「少し性急に過ぎたね…。 もう少し慎重に行動するべきだったな…。 」
未成熟なノエルの子宮を安易に実験に使ってしまったことを聞いて有はそれとなく滝川を窘めた。 滝川自身も反省頻りだった。
あれからノエルの子宮を診た限りでは順調に回復しており、大事には至らなかったようには思えるが、治療師としては決して褒められた行為ではなかった。
「恭介…これは本来…長老級の者のみが知ることなので…おまえに話すべきかどうか迷ったんだが…そんな実験を行ったとあらば黙っているわけにもいくまい…。
実は…裁きの一族にまつわる事だ…。 」
意を決したように有は話し始めた。
「裁きの一族はひとつの家系からなるわけではない。
対になっている家系がもうひとつある。
この一族は代々女性が長となっていて…長は物心つくと修行に入る。
幾つかの継承奥義の中で子宮を使っての奥義を磨くための修行だ。
俺も詳しくは知らんが…熟練すると若すぎて未熟な身体でも他人の胎児を自分の子宮で育てたり、老齢になっても子どもを産むことができるそうだ。
俺が調べた限りでは…高木智哉さんの何代か前にその家系の本流の血が入っているようなんだ…ご本人はまったくご存知ないが…。
つまり…ノエルもその血を引いているってことだ。
長に適した身体を持つ女児は一代にひとりふたりの割合でしか生まれてこないそうなんだが…ノエルの女性の器官はひょっとしたらそういう力を生まれついて備え持っているのかもしれない…。
…ノエルの場合は女性としてよりはむしろ男性としての方が完全体だから…長に向いているとは言えんだろうが…ね…。
奥義の内容はその家の護るべき秘密だから…俺には分からない。
けれど…人伝に聞いた話では…真偽のほどは不明だが…生命エナジーを自在に操れる業もあると言われている。
その奥義だけは長に限らず…また女性にも限らず…当主やそれに近い男性たちにも相伝されるということだ。
高木さんがご自身の出自をご存じなくても…何かそれに纏わる能力の話…或いは実際に何かの能力をお持ちかもしれない…。 」
生命エナジーを自在に操れる業…それで…新しい生命エナジーも産みだせるものなのだろうか…?
その点については…滝川は疑問に思った。
そんなことができるなら死んだ人間を甦らせることだって可能じゃないか…。
如何な奥義とは言えそこまでは有り得ん。
それは多分…自分或いは他人のエナジーを自由に増加させるとか減少させるとか…もしくは我々のように輸血みたいな感覚で相手に補給してやるという類のものだろう…。
増加させるのも一応は自分の身体で生み出していることになるからな…。
「あれからいろいろ考えたんですが…。
ノエルにとって一番負担が少ないエナジーの持ち主は智哉さんか千春ちゃんです。
また紫苑にとって一番負担が少ないのは有さんか亮くん…。
千春ちゃんと亮くんの組み合わせが最も成功の可能性が高いんじゃないかと…。
年齢も近いですし…。
ただこのふたりは自分で相手に気を送った経験がない…。
ふたりからノエルの中にそれぞれの気を…ノエルから紫苑の中に新しい生命の気を無理なく移動させられるような能力者が必要です。
僕がやってできないことはないだろうけれど…もし生命エナジーを扱える専門家が居るならそれにこしたことはない…。 」
滝川は智哉の能力について確認してみる必要があると感じた。
智哉にもし…その家系の持つ能力が…特に相伝された能力があるならば少なくとも自分が手を出すよりはずっと安全だ…と考えた。
有もそれには同意した…が…有には何処か引っ掛かるものが残っていた。
滝川の思いついた方法の何処がどう悪いと訊かれれば…答えに窮する。
ただ…実験途中でエナジー同士の融合を邪魔をしたもの…その正体が気にかかっていた。
滝川が考えたようにそれは単にノエルの身体との相性や量的な問題だったのかもしれないし、タイミングが悪かっただけかもしれない。
