徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

雨…雨…降れ…降れ…大嫌い…。

2007-07-11 15:50:00 | 短篇
 その朝がどんな天気だったか…なんて覚えちゃいない…。
小学校の靴拭いの前で…降り出した雨を見つめている…。
それほどの勢いはないが…止む気配はない…。

バイバイ…。

じゃぁね…。

友達たちが次々と校舎を後にする中…ぼんやりと天を睨みつけている…。

目の前を通り過ぎる幾組もの親子連れ…。
雨に気付いた母親たちが迎えに来ているのだ…。

『雨…雨…降れ…降れ…母さんが…蛇の目でお迎え嬉しいな…。 』

そんな歌が頭を掠める…。

大嫌いな歌…。

『きみ…きみ…この傘…さしたまえ…。 』

この歌を書いた人はきっと…少年の素直な優しい気持ちを詠ったのだろう…。

お迎えの来ない子が雨に濡れて可哀想…。
僕のを貸してあげよう…って…。

けれど…そんなふうには受け取れない…。

『僕ならいいんだ…母さんの…大きな蛇の目に入っていく…。 』

勝者の優越感だ…。

偉そうに…誰が…おまえの傘なんか借りるかよ…。

そんなふうに呟く…。

いっそう…雨脚が強くなる…。
思い切って校舎を飛び出した…。

一旦…濡れてしまえば…如何ってことはない…。
家まで1キロ半の道…。
早足で歩く…。

『母さん…あの子は…ずぶ濡れだ…。 柳の根方で泣いている…。 』

馬鹿言っちゃいけないぜ…。 何処の誰が泣くんだよ…?
雨に濡れるぐらいへっちゃら…さ。

ちょうど帰り道半分くらいのところ…親子連れを追い越す時に…母親の方が声をかけた…。

○○ちゃん…おばちゃんの傘に入っていきなさいよ…。
風邪引くよ…。

その言葉は…歌と違って少しだけ嬉しかった…。

けれど…意地になっていた…。
誰に…?
おばちゃんに…?

いいや…違う…だろう…。
多分…迎えに来ない…母親に対して…。

大丈夫だよ…おばちゃん…。
有難う…もう濡れちゃったから平気…。

そう断わって…足早に通り過ぎた…。

冷たい…とも…気持ち悪い…とも…思わない…。
靴の中で足がグチョグチョ音を立てる…。

雨に濡れるのは嫌いじゃない…。
いっそ…スッキリするじゃないか…。

玄関に辿り着いた時には全身ビタビタ…。
髪の毛から滴がポタポタたれている…。

ただいま…の後に…母親の怒ったような声が聞こえた…。

朝から曇っていたのに…傘を持っていかないのが悪い…。

机の上にランドセルをおき…無言のまま…ただ…落ちる滴をタオルで拭いた…。
服は乾くに任せた…。

やっぱり…あの歌は…大嫌いだ…。