徒然なるままに…なんてね。

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ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第四十二話 歯痒い…。)

2006-07-23 17:05:42 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 家族の命…それを聞いてから三宅が妙に落ち着かなくなった。
三宅はこの件で実際に恋人美咲を失っているから、その言葉はまさに現実のものとして生々しい痛みを思い起こさせる。

 「僕等能力者を誤魔化せても…敵のセンサーは誤魔化せない。
相手はわざわざ力を使っているわけじゃない。 
本能で分かるんだ…敵か味方か…それとも無視していい存在か…が。

 何故ならその業使いは完全なワクチン・プログラムの集合体で、潜在記憶保持者にとっては最大の敵…何としても排除すべき相手だから…。

 今…僕等の周りをうろうろしている連中は不完全体だから…何とか回避しようと思えばできるだろうが…もし…完全体ならばおそらくは逃げられないだろう。
 お互いがあまりにも完全すぎて…磁石の両極のように引き合ってしまうんだ。
もし…運悪く出会ってしまったら戦って勝つしか生き残る道はない…。 」

 厄介な話だわ…と田辺が呟いた。
戦いを運命付けられてしまった業使い…ってことよね?

 再び西沢が頷いた。
そう言えるかも知れないが種を蒔いたのは彼自身だ。

 「しかも…その業使いにあるのは自分の持っている力だけで、他に自分を護る手立ては何もない…が相手は違う。
完全体なら国を動かせるほどの組織力や政治力を持っている可能性が高い。
国家的な要人と考えても差し支えない…この国の…とは限らないが…。

 そんな人物を相手にして勝てると思うか…?

 僕等には元のプログラムの完全体の存在はまだ確認できていない…。
今現在この世に居る者なのか…過去に居た者なのか…これから生まれてくる者なのか…それすらも分からない。
多分…その業使いにしても同じことだろう。 」

 敵と出会ってしまう前に急いでその人を捜し出さなければなりませんねぇ…。
何とかしなければ命に関わる…。
そこまで言って須藤は、はて…と首を傾げた。

 「先程から伺っていると…西沢先生…先生は三宅くんに向かって話しておられるように思われますが…まさか…。 」

戸惑ったような視線が三宅に向けられた。
三宅の顔は真っ青だった。

 「紫苑さん…それは違うよ…。 
だって…もし…遺跡に細工したのが三宅だったら…美咲を死なせたのも三宅だということになっちゃうよ。 」

 有り得ない…とノエルは思った。
三宅はあんなに美咲の死を悲しんでいたのに…。
美咲の撮った写真のファイルを手にとぼとぼと帰っていく寂しげな三宅の背中を…ノエルは思い出していた。

 「若気の至りというやつか…自分のしようとしていることが、後々どんな結果を招くかなんて…まったく考えてもみなかったんだろう。
自分自身で思いついたのか…誰かに誘導されたのかは知らないが…大それたことをしたものだ…。 」

溜息混じりに滝川が言った。

 「でも…三宅の業使いは須藤さんで最後のはずだわ。 呪文使いの血が滅びたと言われたのは先々代の亡くなった頃よ…。
呪文自体がすでに三宅には伝わっていないんだから…この子が呪文を使えるとは思えないんだけれど…。 」

 田辺が怪訝そうに三宅を見た。
三宅は俯いたまま…黙り込んでいた。
言葉のかけようもなくて誰も声を出さない。

 三宅が自発的に話し出すのを待っているのか…西沢も何も言わない。
重苦しい空気が部屋中を包んだ。

 「三宅くん…僕の母の命を無駄にしないでくれる? 」

突然…それまで黙っていた亮が強い口調で言った。
三宅がはっとしたように亮を見た。

 「きみが命を落とすようなことになったら…僕の母は何のために死んだんだ?」

 縁も所縁もない三宅を庇って逝った母…。 
無駄死にさせてたまるか…と亮は思った。

 

