先日、何となく見ていたNHKBSの「新日本風土記」の映像で、若い頃にN係長と秋田に出張し、ふた晩通って銚子とお猪口を貰った居酒屋『蘇州』が閉店したことを知った。
一瞬だが「閉店」と書かれた札が店の前の鎖に下がっているのが映し出された。
店は秋田の有名な繁華街である〝川反カワバタ〟にあり、居酒屋は奥さんが立ち、旦那さんが『割烹蘇州』を切り回していた。
居酒屋には秋田の銘酒がずらりと並び、白地に秋田音頭の歌詞が書かれた細身の清水焼の銚子と2段重ねの猪口でN係長と昼間の仕事のことを話しながら呑んでいて、酔うにしたがい銚子と猪口が欲しくなった。
奥さんにお願いすると、「これはお馴染みさんにもあげないのです。」とやんわり断られたが翌日もお願いに出掛けたら、しつこさに呆れたのか、割烹にいる旦那さんを電話で呼んだ。
旦那さんは来るなり、「そんなに欲しいのなら北海道からわざわざ来てくれたのだからあげなさい。」とひと言。直ぐに割烹に戻って行った。
当時、岩見沢市に住んでいたので地元の「こぶ志焼き」の銚子をお礼に送ると木箱に詰められた日本酒6本が送られてきた。
銚子を貰い、お酒まで・・・いつか再訪しようと思っていた。
70歳も過ぎて、2021年の龍飛岬から新潟までの自転車旅の途中、居酒屋『蘇州』を訪ねようと秋田市内の温泉ホテルに泊まった。
温泉入浴に来ていた地元の人に聞くと店は営業しているけれどコロナ感染があるので止めた方がいいのではとのアドバイスがあり、旅はまだ残っていたので諦めた。
偶然に「新日本風土記」で閉店を知り、あの時行ってればと悔やんだ。
誠に残念だ。
次の日、正月で使う『蘇州』の銚子と猪口で今は亡きN係長ともどもご主人と女将さんを思い浮かべながらしみじみと呑んだ。
あの時からもう40年も経った。