北海道に馴染みの深い倉本聰氏が構想30年、36年振りに映画の原作、脚本を書いた。
タイトルは『海の沈黙』。
『沈黙の海』はよくありそうだが、『海の沈黙』というタイトルに惹かれた。
前者はこちらの視線が海に向かっているようで、後者は海からの視線、問いかけを感じる。
劇場は車で40分ほどにある江別市のイオンシネマ。
封切りされたばかりの映画を観たのはいつ以来か。思い出せない。
8番と書かれたスクリーン入り口に並んだ人の持つ大きなポップコーンのカップからあの匂いが漂う。
平日の午前、人は疎らで苦戦の映画業界を思う。
ミステリアスな展開に映画タイトルを重ね合わせて引きずり込まれるように観ていた。
倉本聰氏はかつて北海道のキャッチコピーとして〝試される大地〟を決める時に全国公募の選考委員であった。革新系の横路孝弘知事の後継として堀達也氏が就任して間もない頃のことで、道に勤めていたのでよく覚えている。
〝試される〟という表現を巡って、受け身で上から目線だという意見も多かった。倉本氏の見解は、北海道が持つ可能性とその自然の厳しさを乗り越える人々の姿勢を表しているというものだったと記憶している。
能動的なのである。
30年近い時間が経って、今、北海道の「試される大地」の気概はどうなのだろう。
映画タイトルは倉本氏が相当に練って決めたものと思う。何を込めたか。
海からの視線、問いかけは普遍的な価値に対してのものか。
もうこの先30年は無いが反芻して生きて行きたいと思った。
この節、50歳以上夫婦割でひとり1,200円で素晴らしい映画を観ることが出来るのは幸せなことだ。
2024.11.21 隣りの長沼町