 「僕は…ほとんど独学で呪文を学びました。 」

三宅はぼそぼそとそう語り始めた。
再びみんなの視線が三宅に集まった。
 
 「小学生の時に曽祖父が書いたと思われる覚書のようなものを見つけたのです。
多分…曽祖父が呪文を習った頃に書いたものでしょう。
最初は興味本位に覚えました。

 古代史に興味を覚え、古文書が読めるようになった頃にようやく三宅の家が使命を帯びた家系であることを知りました。
自分が呪文使いであることを意識し始めたのはそれからです。
それでもHISTORIANに声をかけられるまでは…ただの夢物語のように捉えていたのです。

 HISTORIANが僕に近付いたのは実際には15くらいの時でした。
呪文の力で世界平和に貢献しないか…と誘われたのです。 」

 まだ世間を知らない真面目な中学生だった三宅は世界の平和と秩序を護るというHISTORIANの使命感に夢中になった。
秘密めいたその組織はとても魅力的に思えて…それほど詳しいことを知らされないままに訓練を受け…奉仕活動のようなことをした。

 HISTORIANとしては三宅を組織員にするつもりはなく、おそらくは三宅の持つ呪文使いとしての力を利用するだけのつもりだったのだろう。
声をかけられてから数年経っても相変わらず協力者の立場のままで…決して要員とは見做されなかった。

 去年の夏頃に幹部からある計画を打ち明けられた。
それまで部外者扱いだった三宅は重要な計画に参加を要請されたことでHISTORIANに自分の存在価値を認められたと感じた。

 それは三宅の呪文能力で何処か人の集まる場所に細工をし、潜在記憶保持者を炙り出してその不要な記憶を消去するというものだった。

 どこに居るかもわからない、いつ発症するかも分からない連中をこちらから誘き寄せて一網打尽にすれば…HISTORIANとしては何か重要なことが起きた場合に、背後から襲われる危険性を前以て排除できる。 
 
 遺跡に決めたのは巨石お宅の三宅が地理的に把握している場所が多いし、そこで何か不思議な現象が起きても誰も懐疑の目を向けないだろうと考えたからだった。
人数的に限られたそうした場所で成功したら…今度はさらに人の多い場所をターゲットにするつもりでいた。
例えば…観光地の神社・仏閣などを中心に…。

 まず最初に上手く呪文が効くかどうか…をサラリーマンなどがよく昼休みに集まる公園で試した。
数人が反応を示したが…実際に発症したのはひとりだけだった。

 いけそうだ…というのでその後にいくつかの遺跡に細工をした。
使われた呪文使いは三宅だけではなかったのだろう…海外についてはまったく覚えがないという。
HISITORIANは各国チームごとに三宅のように細工できる者を擁しているのかもしれない。

 「美咲が…あんなことになるとは思っても見ませんでした。
僕等はいつものようにデート代わりに遺跡探訪に出かけただけで…美咲も面白がって写真を撮っていたんです…。
 呪文をかけたのは潜在記憶を消すのが目的で…殺すためじゃない…。
それなのに…僕の呪文は…恋人の命を奪ってしまった…。 」

 美咲の葬儀で高校時代の友人たちが葬儀に参列していたノエルを見かけた。
元カレのノエルが美咲の死に疑問を持ってるから…美咲を突き落としたと思われないように気をつけろ…と三宅に忠告した。
友だちは冗談で言ったのだろうが、後ろめたいところのある三宅は真に受けた。

 「高木に近付いて…僕は恋人を亡くした被害者を装いました。
美咲を失ってどうしようもなく悲しくつらい気持ちは本物だけど…僕が美咲の死の原因を作ったのも事実です。
もう…どうしていいかも分からず…でも…美咲の元カレだった高木の眼だけは逸らさなければならないと思いました…。 」