しかし…もし有の勘が正しければ…そういうことではなく…何か根本的なところに問題があるような気がするのだ。
何れにせよ…前例のないことにノエルの身体を使う以上は実の親である智哉に了解を得ておく必要がある。
有は早急に智哉と連絡を取るようにと滝川に勧めた。
病院の玄関の前でノエルの父は一度大きく溜息をついた。
我が子が未熟ながらも半分女性であると知った時の驚きと戸惑い…それだけでも頭を抱えていたというのに…流産だの…気を産むだの…。
冗談じゃない…と智哉は思った。
しかし…そうは思いながらも…ノエルを命懸けで救ってくれた西沢のことを考えると無下に断るのもどうかと…。
取り敢えずは話だけでも聞いておこうと病院まで出向いてきた。
滝川と有そしてノエルが特別室の応接間で待っていた。
滝川はわざわざ出向いて貰えたことに対して丁重な礼を述べ、先ず、智哉の持つ能力について確認を取った。
「私の…力ですか…。 形ある物を動かしたり飛ばしたりはできませんが…特別な眼…ということでしたら…多分そうなのでしょう。
ある程度…透視ができます。
ノエルが小さい頃に菓子箱の中のおまけの種類をよく見分けてやりました。
こいつの身体をわざわざ透視したことはありませんが…。
そういうものではなくて…気というものを見ろと言われれば…それもなんとなく見分けられる気がします。
気配ではなく…視覚として…。 」
智哉はそんなふうに答えた。
気…を視覚で捉えられる…滝川は面白いと思った。
透視とは逆の力が備わっているということだ。
それならノエルの子宮内部を透視しながら同時にその中の気の動きを眼で見ることができるのではないか…。
滝川は治療師だから子宮内部を透視することはできる。
しかし…子宮内部の透明な気の動きは視覚では捉えることができない。
身体に感じる気の気配を脳で映像化して捉えている。
「気に触れることができますか?
例えばノエルの子宮に宿った生命エナジーを取り出すようなことは可能ですか?」
滝川が訊くと…しばらく…躊躇った後で智哉は曖昧に首を振った。
滝川は訝しげに智哉の顔色を窺った。
「分かりません…。 試したことがないのです。 」
智哉は複雑な面持ちで答えた。
いきなり椅子から立ち上がると滝川は、こちらへ来てください…と智哉を病室の方へ招いた。
病室へ入ると智哉の目にいくつもの管に繋がれてベッドに横たわったままの西沢の姿が飛び込んできた。
あの快活な西沢が蝋人形のように生気のない顔をして眠っている。
あれほどノエルのことを親身に思ってくれていた男が…ノエルの身代わりとなって今ここで死に瀕している。
何やら胸のつまるような心地がした。
「有さん…あなたからエナジーを分けて下さい。
高木さん…有さんからほんの少しだけエナジーを抜いて…紫苑の中へ移動させてみてください。 」
智哉は躊躇した。
智哉の横をすり抜けるようにノエルが西沢の傍に駆け寄った。
西沢の手を握り擦りして反応を確かめる…無論…反応はない…。
「ノエルは…毎日ああして紫苑の反応を確かめるんです。
何度も…何度も…。 」
滝川がそう話した。
ノエルが西沢に対してどんな想いを抱いているのかは分からない…。
分からないが…西沢へのその仕草ひとつひとつが切なげで…こちらの胸が痛む。
「ノエル…誰も試したことの無い危険な賭けだ…。
何度も失敗すれば…おまえの身体がぼろぼろになる…。
それでも挑戦する覚悟はあるのか…? 」
智哉がそう訊ねるとノエルは何のこと…?とでも訊くかのように父親の顔を見た。
「男として育ったんだから男として正常ならそれでいいことかも知れんが…。
俺が心配するのは…完全に壊れてしまうかもしれない女性の器官を後悔しないか…ということだ。
西沢さんが復活しても…ノエルという女の子は存在しなくなる…。 」
有も滝川も智哉の言葉に思い当たることがあるかのようにノエルを見た。
ノエルはゆっくり西沢に眼を向けてから…もう一度父親を見た。
「後悔しない…もう一度紫苑さんの声が聞きたい…。
