ゴーン
これでまた大好きな野球もできる。ホームランやストライクという言葉も使える。
もうひとつ、ゴーン
ブリキのおもちゃやボタンは帰ってこないけど、この音であの日の悔しさも忘れられそうな気がする。
最後に、ゴーン
これから俺ががんばって、母ちゃんやじいちゃん、家族を守っていくんだ。
そんな心が、ケンジに芽生えたのでした。
1ヵ月後、ケンジの前に、大きなリュックを背負い、包帯をぐるぐる巻いた片目の兵隊が現れました。
ケンジは兵隊を見て、一瞬後ずさりしました。
金属供出の嫌な思い出が、今でも頭から離れないからです。
しかし、兵隊の目には見覚えがあります。
「ケ、ケンジ!俺だ、父ちゃんだ!今帰ったぞ!」
兵隊はしゃがれた声で言いました。
父ちゃんは大きな怪我をしたものの、九死に一生を得て、戦争から戻ってこられたのです。
「と、父ちゃん、ほんとに父ちゃんか!?」
ケンジは父ちゃんのボロボロの懐に飛び込みました。
そして、泣きました。いつまでも泣きました。
ゴーン
世の中が変わる。
新しい時代が訪れる。
戦争のない、平和の鐘がなっている。
ケンジの耳には、そう聞こえたような気がしました。
(完)
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