 三宅はそう言ってノエルの居る方に眼を向けた。
物凄く複雑そうなノエルの顔が見えた。

 上手くノエルの意識を美咲の撮った写真の方へ向けさせた三宅は…これで少なくとも三宅自身に眼を向けるものは居なくなったと思っていた。
 ところが如何なる運命の悪戯か…少しでも元カレのノエルから離れようとする三宅の思惑に反して、三宅の周りで立て続けに起こった事件はすべてノエルに身近な人物が関係していた。

 お蔭でいつまで経ってもノエルの眼からは逃れられない。
そればかりか…三宅の知らないところでHISTORIANまでがノエルの媒介能力を利用していた。

 「戦闘系の能力者が発症して暴れだした段階で…ことはそんなに甘くはないんだと気付かされました。
僕は呪文を使うことはできるけど…戦い方を知りません。
何度か襲われて…そのたびに亮くんのお母さんやノエルや…居合わせた人たちに運よく助けられてきました。 」

えっ…と驚いたような声が上がった。

 「きみにそんなことをさせておいて…HISTORIANはきみを護ってはくれないのかい…? 」

滝川が不思議そうに訊いた。
三宅は無言で頷いた。

そんな…馬鹿なこと…とみんなは顔を見合わせた。

 「そんなことだろうと思っていた…。 
ワクチン・プログラムとしては完全体でも三宅くんは言わば別の組織に生まれた子どもだ…。
HISTORIANにとっては協力者であっても仲間ではないし…使い捨てにしてどうという存在ではない。

 彼等が真剣に考えなければならないのは…国の上層部の人たちのことで…下々は自分たちで何とかしてくれって話…。
いざとなったら長々ご協力有難うございました…手が足りないんでほかっといてご免ね…くらいのことさ…。 」

西沢が淡々と言った。

 ひでぇ…とノエルが叫んだ。
恋人まで死なせちまったってのにその扱いかよ…。
 
 「僕は…正式な組織員ではないんだ…。 それに…今は本当に手が足りないんだよ…。 
世界中のあっちこっちで紛争の火の手が上がるたびに巻き込まれて、HISTORIANの組織員はどんどん命を落としているんだ。 
そんな中で護ってくれなんて言えやしない…。 」

三宅は項垂れながら呟くように言った。
 
 「問題はね…。 利用されるだけされてほかされた場合…HISTORIANからはうちの者じゃありません…って知らん顔されるのはいいとしても…敵はそうは思わないってことなんだよ。

 敵はあくまできみを組織の一員と考える。
たとえHISTORIANとの付き合いがまったくなくなっていたとしても…きみが攻撃対象になることは避けられないんだ。
ただでさえ…攻撃目標の完全体なのにね…。

それは敵と見做されてしまった者たち全員に言えることで…僕はいまその解決策に四苦八苦しているところ…。 」

西沢は溜息をつきながら肩を竦めた。

 「須藤先生…田辺先生…。 ご面倒をお掛けして誠に申し訳ないのですが…この子に呪文使いの戦い方を伝授して頂けないでしょうか…?
この子には相当な力があると思われますが…自己流のいい加減な業は自分だけでなく他人をも危険に晒すことになりますから…。

 少なくとも自分の身を護れるようにならなければ…普通の能力者からさえ逃げ延びることもかなわないでしょう…。 」

 西沢がふたりに依頼すると業使いたちは快く引き受けた。
以前には三宅の幸せを思って伝授を躊躇っていた須藤も…こうなっては同族としてすべてを伝授することが義務だと考えるに至った。

 これで…ひとつだけは区切りが付いた…。 玲人の地道な調査の賜物だな…と西沢は思った。
後は…どんどん増える犠牲者の救済と…オリジナル・プログラムの完全体の存在確認…これが厄介…。

 まだ…雲の上の人になっていなければいいけれど…そうなっていたら…もはや僕の手には届かない…。
あのHISTORIANに任せっぱなしというのも…歯痒い話だけど…。

 全体として動きが鈍くじれったい上に…ほとんど先の見えない問題を解決していくことに…さすがの西沢も慢性的な疲れを感じ始めていた。







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