もともと要らないものだったんだ…僕は男だもの…紫苑さんの役に立つならそれでいいよ…。 」
笑顔でそう答えた。
智哉はそうか…と頷いた。
「有さん…失礼…。 」
不意に有を振り返った智哉は有の丁度心臓あたりに手を触れ、その手のひらをそっと上向けた。
滝川も有もその手のひらに小さな気の塊のようなものがあることを感じ取った。
「通常…皆さんはこのまま小さな気を西沢さんの中に補充するのでしょうな…。
それでは…不十分です…。 」
智哉はその小さな気の塊を両手のひらで包み込んだ。
しばらくすると…手のひらの中の気は二倍ほどに膨れ上がった。
それだけでなく一段と力を増したように感じられた。
「気を育てるという作業をします…。
そうすることで気は勢いと力を増し…体内でより効果的に働いてくれます…。 」
智哉は西沢の心臓の辺りに育てた気を補充した。
「ノエル…もう一度西沢さんの手を触ってみろ…。 」
ノエルは言われたとおりに西沢の手に触れた。
ノエルの顔に驚きの色が浮かんだ。
「温かい…。 いつもよりずっと温かい…。 」
有も滝川も急いで西沢の手を取った。
確かにいつもとは違う…。少しだけ紫苑の顔の陰りが薄れた。
ふたりとも驚愕した面持ちで智哉を見つめた。
「祖父の代から伝わってきた力です。それ以前のことは私も知りません。 」
今までの智哉とは打って変わって落ち着き払っていた。
最早…何を拘る必要もないと…きっちり腹を据えたようだった。
生命エナジーをを自在に操る力とは…エナジーを育てる力のことだったのか…。
滝川は目の当たりにした智哉の能力に大いに期待できると思った。
ノエルが産んだ生命エナジーを扱うのは智哉に任せよう…。
すでに心が本番に飛んでいる滝川は有の抱いた懸念には一向に気付かなかった。
そこに大きな落とし穴が待ち受けていることにも…。
次回へ
未成熟なノエルの子宮を安易に実験に使ってしまったことを聞いて有はそれとなく滝川を窘めた。 滝川自身も反省頻りだった。
あれからノエルの子宮を診た限りでは順調に回復しており、大事には至らなかったようには思えるが、治療師としては決して褒められた行為ではなかった。
「恭介…これは本来…長老級の者のみが知ることなので…おまえに話すべきかどうか迷ったんだが…そんな実験を行ったとあらば黙っているわけにもいくまい…。
実は…裁きの一族にまつわる事だ…。 」
意を決したように有は話し始めた。
「裁きの一族はひとつの家系からなるわけではない。
対になっている家系がもうひとつある。
この一族は代々女性が長となっていて…長は物心つくと修行に入る。
幾つかの継承奥義の中で子宮を使っての奥義を磨くための修行だ。
俺も詳しくは知らんが…熟練すると若すぎて未熟な身体でも他人の胎児を自分の子宮で育てたり、老齢になっても子どもを産むことができるそうだ。
俺が調べた限りでは…高木智哉さんの何代か前にその家系の本流の血が入っているようなんだ…ご本人はまったくご存知ないが…。
つまり…ノエルもその血を引いているってことだ。
長に適した身体を持つ女児は一代にひとりふたりの割合でしか生まれてこないそうなんだが…ノエルの女性の器官はひょっとしたらそういう力を生まれついて備え持っているのかもしれない…。
…ノエルの場合は女性としてよりはむしろ男性としての方が完全体だから…長に向いているとは言えんだろうが…ね…。
奥義の内容はその家の護るべき秘密だから…俺には分からない。
けれど…人伝に聞いた話では…真偽のほどは不明だが…生命エナジーを自在に操れる業もあると言われている。
その奥義だけは長に限らず…また女性にも限らず…当主やそれに近い男性たちにも相伝されるということだ。
高木さんがご自身の出自をご存じなくても…何かそれに纏わる能力の話…或いは実際に何かの能力をお持ちかもしれない…。 」
生命エナジーを自在に操れる業…それで…新しい生命エナジーも産みだせるものなのだろうか…?
