土佐の狸の怪 2.
小八木(こやぎ)屋敷の古狸 その(1)
2023.4
今は昔、高知城下中島町に、小八木某と言う大身の侍が住んでいた。
家屋敷も広く、庭の木立ちも深く泉水などもあって、勝れて美しかったが、家の西表に巨大なる榎があった。
その根本に祖先の神を祭っていた。
玉垣など結い廻してあった。
家人も普段はそこには行かなかった。
そこに、いつの頃からか年経た古狸が住んでいた。
この狸の怪しい行ないは、夜更け人が寝静まった頃、畳の縁を打つ様な音を発する事であった。
世間では、小八木の畳叩きと言って、ウワサになっていた。
そうして、その音の怪しく不思議なことには、家内の者には、聞こえず、また極く近隣の者にも聞こえず、却って二三町遠方の人にはよく聞えたそうである。
その頃、城下の或る人々は、小児の泣きやまぬ時に、「そら畳叩きが聞こえるぞ。」と言って脅かすと、泣きやまぬ子供は無かったと言う事が、ある記録にのせられているのを見れば、相当に名高かった話と見えよう。
土佐風俗と伝説 古狸