子宮内膜症患者が月経痛や骨盤痛で腹腔鏡下手術を受けても、あまり予後がよくない(全国の大学病院の共同研究で約40%が一年で再発)ことを指摘した。一方、できるだけ完全な病巣切除をした場合、(私のデータでは)一年後の再発(低用量ピルで管理していた例)は約5%であったと述べた。この違いは何なのか?おそらく、手術の内容が全然違うのだろう。
今回は手術のことを云々する前に、まずはなぜ子宮内膜症により痛みが生じるのか考えてみる。
子宮内膜症の痛みの原因は、大変複雑でさまざまなものが原因として考えられる。これを以下の4つ(もしくは3つ)の病態に分けて説明すると理解しやすくなると思う。
1.卵巣チョコレート嚢胞によるもの
2.癒着(組織の引きつれ)によるもの
3.子宮内膜症病変によるもの(深部病変、腹膜病変)
★チョコレート嚢胞の破裂
まず、卵巣チョコレート嚢胞は子宮内膜症病変が卵巣の中にできたものである。病変から月経時に出血し内部にチョコレート状の古くなっていた血液が貯まっていきます。(風船のなかに水道で水を入れていくようなものだ。)
内容液は月経時に増えるので、そのとき嚢腫が破裂することがある。そうすると古い血液がお腹の中にばらまかれて腹膜が刺激されて激しい腹痛をおこす。ドバーッと出ると非常に痛く、急性腹症として救急車で運ばれることもある。また、ほんの少し漏出しただけであれば、かなり痛い月経痛として本人には認識されるだけで済むこともある。
たまに起こる人もいれば、かなり頻繁に(2~3ヶ月に一度くらい)破裂している人もいる。患者さんからよく話しを聞くと、痛みが強い月とあまり痛くない月の差が大きいことが多いので、病歴から破裂による痛みであろうと推測できる。
腹腔鏡をしてみると、腹腔内にヘモジデリンの沈着がみられるのが特徴で、破裂が起こっていた付近で腹膜や卵巣周囲臓器が茶褐色になっています。ああ、ここが破裂して痛かったんだということがわかるわけだ。
★チョコレート嚢胞の圧迫
卵巣チョコレート嚢胞がある患者さんは、よく腰痛を訴えることがある。月経時に腰が痛いということもあるし、月経時以外にも腰痛がある場合もある。
チョコレート嚢胞は子宮内膜症のために周囲が癒着していて可動性が不良であることが多く、嚢胞が大きくなると骨盤の深いところに固定された状態で大きくなる。それにより骨盤が圧迫されてしまうのだろう。手術で嚢胞を核出してしまえば、圧迫はなくなるので痛みは改善する。
★チョコレート嚢胞による痛みの治療
チョコレート嚢胞による痛みは、チョコを核出するだけで解決する。エタノール固定や焼灼でもとりあえず解決する。開腹であろうが、腹腔鏡であろうが嚢胞に対する処置を行えば、痛みはなくなる。(薬物療法でも、当面の問題は解決する。)手術自体もそれほど難しいものではない。
しかし、卵巣を温存するのなら大事なのは痛みを治療するだけではなく、その機能の温存である。手術をするのなら、いかに正常卵巣組織を残して、卵巣にある子宮内膜症病変を切除するか・・・それを考えていくと決して易しい手術ではない。