その点については…滝川は疑問に思った。
そんなことができるなら死んだ人間を甦らせることだって可能じゃないか…。
如何な奥義とは言えそこまでは有り得ん。
それは多分…自分或いは他人のエナジーを自由に増加させるとか減少させるとか…もしくは我々のように輸血みたいな感覚で相手に補給してやるという類のものだろう…。
増加させるのも一応は自分の身体で生み出していることになるからな…。
「あれからいろいろ考えたんですが…。
ノエルにとって一番負担が少ないエナジーの持ち主は智哉さんか千春ちゃんです。
また紫苑にとって一番負担が少ないのは有さんか亮くん…。
千春ちゃんと亮くんの組み合わせが最も成功の可能性が高いんじゃないかと…。
年齢も近いですし…。
ただこのふたりは自分で相手に気を送った経験がない…。
ふたりからノエルの中にそれぞれの気を…ノエルから紫苑の中に新しい生命の気を無理なく移動させられるような能力者が必要です。
僕がやってできないことはないだろうけれど…もし生命エナジーを扱える専門家が居るならそれにこしたことはない…。 」
滝川は智哉の能力について確認してみる必要があると感じた。
智哉にもし…その家系の持つ能力が…特に相伝された能力があるならば少なくとも自分が手を出すよりはずっと安全だ…と考えた。
有もそれには同意した…が…有には何処か引っ掛かるものが残っていた。
滝川の思いついた方法の何処がどう悪いと訊かれれば…答えに窮する。
ただ…実験途中でエナジー同士の融合を邪魔をしたもの…その正体が気にかかっていた。
滝川が考えたようにそれは単にノエルの身体との相性や量的な問題だったのかもしれないし、タイミングが悪かっただけかもしれない。
しかし…もし有の勘が正しければ…そういうことではなく…何か根本的なところに問題があるような気がするのだ。
何れにせよ…前例のないことにノエルの身体を使う以上は実の親である智哉に了解を得ておく必要がある。
有は早急に智哉と連絡を取るようにと滝川に勧めた。
病院の玄関の前でノエルの父は一度大きく溜息をついた。
我が子が未熟ながらも半分女性であると知った時の驚きと戸惑い…それだけでも頭を抱えていたというのに…流産だの…気を産むだの…。
冗談じゃない…と智哉は思った。
しかし…そうは思いながらも…ノエルを命懸けで救ってくれた西沢のことを考えると無下に断るのもどうかと…。
取り敢えずは話だけでも聞いておこうと病院まで出向いてきた。
滝川と有そしてノエルが特別室の応接間で待っていた。
滝川はわざわざ出向いて貰えたことに対して丁重な礼を述べ、先ず、智哉の持つ能力について確認を取った。
「私の…力ですか…。 形ある物を動かしたり飛ばしたりはできませんが…特別な眼…ということでしたら…多分そうなのでしょう。
ある程度…透視ができます。
ノエルが小さい頃に菓子箱の中のおまけの種類をよく見分けてやりました。
こいつの身体をわざわざ透視したことはありませんが…。
そういうものではなくて…気というものを見ろと言われれば…それもなんとなく見分けられる気がします。
気配ではなく…視覚として…。 」
智哉はそんなふうに答えた。
気…を視覚で捉えられる…滝川は面白いと思った。
透視とは逆の力が備わっているということだ。
それならノエルの子宮内部を透視しながら同時にその中の気の動きを眼で見ることができるのではないか…。
滝川は治療師だから子宮内部を透視することはできる。
しかし…子宮内部の透明な気の動きは視覚では捉えることができない。
身体に感じる気の気配を脳で映像化して捉えている。
「気に触れることができますか?
