暑かった昨年の夏、JAの農作業支援で出掛けた先の大根農家のOさんが「そんなこと言われたって簡単に出来ないよぉ。」と半ば苦笑交じりに話したことがあった。
国は食べ物が不足した時に戦時下の農産物の強制拠出のようなことを考えているといったことだった。
それが「食料供給困難事態対策法案(仮称)」のことであることが先日の地元紙の報道で分かった。
食料エネルギーは国の安全保障にとって最重要なものだが、法案は自衛権行使の範囲などが大激論になっていた時の国家存立危機事態を連想させる。
報道によると、コメ、小麦、大豆など(特定食料)が不足する緊急事態の時に政府は供給目標を設定し、農家に増産計画の届け出を指示出来るとし、従わない場合は20万円以下の罰金を科すという内容だ。
輸入業者には輸入促進を要請し、農家、出荷・販売業者、輸入業者への立ち入り検査の規定も設けるという。
Oさんが言うように、コメを作るにも水田は転作で畔が取り払われているし、大根を減らして小麦、大豆を作るにしても専用の機械、施設が必要になる。
先にこのblogで書いた『食料・農業・農村基本法』の改正で目指す方向との整合性はどうなのかということもある。
重要なことは食料供給困難事態になって慌てて号令をかけるのではなく、今から計画的に食料自給率を高め、温暖化に対応した新品種の開発を加速させることではないか。
ミサイルより農業だ。
緊急事態は食料も飼料も肥料も農薬も輸入が戦争や気候変動で確保が困難になる事態であり、その場になって農家に号令かけても間に合うものではない。
2022年の食料自給率(カロリーベース)はコメ97% 小麦17% 大豆6% 野菜79% 果樹39%という実態にあり、総体では38%の頭打ちだ。
昔から言われているように、農業は工業のように装置を変えれば簡単に生産品目の切り変えが出来たり生産効率を上げたり出来る産業では無い。
岸田政権では農業に限らず諸々の政策が机上で考えた場当たり的なものが多く、世間の指摘に晒されては修正を繰り返している。
「食料供給困難事態対策法案(仮称)」もその轍を踏みはしないか。
時間に追われて霞が関の政策立案能力が落ちているように思えてならない。
政府自民党の農林水産部会で議論はされていると思うが、メディアは四半期ぶりに改正を審議している『食料・農業・農村基本法』とその関連法について国民の関心を高めないとこの先の備えが覚束ない。