにそういう気にはなれない。
つい警戒してしまう。
  
 長老衆の考え方自体が時代錯誤も甚だしいのだが、紫峰も藤宮もおそろしく長い歴史をもつ旧家なだけにそれを異常なことだとは誰も思わないのだろう。
 
 多分笙子もこのことには気が付いているだろう。
笙子のことだから、それもいいんじゃない…と笑って済ませるだろうが、子どもを亡くした後だけに修としては気が重かった。

 頭の痛い問題が起きている時に傍で無神経にもいらぬお節介を焼かないでくれ。
修は心で呟いた。

 実際、今の紫峰にはさまざまな面で時代にそぐわない考え方が多く存在したし、また、若い世代には重要なことをあまりにも軽く考える風潮が見受けられた。

 それは紫峰や藤宮に限ったことではなく、今までほとんど係わり合いをもたずにきた別の一族にもまた同じような問題が起こっていた。

 それは同じような秘密を持つ一族が何処でも共通に抱えている問題だったのだろうけれど…。





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