例えばノエルの子宮に宿った生命エナジーを取り出すようなことは可能ですか?」
滝川が訊くと…しばらく…躊躇った後で智哉は曖昧に首を振った。
滝川は訝しげに智哉の顔色を窺った。
「分かりません…。 試したことがないのです。 」
智哉は複雑な面持ちで答えた。
いきなり椅子から立ち上がると滝川は、こちらへ来てください…と智哉を病室の方へ招いた。
病室へ入ると智哉の目にいくつもの管に繋がれてベッドに横たわったままの西沢の姿が飛び込んできた。
あの快活な西沢が蝋人形のように生気のない顔をして眠っている。
あれほどノエルのことを親身に思ってくれていた男が…ノエルの身代わりとなって今ここで死に瀕している。
何やら胸のつまるような心地がした。
「有さん…あなたからエナジーを分けて下さい。
高木さん…有さんからほんの少しだけエナジーを抜いて…紫苑の中へ移動させてみてください。 」
智哉は躊躇した。
智哉の横をすり抜けるようにノエルが西沢の傍に駆け寄った。
西沢の手を握り擦りして反応を確かめる…無論…反応はない…。
「ノエルは…毎日ああして紫苑の反応を確かめるんです。
何度も…何度も…。 」
滝川がそう話した。
ノエルが西沢に対してどんな想いを抱いているのかは分からない…。
分からないが…西沢へのその仕草ひとつひとつが切なげで…こちらの胸が痛む。
「ノエル…誰も試したことの無い危険な賭けだ…。
何度も失敗すれば…おまえの身体がぼろぼろになる…。
それでも挑戦する覚悟はあるのか…? 」
智哉がそう訊ねるとノエルは何のこと…?とでも訊くかのように父親の顔を見た。
「男として育ったんだから男として正常ならそれでいいことかも知れんが…。
俺が心配するのは…完全に壊れてしまうかもしれない女性の器官を後悔しないか…ということだ。
西沢さんが復活しても…ノエルという女の子は存在しなくなる…。 」
有も滝川も智哉の言葉に思い当たることがあるかのようにノエルを見た。
ノエルはゆっくり西沢に眼を向けてから…もう一度父親を見た。
「後悔しない…もう一度紫苑さんの声が聞きたい…。
もともと要らないものだったんだ…僕は男だもの…紫苑さんの役に立つならそれでいいよ…。 」
笑顔でそう答えた。
智哉はそうか…と頷いた。
「有さん…失礼…。 」
不意に有を振り返った智哉は有の丁度心臓あたりに手を触れ、その手のひらをそっと上向けた。
滝川も有もその手のひらに小さな気の塊のようなものがあることを感じ取った。
「通常…皆さんはこのまま小さな気を西沢さんの中に補充するのでしょうな…。
それでは…不十分です…。 」
智哉はその小さな気の塊を両手のひらで包み込んだ。
しばらくすると…手のひらの中の気は二倍ほどに膨れ上がった。
それだけでなく一段と力を増したように感じられた。
「気を育てるという作業をします…。
そうすることで気は勢いと力を増し…体内でより効果的に働いてくれます…。 」
智哉は西沢の心臓の辺りに育てた気を補充した。
「ノエル…もう一度西沢さんの手を触ってみろ…。 」
ノエルは言われたとおりに西沢の手に触れた。
ノエルの顔に驚きの色が浮かんだ。
「温かい…。 いつもよりずっと温かい…。 」
有も滝川も急いで西沢の手を取った。
確かにいつもとは違う…。少しだけ紫苑の顔の陰りが薄れた。
ふたりとも驚愕した面持ちで智哉を見つめた。
「祖父の代から伝わってきた力です。それ以前のことは私も知りません。 」
今までの智哉とは打って変わって落ち着き払っていた。
最早…何を拘る必要もないと…きっちり腹を据えたようだった。
生命エナジーをを自在に操る力とは…エナジーを育てる力のことだったのか…。
滝川は目の当たりにした智哉の能力に大いに期待できると思った。
ノエルが産んだ生命エナジーを扱うのは智哉に任せよう…。
すでに心が本番に飛んでいる滝川は有の抱いた懸念には一向に気付かなかった。
そこに大きな落とし穴が待ち受けていることにも…。
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